1話「現実世界にて」
「何でこんなことになっちまったのかな…」
ここがどこで、いつなのかわからないまま、少年はそう呟いた。
…時は、体感で十数分前に戻る
今年で18才になる少年『志田 哲也』は、夜、道場での稽古の帰りに、原付でちょっとした森の道を走っていた。めったに車が来ない道なので、哲也は50km/h近くのスピードを出していた。もう、夏も本番という季節なので、薄手の半袖、七分丈のパンツといった格好だった。
「夏とはいえ、風を切って走っていると少し肌寒いな」
肌寒いとは言いつつも、稽古で火照った体には、気持ちいくらいに感じる温度だ。ただ時々、虫が当たって来る。哲也は、しっかり上着を着るべきだったと後悔しながら、帰路を急いだ。
「今日の稽古は少し物足りなかったな。あと、もう五本くらい乱取りをやりたかった。」
そういいながら走っていると、ちょうど街灯にさしあたったところで、拳大の何かが凄い速さでこちらに向かってくるのが見えた。
「何だあれ、また虫かな」
という間にもどんどん近づいてくるそれが、雄のカブトムシだと分かったころには、哲也の胸に激痛が走った。体に何かが突き刺さったような、事実突き刺さっている痛みに、ハンドルの操作を誤って、道から外れ、巨大な樹に激突した。
そこで哲也の意識はいったん途切れる。
次に気が付いた時には、そこは異世界だった。




