乱闘!上等!疾風怒濤!
会議室らしき部屋。人は6人、席もちょうど6席。
シラキさんが話し始める。
「このゲームは6人で一つパーティを組み、デストロイヤーと呼ばれるこの兵器を操縦して戦うゲームだ。で、さっきの話では細かい説明は省いていいってことだよね、ミナミ?」
「ああ、本題が早く聞きたい。というか早く戦ってみたい!」
「ちゃんと一から細かく説明しないと、だいたい何者なのかもわからないのに……」
そう言うのは韓国人のイルグォン。唯一俺と同じで英語が話せないロシア人のエルヴィラから翻訳機をもらったおかげで会話がスムーズになった。英語がここまで当たり前に世界標準語になっていたとは。そういえばスパーツはアメリカ人だったよ。なんとなくわかってたけど。
で、イルグォンさんの言う通り、俺は自分ですら自分が何者かわかってないな。それでいて自分が何者か考えようともしない馬鹿だ。つまり、
「イルグォンさんご尤もだけど俺説明されても右から左だよ?」
「こいつまじで大丈夫か!?」
「大丈夫だ、も」
「今回の作戦だが」
くっ。シラキさん。言わせてくれない。
「バネッサ、イルグォン、僕はこのデストロイヤー『ホージロ』で援護、メインはスパーツ、エルヴィラ、そしてミナミの3人による乗り込み部隊だ。直接敵デストロイヤーに乗り込んで内から致命的なダメージを与える。こっちに3人も回したのはそれだけ重要だってこと。ミナミ、君の魔法がどれほど信用できるかはわからないけど、信頼してるよ」
その魔法、使い方もろくにわかってないんだけどね。なんとかなるでしょ!
ホージロの甲板。そこに乗り込み部隊のスパーツ、エルヴィラ、俺。
「魔法が使い物にならなかった場合の保険としてこれを持っといてくれ」
スパーツは銃っぽいものと、1メートル程の謎の棒を俺にくれた。
「それって案の定魔法使えないフラグじゃ……」
「よくわからんが、説明するぜ。こっちは見ての通り、銃だ。パーティクルマシンガン。当たりにもよるが10発も当てれば敵を殺せる」
「10発って案外弱いな……死んだらどうなるんだ?」
答えたのはエルヴィラ。
「私たちのホームにリスポーンされるから大丈夫よ。あとミナミはこの服着ないとたぶん1発で死んじゃう。頭へのダメージは特に高いからヘルメットも一緒に装備してね」
その服そんなに防御力あるのか。既にローブを着ているので銀のヘルメットだけ被る。
「で、こっちの棒は?」
「棒じゃない、サイリウムブレードという近接武器だ。ここをこう持ってだな……よし、このトリガーを引いてみろ」
言われた通りにすると、なるほど棒の先端から七割りがサイリウムのように光り出した。緑だ。
「ふふふ、ラスボスみたい」
とエルヴィラが言った。禍々しい赤と黒のローブ、銀のマスク(ヘルメット)、赤に映える緑のライトセ……サイリウムブレード。漂うラスボス感。中二病魂がくすぐられる。
「では早速、これの使い方のレクチャーを……」
「振って!」
「え?」
スパーツは自分のサイリウムブレードを出して、天高く振ってみせる。
「振って!こう!」
「こう?」
「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」
「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」
エルヴィラがどこから取り出したのか、ギターを奏で始める。
「盛り上がってるー?」
「うおおおおぉぉぉぉ!」
「みんなのために、歌いまーす!」
「エルたんかわいいよ!」
「ちょっとギーク共、甲板で騒ぐな!さっさと終わらせなさい!」
艦内からアメリカ人のバネッサに注意され、シュンとなる3人。それから顔を見合わせ、決まり悪そうに笑い合う。その不思議な心地よさ。スパーツとエルヴィラは特に仲良くなれそうだ。
「コホン、では正しいサイリウムブレードの使い方だ。それは、剣みたいに振るだけ!振り方は、ミナミはどうかわからないけど、普通はプロの剣術の一部が体に備わっているからフェンシングや剣道やってる人が有利ってことはあまりないぜ」
「私から付け加えると、その剣に『特殊な粒子』を纏わせて高速で流動させている設定だからこの服も突き破るし頭か胴に当てれば一撃!打ち合うだけで粒子の飛散によるダメージ!某映画の如く弾丸もはじくのよ!」
設定の二文字になんか萎えるな……。
「てか剣ムチャクチャ強えな!」
「やはりどうしても銃の方がリーチが長いからね。しかし剣はロマン。使ってもらうために著しく強くしたんだろうなあ」
「それじゃあ任務まで発光なしで私と練習しよー!」
デストロイヤー「ホージロ」からスパーツの愛機「バイオレットスパーク」が飛び立つ。紫の閃光は、いよいよ近くに見える敵デストロイヤーの迎撃を圧倒的な速度で回避する!敵艦甲板からわずか10メートルまで近づいたとき、スパーツは自動操縦に切り替え、3人は飛び降りた!
