ハロゲン兄弟のフッソ君
この小説は、とある講師の閃きとその生徒の感性のコラボレーションをPSPからお送りいたします。
ある所にフッソ君という名前のフッ化水素の男の子がいました
フッソ君には二人のお兄さん達と一人のお姉さんがいました
一番上のお兄さんはヨウ化水素のヨウ君
二番目のお兄さんは臭化水素のシュウ君
三番目のお姉さんは塩化水素のエンちゃん
四人の兄姉弟はあまり良好な関係ではありませんでした
末のフッソ君はいつもお兄さんやお姉さん達にいじめられていました
―やーい、フッソー、弱酸のフッソー
―硝酸銀水溶液に入っても何も沈殿しないフッソー
―アハハハハ、だっさーい
フッソ君はお家にも入れさせてもらえません
―兄さん、ボクもお家に入れさせて
フッソ君はお家の前でお願いしますが、相手にしてもらえません
―だってお前、家のガラス溶かすじゃんか
―雨が入ってきたら、俺達溶けちゃうからな
―あんたは入って来ないでちょうだい
お兄さん達は口々に言います
お家に入れてもらえないフッソ君は丘の上までやってきました
そこはこの辺りで一番お日様に近い場所でした
―お日様、お日様、どうか雨を降らさないで、ボクだって水に溶けやすいのに、兄さん達はボクがお家のガラスを溶かしてしまうからって入れてくれないし、ポリエチレン製のお家を買うお金はないんだ
事情を聞いてかわいそうに思ったお日様は文字通り太陽のような笑顔で答えました
―私がそのお兄さん達を懲らしめてあげましょう
お日様はその輝きを強く増し始めました
すると辺りの気温がぐんぐん上がっていきます
いきなり気温が上がり出し、お兄さん達は驚き慌てました
―きゃあああぁぁぁ
どんどん上がっていく気温に、エンちゃんは耐えきれなくなって蒸発してしまいました
お日様はさらに気温を上げていきます
―うわあああぁぁぁ
続いてシュウ君も蒸発してしまいました
お日様は構わず気温を上げ続けます
ヨウ君はもはや蒸発寸前の状態で苦しみます
そこにケロッとした顔をしているフッソ君が帰ってきました
―ナゼ、お前は平気なんだ。同じ、ハロゲン化水素なのに……
その言葉を最期に、ついにヨウ君も蒸発してしまいました。
尚も平然としているフッソ君はお兄さん達が消えていった空に向かって言いました
―だって、ボクは水素結合を持っているから――
▼ ▼ ▼
「――兄さん達より沸点が高いんだよ。圧倒的に」
「…………」
「おい、何か言えヨシダ」
「……何ですかそのやたらと小難しい単語を頻発するにも関わらず絵本チックで後味の悪い物語は……」
「口に入れたのか! ダメだぞ、ハロゲン化水素は有毒だ! スプーン一杯のフッ化水素を誤飲して死亡した事例だってあるんだぞ!(ウ○キぺデ○ア調べ)」
「誰がそんな話をしましたか。後味の悪い“物語”って言ったじゃないですか、オブチ先生」
「あぁ、何だそっちか。全く、紛らわしい事言うなよ」
「ハッ倒しますよ」
「ハロゲン化水素の中でのフッ化水素の特異性を分かり易くイメージ化した物語だ。ハッピーエンドを求める方が間違ってるぞ」
「ムシですかそうですか。はぁ、それじゃあ軽く解説やって上がりましょう」
「そだな。と言っても、読めば大体の内容は掴めるとは思うが。一応解説すると、まず、物語中にもあるように、ハロゲン化水素は水によく溶ける」
「雨が入ってくるとか降らさないでってトコですね。話の流れ上お兄さん達とフッソ君が別々に言ってて分かり難くなってますが、どれも水には溶けるんですよね」
「それから、先にも言ったが、ハロゲン化水素の中でもフッ化水素には他と違う性質を持つんだ。弱酸であるとか、ガラスを溶かすってトコだな」
「ああ、確かに塩化水素を始め、他の三つは強酸ですもんね。……あれ、もしかして塩化水素のエンちゃんって、塩化水素水溶液である塩酸とかけてたんですか?」
