3話 登録しました
冒険者ギルドに入って辺りを見回すがあまり人がいないようだった。
数人こちらに視線を向けてこちらを観察して、数人はやはり憐れみの表情を浮かべる。
ギルドの中は左側には椅子やテーブルがあり酒や食事がとれるようになっているようだ。
右側は壁に沢山の紙が掲示されており、おそらくあれらが依頼書なのだろう。
正面にはL字型のカウンターがある。正面のカウンターには2人の受付嬢がいて、側面のカウンターは、1人受付嬢がいる。
おれは正面の受付嬢に近寄って行く。正面の受付嬢は二人とも身長は160センチ前後で、金髪でスレンダーな美人と、赤髪でショートカットの活発そうでかわいい子だ。
どちらの子でも良かったのだが、金髪の美人には数人並んでいたので誰も並んでいなかった赤髪の子に話しかけた。
「すみません。登録したいんですが。」
「はい。新規のご登録でよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします。」
「まずご登録には銀貨1枚頂いております。」
「お金がないのですが登録せずに仕事を斡旋して頂くことはできないでしょうか?」
「申し訳ありません。登録の無い方への斡旋は行っておりません。ですが、登録料が払えない方の救済のために登録料をお貸しすることができます。返済は依頼の報酬から10%~100%の間でお好きな割合でお返し頂けます。」
「そうなんですか?よかった。では、登録料はお借りする形でお願いします。」
「承りました。では、こちらにご記入をお願いします。」
一枚の紙を差し出してきた。紙にはおそらく名前や年齢、種族などを記入するのだろう。
しかし、おれはこっちの世界の読み書きが出来ないので唸っていると受付嬢が話しかけてきた。
「代筆致しましょうか?特別に承ります。」
「え?よろしいんですか?ありがとうございます。読み書きがまだできないのでどうしようかと思っていました。」
「本来は代筆してくれる方を探していただくのですが、色々大変でしょうからサービスさせて頂きます。」
何故かギルドの受付嬢にも憐れみを含んだ眼差しで見られた。
ここでもか。わけがわからん。おれの見た目に何かあるのだろうか?
「何故そこまでして頂けるのでしょうか?」
「貴方様の髪と目の色、変わった服を着られているということは、サンブックの難民ですよね?あの国の人々の境遇は大変だと聞いております。強く生きてください。」
「は、はい。ありがとうございます。」
なんか励まされたっぽいな。サンブックって国はなんかあって難民出して大変なことになってるのか。サンブックねぇ・・・太陽の本・・・お日様本・・・日・本・・・日本・・・なんて安直な。昔の勇者が作った国ってことかな?召喚勇者は日本人ってか?
「お名前と年齢を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「名前はリョウです。年齢は32歳です。」
「32歳・・・ですか。わかりました。」
受付嬢は驚いた顔をしながら紙に名前と年齢、あともう一か所何かを記入してから、一歩横に移動し四角い箱の前で人差し指何度も押しつけ何かをしている。
「何をなさってるんですか?」
おれは気になり話しかける。
「これは登録情報を入力・・・わかりにくいですかね。リョウ様の情報をこの魔道具で記録しているのです。」
「そ、そうなんですか。なんかすごいですね。」
「大変貴重な物で、遺跡から発掘されたものなんです。原理が完全に解明されていないので、量産ができないみたいです。」
発掘品はまるで現代のコンピューターだぁ~。実はすごい未来の地球だったりして・・・。ないか、魔道具ってくらいだから魔法で動いてそうだしな。ということは魔法もあるってことかな?
