第6話 推しの現状
さて、残る攻略対象は私の推しだ。
いつも憂いの表情を浮かべる、神秘的な雰囲気をまとった男性。
ミステリアスで思わせぶりな発言をする不思議君。
街角の一画で、占い師をやっているので、そこをのぞきにいく。
不思議君は、未来予知の力を持っているんだよね。
でも、その力を誰にも信じてもらえなくて、心を閉ざしてしまうのが本来。
危ない事が起きるって身の回りにうったえたのに、信じてもらえなかったという悲しいストーリーがある。
しかし、この攻略対象もヒロインがなんとかしてしまったようだ。
原作より若干、人を寄せ付けない空気が減っている気がする。
よし、今度も何度かいい発言を拾おう。
そう思って待機。
待機。
待機。
けれど、仕事中なのかなかなか都合の良い発言が拾えない。
話しはしても、お客さんの事ばかりだ。
くっ、仕方がない。
こうなったら、変装して私がお客さんになって突撃するしかない!
というわけで、不思議君占い師さんにお金を出して、占いを依頼してみた。
すると「君は損な性格をしているね。もう少し報われてもいいだろうに」と、推しからそう言われてしまった。
「大勢の人から良くない目で見られているようだけれど、君の本質は君が自覚しているより綺麗なものだよ」
えっ、そう?
そうかな。
そう見える?
えへへ。
はっ。そんな事考えている場合じゃない。
なんて破壊力。さすが推し。
遠回しな言い方なのに、とても照れる。
照れてる場合じゃないから、復帰しないと。
言葉を、言葉を引き出さないと。
「占い師さんにはっ、すっ、好きな人とかいますかっ」
「それは僕を口説いているのかい?」
ちちっ、違いますっ。
好きですけど、今はそういうのとは違うんです。
あわあわしていると、微笑まれた。
くっ、絵になる!
「いないかな、恩人のような人はいるし、困っているなら助けてあげたいけれど。恩が大きすぎて、そういう対象には見られないよ」
なるほど、その発言いただきますね!
さて、思わぬ収穫だ。私にとっても都合の良い発言を聞き出す事ができた。
さっそく私は、ヒロインにその事を伝えにいこう。
ふふふっ、まぎれもない事実だから、嘘じゃないから。
自分で確かめて絶望しなさい。
「と言う事なのよ。さりげなく聞き出して、確かめてみたらどう? 嘘なんてないから。攻略対象達はヒロインに恩以上のものなんて、感じてなさそうよ」
「くっ、余裕ですね、先輩。いいですよ、きっちりと確かめてぎゃふんと言わせてあげますから」
ヒロインは少しだけ余裕をなくした様子で去っていった。