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親の心、子知らず(千鶴)

作者: 狼花

 「桐谷くん、手が空いてるなら僕の仕事を手伝ってくれないかな」

「すいません市長。自分、今日は隣町の商工会議所に顔出ししないといけないんですよ」

・・・   まずい、市長が来てる  ・・・


 市役所でお役所勤めをしているいつも通りのある日のこと。

私は市のハザードマップを更新するために消防署などの防災関係の施設を回ってアドバイスを聞いて職場に戻って来たところだった。


 「おや、これはいいところに来てくれたね」

市長はそういうと手に持った4冊の色分けされたファイルを私の前に突き出した。

「実は次の議会に提出する議案をまとめてもらいたいんだよ」

「市長、そういうのはもっと適任の者がいると思うので……」

しかし、この市長は私に最後まで話をさせない。

「そこで考えたのがさきほど断られた桐谷くんと、君なんだ」

「いえ、私にも仕事が……」

「持ち帰りでやっておいてくれると助かるんだが、いいかね?」

「いえ、ですから」

私が断ろうとする前にすでにファイルを押し付けられていた。

諦めるしかなさそうだ。

市長は仕事を私に任せて安心したのか気持ち良さそうに廊下を歩いて行った。


 市長からもらったファイルを見る。

・・・  ええ、と… うん?・・・

     

    第96号  事案   県内の最低賃金改定に関する事案

    第111号 事案   市内に置ける下水道改修に関する事案


 「あの、すいません。いくつかの事案については私達の管轄外なのですが」

「ああ、じゃあ。その関係部署に連絡とって回しておいてくれるかな。」

無情なことばで話を打ち切られる。

・・・ お願い、少しは話を聞いて  ・・・

私の心の声は届かずに、手元には仕事だけが増えた。


 そして不運は積み重なるもので…

「あ、あのすいません。」

今度は見知った顔の女性職員。

「どうかしたの?」

「実はうちの部署から3名ほど例の感染症の検査に行ってまして。

その職員が市の小学校に配布するはずだったマスクがまだ配られていないんです。

手伝っていただけないでしょうか」

ただでさえ人手不足のこの職場をコロナが追い打ちをかける。

今の市長が退職したあかつきにはコロナとともに見知らぬ地へ行ってもらいたい。


  「悪いわね、私も手が空いてないのよ。それに他にも人はいるでしょ?」

「皆さんにお願いして回っているんですけど、なかなか取り合ってもらえなくてお願いできませんか?」  

これも仕方がない。

「わかったわ。けど、近くにしかいけないからあまり期待しないでね」

「ありがとうございます」


  そんなこんなで疲労困憊。

「さ、書類整理と資料作成をしたら今日の仕事は終わり。…あ、そういえば家の家事が残ってたわね」

今日の家事当番は洗濯だったな、と自分の家事分担を思い出してマンションのエレベーターに乗り込んだ。

「そういえば雨続きで洗濯物……たくさんあったわね」

エレベーターが移動している間も座り込みたくなる気持ちを堪え、我が家の玄関まで来ると1日の達成感で満たされる。

・・・  ようやく、今日が終わる  ・・・


 疲れて力が入らなくなった手でドアノブを開けて家に入ろうとすると、玄関のドアは何故か勝手に開いた。


  「あ!! お母さんやっと帰ってきた! あのさコロナで一人じゃ出歩けないからお母さん帰って来るのずっと待ってたんだ。さ、買い物行こう!!」


    悪魔、襲来。


「今日は無理」

「え、なんで」

「私の都合」

「何それ!?」

「大人しくスマホでもピコピコしてなさい」

「飽きたー」

「じゃあ、勉強しなさい」

「学校でしたもん」

「1日くらい我慢しなさいよ」

「もう一週間近く学校以外、外に出かけてないんだよ?」

親が疲れているというのに子供というのは…

親である私の気持ちを汲み取ってくれないかしら。

しかし、不満げな桃花の顔を見るとそうもいえない。


 「わかったわよ。どこ行くの?」

結局、私が折れることになり外出することになった。

外出するのは本当は良くないけど外出禁止でこの子のストレスも溜まってるだろうし、

ストレスに限界がきて私のいない間に一人で無断外出して感染する方が危険だと思ったのだ。

・・・   引きこもりも1週間はキツイか  ・・・


「イエーーイ!! とりあえずドライブでいいや、それからコンビニに少しよって」

「はいはい。でもお店に寄るのは人の混雑を見て判断するからね」

「はーい」

「あーあ。リビングでコーヒーを一杯飲みたかったのに」

「ずっと外に出れない子供の気持ち考えたことある?」

「はいはい、わかったから」


・・・ ついでにコインランドリで洗濯物をしましょう。、乾燥機も使って。

  今日は頑張ったんだからこれくらい手抜きしてもバチは当たらないでしょう   ・・・


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