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6話 訓練所行きました

背中に痛みを感じながら目を開けると見たことのない天井だった。

だが、あえておれはそれには触れなかった。

なぜなら言ったら負けな気がしたからだ。

周りに目をやると皆こっちを見てるはずなのに、顔を向けた瞬間にその方角の人達は一斉に目を逸らす。

 なんだ?おれが何したって言うんだ!

 

昨晩、リョウと一緒の部屋にいた者はリョウが瞑想で練った魔力に中てられてかなり憔悴していた。

本人は楽しかったようだが、集めた魔力量が異常だったため周りにいた者達は戦々恐々としていたのだ。


おれは周りの態度に首を傾げながら鞄を持ち立ち上がった。

周りがビクッと反応する・・・ちょっと傷つく。

服装は昨日と変わらず、Yシャツ、スラックス、革靴、太いベルト、剣、黒い鞄という感じだ。

本当の意味で戦うサラリーマンスタイルだ。

今日は剣を抜いて素振りとかしたいな。

昨日は剣を抜く機会が1度もなかった。

さすがに街中で抜く訳にもいかなかったからだ。

 ギルドに訓練場とかないかな?できれば剣術なんかも習えると良いんだけど・・・

部屋を出てカウンターのおばちゃんの所に行き挨拶をする。

「おはようございます。」

「おはよう。こっちから中庭に行けば井戸があるよ。そこで顔でも洗っていきな。」

おばちゃんはカウンターの左にある扉を親指で指して勧めてくれた。

このまま出て行こうと思っていたが、せっかくなので井戸で洗顔とついでにうがいをすることにした。

起きたら顔を洗って歯を磨くのが習慣になっていたのでありがたかった。

歯ブラシがないから歯を磨くのは無理だがせめてうがいくらいはしたい。

中庭に通じる扉を開け出てみると中庭は四方を建物で囲まれて真中の位置に井戸があった。

 こっちは宿舎だから、あっちギルドかな?

冒険者の男が3人ほど井戸の周りにいて、桶に入れた水で顔を洗ったり濡らした布で身体を拭いたりしていた。

「おはようございます。」

「おはよう。」

2人はおれの方を一瞥してすぐ興味を失ったようだったが、1人だけ返事を返してくれた。

茶髪で20歳前後、身長はおれとほぼ同じ位だ。

革鎧を身に着け剣を腰に下げてるのでおそらく戦士系なのだろう。

「おれは終わったからこれ使ってくれ。」

「あ、ありがとうございます。」

木の桶をおれに手渡して男はおれが入ってきた扉とは違うギルド側の扉から建物中に入って行った。

 あそこからギルドに入れるのか。勝手に入って良いのかな?おばちゃんに聞いてみるか。

手早く顔を洗い、うがいをして宿舎に戻った。

「すいません。中庭からギルドに入って行った人がいたんですが大丈夫なんでしょうか?」

「ああ、平気だよ。あそこの井戸は共有なんだよ。ギルド側の扉は訓練所に繋がってるから、汗かいた冒険者達が使ったりするのさ。」

「訓練所があるんですか?おれも使ってみたいのですが勝手に入っても大丈夫でしょうか?」

「問題ないよ。なんなら今からでも行ってみてはどうだい?」

「そうなんですね。早速行ってみます。」

おれは再び中庭に出てギルド側のドアを開けてギルドに入る。

入った先は廊下になっており五メートルほど行くと両開きの扉あった。

目の前の扉は閉じていたが、10メートル先の同じ様な扉は開かれている様だった。

開いている扉の近くまで行き入口から覘き込んでみると、中では数人の冒険者が剣を振ったり、模擬戦したり、休んだり思い思いなことをしていた。

 自由に使って良さそうだな。じゃ、早速・・・

おれは人のいない端っこで柄に右手を当てゆっくりと握りこむと鞘から剣を慎重に抜き両手で握ると腕を伸ばして剣の全体を眺め次に手の位置を変え色々な角度で眺めてどんな剣なのか観察してみた。

