ドワーフの村11
「ほんとに、いい湯だったな、アキノ。」
「だろ?気持ちいいし懐かしいし。」
「懐かしいか……確かにな。まあ、こっちの世界来てから、向こうの事は全くわからんけど、帰るときが来るのか?」
「どうだろうな……。強制的に返されればどうにもできないが、もし帰る方法が見つかってもたぶん、すぐには帰らないだろうな。」
「まあ、確かに一つ事件が片付いたとはいえ、街の方はまだまだ発展途上だしな。戻って、色々やらないと。ボタンさんとももっと仲良くなりたいし……。」
「すっかり、こっちの世界の住人だな。人の事は言えないが……。」
元の世界に帰らなくてもいいという理由の一つとしては、タツヤがこっちの世界にいるからってのも大きい。気を使わない仲間ってのはいいものだ。
そろそろ魔力も戻ったのでみんなと帰ることにする。ドワーフの代表には、村の復旧を引き続き手伝い、そのかわり、ドワーフの村で行なっている鍛治のやり方を教わる事を約束した。ギルドについては後々交渉しようと思う。
「フェルスの親父さん、お世話になりました。また時々顔見せに来ると思うのでその時はよろしくお願いします。」
「こちらこそ、世話になった。いつでも遊びにくるといい。」
「フェルスもありがとう、何かあればすぐに駆けつける。フェルスがこれからどうるするかはわからないが、出来ることは力になろうと思う。」
フェルスは思い詰めたような顔をすると、
「ああ、世話になった。村が救われたのはお前達のお陰だ。……で、だ。」
妙にもじもじしているフェルス。
「あ、あのさ、も、もしよかったらアタイも連れてってくれないか?……駄目か?母親の事も知りたいし、世界を見て周りたいんだ……。」
「それは構わないが……。しばらくは、街や村の整備をすると思うぞ?」
「本当か!?それは構わない、アタイもその間に、街を往き来しながら鍛治の腕を上げておく。もちろん、戦いの腕もな。」
みんなもついてくることに関しては、異議はないようだ。フェルスの親父さんは、すでにフェルスが出ていくことをなんとなく分かっていたらしく、めちゃくちゃ寂しそうな顔をしていたが、ついていくことを許してくれた。
「さて、戻るとするか。」
「「「はい。」」」
「うん。」
「うむ。」
「よろしく頼む。」
みんなでゾロゾロと帰るのもなんなので、タツヤとシグルドは先に帰ってもらっている。みんなと帰れると思っていたタツヤは落胆具合がすごかったが……。
狐人の村により、何が起こったのかをボタンさんに説明しようと思っていたが、先に帰ったタツヤにより、大体のことはすでに伝わっていた。……タツヤの場合、ただボタンさんと話したかっただけかもしれないが……。
そのあと、タツヤとシグルドはゴブリンの街に戻っていったとのことだ。
僕らは、ゴブリンの街ではなく、魔族の村へ戻る事にする。魔石をガイゼルさんに渡すためである。
「ただいま戻りました。」
「お帰りなさい、フィリア。そして、皆様もお疲れ様でした。」
相変わらず、ものすごく丁寧な物腰の魔王ガイゼルさん。そして、その横にはセリアさんが立っている。
「立ち話もなんなので、食堂にて話をしましょう。魔族一同皆様のお帰りを心待ちにしていたのですよ。」
食堂へと案内され、食事をとると、味の進化に驚かされる。この前食べた時よりも、格段においしくなっているのだ。フェルスはうまいうまいと、凄い勢いで食べていた。
食事をしながら、一通りあったことを説明し、今はそれぞれ部屋で休んでもらっている。食堂にいるのは、ガイゼルさん、セリアさん、フィリアにロッテ、そして、僕である。
「みんなお帰りなさい。みんなが無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。」
セリアさんが、フィリアにハグをする。続いてロッテにもハグをする。
ロッテは固まり真っ赤になっているが、セリアさんの次の行動でさらに真っ赤になってしまう。
ロッテにハグをした後、そのままの流れで、僕にもハグをしてきたのだ。
いい匂いがするし、色々と柔らかいし、みんなの前だし、色々な感情が混ざってやばい……。
「うん、スキンシップはこれくらいにして、本題に入りましょう。」
自分でしておいて何事もなかったかのように振る舞うセリアさん。
「え、ああ…はい。これが巨大化したサラマンダーを倒した時に出てきた魔石です。」
「ありがとうございます。これで、私の魔力もある程度回復するでしょう。例え何かに攻め込まれたとしても、ちょっとやそっとではビクともしないはずです。本当に何からなにまでやって頂き感謝しきれません。私にできることがあればなんでも言って下さい。」
「いえ、自分がやりたくてやってることですし。より魔族が安定して暮らせるようになるのは僕も嬉しいですしね。」
これだけの魔石でも、ある程度なんだな。さすが魔王。全快したら、それこそ全面戦争でもしないと倒すことができないかもしれない……。
これでもかってくらい頭を下げるガイゼルさん。魔王なんだから、そんな事しなくていいのにとも思う。でも、そういうガイゼルさんだから力になりたいと思えるんだけど。
「これからどうするのですか?」
「そうですね、まずはやりかけていたギルド間の連絡を取れるようにして、それぞれの村、街間の連携や、物流を強化していこうと思ってます。」
「ということは、しばらくこの辺りにはいらっしゃるということですね。ここの屋敷は、ご自分の家のようにご自由にお使い下さいね。」
「ありがとうございます。」
長旅で疲れたであろうと、解散してそれぞれ部屋で休む事になった。
久しぶりに訪れた部屋。ここから始まったんだよなと、この部屋に来るたびに思ってしまう。
コンッコンッ!!
