ふっかつ
時系列順にはなっていません、何話から見ても大丈夫です。
各話が短いので好きに読んでください。
「全く…、生きたままから揚げにされるとは思いませんでしたよ本当」
焼け爛れた佐清の皮膚は既に回復しつつある、これならば白マスクは必要ないだろう。
「それより今日は大事な報告があるんだ」
本題に移ろうとする彼女ら、風呂屋敷カナエと佐清はそれぞれ魔法少女マジカルホシイモと妖精マスコットである、アズサが町を出て放浪生活をしていた数年間、故郷であるこの町と商店街を守ってきた英雄だ。
一方のアズサは虚ろな瞳で虚空を見つめ紫煙をふかしていた、彼女が負っている心の傷は計り知れない。
ある事件をきっかけに虚脱感と暴力衝動を抑えきれなくなっていた彼女は、かつてカナエ以上の英雄であった。
落ちぶれてしまったアズサのことをカナエは決して見捨てず、毎週一日だけある実家の定休日を利用しできる限り時間を共有、心を療養しようと励んだ、それが一年間続いた。
「コホン、では本題に」
「町はアズサちゃんが活躍したおかげでしばらく平和だった、私が数年間してきたことは普通の人助けで、別に魔法少女の力なんて要らないぐらいだった、そのほうがよかったんだけど…」
「エエ、最近ワタクシはとてつもないネガティブがこの町に迫ってきている予感がしてなりません、モチロン芝太郎も同じでしょう、聞いてませんかアズサ?」
彼女は無言だ、佐清とカナエは目を合わせて困ったという様子。
ガララッ、部屋の戸が開かれた。
「ただいま、あれ二人とも来てたのか」
芝太郎が散歩から帰ってきた、アズサの足元近くに座る。
「今日はみんなに大事な話が…」
「芝太郎、ワタクシ達がもう既に始めていましたよ」
「いやおそらく違う、ネガティブが迫ってきているのは君より感知能力の低い僕も感づいてはいる。今僕が話したいのは警視庁から得た情報の事だ、今日ある男が仮釈放された」
「まさか…」
カナエは不安そうにアズサを見つめる。
「そう鰐淵、通称アリゲイターだ」
アズサが咥えていたタバコを落とした。
部屋にいるアズサ以外に緊張が走る、夏だというのに一気に冷気が部屋を充満させた、アズサの魔力数値が漆黒の感情を含み上昇する!
「だめだアズサッ!このままでは魔法少女失格だよ、今の君はネガティブそのものだ!」
アズサは立ち上がり芝太郎の顎を足で小突く、がいつものように脳漿を顔面の各穴から噴出される威力は無く、芝太郎は逆にそれが不安だった。
アズサはそのまま部屋を出た。
「アズサちゃん、行っちゃたね…」
「ああ、たぶんご両親の所だろう…」
町の外れ山の麓にある墓地、ここの地域住民の先祖が眠る神聖な場所だ。
大納言家之墓。
アズサが苺大福を供える、母の好物であり父自慢の大納言和菓子店の名物だが、今墓に供えてあるのはコンビニで買ったものだ。
「ごめん、本当はあたしが作ってあげたかったんだけど急で…」
アズサは黙祷、胸中にはさまざまな思いが駆け巡った。
魔法少女になった中学一年生の時、それからは戦いの日々だった、ネガティブを解決していったがその過程でかけがえの無いものを失った、母親だ。高校を卒業後修行の旅へ、帰ってきたときには父もいなくなっていた。そして鰐淵の出所、奴は刑務所に収監されていたぐらいで大人しくなるような玉じゃない、母親の仇…。
「やはりここだったね」
芝太郎が駆け寄ってきた。
アズサは黙祷をやめ、競歩気味に墓地の出口へ向かう。
「走るのかい?付き合うよ」
「勝手にしろ…」
「アズサッ!」
「何だよ」
「帰りにドッグフードを買ってくれ、今朝でストックが切れた」
返事の替わりかアズサはジャージのポケットを探り、中のものを握り締めて丸めたあと墓地の出口にあるゴミ箱に投げ入れた。
「早速禁煙とは偉いじゃないか」
アズサと芝太郎は山の方向、坂道に向かって一気に駆け出した。
もえぶたに続く