樹海4
早速、試合を開始って、気が早いな。準備もあるだろうに。といっても、元々、そのつもりで来ているらしく、連れている中から3人と、さっきの見張りの獣人と戦うという事だ。
見張りの奴は、下っ端ではなかったという事だな。もしもに備えて、それなりに強い奴に見張らせていたという事だろう。
試合は一対一で、戦い勝者の多い方の勝ち。だが、実力を認めてもらうためにも、勝ち負けが決まったあとであっても、全員最後まで戦うとのこと。
試合場みたいなものはなく、この広場で戦うらしい。それなりに広さはあるため、よほど村に被害が出る事はないだろう。
さて、問題は獣人達の強さだな……。やはり、獣人というだけあって、変身したユズハの時のように、瞬発力や、跳躍力、力も強いのかもしれない。その辺りは、戦ってみないとわからないか……。
「さて、まず第1試合を始める。戦う者は前へ!!」
誰を先にだすか……。いきなりユズハを出すのは危険だろう。
「わ、私が出ます。いきなりユズハさんに戦わせるのは危険ですよね?」
ロッテが意図を汲んで出てくれるようだ。言わなくても察してくれる、さすがメイドといったところか。
「ありがとう、ここはロッテに任せるよ。」
「はい!!」
ロッテと、獣人達の代表1人が前に出る。犬人の男のようだ。
「始め!!」
村長が始まりの合図を出す。
凄い勢いで走りだす犬人、加速力はなかなかのものだ。勢いを乗せたままロッテ突っ込んでいく。だが、ロッテはそれを軽くかわし、それにともないフワリとスカートが浮かび上がり、舞っているように見える。
めげずに何度もロッテ向かっていくが、ことごとく躱されていく犬人。
「ロッテちゃん凄い!!戦ってるのに踊ってるみたい!!」
ロッテは確かに綺麗なんだが、相手の犬人はひたすら突っ込んでばかりいる。……もしかして、それしかできないのか?いや、さすがにそれはないだろう……。
「くっ、やるな。攻撃が全く当たらねえ。」
まさか、まじなのか?
ロッテが、チラチラとこちらを気にしている。そろそろ様子見はいいかということだろう。ロッテにコクリと頷く。
するとロッテは、先程と同じように突っ込んでくる犬人を躱し、足をかけ、軽く背中をトンッと押す。元々勢いがあるだけに、バランスを崩し思いっきり転ける。
そこに追い打ちをかけ、拳が当たる直前でピタリと止める。
「ま、まいった。」
「それまで!!」
一回戦は、呆気なく終了した。
マジか……。こいつら……弱い…のか?
いや、たまたま、弱いだけだろう。一回戦は様子見ということだよな。
「アキノさん、次は私が出ます。」
「分かった。よろしく。さっきみたいな結果もありえるけど、実力も分からないし、一応気をつけて。」
「はい、わかりました。できるだけ様子を見てみますね。危なそうならすぐに勝負をつけます。」
あちら側も、出る相手が決まったようだ。
実剣で怪我をさせてもなんなので、木剣を使わせてもらう事にしたのだが、それに合わせて相手も木剣を使うようだ。今度の相手は猫人らしい。
この村には、どうやら犬人と猫人が住んでいるっぽいな。他にもいるかも知れないが、今のところは他の種族の姿を見ていない。
「第2試合、始め!!」
始まりと同時に斬り込んでいく猫人。剣速は速いが、フィリアはそれを軽く受け流す。だが、懲りずに何度も剣撃を繰り返す猫人。
剣速が速いだけで、攻撃が単調な為、軽々といなすフィリア。剣技と言うにはあまりに稚拙である。シグルド達と行動を共にしていたフィリアにとって、猫人のそれは、子供のお遊び程度にしかならないだろう。
「くっ、くそ!!はぁ、はぁ。」
猫人はすでに息も上がってきている。対するフィリアは、汗ひとつかかず涼しい顔である。凛と立つその姿は美しく、映画のワンシーンのようだ。
こちらにチラリと視線を送ってくるフィリア。……ロッテの時と同じく、もうこれ以上は意味ないとの判断だろう。
フィリアにコクリと頷き返すと、ここで初めて攻撃を仕掛ける。とはいえ、木剣に対して斬り込んだだけであるが……。猫人の木剣は遥かに彼方に飛んでいってしまう。
そして、そのままの勢いで、喉元で木剣をピタリと止めるフィリア。
「ま、参った……。」
「それまで!!」
マジか、マジなのか?
普通この手のセオリーとしては、いい勝負をして、4人だから、2勝2敗で、延長戦でどうなる!?みたいな展開じゃないのか?
