その3
そして僕はまた昼下がりに一人でのんびりと、ファーストフードを食べることになるだろう。ハンバーガーをかじり、ポテトをつまんで、たまに飲み物を口にしながら。
僕の周りでは様々な人が、同じように昼過ぎの時間を過ごしている。
中年の女性がコーヒーを飲みながら、小説のページを開いている。サラリーマン風の若い男性の2人組が、ビジネスの話をしながらハンバーガーを頬張っている。遅めの昼休みなのだろうか。母親が時折、男の子の食べ方を注意しながらスマホをいじっている。
名前も知らない、会ったこともない人たちの人生が、そのファーストフード店で一瞬交錯し、また離れていく。彼らは一体、なぜこの時間に、このファーストフード店に来ようと思ったのだろうか?
最近ヘルシーな料理が続いて、油っこいものが食べたくなったのかもしれない。たまたま職場の近くにその店があって、よく来るのかもしれない。あるいは、ただ腹が減って、ふと目についたファーストフード店に入っただけなのかもしれない。
どんな理由にせよ、その人たちのうちの多くには、僕はもう一生会うことはないだろう。駅でたまたますれ違うことはあるだろうけれど、ファーストフード店にいた人の顔なんて、お互い覚えてはいないだろう。
でも、僕は知っているのだ。
彼らがそれぞれに、今まで訪れたファーストフード店にまつわる人生の思い出を、その心の中に秘めているだろうことを。そこにはきっと楽しい思い出が、喜びが、驚きがあるだろう。あるいは悲しみが、切なさがあったのかもしれない。でもどんな思い出があろうとも、日本人の多くは、週に1回、あるいは月に1回くらいはファーストフード店に戻ってくることになるのだ。また新たな思いを心に刻みながら。
食べ終わったトレイを片付けてドアに手をかざすとき、僕の背後からは、「またお越しくださいませ!」という店員さんの明るい声が響く。
僕は心の中で、「ごちそうさまでした。心配しなくてもまた来ますよ。」とつぶやく。そう、結局はまた来てしまうのだ。このどこにでもある、素晴らしい場所に。