アンダーカースト
―人口惑星『カムラ』中層――
授業終了のベルがなる。
生徒の声でざわつく教室内、クロムが荷物をまとめていると、肩を強く叩かれた。
「お疲れ”アンカー”くんっ」
「早く地下に戻れよ、地底人のお坊ちゃん」
次々に罵声を浴びせ行く男達。
メフィ「ちょっとやめなよ!クロム、気にしちゃダメだからね」
クロムの数少ない友人である女生徒のメフィは、そう言うとクロムの肩をさする。
クロム「俺は大丈夫だよ、気にして無い」
ロン「あいつらも毎度毎度あきねーやつらだなー。まぁ、成績じゃクロムは優秀すぎて、地下階層出身ってくらいしか貶すことができねーんだから、アホな連中だぜ」
ロンはクロムの前の席の椅子にどかっと座り、メガネをクイッと押し上げる。
クロム「そんなことないよ、カイに比べたら俺なんてまだまだ。証拠に、同じアンカーでもあいつは俺みたいにいじられてないのが証拠だろ」
苦笑いをするクロム。
ロンは教室の隅で荷物をまとめる男子生徒に目をやる。
ロン「カイト・ローグのことか?あいつはなんていうか、人を寄せ付けない独特の雰囲気があるからなぁ……」
クロム「あいつはだいぶ人見知りなところあるからなぁ。普通に話せば面白いやつなんだけどなぁ」
メフィ「クロム、幼馴染だっけ?」
クロム「うん、家が近所。昔はよく遊んだんだけどね」
鞄の整理が終わると、ロンに目配せをして立ち上がるクロム。
三人揃って教室を出る。
メフィ「そういえばステーション近くに新しいスイーツのお店できたんだよね!今日お茶してかない?」
帰り道、言いだすメフィ。
大きな通りの先には、巨大な軌道エレベーターがそびえ立っている。
ロン「お、いいね!俺はいける!」
クロム「ごめん俺パス、今日は下に戻って父さんの手伝いしなきゃいけないんだ」
メフィ「あっちゃー。こっからした降りるのか、大変だね」
ロン「それじゃ仕方ないな、メフィ二人で行こうか」
メフィ「えー私クロムいないならパース」
ロン「えぇ?!マジ!?」
メフィ「うそうそジョーダン!仕方ないからデートしたげるっ」
―カムラ第三軌道ステーション――
軌道エレベーターを取り囲むドーム状の建物の中には、上層・下層に行くエレベーターの他、他地区への移動手段のためのモノレールや、物資を運ぶための巨大な輸送パイプが無数に張り巡らされている。
また、商店や飲食店も多数あるため、常に多くの人で賑わっている場所だ。
だが、この日は何かが違った。
ロン「なんか、異常に人多くないか?」
メフィ「何かお祭り……ってわけでもなさそうだよね、なんか空気重い感じ」
クロム「それだけじゃない。外にかなりの数の貨物機が駐留してるって、ニュースになってる」
黒い小型端末から映像を映し出すクロム。
映像には、カムラを取り囲む多数の貨物機が映し出されていた。
「誠に異例の事態に、カムラ自治区も困惑を隠せていません。予定にない他星貨物機の受け入れ要請が多数きており、対応に追われています。統合軍では、テロの可能性もあるとのことで、退去勧告を出すとともに、軍の出動も検討しているとのことです」
ニュースキャスターの言葉に、一同は息を飲む。
メフィ「テロって……今の時代にそんな……」
クロム「とりあえず、俺は親父のところにいくよ。メフィ、ロン。今日はスイーツはやめて、極力ステーションから離れておけ。大丈夫だと思いたいけど、念のためな」
ロン「ああ、そうするよ。メフィ、行こう」
メフィの腕を掴み、モノレール方面に向かうロン。
メフィ「クロムも、気を付けてね!」
メフィは、ロンに連れられながら心配そうに言った。
―カムラ第三軌道エレベーター前――
「上か、下か」
警備をしている軍人に尋ねられる。
クロム「下です、父の手伝いで下層に帰宅します」
レベルカードを取り出すクロム。
彼の顔写真と生年月日等が書かれており、数字で大きく『1』と書かれている。
