へんしん
時系列順にはなっていません、何話から見ても大丈夫です。
各話が短いので好きに読んでください。
―爬虫類は、脊椎動物の分類群の一つで、分類上は爬虫綱という単位を構成する。現生ではワニ、トカゲ(ヘビを含む)また爬虫類の「爬」の字は「地を這う」の意味を持つ。
ケイタは犯罪者だった、それは生まれながらの個性だったのか。
ケイタは母親と二人暮らしだった、父親が誰か分からなかった、何度か母親に尋ねたことがあるが答えてはくれない、母もケイタの父が誰か分からないのだ。
小学生の時にケイタはカナヘビを飼育していた、カナヘビとは尻尾の長い小型のトカゲで日本全国に生息している。水槽はゴミ捨て場に置いてあったもの再利用したものだ。
母子家庭で貧しい暮らしの中当然玩具などを買い与えられなかったケイタ、唯一の楽しみだった。
世間はクリスマス、母親が失踪した、男ができてケイタが邪魔になったのだ。
ケイタが学校から安アパートに帰った時には家財道具などは全てなくなっていて、畳の上にカナヘビが入っている水槽だけがあった。
部屋の窓は開けっぱなし、冬至の肌を刺すような冷気が遠慮なくゴウゴウと吹き込む。
水槽の中身は土だけが敷き詰められているように見える、冷気に当てられてカナヘビが冬眠したのだ。
食料が尽きた、元旦である。
調達をしに近所の神社へ向かうケイタ、目的は食料ではなく金銭だが。
ケイタは既に一人で生きていく術を本能で理解していた、人ごみの中で財布を掏摸ことは日常動作の一つになっている、ケイタは奪うことが愉しみ悦びになっていた。
神社での仕事を終えて帰路に着く、帰りの山道は人気が無い場所だ。
長い階段があり自分と同じ頃の男子が下っている、手には棒つきのキャンディを持って。
ケイタは階段を下りて行き後ろから男子に近づく。
「よこせ」
「え?」
男子は振向く、なんのことか分からない様子だった。
「よこせ!」
「え、イヤだ」
今度は理解した、自分が持っているキャンディを指差されている。
「よこせッ!」
ケイタは相手が持っているキャンディを鷲づかみにすると相手の額を殴り押した。
男子は階段状でバランスを崩し、一旦尻餅をつくが殴り飛ばされた勢いのまま長い階段を転げ落ちた。
転げ終わったときにはもう男子には意識が無く、耳から濃厚な赤色の血液が流れ落ちる。
その様子をキャンディーを舐めながら観察しているケイタ、彼の長い舌が着色料の赤色に染まる。
また一つ愉しみを憶えた。
中学三年生の年、学校には最初から当然通っていなかったケイタはある組織を作っていた。
ケイタと同じく犯罪行為の味を知った冷徹な捕食者たちの集まり。
カリスマ性と残虐さを持ち、引き際を幼少期から繰り返してきた経験で獲得していたケイタは組織の王として君臨していた、ならず者の集まりだが不思議と王に反逆する兵は居なかった。
生まれ育った町で悪事の限りを尽くす、盗み、殺傷、薬物、〇〇、やっていない犯罪行為は無かった、まるで悪の万屋か…。
いつものように人気の無い場所今回の獲物は壮年のカップル、男性の方は既に地面に伏せ頭から夥しい血液を垂れ流している、もう動くことは無いだろう。
「ヤメテください、お願いします、助けて」
後退りで逃げる女性、後ろは行き止まり、追い詰める捕食者達の中央にいる男が女性に近づく。
「ヤメねえし、助けねえよ、わかんだろ?」
男は鰐皮のジャケットを身につけ、棒つきキャンディーを咥えていた、手には両刃ナイフを弄ばしてさらに女性を壁まで追いやる。
「あ…、あなたケイタ?」
「ア?ああ…、そういうことか…」
「なんだボス、知り合いかよ」
「いや…、ああそういえば今日はクリスマスだったな」
男は口からキャンディ取り出しを女性の口に押し込めた!
「これはオレからのクリスマスプレゼントだ、あの後カナヘビはすぐに死んだよ…、お前ら後は好きにしていいぞちゃんと処分しろよ!」
男はまるで資材の片付けを命令する現場監督かなにかのように言い放った。
上司からの許しが出た部下達はいっせいに女性を取り囲む、悲鳴は誰にも届かなかった。
母親から奪った金目の物をズボンのポケットに突っ込み、その場を後にするケイタ。
「三年間遊ばせて貰ったがこの町も手引き時か…」
カカカと笑い闇夜に消えた。
「アズサッ!大変だすぐに来てくれ」
芝太郎がアズサの元へ駆けつけた。
「どうしたの芝太…」
「どうやら今日が君の初仕事のようだ」
状況を理解したアズサは頷き、変身の為に瞑想・集中、彼女の内に秘めた魔法感覚が研ぎ澄まされていく。
チリチリと体の先端部分から熱を帯び始める、そして次の瞬間発火!
彼女の服は一気に燃え尽き螺旋状の炎が裸体を包む!
大事な部分は絶妙に炎に隠された!
炎は次第に形状を安定させ衣服のように体に張り付いた!
足元の炎は長靴に、腕の炎は手甲に生成された!
身体に張り付いた炎はタイトなボディスーツに、赤と白とのコントラストが光る!
最後に首に巻きついた帯状の炎がゴオォと一気に燃え上がり真紅のマフラーへ!
この間、現実時間でわずか0.2秒!
「うおぉ…、これが変身…」
アズサは拳を握ったり体をさすったりして慣れない格好の感触を確かめる。
「急ごう、付いて来て!」
駆け出す芝太郎、アズサは後を追う。
路地裏に向かう、100m程先に男が見えた、先は行き止まりのはず。
麦わら帽子の小学生女子に男が手をかける瞬間。
「待ちなさい!」
アズサが力強く啖呵を切った。