解放
「――――ここから聖女の魔力を探知したのだな?」
「ええ、確かに」
洞窟内部。
帝国軍の連隊は、聖女を追ってこの洞窟まで辿りついた。
異世界からの聖女の召喚に成功したものの、大司教が到着するより前に聖女が帝国から脱走したとの知らせを受けた。
それも、見張りを皆殺しにして。
聖女を決して傷つけてはならないと厳戒令を布いて、逃げ続ける聖女に追手を差し向けたものの、彼らからの反応はない。
洞窟へ到着する前にも追手らしき者達の死体が転がっていた。
聖女の魔力はこの世に二つとない特徴的なものだ。
召喚した直後彼女の魔力回路にパスを繋ぎ、彼女がどこへ行こうといつでも追跡可能となってはいるが、ここまで追手を悉く撃退されては、一個隊を出動させざるを得なかった。
洞窟を進むと、所々に血の痕が確認できた。
血痕からは白金が大輪の花のように花弁を広げている。聖女の血に含まれる魔力が生成した物だろう。
白金は存在こそするものの、大変希少価値の高い鉱物だ。大粒であれば国一つ買えるほどの代物になる。
「…ここは立ち入り禁止区域だったな?」
「はい。旧政府が定めた条約が未だに存続しているようです」
「なるほど、だからこうした原生種が残っているのか」
この洞窟自体が希少な鉱石で構成されているため、群生している植物も鉱石も今では少なくなってしまった希少なものばかりだ。
なかには、竜の息吹で生成される鉱物もある。
「…………おい、」
「何でしょう?」
「何故、ここは立ち入り禁止区域に?」
連隊の中の一人が、そう呟く。
何百年も、何千年も前からここは何人たりとも近づくことを許されなかった。
神官さえも。
「……封印、」
「え?」
「ここは、確か、3万年前に封印された……竜の祠です」
「竜だと!?亜竜種ではないのか!?」
「いえ、竜です!それも封印指定物の、恐らく現在の竜種の祖種であるとも…」
「……聖女が、この中に……?」
「………竜?」
あまりに神秘的な光景に、一瞬ここに近づいてはならないのではないか、という意識すら湧いた。
だが、ふとその岩に「触れよ」と。そう自分の中で囁く声がした、気がした。
岩へと続く階段を一段一段上がっていく。
一段上るごとに、ピリッとした、静電気のようなものが弾ける気配がした。
やがて、最後の一段をあがった時。
硝子の割れるような音がして、六本の柱が砕け散った。
「…!」
砕け散った柱から、刻まれていた文字だけがひとりでに踊るように、帯のように列をなして岩を囲む。
(触れて、いいのか)
だが、体中にサイレンが響き渡っている。
「触れろ」「壊せ」「触れろ」「触れろ」「触れろ」「触れろ」「触れろ」「触れろ」「触れろ」「触れろ」「触れろ」「壊せ」「壊せ」「触れろ」、と。
吸い寄せられるように、命令されるがまま、岩へと指先を触れさせた。
直後、耳を劈くほどの轟音と共に、岩が白銀の光に包まれた。