「ふん、アンカーの奨学生か」
見下した目でクロムを見る男は、そのまま進めと顎で示す。
軽く会釈をし、先に進むクロム。
レベルカードをスキャンし、エレベーターシャトルに乗り込む。
―エレベーターシャトル内――
軌道エレベーターを囲むように作られた半円形のシャトル。
無数の椅子が並んでいるが、下層に降りる人間は少なく、席はガラガラだ。
クロムが入ると、シャトルの中心、入って一番手前の場所にカイトが座っているのが目に入った。
「久しぶり、カイ」
隣に座るクロム。
カイト「毎日学校で顔を見ているだろ」
クロム「けどこうして話すのは久しぶりだ。お前も手伝いか?」
カイト「そんなところだ」
アナウンスがなり、シャトルが動き出す。
無言の時間が流れる。
カイト「よく普通でいられるな」
クロム「学校でのこと?別にいじられるのは今に始まったことじゃないし……」
カイト「そっちじゃない。いつも一緒にいる奴らのことだ」
クロム「なんでだ?ロン達は友達だ」
カイト「友達?俺たちアンダーカーストと奴らの間に、友好な関係があるとでも思ってるのか?」
クロム「あいつらはそんなことを気にする奴らじゃない。俺のことだって、ちゃんと受け入れてくれた。きっとお前のことだって……」
カイト「憐れみから、だろ」
クロムを遮り、カイトがぴしゃりと言い放つ。
クロム「そんなこと…」
カイト「ないとどうして言い切れる?」
何かを言おうとするクロム。
だが、言葉がでてこない。
カイト「考えたことあるか?もしお前がアンカーじゃなかったら、果たして奴らと友達になっていたか?お前じゃなく別のやつがアンカーだったら、奴らはお前とじゃなくそいつと友達になっていたんじゃないか?」
クロム「それは……」
視線を落とすクロム。
言葉を発しようともせず、完全に押し黙ってしまう。
カイト「俺達が上位層から受けてきた差別や迫害を忘れたわけじゃないだろ。確かにあいつらはそういった連中とは違うかもしれない。だが、お前とつるんでるのだって、所詮は憐れみ、見下してる結果であることに変わりはない。俺はそういう偽善者が、一番嫌いだ」
目を瞑り、昼間のことを思い出す。
カイトの話をしたとき、ロンは彼の姿を見ながら何を思っていたのだろう。
あの言葉は、一人でいるカイトを見て、憐れんでいたための発言なのだろうか。
ゆっくりと目を開ける。
クロム「確かに、憐れみかもしれない。けれど、それでもあいつらは俺を友達として受け入れてくれた。一緒にいてくれた。例え偽善でも、それが優しさであることに変わりはない。俺は、そんな優しい友人と共に過ごせてる。それだけで、十分だよ」
カイトの眼をまっすぐ見据える。
その眼を見て、ため息をつくカイト。
カイト「俺はお前みたいなお人よしにはなれない。どうやら俺たちがわかりあうことはこの先なさそうだな」
クロム「カイ……」
目を伏せるクロム。
カイト「その眼だ」
クロム「え?」
カイト「それが、奴らが俺たちに向けてる憐れみの眼だ。上位の連中の仲間になった気になって、そんな眼で俺を見るな」
シャトルが停まる。
無言でシャトルを降りていくカイト。
クロムは、その背中を茫然と見つめていた……。
さて始まりました本編。
長い!!!
もっと簡潔に収めて、もっと先まで書くつもりだったのですが、予想以上に長くなってしまいました……。
前置きながくてごめんなさい←
ですが、この物語の本筋に強く関係していくお話しでもあるので、しっかり書きたかったです()
ロボット系好きの人ならもうお分かりかと思うのでネタバレしちゃいますと、今回でてくるクロムとカイト、この先対立していきます。
正直私個人としてはカイトの方が正論だと思ってるのと、クロムみたいな甘ちゃん大嫌いな部類なので、この先彼らの言いあいは書くの苦労しそうです(苦笑)
では、次回も是非よろしくお願いします。




