#6 アレックスはブサメンにたどり着く
俺はアレックス。国一番の流浪剣士だった。
国王陛下に魔王討伐を命じられた気がする。
近所のおばちゃんに情報もらって旅してた気がする。
迷ってどうにか地図の謎を解いた気がする。
王都ブサメン?キモオータ鉱山?霊峰スキゾフレニア?
なんだっけ、それ。
50000ゴールドがなくなった? 冗談だろ。
たぶん悪い夢でも見ていたんだろう。
『・・・現在ガイジ地区チショウ化学工場に潜伏中の男2名が声明文を発表しています。
「我々は自由だ、国家の犬ではない。これは革命だ、まもなく新世界が訪れるだろう」。
チショウ化学工場には有毒物質、通称「ウンコ汁」が生産されており
生物兵器として利用される懸念に近年各国の首脳陣が懸念を抱いてきました。
今回の事件で工場の管轄であるチショウ化学代表取締役インキャ氏は・・・』
「やれやれ、またテロか」
「最近多いですよね」
「しょうがねえ、みんな景気が悪くてピリピリしてんだろ」
「ブサメンはどうですかね」
「さあな。この大衆化の時代に王権なんて言ってるんだから」
「いつ崩れてもおかしくねえ」
子どもは遠くを見ていた。廃村から王都ブサメンは思ったほど遠くはない。
ここから尖塔が見える。故ブサイカーメン王を讃える大石碑だ。
馬車が静かに進んでいる。後ろからはアレックスの馬がついてきている。
「それよりどうしますか、彼」
「ああ、このご時世だ、あんな夢の1つか2つくらい見たくなるだろう」
「だが今は客人だ。しばらく家に泊めて、元気になったらお帰りいただく」
・・・
「・・・!」
気がついたらベッドの上にいた。
天井には大きなファンが回っていて
向こうには自分のと似たようなベッドがいくつか並んでいた。
木小屋か。ここは宿屋だろうか。
「50000ゴールドは見つかったかい」
「あ、えっと」
「オタクだよ。いつもここで宿屋と売店やってる」
「オタク殿、本当にかたじけない。」
「いや、いいんだ。あのまま置いていってもよかったんだがね」
「一文無しで50000ゴールドなんて言ってる奴、憐れで放っておけなくてさ」
憐れ・・・か。国王の命でここに居ることをとても信じてもらえないだろう。
「悪く思わんでくれよ、職業柄どうしても現実志向になってしまってな」
「こいつはメン・ヘラー。さっき一緒にいた子だ」
「あんたと話がしたいってよ。相手してやってくれないか」
「あ、ああ」
そういうとキモオタは店の方に行ってしまった。
「おじさん、誰?」
「ん、俺か?俺はアレックス、ニート王国一の剣士だ」
「今はわけあって流浪人だがね。剣術の腕はある」
「へー。おじさん面白いね」
「かのニート・デ・ヒキコモリ王の命により」
「西方より至る大魔王アスペルガー軍の進出を阻止するべく」
「俺はのこり2日でどうにかしなければならないのだ」
「おじさん、セルバンデスの『ドン・キホーテ』って本知ってる?」
「なに?ドン・・・え?」
「おじさんみたいな人の話。現実が見えてない勇者の話だよ」
「俺は空想で物事を語っているつもりはない」
「だって50000ゴールドとかさ。さっきは笑っちゃったよ」
「黙れ。ボウズとてニート王を侮辱する行為は赦さぬ」
「誰もバカにしてないよ」
「・・・そんなことはどうでもよい。自分は今それどころではないのだ」
「あと2日で魔王が来るんだっけ」
「そう!だからこそ、今この世界で最強の武器がいるのだ」
「はやくブサメン、キモオータ、スキゾフレニアに行かねばならぬ」
「それでここブサメンを目指してたの?」
「ブサメンといったか、ここはブサメンなのか??」
「そうだよ」
「ならば一刻の猶予もない!はやくブサイカーメン王の墳墓に案内しろ!!」
「それには王の許可がいります」
オタクが話に割り込んだ。
「王の許諾がいるのか」
「ええ、毎年向こう見ずな輩が墓を目指して命を落とすものでしてね」
「非力な者に勝手に行かれてはと今の王も嘆かわしく思い」
「実力者であることを証明した者だけが墳墓に進めるように決めたんですよ」
「手間がかかる!あと2日しかない、しかももう昼ではないか!」
「とりあえず城に行かれてみては。メン・ヘラ―、案内してあげなさい」
「はい」
こうしてアレックスはブサメンの王に面会することになった。