どうやらギルさんがくれた剣はソードのようだ。

刀身は長さ90センチ、幅は7センチ程で、両刃の刃は切っ先から60センチ位までで残り30センチ位は刃がなかった。

柄は25センチ弱で両手で握り込めそうだ。

正眼に構えて切っ先細かくを動かしたり、左手を動かして変化する剣の軌道見ていく。

次に動きを確認するように正眼から真っ直ぐ剣を振り上げ真っ直ぐ降り下ろす。

何度も何度も素振りを繰り返していく。

 うわぁ・・・真っすぐ振るのも難しいもんなんだな。真っすぐ、真っすぐ、真っすぐ・・・

柄の持ち方、肘、腕の軌道などを変えつつ10分程素振りをすると安定し真っすぐ振れるようになった。

続いて右上から左下、左上から右下、右から左、左から右、右下から左上、左下から右上其々5分ほど振ると安定した刃筋になった。

 良く分からんが日本刀じゃないけどこんな感じで良いのかな?今度は突きだ、突き、つきぃーー!!

両手で突きを何度か放ち最後に右足を前に出し片手で突きを放つ。

片手で出した突きの格好のまま悦に入っていると、はっとして周りをそーっと見渡すが誰もこっちを見てなかった。

 良かった・・・。見られてたらちょっと恥ずかしかったな。

剣術を教えてくれそうな人は特に見当たらなかったので、1時間ほど素振りや足運びなど我流で適当に動いて今日の訓練はお終いにした。


訓練所を出て廊下を奥へ進んでみると、ギルドのカウンターなどがある場所に出た。

受付カウンターの右奥にあった通路と繋がっていたようだ。

真っすぐ進み依頼書のある壁を眺めてみるが一向に文字は読めてこない。

文字翻訳スキル的なものを取得したりはしてないようだ。

ギルド内を見回したがアルスはいないようだ。

どうしたものか考えたが、受付で良い依頼がないか聞いてみることにした。

「ミリーさん、おはようございます。」

「リョウ様おはようございます。」

丁度空いたミリーの前に行き話しかけ依頼を見繕ってもらった。

「ランクFのものでは・・・2つほど提案させて頂きます。商人ギルドの荷物運びの依頼がございます。報酬は銅貨4枚、ポイントは1になります。もう1つは―――」

「商人ギルドの荷物運びの依頼を受けます。手続きお願いします。」

ギルドカードを渡しながら受ける依頼をミリーに告げる。

「少々お待ちください。」

 1日で銅貨4枚なら少し生活に余裕が持てるな。そのうち個室のベッドで寝れるかも・・・


などとミリーが入力作業をしてる間にライフプランニングをする。

「お待たせしました。」

ミリーの声で妄想から覚めるとギルドカードを受け取り依頼の場所を聞いてカウンターを後にした。


途中で朝飯代わりに中央広場の屋台で何の肉かわからない串焼きを2本食べた。

鶏の様な肉質であっさりとした味だ。

塩焼きだったが、素材が良いのか美味しかった。

屋台の側に箱の中に使用済みの串がたくさん入っていたので、おれもそこに串を捨ててから依頼の場所に向かった。

商人ギルドはすぐそこだが、依頼の場所は裏にある倉庫のようだ。

商人ギルドがある大通りから横道に入って裏側に回るとそこにもギルド前の通りほどではないが大きな通りがあった。

大きな扉が開けられており倉庫では荷物の運搬がいつでも出来るようになっていた。

入口には警備のために冒険者が立っていた。

青みがかった髪で温和な顔をしいる細目の男だった。

「すいません。荷物運びの依頼をでしたんですが、責任者の方いらっしゃいますか?」

責任者に取り次いでもらおうと冒険者に声をかけた。

「お、待っていたぞ。こっちに担当者がいるから一緒に来な。」

「はい。お願いします。」

冒険者が倉庫の担当者であるコンタールさんの所に案内してくれた。

「冒険者のリョウです。よろしくお願いします。」

「商人ギルドの倉庫を担当しているコンタールだ。よろしく。いや~。そろそろ荷物の搬入と受け渡しが始まるから間に合って良かったよ。」

「ギルドで勧められて来たのですが、集合時間があったのですか?」

「いつもやってるやつが昨日怪我してしまったようで知ったのが今朝だったんだ。早急に代わりの者が必要だったから今朝依頼を出したんだがいつ来てくれるか分からなかくてな。9時の鐘が鳴ると搬入が始まるからすぐ忙しくなるぞ。」

