変な女
「アベルじゃなきゃダメなのっ」
イラっとする。何度目だ?
「しつけーな!何度来ても無駄だ、帰れ!」
「私の何がいけないのっ!?
」
そう言って泣き出す。
キリがねぇ。時間の無駄だ。
女をそのまま放置して立ち去ろうとした時、
「君が、好きなんだ!」
男の声が聞こえて立ち止まる。
シルバーランクのラドルフ=ウォーク、そして告られているのが・・・
「やっぱりか」
あの女を入隊させた時から、こんな事は想定内だ。野郎ばかりの団に女、それも見た目愛らしいとなれば男がほっておかねぇ。
「私、自分より強い人じゃないとダメなんで、ごめんなさい!」
キッパリ断ってペコリと頭を下げる。しかし男は当然納得しない。
「え?俺君より強いよ?」
ランクだけで判断すればそう思うだろう、だがアーサーとローリングは、あの女の実力をゴールド以上と見立てている。
「分かりました、では私に一本取られたら諦めて下さい。逆にあたなが私から一本取れたら交際します」
「ほ、ほんと!?やった!じゃあ、ちょっと痛いかもだけど、ごめんねっ」
すでに勝った気でいる。女の方も負けるとは思ってなさそうだ。
ラドルフが女の腕を掴もうとするのを寸前でかわし、逆に女に腕を掴まれ
「やあっ!」
「わっ!」
勝負は一瞬だった。
早い!自分の倍以上体重のある男をいとも簡単に投げ飛ばす。
「マジか」
あの細い体のどこにあんな力がある?あれは本当に女か?思わず性別を疑ってしまう。
実は男でした、と言われても信じられねぇが。
「それでは失礼します」
一礼してから踵を返す女に
「えっ?え?」
未だ何が起こったのか理解が追いつかない野郎。
「ほら、だから言っただろ!強いって!」
今だに座り込んだままのラドルフに近づいてきて、そう言ったのは同じくシルバーランクのシン=ヤンシャーだ。
「ブラットもデニーロもダニーも投げられたんだよ!」
すでに何人ものの男を投げ飛ばした後だったのか!?
「じゃなんでブロンズなんだよっ!」
ラドルフが叫ぶが
「知らねぇよ!ゴールドランクのエルスもやられたって話もあるし!」
「えぇぇぇ!?」
あの女が入隊してきて、まだ3日目だ。まさかもうこんな騒ぎになっていたのかと、驚きを通り越して野郎共に呆れる。しかしあの女はそっち方面にはあまり興味がないのか?俺やアーサーを見ても言い寄ってくる気配もねぇ。
一昨日食堂で会った時は食い物に夢中だった。俺がメシを下げようとしたら食品ロスは環境問題に影響するとか、もっともらしい理由でトレーを掴んで離さなかった。結局根負けして後片付けしとけよと言ったら満面の笑みで何度も頷いていた。
思い出すと・・・笑える。
「変な女」