鋼鉄の墓
―カムラ最下層工業区――
全三層に分かれるカムラ内部。
上層は貴族や富裕層の人が住み、彼らは仕事をすることがない。
AIやロボットが仕事をし、彼らはそれを買って生活をする。
中層は通常の生活圏となっており、学校や娯楽、人が商売をする店が立ち並んでいる。
そして最下層。
アンカーの生活圏であり、彼らはここで上層や中層で使われるロボット等の機械を製造するための工場が立ち並んでいる。
クロムがシャトルからでると、人で溢れかえっていた。
遠くから父親のコルトの姿を見つけ、近づいていく。
地面が揺れた。
衝撃がエレベーター越しに伝わってくる。
上で何かが爆発でもしたのだろうか。
コルト「クロム、間に合ってよかった。さぁ来なさい!」
クロムを見つけるなり、彼の腕を掴むコルト。
強引に引っ張られる。
クロム「父さん、何が起きてるの!?間にあってよかったって、父さんは何かしってるんでしょ?!」
コルト「説明は後だ。さぁ早く……」
モロウ「どこへ行くのかな、如月君」
二人の前に、軍服を着た男が立ちふさがった。
しかし、統合軍の物とは違う、見たことのない軍服だ。
そして、その後ろには銃を持つ男達が大勢入ってきた。
男が手で静止の合図を出す。
足を止める男達。
コルト「モロウさん、彼は私の息子のクロムだ。持ち場にはすぐ戻るよ。息子を先に迎えに行きたかったんだ、すまない」
モロウは目を細め、コルトとクロムを交互に見、怪しい笑みを浮かべる。
モロウ「そうか、なら早くいけ」
モロウ「通してやれ」
モロウが言うと、後ろの男達が道を開ける。
その場を通り抜けるクロウとコルト。
クロウが振り向くと、男たちはシャトルの方へ走って向かっていった。
コルト「振り向くな、先を急ぐぞ」
前を向き直る。
後ろから銃声が響く。
クロムは、震えていた。
ステーションを出て、近くに止めてあった車に乗り込む。
クロム「テロ……なんだね」
コルト「……」
クロム「父さんも、奴らの仲間なの……?」
コルト「……クロム、一つ答えてほしい」
無言でコルトを見るクロム。
質問を待つという意思を受け取り、コルトは続ける。
コルト「お前は、上位層の奴らに見下され、虐げられ、憎いとは思わないのか?仕返ししたいとは思わないのか?」
クロム「思わないよ」
きっぱりと即答するクロム。
カイトとのやり取りで、彼の心は既に整理がついていた。
クロム「確かに、アンカーってだけで理不尽な思いをしてるとは思う。けど、だから俺は勉強をして、昇層試験を受けたんだ。アンカーだって、やればできるんだって証明するために、見返してやるためにだ」
コルト「……」
クロム「確かにひどい扱いを受けるし、罵倒されたりもする。けれど、だから頑張ろうと思うんだ。悔しいからって、殺していいわけじゃない。人殺しをする理由にはならないよ」
コルト「お前は、そういうやつだ。いや、そういう風に俺が育てた。ちゃんと、優しい男になったな」
悲しそうな笑みを浮かべるコルト。
クロムは、それを無言で見る。
コルト「だがな、そうは思えない人間も世の中には沢山いる。そういった連中のせいで、戦いたくない人間まで巻き込まれることになる」
クロム「父さんは、どうしたいの?」
コルト「俺は、そんな戦いをする気はない。例え虐げられたとしても、だからって復讐しようとも思わない」
クロム「なら……!」
コルト「だがな、人は時に戦わなきゃいけないときがあるんだ。復讐や自由のためじゃない。大切な人を、戦いに巻き込まれてしまう人たちを守るために」
クロム「……」
コルトの父親の働く工場が近づく。
工場の脇には、巨大なコンテナの姿。
クロム「あのコンテナは……?前まであんなの……」
コルト「貨物船が中にある。戦いに巻き込まれたくない避難民が、中で待ってるお前の幼馴染のユーリちゃんも、中でお前を待ってるよ。お前を乗せたら、すぐ出発だ」
工場コンテナに入り、車を降りる。
中には輸送船が止まっていて、入船ハッチ前に少女が立っていた。
クロム「ユーリ!」
駈け寄るクロム。
ユーリ「クロム!!よかった!!」
コルト「中で待ってなきゃダメだっていったじゃないか!さぁ、早く入って!」
船に入ろうとする三人。
銃声が響く。
振り向く一同。
モロウ「様子がおかしいと思って追ってきて正解だった。まさか大事な国民を逃がそうとしているとは」
天井にピストルを向けているモロウ。
ピストルからは煙が出ている。
彼の後ろには二人の兵士の姿。
コルト「モロウさん、彼らは関係ないんだ。我々大人の身勝手な行動に、戦いを望まない彼らまで巻き込む必要はない!」
モロウ「彼らも虐げられたアンカーだ!我々が権利を主張すべし大事な国民の一人一人なのだ!それに……」
コルトに銃を向けるモロウ。
モロウ「その中には、アレも入っているのだろう?」
クロム「父さん!」
駈け寄ろうとするクロム。
コルト「来るな!!」
すかさず叫ぶコルト。
続け、静かにクロムに語り掛ける。
