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 死んで初めて思ったことは、神様ってすごい美人さんなんだな、ってことだった。

 光沢のある赤いドレスに、長いシルクのような金髪。赤い目は吸い込まれそうな魅力があった。白い肌は思わず息を飲むくらいに美しい。まさに理想の女性像といった感じだ。


そんな神様は滑らかな白い足を妖艶に組んで、持っていたティーカップを乳白色のテーブルに置き、俺へ視線を向けてきた。

俺はなんとなく緊張した。その場で背筋を伸ばす。

さすがは神様といったところか、威圧感がすごい。


そうこうしてるうちに、神様は口を開いた。


「君は、久遠キヨシくんだね」


 小さめの声だけどよく響く、高め声が発せられる。


「ええ、そうですけど」

「そうかそうか、待っていたよ。立っているのもなんだ、どうぞ座ってくれ」 


 神様は指をひょいっと空中で弾く。すると手前の椅子がぎぎぎと音を立てて後ろに引かれた。

折角座ってくれと言われたので、俺はとりあえず軽く会釈をして、席に座らせてもらう。

外見から見たらプラスチック製のようで堅そうなのだが、実際に座ってみるとソファのみたいに柔らかかった。


「紅茶もどうぞ」

「はぁ、どうも」


 暖かい紅茶を一杯、飲み干す。そして検めて尋ねた。


「それで、ここはどこなんですか? あと、あなたはやっぱり神様?」


 聞けば神様はまた紅茶を一杯啜る。湯気が上っていく先を目にすると、この空間全体が把握できた。

 否、把握できるというより、この空間にはそもそも辺りを見回すようなほど物が置かれていない。まるで、元俺のいた世界とは断絶されているような、虚無感漂う真っ白な空間だった。 


「ここはね、君もお察しの通り死界だよ。死後の世界。そしてわたしはご名答、神様だ」


 やはり、か。やっぱり俺はあの時死んだんだ。

 信じていたクラスメイトに裏切られ、一心不乱に走って駆けて、それでわき目も振らずにつき進んだら電柱に当たったりサラリーマンにぶつかったり、そして最後は車に轢かれたんだ。


「君は自分が死ぬ前のことを覚えているかね」 

「はい、まぁ。なんというか惨めでしたね」


 生前の記憶を思い出しながら俺はえへへと笑う。

 ひどい有様だった。背中がへの字に曲がって、腕は捥げ首はねじれていた。そういえば確か、俺が車に轢かれた直後、人がワンさか集まっていたな。まぁ事故が起これば野次馬になるのも当然だが、なんというか、人が死んだことに寄る騒ぎというより生き残ったときの騒ぎ方をしていたような気がする。違ったら違ったで哀しいが。それじゃ俺が死んだことが賞賛されてるようだし。思わず自分の不幸さに再度笑ってしまう。


 だがそんな俺に神様はあたたく微笑んだ。


「惨め? そうかな、わたしには立派に見えたぞ」

「え?」


 なにを言いだすのかこの神様は、と俺は訝しむ。


「そう、君は惨めなんかじゃないさ」

「そんな俺は」

「だってそうだろ。自分の命を顧みず人の命を救ったんだ。それのどこが惨めだというのかね」


 え? 人の命を救う? なんの話だ?


「君は救ったんだよ。交差点に飛び出してきた子供をね。間一髪のところで突き飛ばして」


 どういうことだ。俺がこどもを救った? 突き飛ばして? 何か勘違いしてるんじゃないのか?

 俺はなおも訝しんで眉間にシワを増やす。そして思い出した。

 交差点で最期に聞いた女の人の鳴き声。あれはもしかして……。


「喧騒しなくてもいいさ。君はひとりの命を救ったんだ。自信を持ちたまえ」


 そうか、こんな俺でも最後には良いことしたのか。そう思うとなんだか心が温かくなってきた。俺はふぅと一息つく。神様がもう一杯紅茶を注いでくれた。

 

それから2分ほど、静かに紅茶を飲み続けて、神様が本題を切り出してきた。


「それでだね、久遠キヨシくん。私から君を賞賛して、一つ、君の願いをかなえてあげることにしたのだよ」


 神様はそのために俺をここに呼んだのだと言う。


「なにか欲しいものしたいことがあったら何でも言ってくれたまえ。まぁと言っても死んだ後に聞くなっ

て話かもしれないがな」


言って神様はハニカム。


「いえ。そんな事ありませんよ」

「では何か欲しいものでもあるのか? なんなりと言うがいいさ」

「じゃあ……」 


 欲しいもの。

確かに死んでしまったらないかもしれない。でもやりたいことならいくらでもある。

俺は生前糞みたいな人生を送ってきたんだ。

毎日いじめられ、見下されて、挙句の果て惨めに裏切られ。

今度生まれ変わるときはそういった負の要素から抜け出して、最高の人生を送りたい。


そう、人生をやり直したい。それが俺の願いだ 


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