私はヒーラーとして勇者様を支えます!
とある街ーーナナマガ。ここに1つのパーティがいた。彼らは4人組で、男女比が2:2だった。その内の1人、赤黒い短髪の少年が張り切った声で言う。
「おーい!みんな、行くぞっ冒険の旅へ!」
「わくわくするのもわかるけどにゃ、食料なしで行ったらすぐ終わるにゃあ〜。それでもいいの?」
「全く……。主は浅はかだ。……本当に勇者なのか?考えが足りぬ。そうは思わぬか、ミラ殿」
「え、あ、はい。勇者様であるヒヅキ様が馬鹿なのはすでにわかってますよ?でも、それを支えるのが私達、パーティでしょう?」
「ミラは良い子にゃ。勇者であるヒヅキにはもったいない〜。お姉さんがよしよししてあげよう」
よしよし……ではなく、わしゃわしゃ頭を撫でられる。髪が乱れるが、嫌な気はしない。
「おい!さっきから俺のことを馬鹿にしすぎだろ?俺は馬鹿じゃねぇ!ただ、冒険が楽しみなだけだ!だって見ろ!この壮大な自然……俺の世界ではなかったんだ」
ヒヅキは声を荒げる。しかしその様子に慣れているのか、他のパテメンは気にしない。
ミラは手ぐしで髪を軽く直すと、こんな髪にした、自分より出るところが出ている立派なボディの持ち主である、ニコアに言う。
「ニコア、ヒヅキ様はおいといて、そろそろ準備に行きましょう?私達でしたほうがはやそうです」
「だねぇ〜。ヒヅキ君、ここが城から出て初めての場所だもんねぇ。頼んだら何するかわかんなくて危ないにゃ〜」
クスッと笑いながら言う。
勇者であるヒヅキは、この世界とは違う別の世界から来た異世界人だ。この世界は今、魔王率いる魔人におされていて、このままいけば負けるところまで追い込まれていた。
このまま負けるのは嫌だ。しかし、手がない……。そういうことでこの国の王族に代々伝わる召喚魔法を使用し、この国の勇者となれる存在ーー光坂緋月を呼びだしたのだ。
代償は術者の命。
ゆえにヒヅキが呼び出されると同時に、王は倒れた。しかし王の遺言により、勇者とともに魔王を滅ぼすためのパーティが組まれた。
王国一の武道家、ヒューズ・カーチェイス。
賢者と名高い、ニコア・マーリン。
そしてこの私、この国の巫女として生まれ、回復魔法に長けた、ミラ・ナチュール。
私達はヒヅキを支え、魔王を倒すのだ。
「なあ、ミラ。俺もついてっていいか?」
「いいですよ?ヒヅキ様、くれぐれも離れないでくださいね?この街は広いです。いくら探索魔法があると言っても、この街であなた1人を探すのには骨がおれますから」
「はいはい、わかってるよ」
ヒヅキはにっこりと笑う。私は不覚にもドキッとした。ヒヅキは正直、カッコイイ顔づくりだと思う。性格だって、明るくて、優しくて……。
「ん?だ、大丈夫か、ミラ!顔が赤いぞ?熱があるんじゃないのか?」
ヒヅキのことを考えて、少し顔が火照ってしまったようだ。いけない、いけない。
そんなこと思っていたら急にヒヅキの顔が近くなった。ミラのおでこに自分のおでこを当てているのだ。また、赤くなるのがわかる。
「う〜ん、熱はないみたいだな。よかった。体調、悪くなったら言えよ?無理しなくていいからな!」
「う、ん。ありがとうございます」
「青春にゃ〜?ミラ、頑張れ」
ニコアが耳もとでコソッと言う。
……恥ずかしい。
ニコアはヒューズのほうへと歩いて行く。
「私たち3人で食料や武具調達してくる。ヒューズは聞き込み頼むにゃ?魔人の動きを知りたい」
「うむ、了解した。ではまた夜な」
ヒューズは片手を上げ、手を振りながら去っていく。ヒューズの姿が見えなくなると、さてっと言って、ニコアが手を叩いた。
「ヒヅキ君の大好きな冒険の準備と行きますかにゃ?」
「お〜っ!やったぜ!」
「はい。まずは食料から行きましょう?」
なんとか元の赤さまで戻った。そのことに安心しながら、ヒヅキのおでこが触れた、自分のおでこをさわる。ほのかに温かく感じた。
「お〜い!はやく行くぞ、ミラ!」
「ミラ、遅いにゃ?置いてくぞ〜?」
「今、行きます!」
私はヒヅキとニコアの元へと走った。
今日はまだ、準備するだけだがこれから先、魔人と命のやり取りをするだろう。
私には攻撃する力がない。
巫女として生まれた私は、相手を癒す力は人並以上あると思っているけど、相手を傷つける力は全くない。
……だからこそ、私は選ばれたのだ。
勇者をサポートするヒーラーとして。
こっそりヒヅキを見る。
彼は街に目を奪われ、まるで小さい子供のようにはしゃいでいる。勇者らしくない。
しばらく歩いていくと、ニコアが食料買ってくるといって、わかれた。ニコアはわかれるときに、ミラ頑張れと耳元で囁いていった。
そういうわけで、今はヒヅキと一緒に、街の中を歩いている。
「おい、ミラ!あれはなんなんだ?」
「あれはですね、重力魔法の1つです。私よりニコアのほうが詳しいとは思いますけど、初級の簡単なものっぽいですね。ヒヅキ様も使えると思いますよ?」
「へぇ〜。この世界の国ではこんな身近に魔法があるのか〜。すごいなぁ……むっ!危ない!」
ヒヅキは急に道へと飛び出した。同時に、和やかな雰囲気が一瞬で消えた。
ヒヅキは道を走っていた5歳くらいの子をかばったのだ。その子はこの世界でいう、車に轢かれそうになっていた。
「ヒヅキ!」
私は思わず叫び、駆け寄る。
彼の体からは血が流れ出ていた。しかし、意識はハッキリしており、本人も大丈夫そうだった。
「おい、道に飛び出したら危ないぞ?今度から、気をつけていこうな?」
「あ、ありがとお兄ちゃん……」
「いいってことよ」
ヒヅキはその子の頭を撫でた。しばらくしてその子の母親がやってくる。
母親は何度もヒヅキに頭を下げ、その子の手をひいてさっていった。
「ミラ、ヘルプ〜。血が足りぬ!」
「はいはい」
私はヒヅキの体に手をかざす。
「ヒーリング」
私が唱えると瞬時に彼の体の傷が消え、治っていく。しばらくすると完全に傷はなくなり、血のあとも消えた。
「ありがとな、ミラ」
「全くです。いくら子供が轢かれそうになってたからといって、自分から飛び込んでどうするんですか?」
少し嫌味を入れて言ってみる。ヒヅキはしゅんと肩をおろした。ちょっと傷ついたかな?と思い、声をかける。
「まあ、あなたらしいとおもいましたよ?それでこそ、勇者ですね」
「ミラ!」
こんな単純で馬鹿とはいえ、私はずっと惹かれている。まだ、この旅は始まったばかりですが、これからも、よろしくお願いします。
私があなたを支えてみせましょう?
数年後……。勇者ヒヅキは魔王を倒し、人類に平和をもたらした。ヒヅキはその後、元の世界に帰るという選択肢もあったにもかかわらず、1人の巫女と結婚した。
そして時は流れ、勇者と巫女の子孫は冒険へと出るようになる。なんでも彼らは、2人のようになりたいらしい。こうして代々、彼らの子孫は新たな出会いを求め、旅立っていくのだった。