#8 アレックスはブサイカーメン王の墳墓に入る
我が名はアレックス。
偉大なる国王ニート・デ・ヒキコモリ王の命により
大魔王アスペルガーを殺す旅に出た勇者である。
城下町で得た情報を元に
この世界に眠る偉大な力を求めて旅を進めていた。
途中道に迷い有り金全てを失うなど、数々の困難に見舞われたが、
偶然通りかかった人に助けられ
どうにか砂漠の王都ブサメンにたどり着くことができた。
そしてブサメン王に謁見し、適性検査を見事突破したアレックスは
いよいよブサイカーメン王の墳墓に潜り込むのであった・・・
「ここがブサイカーメン王の墳墓か」
アレックスはニート城周辺からあまり出たことがなかったので
このような巨大墳墓をはじめて目の当たりにした。
「陛下の墳墓とはかなり勝手が違うぞ」
「我が君は雑草の上に石碑を立て
ニートの父祖達を讃える賛辞を控えめに記すばかりだ」
権力の誇示。ブサメン王家はその執着が強いのか。
以前アレックスは民俗学の本で
土地が人の気質に影響を与えるという仮説を読んだことがある。
草原地帯に位置する国はその安定した気候ゆえ
比較的温和であり合理的な判断がしやすく、
砂漠地帯にに位置する国はその気候の激しさゆえ
好戦的、支配的になりやすいとのこと。
なるほど砂漠の民が個別に生きることは容易ではない。
強大な権力の下で民をまとめなければ生きてはいけないのだ。
アレックスは政治に疎かったが、
なぜブサメン王が王政を排しないのかが分かった気がした。
またなぜ王都ブサメンの民が王政打破を狙っていたのかも
なんとなくわかった気がした。
しかしアレックスは首を振った。
だからなんだというのか。
ブサメンの情勢に振り回されている場合ではない。
今はこの墳墓からブサイカーメンの秘宝を
手に入れることの方が重要ではないか。
目の前のことだけを考えよ、アレックス。
ビジネスマンもそういっている。
* * *
暗い石垣の道が続いている。
アレックスはたいまつに火をつけて先に進んだ。
壁にはところどころチラシが貼ってある。
「ブサイカーメン墳墓・清掃員募集!」
「時給2ゴールド!高収入!社会保険完備!」
「とてもアットホームな職場です。」
「死亡保険込み」
なんだこれ。
どうせ誰もやりたがらないだろうし
生きて戻ってきた者がいないんじゃ
清掃員も全滅ってことじゃねえか。
アレックスはゲラゲラ笑った。
「持って帰ってニート陛下の土産にしよう」
チラシを取ってポケットに入れた。
さらに奥に進むと別の紙が壁に貼られていた。
【俺が読んだ本によると、墳墓は地下5階くらいまであるらしい】
【地下2階は罠が多いらしい、どんな罠だ?】
アレックスははっと気づいた。
「なるほど、ここで冒険家たちがコミュニケーションを取るわけか。
全員死んだってなると、先に死んでった冒険家たちが
後の無謀者にヒントを残すわけだな」
アレックスの思った通り、
死んでいったと思われる人間の落書きが見つかった。
【お前ら全員くたばったけどブスの財宝ごとき俺は余裕だから(笑)
ちなみに王都ブサメン国立大学工学部卒
ならびにキモオータ工科大学工学科大学院修士卒】
【↑既に死んでるアホ】
「やれやれ。手がかりになりそうなものは無い、か」
アレックスは
【ニート王国先鋭騎士アレックス様の登場】
と書いて先に進んだ。
* * *
さらに進んでいくと迷路があった。
【右を選んだやつは痴呆】といった落書きが多かった
が、落書きの指示に関わらず、罠はどこにも見当たらなかった。
地下2階の階段を降りるまで1度も引っかかることはなかった。
「案外いけそうか・・・?」
アレックスは少し自信が沸いてきた。
しかし階段を降り切ったところで正面から矢が一本飛んできた。
矢はアレックスの顔面すれすれを通過して背の階段に当たった。
アレックスは動けなかった。下を見ると階段にくぼみがあった。
トラップだ。
「なるほど、そういうことだな」
ここが生きて帰れぬ墳墓であることをすっかり忘れていた。
おそらく罠のない地下1階で安心させたところを
次の階で一気に刈り倒すという設計なのだろう。
ブサイカーメン王、なんと恐ろしい男であろうか。
そこまでして守りたい技術とは何なのか。
アレックスは不安と期待が
入り混じった感情に気が高ぶった。
地下2階。ここからが本番だ。