7話「女の子の家で」
門をくぐるとそこには、昔、修学旅行で京都に行ったときに見たような、立派な日本庭園があった。
門から玄関らしいところに続く飛石や、その両脇に植えられた松の木。奥の方を見てみると、大きくはないが、池のようなものがあり、その中には、赤白黒の鯉が泳いでいた。
「うわぁ…」
哲也は、感嘆の息を漏らした。
もともと和風なものが大好きな哲也にとってこの空間は、感動すら覚えるような所だった。
しかし、感動を覚えるとともに、哲也は少し違和感を感じていた。
よく庭を見てみると、松の木は葉の数が多く、枝も伸び放題の状態になっていて、きちんとした手入れがされていないように見える。池も、表面には藻が張っていて、水もかなり濁っている。
これでは、せっかくの庭園が台無しだ。こういうのは庭師みたいな人が、しっかり手入れをしているものなのではないのかと哲也は思った。
そんなことを思いながら、飛石を渡り、玄関の前についた。
「ごめんください」
と、奥の方に声を掛ける。
すると、「は~い」という声とともに、さっきの女の子が出てきた。
これほどのお屋敷なのだから、使用人みたいな人が出てくるのかと思ったが、そんなことは無かった。
女の子は、哲也を見ると、パンッと手を合わせながら
「まあ!来てくれたのですね!どうぞ上がってください!」
と、哲也を招き入れた。
哲也は、奥の広い部屋に通された。そこには、大きな座卓と、座布団が何枚か敷かれていた。
「少し座って待っていてください、今、お食事を持ってきますね。」
と、女の子は、おそらく台所があるであろう部屋に入っていった。
この部屋に来るまでに、屋敷の中を見てみたが、かなり立派なものだった。
素人の俺でも一目で高価なものだとわかるような掛け軸や置物。きれいに敷き詰められ、染みの一つもない畳。まるで、鏡かのようにきれいに磨かれて、埃一つ落ちていない板の間。
庭の様子があれだったので、少し心配していたが、家の中は、完璧に手入れが行き届いていた。
ただ、部屋に飾られていたものの中に、刀や槍、甲冑などの、いわゆる武具といったものが、一切なかった事が、少し心に引っ掛かったな。
哲也が、座布団に腰を下ろして、そんなことを考えていると、女の子がやって来て
「こんな物しかなくてすみません。お口に合えばいいのですが…」
と、食事を持ってきてくれた。
その美味しそうな匂いを嗅いだ哲也は、自分の空腹がピークに達していることに気が付いた。
川魚の切り身の塩焼き、根菜の煮物、たくあん等の漬物、豆腐が入った味噌汁、そして白米
いかにも和風な献立だった。
「いただきます」
と言って、哲也はガツガツ食べ始めた。
どれもこれも絶品で、空っぽだった胃袋が満たされていく度に、幸福感に包まれていった。
三杯目の白米を食べ終えたところで、哲也は「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
女の子は、哲也の食いっぷりに驚きながらも、嬉しそうにしていた。
食後のお茶を飲みながら、女の子は話しかけてきた。
「そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたね。よろしければ、教えていただけませんか?」
「ああ、確かにまだ名乗ってなかったな、俺は志田哲也って言うんだ。君は?」
「私は、村野 毬と言います。」
「毬ちゃんか、よろしくね」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
そしてここから、質疑応答の時間が始まった。




