ユリとローラの出会い編
「急がなきゃ、お願い間に合ってぇ」
今日はお気に入りの洋菓子店「シュガーホイップ」のシュークリームスペシャルの限定販売の日だ。普通のシュークリームと違って生地がパリッとクッキーみたいな食感が味わえるのだが人気商品の為、開始1時間前後で売り切れてしまう。
「アベルの奴が余計な仕事回してくれたせいで予定がくるっちゃったじゃない!間に合わなかったら寝てる所を簀巻きにして吊るしてやるわ!」
乙女の糖分補給を邪魔すると
どうなるか その身を持って知るがいい!などと考えながら全力疾走で目的地まで移動する。
店からの長い列が見えてきて店員のお姉さんが1人ずつ購入する数を確認している。
「あ、ローリングさーんこんにちは、いつもありがとうございます。スペシャルの残りは後3個となりましたー」
間に合った!
「残り全部頂戴!」
「はい。では本日のスペシャルは完売となりまーす」
店の前に「シュースペシャル完売しました」と張り紙がされる。腕時計を見ると15時前、今回も1時間で完売になったわね。
機嫌よく会計を済ませて店を出ると、ゼハーゼハーと荒い息で「完売しました」の張り紙を見て涙ぐみ、顔に「絶望」を貼り付けて立っている少女がいた。一体どこから走ってきたのか全身汗びっしょりである。シュースペシャルを買いにきたが間に合わなかったのだろう。可哀想になる。
「・・・っ」
急いで店内に戻り店員を呼ぶ。1つのシューを別の紙袋に分けてもらう。
2つの紙袋を両手で抱えて外に出ると少女は来た道を帰ろうとしていた。
「待って!」
慌てて呼び止める。
少女はゆっくりと振り向き、
虚ろな目をこちらに向ける。
目が死んでるじゃない
「あなたシュースペシャルを買いにきたのでしょう?」
確認すると、カクンと首が落ちる、下を向いたまま動かない。全身で悲しみを表現する姿が痛々しい。
少女の目の前にシュー1個入りの袋を差し出す。
「良かったら、お一つどうぞ」
すると生気のなかった目が輝き頬がピンク色に染まる。
あ、生き返ったわ、ってか可愛いじゃないこの子。
「い、いいの?」
遠慮がちに聞いている様だが紙袋は両手でしっかり掴んで離さない。子供みたいな仕草がおかしくて、笑ってしまった。
「一体どこから走ってきたの?すごい汗よ」
ハンカチで顔を拭いてやると
えへへ、と笑いながら
「アモルの村から走ってきたから」
「はぁ!?アモルってここから30km以上あるじゃない!走ってきたぁ!?」
信じられないが嘘をついてる様には見えない。
「あ、お金っ」
スカートのポケットから小銭を出してアタシの前で手を広げる。丁度、シュー1つ分の代金だった。
「えっと、もしかしてこれ
持ってるお金全部なのかしら?」
まさかと思って確認するが
「うん」
やっぱりかー!
「ちょっとここで待ってなさい!」
手の平に小銭を乗せたまま驚き固まっている少女を置いて
店内に戻り、水を購入する。
「ほら、飲んで!そんなに汗かいてるのに水分取らなきゃ倒れちゃうわ」
「えっ、あ、ありがとう」
戸惑いつつも余程喉が渇いていたのだろう
ゴッキュゴッキュゴーッキュと一気に1本の水がカラになる。
「ありがとう、あの、」
「ん?あぁ、アタシはローリング、っと・・・ローラって呼んでもらえるかしら?」
男なのにローラ?とか何か言われるだろうかと少し身構えるが
「ローラ!わ!可愛い名前っ、私、ユリ!」
よろしくね、と笑う。それが自分でも驚く程、嬉しかった。
「おっ、可愛い子ちゃんはっけ〜ん♪いいねっ若いねっおじさんと飲まな〜い?」
小太りで頭のてっぺんだけハゲの親父が、酔って足元ふらつかせながら近寄ってくる。すでにゆでダコ状態だ。
「こっちのお姉さんもぉ〜・・・なんだ男かよぉ
紛らわしく髪伸ばしてんじゃねーっヒック!」
ムッとするが、よくある事だと無視する。
「自分が真ん中髪ないからって、僻むんじゃないわ!」
ユリが叫んだ。ブッと吹いてしまう。
「なっ、男のくせに髪伸ばすなんて女みてーだって言ってんだよー」
ゆでダコが言い返すが、
「アンタにはこの見事な金髪の価値が分からないんだ?そんなんだから髪が逃げて行くんだよ!」
「うっ!」
頭を押さえてゆでダコが怯む。
「考えを改めないと、残り毛も全部散ってくわ!」
「うっ、うぇ〜ん それ以上言うなぁぁ〜」
意外とハゲを気にしていたのかついにゆでダコが泣きながら走り去って行く。お笑い劇場観てる気分だわ。
「ありがとう、でも危ないわよ逆恨みしてくる人もいるから」
そう言うと素直に頷き笑う。やだほんとに可愛いわ、アーサーの嫁にどうかしら?などと世話焼きババァみたいな事を考えてしまう。2人を会わせてみようかしら。出来るだけ自然に。やっぱ出会いはロマンチックな方がいいわよね♪