業火!落下!電光石火!
「親方ぁ!空から女の子がぁ!」
次の瞬間、終端速度に到達した肥満少女に潰されて俺は死んだ。
俺は、開始二行で怪死し、目が覚めるとそこは何も無い草原。なんて疾風展開だ。木もない。家もない。人もいない。あるのはただただ短い草だけ。こんなとき、あなたならどうする?やるこたぁひとつ!ヤバい!テンションMAX!なんでか知らんけど!
大きく息を吸って………………
「静かだああああああああああ!!」
ドカーン!
背後からとてつもない爆発音。俺の声で何かを目覚めさせてしまった?慌てて振り返ると、数メートル先に怪しげな男(女かも知れないけど)が立っていた。人いたんだ。赤と黒のローブに、いかにもな魔法の杖。そいつと俺のちょうど真ん中あたりに、クレーター。そこから、男が爆発魔法か何かを使うことを理解するのはあまりに容易だった。
「魔法の世界!」
と喜んだのも束の間、第二第三の爆発が俺を襲う!
ドカーン!ドカーン!
爆発は地面から発生しV字を描くように放射状に火を噴く。火柱は体感5メートル。それを見上げて、
「死にたくねええぇ!」
既に死んだことは完全に忘れている。
俺は逆方向に全力逃走!後ろから爆発音が俺を追う!草原の静寂はあっという間に消し去られた!
ドカーン!ドカーン!ドカーン!
後ろ見る余裕ねえええ!どうなってるかイマイチわからんが多分誰か他にいても助けられるどころか笑われる状況だ!
一瞬、爆発が止む。なんだ?素早く振り返ると、例の魔法使いは杖を高く上げ、
キュウウゥン……
ヤバいって!その音とモーションは絶対溜めてるやつだ!爆風を避けられるものを……本当に何もない草原だな!せめて伏せるか!と思ったのも遅く、
ドッカアアアアァァン!
ズドオオオォォン!
「ぎゃあああ!」
一際大きな爆発音に、地面が抜け落ちる音。後者は何?青い空ばかりが見える。その真っ青な視界の端に赤と黒のローブの人。近くで見てわかったが女だった。水色の長い髪がフードからはみ出している。
女が何か言おうとしたが、その前に俺はまた叫んでいた。
「異世界転生だ!メインヒロインだあああ!」
草原は再び静寂を取り戻した。
ローブの女は不思議そうに首を傾げる。その手には杖ではなく、何やら看板らしきもの。
「何の前触れもなく二行で前世を絶たれ家族も友達も失った上転生していきなり爆発と落とし穴を食らわされておまけにこれから今の受難がドッキリって知らされて激怒するはずの人が、なんで喜んでるの?」
「てめブッ殺すぞ!?てかそれドッキリ看板かよ!」
「よく叫ぶね」
近頃の転生ものは決まってこうだ。折角のヒロインが登場早々がっかりさせてくる。
いろいろ聞きたいことや言いたいことはあるが……
「この落とし穴、よくできてんな。ちょ、いてて……てめえがやったんだろ。引き上げてくれ。話はそれからだ」
「あなたをこんな目に合わせた残忍冷酷な私があなたの手をとってあげるとでも?」
「自分で言うかあ?」
こいつ、マジいつか殺す。
数分後、この女と話して分かったことを整理すると、
俺は冒頭二行と言語や常識以外の記憶がない。
これは異世界転生ってことで間違い無いらしい。
こっちの言葉は分からない。アイキャントスピークイングリッシュ(日本人の悪い癖だ。外人にはまず日本語で話すべし)。
でもこいつとは話せた。こいつはミナミと名乗ってたな。
この女が俺を転生したわけじゃないようだがここに転生されることを知ってた。
親や友達は覚えてないのでさほど悲しくない。
最も重要なことは、この世界は所謂ファンタジー系異世界ではない。いや、正確にはファンタジー系異世界でもある。同時に近未来世界であり古代世界であり、人類生き残れであり人間ぶっ飛ばせでもあるということらしい。
「………………はいぃ?」「高次元世界、と言えばわかる?みーんな異世界と言えば中世風魔法ファンタジーって連想するから転生のときは決まってここMagicEarthに来るの。人口増えて困る」
「なるほど、わからん」
「そのセリフもう聞き飽きたー!皆言うんだもん!」
「世界観の話はもういいよ。俺の素性はなんなのか、俺は何をすべきなのか、俺のチート能力は何か、そういうの下さい!」
「じゃこれ上げるから頑張れ」
ミナミはローブを脱いで、杖と一緒に俺に渡して去って行く。
「いや、ちょ待って、おい!メインヒロイン!」
「拡張現実の急成長で無法世界が増えたから、気を付けてね!」
「相変わらず何言ってんのか分かんねえ!後でネタバラシあるんだろうな!」
……行っちまった。だが、武器を渡されたらばすぐ敵っぽいのが出るのがお約束じゃないか?俺はまだ混乱しているがローブを着て杖を構えた。さっきまで女の子が着てた服って思うと心なしかあったかい……。
突然、ミナミが去った方向とは逆から、
「××××!」
人みたいな何かがこっちに来る。人間そっくりだけど灰色の肌に黄色く光る目。ここの言語でわからないが口調から怒ってるのがわかる。
「××××!」
しかも二人だ!一人は見た目から女と推測できる。二人ともくの字に曲がった剣を振り回している。刃物ですよ刃物!それも二対一!こっちゃ使い方もわからん杖!振っても魔法出ないし!
くっそミナミ、許さねぇ!ろくにチュートリアルもしないで俺を置いて!まあ正直ローブ脱いだとき可愛かったしエロい体してやがったがそれでいてヒロインの業務放棄とはなおさら許さねぇ!こいつらもこいつらで初対面相手に平気で斬りかかるし、男女だから多分カップルだろぉ?ミナミにも彼氏とかいるんだろか?……おお、なんかすげぇ腹立って来たな。とりあえず、
「リア充共め!爆発しろおおぉぉ!」
すると、奴らの体が一瞬で風船のように膨らんで、
グパアアアァァン!
「わーお!爽快!見たかコンニャロー!」
殺しちゃったかな?まあハナから殺す気だったし人間じゃなかったから何とも思わない。
にしてもこの気持ち良さはヤバい。なんて爽快感。飛べそう。飛ぼう!いろいろ考えないようにしよう。考えるの苦手だし、そのうちいろいろわかって前世の名前も思い出せるだろう。纏わりつくいろんな思考を捨て、今!
「飛っべえええぇぇぇ!!」
足が地面から浮く。草原が離れていく。雲が横を通り過ぎ、体が重たくなってくる。まだ行ける。もっと飛べる。
「うおおおおお!」
空が、次第に暗くなる。星が明るい。空気は無い。でも苦しくはない。むしろ、最高に楽しい!
「イィヤッホオオオォォウ!」
重力が、消える。辺りは、闇と、無数の星。銀河が、それはもう、まさに星の河。感動だ。でも、まだ行ける。まだ行ける。
と、思ったんだけど、そこで意識がふっとんでしまった。まいった。今日のことが夢オチってのは嫌だな。でも寂しくない。目が覚めるのが楽しみだ。きっとまたヤバい展開が俺を待ってる。
俺って誰だああああ!やっぱ気になる!
目が覚めると、月にいた。スーパー飛んだ勢いで月に着いたらしい。
これは、異世界一テンションが高い異世界転生小説である。




