11話「町を歩く」
荷物が入ったリュックを背負って外に出ると、日はすっかりと高く昇っていた。
朝は、早く起きたと思っていた哲也だったが、そうでもないらしい。
「もしかして、俺って結構寝てた?」
「はい。一度声をかけたのですが、ぐっすりと寝ていたので、そのままにしてしまったのですが、
駄目でしたか?」
毬は心配そうな目で哲也の様子を伺う
「いやいやいや!そんなことはないよ!逆に迷惑かけちゃったかな?」
「いえいえいえ!迷惑だなんてそんなことないですよ!」
「いやいやいや!」 「いえいえいえ!」
とエンドレス謝り合戦が始まる。
しばらく謝り合い、このままではいつまでも終わらないと思った哲也は、話題を変えることにした。
「そんなことよりも、そのお店ってどこにあるの?」
「え?あっ、お店ですか?大通りの向こう側です。大体20分もあれば着くと思います」
「20分か…。ん?20分?」
分を「ぶ」ではなく「ふん」と言ってることに、哲也は少し違和感を覚えた。確かに、現実世界ではそれが普通だが、この世界でもそうなのだろうかと疑問に感じて、毬に質問してみる。
「20分って、どのくらい?」
すると毬は少し不思議そうな顔をして
「20分は20分ですよ?一時間が60分なので、その三分の一です」
哲也の頭に浮かぶ疑問を確固たるものにするために、もう一つ質問する
「じゃあ、一日は何時間?」
「24時間ですけれど……
なんでそんなことを聞くのですか?」
「いや、ちょっとね…」
どうやら、この世界の時間は、現実世界の時間と同じらしい。いや、正確にはその一時間の長さが分からないから同じとは言えないが、おそらく同じなのだろうと、哲也は考えた。
そうこうしているうちに、大通りに着いた。昨日と同じくすごい人の数だ。
「うわ、すごい人だな。ここはいつもこうなの?」
「そうですね。もともとここは人が多かったのですが、夏の国との戦を始めてから、多くの人がこの町に入ってきて、更に人が増えましたね」
「まあ、城があるってことは、ここが一番安全ってことだしね」
すると、城の方から鐘の音が聞こえてきた。音はあまり大きくなく、他のことに注意を向けていたら聴き逃してしまうかも知れないという程度の音だった。その鐘の音は10回鳴って、鳴り止んだ。
「今のは?」
「今のは、時間を教えてくれる鐘です。10回鳴ったので今は10時ですね。」
「へぇ、時間もわかるのか。あっ!それなら!」
と言って、哲也はリュックの中を漁り始める。
しばらくゴソゴソしているっと「あった」と言って、スマホを取り出した。
「なんですかそれ?」
「ああ、これは…」
と言いかけて言うのをやめた。流石にスマホを見せるのは、刺激が強すぎると思い、ポケットに隠した。
「いや、なんでもないよ。それよりもほら、店に急ごう」
と言って、話を中断させる。
毬は訝しげな顔をするが、それ以上聞いてくることはなかった。
その様子を確認して、哲也はバレないようにスマホを起動する。画面が着くが、もちろんインターネットは繋がっていない。そんなことは分かり切っていたので、目的はそれではない。哲也はタイマーを開き、時間を計りはじめ、そのまま画面を閉じリュックに仕舞った。
その時、哲也はなにかの視線を感じ顔をあげた。そして、あたりを見渡してみるが、人が多いせいで視線の人物を見つけることは出来なかった。
「気の所為か…?」
「哲也さ~ん!何してるんですか?早く行きますよ?」
「ごめん!すぐ行くよ」
そう言って、少し開いてしまった距離を小走りで詰めて行った。