「なるほど。精一杯やらせてもらいますので、よろしくお願いします。」

「おう。頑張ってくれよ。」

どこからか鐘の音が聞こえてきた。

すると続々と馬車が入って来た。

「リョウ!これを倉庫のあそこに運んで!」

「はい!」

「これはあっち!」

「はい!」

「ここからここまでは、あの馬車に乗せて!」

「はい!」

おれは言われた通りに荷物を運んで行く。

余計なことは考えない。

荷物を言われたところに運ぶ。

機械になれ。おれは作業用ロボットだ。

「ニモツ ハコブ コレ オレノシゴト」

「リョウ、大丈夫か?」

あまりの単純作業に口調が平たんになってしまった。

今は馬車の波が一旦止んで休憩中だ。

休憩に入る前に鐘がまた鳴った。

心配になったのか入口の細目冒険者コールが声を掛けてきた。

「あまりに単調な仕事を忙しくこなしたせいで感情が排除されてしまいました。」

「あはは・・・。確かに数が多かったな。」

どうやら今日はいつもより数が多いらしい。

 何か飲みものでも持ってくるんだったな。喉渇いた・・・

コールが腰から革袋を出して何か飲み始めるのをじーっと見ていると、居心地が悪くなったのか革袋をなげてよこした。

「リョウ、お前も飲めよ。」

「ありがとうございます。」

お礼を言って革袋・・・水筒かな?の中身をごくごくと遠慮をせずに飲む。

当然冷たくはないが、柑橘系の香りがして美味しかった。

「美味しかったです。喉渇いてたんで助かりました。」

「あんな顔で見られちゃ無視する訳にもいかんだろう。この果実水美味かっただろう?『アムル』って食堂で食事するとサービスで水筒に入れてくれるんだよ。まぁ、値段は張るがな。」

 他にも果実水もしくは、普通の水でも良いが水分は持ち歩いた方が良いな。まず、帰りに水筒を買おう。

休憩後も相変わらずの馬車の出入りで後半の仕事もロボットになって頑張った。

一心不乱にやっていると今日3度目の鐘が鳴った。

そうすると馬車がほとんど入ってこなくなった。

「リョウ!そろそろ終わりにしていいぞ。」

「あ、はい。これやったら終わりにします。」

運んでいた荷物に関連する物も運んでからコンタールさんのところに向かった。

「お疲れ。リョウが来てくれて助かった。並の冒険者だったら回らなかっただろうな。良かったら明日から一週間ほど依頼を受けてくれないか?リョウだったら銅貨6枚にするぞ。」

「え?ほんとですか?是非お願いします。」

「良かった。じゃぁ、ギルドには依頼出しておくから明日からギルドで依頼を受けてから来てくれ。9時の鐘の前にはこっちに来てくれよ。」

「はい。分かりました。明日からお願いします。」

一週間の依頼と完了証明証を貰って倉庫を後にした。


収入の確保ができてホクホク顔でギルドに入って行くとアルスがいた。

「やあ、リョウ。調子はどうかな?」

「なんとかやれてます。今荷物運びの依頼を終えてきたところなんです。」

「そうか。ランクFの依頼は順調にこなせてる様だね。」

「一週間ほど荷物運びの依頼貰ったのでしばらくは安定した収入がありそうです。」

「本当かい?よっぽど気に入られたんだね。初見で連続依頼を受けるのは並のことじゃないんだが・・・。」

アルスが驚き聞いてきた。

おれとしては普通に働いただけだが何故か高評価されてしまったという感じだった。

 仕事に対する態度が良かったかな?日本人は良くも悪くも真面目と言われるからな。しかし、考えてみるとこっちの世界に来てから身体能力が上がったような気がするな。今日の依頼も体力的には全くきつくなったし・・・。これも世界を移動した副作用的なものかな?チートというには微妙なものの様な気がするが暮らし易くなるならそれに越したことはないな。

「リョウ。一週間もすればここの生活も慣れるだろう。その依頼が終わったら討伐の依頼を一緒に受けに行かないか?」

「討伐ですか?是非お願いします。」

「じゃぁ、一週間後よろしくな。まぁ、ちょくちょくギルドで会うだろうから分からないことがあれば聞いてくれよ。」

アルスと別れカウンターで依頼の報酬の銅貨4枚を貰い、一週間の依頼の話を伝えるとここでも驚かれた。

「わかりました。依頼が後ほど来ると思いますので、明日の朝にまたカウンターにお寄りください。」

「分かりました。よろしくお願いします。」

その後は訓練所で朝と同じ素振りと足運びを一時間程やって今日の宿を探しに行った。




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