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異世界で柔の道を行く  作者: パド
序章
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8話「この世界の概要」

質疑応答は、日が傾きあたりが赤く染め上げられるまで続いた。

空に雲はなく、赤く染まった空がどこまでも続いていた。

だがそれとは反対に哲也の頭は、今までにないほどの混乱と、動揺に包まれていた。

最初は信じられなかった。だけど、よく考えてみると心当たりはあった。見慣れない城、武士のいない街中、多種多様な髪型。

それでも、受け入れるのに時間がかかった。いや、まだ受け入れられてないかもしれない。


ここが「異世界」だなんて…



話を聞くにあたって、哲也は自分を、田舎から出てきたばかりの世間知らずと偽った。その方が都合がいいからだ。


毬に聞いた話をまとめると、


この世界には2つの国があり、今哲也たちがいる国が「春の国」そしてもう一つが「夏の国」

この時、秋と冬はないのかと聞いたら、そもそも秋と冬を知らないみたいだった。おそらく、この名前は季節とは無関係なのであろう。


この国に、年号というものはないが、国を治める当主が変ってから、19年らしい。

当主の名前が「春城」というので、皆、春城十九年と言っているらしい。


これまで、春の国と夏の国はとても仲のいい国で、自由に行き来でき、貿易も盛んだったが、

夏の国は当主が変わった半年ほど前に、いきなり国交を断絶した。それから一ヵ月した頃、いきなり春の国に戦を仕掛けてきた。


そして、ここからがこの世界の大きな特徴だが、

この世界では、今まで一度も戦というものをしたことがなかった。これは、春の国も夏の国も同じである。

戦をしたことがないということは、戦をするための道具、つまり武器や防具がない。そして、それを使う、侍もいなかった。


それでも、覚悟の差というものなのか、春の国は負け続け、四.五ヶ月の間に国土の三分の一を失ってしまっているらしい。


それと時を同じくして、先ほどのような悪さをする連中が現れだし、今この国は、大変な局面を迎えている。



哲也はこれを聞いた後、動揺を顔に出さないようにするのに必死だった。いったん考えるのをやめたかった哲也は、話を切り上げて話題を変えた。


「いや~、結構時間がかかっちゃったな。こんなに日が落ちちゃって、今晩の宿どうしようかな。」


「え!?宿がないんですか?だったら是非うちに泊まっていってください!」


毬が目をキラキラさせながら、迫ってきた。話をそらすために適当に言っただけなのだが…


「いや、さすがにそれは悪いよ。そこまでお世話になるわけにいかないし、毬ちゃんだって、家の人とかいるでしょ?」


すると、毬は今までの勢いが嘘のように消え去り、シュンとして言った。


「私のお母様は、私が幼いころに病で亡くなったと聞いてます。そしてお父様も、先日戦に駆り出されて帰ってきておりません。おそらくもう…」


下を向いているその目には、今にも溢れそうなほど涙がたまっていた。


「ご、ごめんそんなこととは知らずに、無神経に聞いちゃって…」


毬は、涙を拭いて顔を上げると、またいつもの調子で、


「いえ、こちらこそすいません。こんな話をしてしまって。


それで!泊って行ってくれますよね!?命の恩人を放り出したと両親に知られたら、怒られてしまいます。」


その、有無を言わせない表情に、哲也は頷くことしかできなかった。


「では、少し待っていてください。すぐにお夕食を準備しますね!」


そういって、台所へ向かう毬の目に光るものがあるのを、哲也は見て見ぬふりをした。



その夜、空いている部屋に布団を敷いてもらい、横になりながら考えた。あの話を聞いてからだいぶ時間がたち、だんだんと頭の整理もついてきた。自分が異世界に来てしまったんだという不安と恐怖に包まれて、眠りに落ちていく。これからこの世界で生きていくのだという覚悟を胸に抱いて。それでも思ってしまう。次に目が覚めるのは自分の部屋で、これは夢なのではないかと…

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