コルト「マルクを目指せ。先ほど、あそこは中立を表明した。我々の仲間が、既に向こうで待っている。マルクに亡命しろ。いけ、さあ早く!!」
再び銃声。
コルトの肩から血が飛び散る。
クロム「父さん!!」
クロムに銃を向けるモロウ。
モロウ「逃がすわけにはいかないな!それを持っていかれては困る!」
更に銃声が響く。
しかし、今度はモロウの銃ではない。
銃を握るコルト。
モロウは脇腹から血を流す。
モロウ「如月、貴様!!」
コルト「3番貨物デッキ……もしもの為にお前の情報も登録してある。すまないクロム……どうか……皆を……」
モロウ「黙れ!!!」
コルトに向かい何度も発砲するモロウ。
駈け寄ろうとするクロムを、ユーリが必死に止める。
クロム「父さん!父さん!!」
ユーリ「クロム!逃げなきゃ!!早く!!!」
コルト「いけ…!!いけえええええ!!!!」
ユーリに引っ張られ、貨物船に入るクロム。
兵士たちがクロムに向け銃を乱射するが、貨物船のドアに弾かれる。
コルトも発砲し、銃撃戦の音が聞こえるが、ハッチが閉まり切ると同時に音は聞こえなくなる。
ユーリ「ガルバさん!!出して!!早く!!!」
ユーリが叫ぶ。
遠くから「はいよおぉぉぉおおお」と声が聞こえると、貨物船の電源が起動し、船はゆっくり上昇を始める。
コンテナ内ではモロウの叫び声が響く。
モロウ「何をしている!!ギガス隊を発進させろ!!奴らを逃がすな、追え!追え!!」
ハッチ前に跪くクロム。
ハッチを何度も叩き、「父さん…父さん……」とつぶやいている。
ユーリ「クロム……」
クロムの肩を抱き、ユーリは悲しそうな表情を浮かべる。
ユーリ「コルトさんは、私たちを逃がすために命を懸けてくれた。だから、私たちはコルトさんのためにも、ちゃんと逃げて……生きなきゃ……」
船に衝撃が走る。
よろめく二人。
ユーリ「何!?」
ガルバ「大変だ……ギガス隊が追ってきてる!!」
操舵席から男の声が聞こえる。
ユーリが窓から外を見ると、灰色の人型ロボットが三機、銃を持ちこちらに向かってきているのが見える。
ユーリ「どうしよう……この船に武器なんて……」
クロム「3番……貨物デッキ…」
呟きながらよろよろと立ち上がるクロム。
ユーリ「え……?」
クロム「行かなきゃ……俺が……守らなきゃ……」
走り出すクロム。
―貨物船第3貨物デッキ――
貨物デッキに入ると、目的の物がなんなのかはすぐにわかった。
そこには、黒塗りで角のような形状の物があるギガスが横になって格納されていた。
クロム「見たことのないタイプだ……モロウはこれを持ってかれたくなかったのか……」
拳を握りしめ、涙を拭う。
走り出し、ギガスのハッチをこじ開ける。
中に入り込むと、電源がつき、画面上に”grave”と表示される。
クロム「グレイブ……墓……か、悪趣味な名前だ」
苦笑いをするクロム。
生体認証を行う機器が座席から出てくる。
指紋認証、網膜スキャン。
全てを終わらせると、再び画面には”クロム・如月 認証完了”と出てくる。
レバーに手をかける。
起動音が響き、機体が動き出す。
通信が入る。
ガルバ『グレイブの起動を確認した。中にいるのは……クロム君か?』
クロム「はい、俺です。おやっさん」
ガルバ『コルトがもしもの時はお前にと言ってはいたが……扱えるか?』
クロム「大丈夫です。親父の手伝いで、ギガスの操縦はしたことがあります」
ユーリ『クロム、私もこっちからレーダーを見ながらできる限りのサポートする。だから……死なないでね』
クロム「ありがとうユーリ。大丈夫。必ず帰ってくるよ。そして、俺が皆を守って見せる」
ガルバ『……わかった。すまないなクロム、頼んだぞ。ユーリ、ハッチ解放!』
ユーリ『はい。ハッチ解放!!グレイブ発進どうぞ!!』
グレイブの足元が開く。
クロムがレバーを下げると、カタパルト接続部が切り離され、重力のままにグレイブは外へと放りだされる。
クロム「父さん……俺、皆を守るから……見守っててくれ」
外に出ると、三機のギガスが待ち構えている。
再び無線が入る。
今回は貨物機ではなく、敵のギガスのようだ。
モロウ『如月の息子か、親子そろって俺の前に立ちはだかるとは愚かな奴らだ。返してもらうぞ、その機体!例えコックピットに穴を開けてもな!!』
クロム「やってみろ。命に代えてでも、貴様らをここで足止めしてやる!!」
グレイブ腕部が開き、カッター状の武器が飛び出す。
銃をこちらに向けるギガス。
クロムはレバーを手前に全力で引き、ペダルをいっぱいに踏み込む。
乱射されるビームの銃弾をさけつつ、グレイブは3機のギガスめがけて飛び込んでいく……。
やっとロボット戦に突入です。
どこかで説明が入るかもしれませんが、一応もしもの為にここでギガスについて補足をしておきますと、
もともとギガスは軌道エレベーターを宇宙で建設したり、人工惑星を作ったりする際に、作業用として作られた巨大人型有人ロボットです。
戦闘に使用されたのは今回を含め二回目となります。
一回目についてはまたどこかで書く予定です。
それでは、次回もよろしくお願いします。