「お待たせ致しました。ギルドカードの発行まだ今しばらくお待ちください。これからギルドの説明をさせて頂いてよろしいですか?」
「はい。よろしくお願いします。」
「当ギルドは依頼者からの冒険者の方に依頼を斡旋させて頂いております。ギルドに加入された方にはランクがあり、通常Fランクから始まります。リョウ様もFランクになります。ランクは下からF、E、D、C、B、A、S、SSの8段階になります。次に右手をご覧いただくと紙が貼られているのがお分かりになると思います。依頼にもランクがあり上に上がるほど依頼達成が難しいものとなりまのでご自分の実力にあった依頼をされるのをお勧め致します。もし、依頼の達成に失敗致しますと報酬と同額の罰金が発生しますのでご注意ください。貼りだされる依頼はランクA~Fまでのものですが、ランクAのものは基本的に指名依頼がほとんどになります。ランクS、SSはすべて指名依頼です。依頼書には、ランク、依頼者の名前、依頼の内容、報酬、ポイントが書かれております。依頼を受ける場合は、あの中から選んで頂き受付までお持ちください。」
「ポイントとはなんでしょう?」
「依頼を完遂した時に依頼書に書かれているポイントが貯まります。報酬の他にもポイントを見て依頼を受けるかどうかを考えてみてください。ポイントが一定量貯まると加入員の方のランクが上がります。ランクDからはランクアップ試験がありますので、ご注意ください。」
ランクDからはギルドの選考があるってことか。そこまで時間がかかると思うからまだ気にすることもないだろう。
ウィーーン―バシュッ
さっきおれの情報を入力した魔道具からプリンターの様な音がしてから、何かを排出する様な音がした。
「リョウ様のギルドカードが出来上がりましたのでご確認ください。」
受付嬢はクレジットカードと同じ位のカードを渡してきた。
カードには名前:リョウ、ランク:F、年齢:32、最終受付場所:ガメヌと書かれているらしい。
「それではカードに魔力を注いでください。」
「魔力・・ですか?」
「はい。魔力を注ぐと、魔力をカードが記録します。記録した魔力を持つ人が触れた時にカードが反応して本人確認が出来るようになているのです。」
「魔力持っているか分からないのですが・・・」
「魔力を意識されたこと無いようなので戸惑うかもしれませんが魔力はどなたでも持っているものです。カードに魔力を送るイメージをしてみてください。」
おれの世界では魔力なんて持ってる人いないと思うんだけど・・・
おれは目をつむり、言われるままに手に持ったカードに体全体から魔力が流れて行くようにイメージする。
よくわからんが『気』みたいなものかな?おれの魔力よ!このカードに集まるのだ!
さらにイメージを強くし、気合を入れてカードに魔力を流し続ける。すると、身体の中から強い流れが腕を通ってカードに伝わり、次第にカードが震えだし―――
ボンッ
「痛っ!」
おれは突然の痛みと音でハッとして手元を見る。すると手元にカードは無く床で粉々になって散らばっていた。
「えっと・・・これは?」
受付嬢はもちろんギルド内居た全員がおれを唖然とした顔で見ていた。
どうしよう。なんかやらかした感が満載なんですけど・・・
周りが固まっている中で受付嬢がいち早く立ち直り説明してくれた。
「お、おそらく魔力をカードに込めすぎたのでしょう。魔力は少しで良かったのですが・・・」
「申し訳ありません。魔力を使ったことが無かったので、全力でやってしまいました。」
「こちらも、説明不足でした。新たにお作りしますので、少々お待ちください。」
カードの再発行のため、受付嬢は魔道具を操作し始める。すると今度はすぐにカードが、ウィーン、バシュッ、と音と共に出てきた。
「はい。こちらが新しいカードになります。魔力を少し流してください。くれぐれも、す・こ・しですよ。お気を付けください。」
おれは笑顔と裏腹な語気で話す受付嬢からカードを引きつった顔で受け取り。
「あ、ありがとうございます。次は気を付けます。」
おれは慎重にカードに魔力を注ぐことにする。どうやら本当に少しで良かったようだ。
注ぎ始めるとすぐに必要量が満たされたのを感じた。
「それで結構です。これで手続きは完了いたしました。分からないことがありましたら気軽にお聞き下さい。」
「ありがとうございました。何かありましたらよろしくお願いします。」
ふぅ~やっと終わったか。なんか疲れたな・・・。
登録だけでかなり疲れていたが、この世界のお金を持っていないので依頼を受けるべく依頼書の掲示されている壁に向かおうとした。
「おい。君。ちょっと待ちなさい。」
声をかけられ振り向くとそこには、金髪イケメンの男が立っていた。
「なんでしょうか?」
「初心者の君にぼくが色々教えてあげるから光栄に思いたまえ。」
金髪イケメンが親切にもおれを指導してくれるらしい。
「ありがとうございます。何も分からないし、文字も読めないので色々教えてください。」
おれは金髪イケメンを見下ろしながらお礼を言うのであった。
そう彼は背が・・・とても低いのだ。