3人を撃ち落とそうとする弾をスパーツとエルヴィラが降下しながらはじく!そして……
ダンッ!ダンッ!ダンッ!
甲板に降り立つ音!これがまたかっこいい!
甲板には自律式防衛ロボットがざっと30体。つまりはこいつらが俺に一騎当千を堪能させてくれるザコってわけだ!
全力疾走!前の二人がブレードで敵を片っ端から斬り刻む!後ろの俺が杖を振り回すと、杖の先端が赤く光り、光の残像が美しく舞う!そして計画通り、ロボットたちは円い炎に包まれて盛大に爆発した!最高!最っ高!ハハハハハハ!!
よく見ると、奴ら一体につき二回爆発している。
「ミナミ、二度目の爆発はやられエフェクトでダメージはねえ!目を奪われるなよ!」
「了解だ!」
杖とブレードの光が暗い戦場を駆け抜け、それを無数の火の玉が彩る!爆発の中を走る気分は以前とは違う。もうこんなに楽しいことはない!その時間、わずかに数十秒だったかも知れないが、脳内スローモーション編集を受けたその映像はとても長く、もう全神経が爆ぜるような気持ち良さ!
ヤバいヤバいヤバーーい!
うおっしゃあああああぁぁぁぁぁ!!
エックスプロオオオオオォォォォォッジョン!!!
「甲板は片付いた!穴開けて侵入するぞ!」
言い終わらないうちに体が動く。杖を逆さにしてジャンピング&甲板に打ち付ける!
「抜け落ちろ!」
ドゴオオオオオオオ!
最も期待した効果音!と、同時に甲板にきれいな丸い穴!
「スパーツだ。これより侵入する。援護OKだ」
「こちらシラキ。了解した。援護射撃を行う。中に入れ」
ピキュンピキュン!
ドドドドド!
バシュウウウ!ドカアアアン!
これぞまさに宇宙戦争!非現実的な効果音が未来感を引き立てる!赤紫のビームが飛び交い、互いの城壁を削り合う!
さていよいよ侵入だ。
「任務は制御室を制圧すること。だがここからでは遠回り。内部にはプレイヤーが6人、操縦しているとはいえ最低一人は防衛に回るはずだ。さらに護衛ロボットの数は未知数。壁を破って制御室へ行こう。ミナミ、頼む」
「任されたッ!」
杖で勢いよく突いて、壁が吹き飛ぶ様子をイメージする。目の前から眩い光が溢れ、
ズガアアアアアン!
爆発は、目の前の壁を破壊したが、その奥に隠されていた特殊な素材の壁に勢いを阻まれた。
「焦るな、今ので制御室に繋がる部屋が開かれた!まともに進むよりはるかに近道だ!」
部屋に降り立つ。その部屋は、とても広く、それはここで対人戦を行うことを想定されたようにも思えた。そして、やはり人が、3人。
「なんだあいつ、あんなコスチュームはなかったはずじゃ……」
そうか、戦闘服の上に着たローブに驚いてんのか。そうだ、もうちょい驚かせてやろう。
俺は杖を床に刺し(この杖すげー床に刺さったよ!)、緑のブレードを取り出す。ラスボスモード、降臨!
「我が名はサラマンダー。とくと覚え、死ぬがいいッ!」
俺は敵目掛けて一直線に走り出す。敵は腰が抜けて動けない。不意討ち、と言っていいのかはわからないが、一瞬で敵の一人が俺によって真っ二つにされ、爆発した。人のやられエフェクトも爆発なのか……。
「エルヴィラ!」
「言われなくても!」
スパーツが別の敵に斬りかかる!敵もブレードで受けるが、その胸から青い光が飛び出す。エルヴィラのブレードだ!あっという間に二人を倒し、3対1だ。
だが、残った敵は意外にも自信ありげだ。
「サラマンダーだか、聞いたことが、俺が三刀使いと知って話しているのか?」
そう言うと、背後から何かの機械を飛ばした。それは浮遊して、サイリウムブレードによく似たものを付けている。
「三刀使い……まさか本当にいたなんて」
聞いただけでエルヴィラが驚く。相当強いらしい。おそらくはあの浮遊する二本の剣と自分のブレードを同時に操る、ってやつだろう。上等だ!やってやるぜ!