1 起床、紫、姉
おはようございます。
いつもの朝、いつもの布団、いつもの部屋で目を覚ます。デジタル時計を見ると時間は朝7時過ぎ、家から学校が割と近く、朝練があるような部活にも入っていないのでまだ時間には余裕がある。しかし、いつもは7時に目覚ましをセットしているはずなのだが、鳴った様子がない。おそらくは寝ぼけて目覚ましを操作してしまったのだろう。
後頭部を掻きながら辺りを見渡す。特にいつもと変わりない風景なのだが。
「なんか暗いな……」
基本部屋を閉め切るのである程度暗いのだが、それにしたって暗すぎる。それもそのはずカーテンから漏れてるはずの明かりがない。もしや今は夜では? と一瞬思うが時計はAMを指していたので時計の設定ミスでもなければ今は朝のはず。
もう一度後頭部を掻く。
考えても仕方ないと、おもむろにカーテンを開ける。
爽やかな朝、窓の外を見るとそこは一面の
黒だった………。
黒、それに紫や赤が交じる風景。本来であれば常軌を逸した風景だが、彼は寝起きだからかイマイチ状況が把握しきれないと言った表情で
「あれ……朝ってこんなだっけ……」
と呟く。すると
(コンコン)
ドアをノックする音。
「はーい」
ノックに返事をする。
「お姉ちゃんだよ」
「――――――? ああ、おはよう姉ちゃんl
一瞬思考が停止するが、寝ぼけ眼で“姉”に朝の挨拶をする。
「はい、おはよう!」
「ごめん、寝起きのせいかちょっと記憶というか頭がぼんやりしてて……ごめん、姉ちゃん」
「いいよいいよ! 何も思い出さなくてもいいよ!」
そう“姉”は言う。そうは言われても何か忘れてると思い始めるとできるだけ思い出したいもの。忘れるくらいだから大した事じゃないとも言うが、やはり気になるものは気になる。
「朝食できてるけど、もう食べる?」
「あ、ああうん、すぐ行くよ」
寝起きの頭で考えても何もまとまるはずもない。引っかかることはあるものの、とりあえず寝間着を着替えて朝食を―――――。
「あれ?」
ふと自分の着ているものを見るとそれは中学校でいつも着ていたカッターシャツと薄手のズボン、つまり夏服だった。
「あっれ……昨日は着替えず寝ちゃったんだっけ……?」
全く思い出せない。余程疲れていたのか。
「うーん、まぁいいか、とりあえず早く行かないと」
疑問は残りつつも“自室”を後にする。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「今日は腕によりをかけたよ!」
姉が出してきたのは“ご飯”、“ワカメの味噌汁”、“目玉焼き”、“焼き魚”と、定番ではあるが朝食にしてはやたらと豪華なラインナップであった。美味しそう。
「ごめんね、お姉ちゃんあんまり料理得意じゃないから…、美味しくなかったら残してもいいから」
そんなことを言われても、朝からこれだけ用意してもらってどうしてそんなことができようか。椅子に手をかけ、腰を落とす。
「いただきます」
両手を合わせて朝食にお辞儀する。
まずは味噌汁を一口。
「……?」
そのあと焼き魚を一口。
「……??」
ご飯を一口。
「……???」
なんだろう
―――――――味がしない。
薄いとか不味いとかじゃなく、無味。焼き魚の味が極端に薄いことは味付けの問題だろうからいいとして、味噌汁が無味なのはちょっと経験がなく困惑している。あと何だろう、このご飯の食感。
「………どう? もしかして美味しくない?」
悲しそうに言う。
「いや、美味しいんだけど、個人的にちょっと味が薄くて……ごめん、塩かなんか足していい?」
本当に申し訳なく思う。せっかく作ってくれたものに調味料を足すのは大変心苦しいが、正直な話マジクッソ食いづらい。
なんて思われただろうか。落ち込んでるだろうか? 怒っているだろうか? 顔を上げるのを躊躇われる。なんせ調味料足すということはそれに満足してないと言ってるようなものである。何の反応もないのが怖いが恐る恐る顔を上げてみる。顔を見てみるとそこには呆然とした顔で
「シ……オ…………?」
と、つぶやいている“姉”がいた。