「そうともさ。気付いてくれてありがとう」
「いえ、それほどでも。ところで、ガラスを溶かしてしまうフッ化水素には当然ガラス製容器が使えないのは分かりますが、フッソ君が言っていたようにポリエチレン製容器に保存するんですよね」
「まあそうなるが、ぶっちゃけ反応さえしなければ容器の素材は何だっていいんだよ」
「え、別にポリエチレン製でないといけないって訳ではないって事ですか」
「そうだ。ただガラス製とポリエチレン製が多く流通してるってだけ」
「なるほど」
「えっと、あとは――」
「硝酸銀水溶液に入れた時の話ですね」
「ああ、そうか。フッ化水素以外のハロゲン化水素だと沈殿物が生じるが、フッ化水素だけは沈殿が起こらないって話な。セリフ通りそのまんま。フッ化水素と硝酸銀の反応によって生成されるモノは融解度が高いから沈殿せずに水に溶けるんだ。因みにここではどんな反応が起こるのかは解説しないから、各自確認しとくように」
「手抜きですか」
「やかましい。文句なら今一歩学の足りてない作者に言え」
「うわぁ、またそういう事言う……」
「ふん、ムシだ。んで、最後に兄さん達が次々と蒸発してった所の話だな。あれは実は蒸発の順番に意味があって、沸点の低い順に蒸発してってるんだ。最後までフッソ君が蒸発しなかったのは、それだけぶっちぎりに沸点が高いって事だよ」
「ぶっちぎりって、どれくらいなんですか」
「尤もな質問だ。実は、ぶっちぎりとはいってもそれはハロゲン化水素同士での話であって、実際にはフッ化水素でも20℃程度、その他のハロゲン化水素については氷点下で沸点に達してしまうから、常温では水溶液にしておかないとほぼ気体なんだ。そこんとこ勘違いしないように注意しろよ」
「はい」
「よし、これで一応物語の解説は以上だが、ハロゲンの話は当然これで全てではない。他にもハロゲン単体の話とか、ハロゲンの化合物が日常生活にどのように使われているかとか、色々ある。今回やったハロゲン化水素の話だって反応式だとかの細かい話はしてないしな。ただまあ、こういうキャラクター化されたモノからハロゲンに興味を持って、自分で意欲的に学んでいってもらうってのが今回の目的だ。まずは興味を持つトコから始めないとな。うん、俺から言いたい事はこんなもんだ。何か質問はあるか?」
「その他の話の方はしてくれないんですか?」
「作者の学に余裕が無い。以上! 本日の講義を終わります!」
「強引に締めちゃうんですね……」
「 ナ ニ カ ? 」
「いえ、ありがとうございました」
fin.
どうも。オブチ先生曰く、“今一歩学の足りてない作者”の一休と申します。
まずは読者様へ
読んで頂きありがとうございました。
この小説が、読んで下さったあなたの力に少しでもなれたなら幸いです。
因みに、ハロゲンって何があったんダッケ? 覚えてないヨ! 忘れちゃうゼ!
って方には、同一作者の小説からトベる『元素記号を覚えよう』という作品の感想欄で、初心者さんという読者様から頂いたコメント、誰でも覚えられるハロゲンの語呂合わせを公開してます。
是非ご覧ください。
一休はあの語呂合わせ、神の所業だと思いました。
そのついでに『元素記号を覚えよう』にも目を通してもらえると嬉しいです。
役に立つ保証はこっちにはありませんが^^;
そして、我が化学の講師へ
先生の作ったあの話を大部分パクった上に、それをネット上に一休の作品として公開する事を快く承諾して頂きありがとうございました。
先生がここに辿り着く確率は、ここのサイトを教えてないので“ほぼ皆無”だと思いますが、この場を借りて改めてお礼申し上げます。
では、いつかまたどこかでお会いすることを楽しみにしておりますm(_ _)m