……とにかく、次が問題だな。ユズハを戦わせるのは正直気が引ける。少しは武道をやっていたとはいえ、所詮は人間。獣人や魔族とは比較にならないだろう……。
「ユズハ、危なくなったらすぐに棄権してくれよ。怪我をしてほしくないんだ。」
「アキノくん……。ん、ありがとう。でも、やれるだけはやってみる。怪我っていっても打ち身程度でしょ。試合って言ってるんだし。」
今度の相手は犬人らしい。武器はないようだが……実力は正直わからない。さっきのユズハの動きも、異能あってのものだろう。とはいえ、僕がうだうだ考えてもしょうがない。いざとなれば止めればいいだけの事。おとなしく見守る事にする。
「第3試合、始め!!」
様子を伺う両者。獣人達は人間を見下していた。人間は身体的に劣ると。油断してくれれば、勝機はあるかもしれない。
シビレを切らして先に仕掛けたのは、犬人。ユズハに向かって力任せに殴りかかっていく、ロッテとフィリアには大したことない攻撃でも、ユズハにとっては大きなダメージになる。が、その殴りかかってきた腕を素早く取ると、その勢いを利用し、軽く投げ飛ばす。
犬人は、何が起きたのかわからないようで、辺りを見回している。
ようやく、自分が投げ飛ばされたと理解した犬人は、起き上がり、懲りもせず、ユズハに向かっていく。
向かっては投げられ、向かっては投げられを繰り返し、ようやく勢い任せでは駄目だと悟ったのか、勢いだけに任せた攻撃はやめ、様子を見ながら、手を出すようになった。
だが、出す拳、蹴りも見事に流され、なすすべがない犬人。犬人は息を切らせ、ハアハアと荒い息をしているが、ユズハは静かに構え、呼吸も分からないほど落ち着いている。
ロッテも、フィリアも美しかったが、ユズハはユズハで、充分通用する容姿の持ち主だろう。
いくらやっても全く通用しないが、だからといって、降参できるわけもなく、とにかく攻撃を繰り返す犬人。
もうへろへろ状態の犬人に向かってユズハがついに動く。相手の正面に立ち、正拳突きを繰り出す!!
当然、寸止めではあるが、一瞬遅れて犬人に風が吹く。そして、
「ま、参った。」
マジか、ユズハ強いな。元の世界にいた時から強かったが、まさか異世界でも通用するとは。
「それまで!!」
騒めく広場。
そりゃあ、魔族ならまだしも、弱いと思っていた人間にもやられてしまうのだから、それは仕方がないだろう。
……正直ユズハがここまでやれるとは思ってもみなかったが……。
「勝っちゃった……。向こうの世界の武道もこっちの世界で通用するみたい……だね。」
「お疲れ様、まさか勝つとは思わなかったけど。怪我がなくてよかったよ。」
さて、今度は僕の番か。
今までの流れからして、あまり強くはなさそうだが……。今度は様子見もいらないだろうし、一気に勝負をつけても問題ない。
「仲間の奴らは思ったよりやるみたいだが……俺はそう簡単にはいかないぞ!!しかも人間に、この俺がやられるわけがない。さっきまでのは運が良かっただけだ!!」
仲間は散々やられたはずだが、自信満々の見張り役だった犬人。相当強いのか?まあ、やってみればわかるだろう。
「第4試合、始め!!」
さて、どんなもんかなと。今回はお互いにフィリアの時と同様、木剣を使用している。
一気に間合いを詰めて、攻撃を仕掛ける。
たった一撃で、吹っ飛ぶ犬人。
「なかなかやるじゃないか。油断したぜ。」
ボロボロになってになりながら立ち上がってくる犬人。
さらに一撃を加えるとまた見事に吹っ飛ぶ犬人。
「ふっ、人間と思って舐めていたが、認めざるを…ふぐっ!?」
さらに一撃、しゃべっている途中だが、関係ない。
「お前、人がしゃべってる途中で…ぐはっ!?」
しゃべりながら立ち上がり、近づいてくるが、攻撃の手はやめない。だが、恐るべきはその根性と、タフさ。本気ではないとはいえ、あれだけ吹っ飛ばされて、見た目にはボロボロになりながらも、向かってくるというのは、なかなかのものである。
このタフさが、自身の根拠なのだろうか。だが、いつまでも遊んでいるわけにはいかない。そろそろ勝負をつけることにする。
「どうやら、俺を本気にさせたようだな。必殺技を喰らわせてやる!!」
どうやら、必殺技を見せてくれるらしい……。だが!!
「ぐっ!?動けない……だと!?」
そう、足元に魔術を仕込んであったのだ。
あとは近づいて、首元に木剣を突きつけて終わりである。
「ま、参った。」
こうして、あっけなく獣人の村での試合は全勝で幕を閉じた。
明けましておめでとうございます。
初投稿から、1年ちょっと経ちましたが、なんとかマイペースで書き続ける事ができています。皆さんのおかげです。
今年もよろしくお願いします。