「はい。」
「セリアです。入ってもいいかしら?」
何か用事でもあるのだろうか?
「どうぞ。」
「お邪魔します。」
セリアさんが部屋に入って来るだけで、部屋中にいい匂いが充満する……。そしてそのままベッドに腰掛ける。
「長旅お疲れ様。魔石まで持って帰ってくるなんて、やっぱりアキノは凄いわね。」
「いえ、魔石が手に入ったのは偶然ですよ。」
「でもあなたが動かなければ、魔石は手に入らなかったわけだし、偶然であれなんであれ、あなたが魔石をもってきてくれた事に違いはないわ。改めて私からもお礼を言わせてもらうわ。本当にありがとう。」
そう言って近づいて来るセリアさん。すでに顔は目の前である。
「ちょ、近い、近いですって!!」
「今回の旅でまた凛々しくなったようね。」
いや、顔が崩れるのを必死に耐えてますが……。
「夫が言ったこと、それは私も変わらないわ。」
「どういう……?」
「な・ん・で・も・するってことよ。」
近い上に、上目遣いでそんな事を言ってくるセリアさん……。
内心バクバクしながら、色々な感情を抑えるので必死である。
しばらく硬直状態が続いたあと、満足そうな顔をして、少しだけ距離をとってすわり直すセリアさん。
「ふふ、可愛いわね。ま、からかうのはこれくらいにして、今後どうするのかを話しましょう。」
「じ、冗談でもやめてくださいよ。」
「あら、嫌だったかしら?」
「いえ、嫌ってわけじゃないですけど。」
「ならいいじゃない。それになんでもするってのは、冗談じゃないわよ。私も夫もそれくらいの恩を感じてるの。例えば、どこどこの種族を全滅してこいって指示を出されれば、容赦なくするわ。」
「いや、それは極端すぎじゃ?」
「いいえ、それくらいはする覚悟があるわ。……でも、あなたはそういう事言わないし、やらせそうとしないでしょ?」
「ええ、まあ……。そうですね。」
「そういうのも含めて、私はあなたに魅力を感じてるの。さっきの続きだって、構わないわよ?」
パチンとウインクをするセリアさん。何からなにまで、決まりすぎて、いちいちドキドキしてしまう……。
「だから、冗談はいいですって!!」
「冗談じゃないわよ?……まあいいわ。あなたが今ままで色々とやってきてくれたおかげで、魔族は滅びることがなくなり、私と夫は全快ではないとはいえ魔力を回復した。
私が言うのもなんだけど、あなたを縛るものはもう何もなくなったはずよ。ここから出て行っても構わないし、元の世界戻る方法を探しに行くことだってできる……。
今回はフィリアとロッテを連れてってもらったけど、連れて行かないという選択肢もある。
もちろん、あなたが元の世界に帰りたいというのであれば、全力で協力するわ。
自由になった今、あなたが何をしたいのかをあらめて聞かせてもらえるかしら?」
「そう……ですね。確かに、やることは終わって、ひと息ついた感はありますけど、とりあえずの所、帰りたいとは思わないですね。
フィリア、ロッテ含めて仲間もできましたし、こうやって暖かく迎えてくれて、過ごせる所もある。
タツヤもいるし、寂しいと思う事もありません。
ギルドを立ち上げたばかりですし、まだまだ街の発展もさせていきたいですし、まだこの世界を知りたいですし、やれる事もあるかなと思うので、しばらくして落ち着いたら、また旅に出ようと思います。」
「なるほどね……。あなたが帰る気がないって聞いて、ホッとした自分がいるわ……。わがままだけど、帰らないでほしいってのはある……。それに、あの子達も喜ぶと思うわ。
これからも、仲良くしてあげてね?」
「ええ、それはもちろん。」
「長々とごめんなさいね、でも、あなたの考えがわかってよかったわ。召喚されたのがあなたでよかった……。そろそろ行くわ。」
「いえ、自分にできること、やりたい事をやってるだけですから。」
セリアさんは立ち上がると、フワッと近づいてきて、チュッ!!と
「え!?ちょ!???」
ほっぺにキスをされた。
思考停止………。
「おやすみなさい。またね。」
………。
………。
気付くとセリアさんはいなくなっており、ベッドの温もりも冷めていた……。
………とりあえず寝るとしよう。




