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寡黙的少女  作者: カオリ
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02 自己紹介する少女

「入学式の時にも紹介があった通り、このクラスを受け持つ事になった山田敏行です。よろしく。それで早速だが、皆も一人一人自己紹介をお願いしたい。……じゃあ普通に出席番号一番から、伊勢谷大輝」


 三十代後半くらいの年齢の男性教師が優弦や大輝達の担任となり、オリエンテーションも兼ねているこの一時限目の時に皆へ自己紹介をするよう伝える。

 そしてあいうえお順となっている番号の一番、大輝から自己紹介となった。廊下側の一番前の席に座っている大輝は名前を呼ばれ、立ち上がる。


「はい! 伊勢谷大輝です。出身中学は東中、誕生日は8月8日、父、母、妹の4人家族。趣味はスポーツ。勉強は中の中くらいだと思います。皆と積極的に交流していきたいと思うので、よろしくお願いします」


 教室中を見渡しながらはきはきと元気よく言い、大輝は視線を教卓にいる教師に戻した。


「おお、いい挨拶だったな。皆もこんな感じで紹介していってくれ。じゃあ次、大場おおば――……」


 次々と生徒達が自己紹介をし、終わった者の安堵の表情やこれから待つ者の緊張した表情の数も逆転していく。

 そして人数的にも後半に入り幾人かが終わった後、優弦の番となった。一番後ろの席。

 皆は後ろを振り返ればいいだけなので顔を左右に動かさなくても良い、絶好の位置だ。


「――よし、ごくろうさん。次はー……蓮見優弦」


 優弦の名前が呼ばれ、クラスメイト達の視線が彼女に注がれる。

 教師が入ってくる前までじっと席に着いていた優弦は、大人しい人なのだろうと皆から思われている。彼女の整った容姿がまた他の者達にとって近寄り難いイメージとなり、中々話せなかったというのもあった。なのでやっと声や表情が分かる、そう思う生徒達。

 優弦は既に見てきた紹介の仕方にならい、同じように立ち上がった。


「…………蓮見優弦です………………」


 彼女が名前を言うであろう事はクラス中が分かっている事だ。

 肝心なのはその後なのだが、しかし……。


「………………」

「……?……?」

「………………」


 優弦は名乗るだけで、後が続かなかった。少し沈黙が続く教室内だったが、それがあまりにも長かったのでざわざわと話し声が出始める。

 担任教師も呆気に取られていた様子で優弦を見守っていたが、生徒の話し声でやっと金縛りが解けたような顔になった。


「ん? あー……蓮見、名前だけじゃなくてだな。他にも紹介する事があるんじゃないか? 例えばほら、生年月日とか家族構成とか。一番初めに伊勢谷が言ったような事を言えばいいんだぞ」


 かなり具体的なアドバイスをしたつもりの担任は、続いてやってくるであろう優弦の反応を待つ。

 しかし……。


「生年月日や家族構成は、関係が親しくなった人にだけ教えるようにと言われているので。個人情報に関してはこれ以上話す事はありません」


 ざわざわざわ。

 一斉に皆騒がしくなる。

 優弦の自己紹介を真剣に聞いていた大輝もとても驚いた顔になっており、後ろの席の男子から話し掛けられてもいまいち返事が薄かった。


「ん? あ、そうか。まぁ、いい。蓮見の事は皆個人的に聞くように。……えー、じゃあ蓮見の次、よろしく頼む」


 担任は、表面的にはかなり焦ってこの場を取り繕っているが、その顔には厄介そうなものが浮かんでいる。その気持ちは他の者も同じで、皆好奇な目で優弦の事を見ていた。

 教室中の視線を受けている優弦は、席に着き、黙って前を向いていた。

 あまり喜怒哀楽の感情は読めないが、心の中はかなり満足していた。


 ――名前もちゃんと言えたし、生年月日言えない理由も分かってくれたみたい……良かった。


 今の自分の自己紹介を、優弦はかなり好意的に終わったものだと確信しているようだった。

 その後オリエンテーションが終わると休み時間になり、真新しい教室の感じに慣れてきた生徒達も段々と気持ちにも余裕が出てきているよう。先程の自己紹介が互いの事を知るきっかけにもなったらしく、クラスメイト同士の会話も増えていった。

 しかし話の中心になるのは優弦の時のものだった。


「蓮見さんて、ちょっと変わってる?」

「それは違うでしょ。ちょっとじゃなくて、かなりっしょ」


 ボブカットの女の子の質問に、すぐ近くに座るセミロングの髪型の女の子がそう答える。

 やはり優弦の自己紹介は皆へのインパクト大だったようだ。


「美人過ぎて近寄り難い感じだけど変わり者って意味でも近寄りにくいね、あの子」


 セミロングの子が後ろの席に座っている優弦の方を気にしながら続けて言う。彼女の名前は木野美和。ちなみにボブカットの子は久下佳乃子といった。

 距離は離れているので彼女に聞こえる事はないだろう。

 切れ長の目も印象深い美和は明らかに優弦に対して苦手意識が漂っていた。


「うーん……でも悪い感じの人じゃなさそうだよ」

「そりゃあ悪い子じゃないだろうけどさ、取っ付きにくそうじゃん」

「そうかなぁ……」


 美和の反応とは全く逆で、佳乃子は優弦が気になる様子だった。


「佳乃子、アンタとは中学からの付き合いだけど、そのお節介な所なくし、あ、ちょっと……」


 友達の言葉を最後まで聞かずに、佳乃子は後方にいる優弦の元へと向かう。

 優弦は真っ直ぐ前を見ていた視線を近くに寄ってきた佳乃子へと逸らしていく。


「えー、と……初めまして。あの、久下佳乃子って言います。蓮見優弦ちゃん、だよね」

「…………はい」


 ――身長150センチ無いって言っていた人だ。


 優弦は返事をしながら、先程の自己紹介の事を思い出す。

 佳乃子はその身体的特徴を言った事で、見た目で強い印象を残していた。加えておっとりとした垂れ目気味の目元も覚え易さに拍車をかけている。


「優弦ちゃんって名前、女の子なのに珍しいね」

「…………」

「……かっこいいけど、でも蓮見さんの場合だと可愛いっていうか……」

「…………」

「…………」


 佳乃子が懸命に話すが、優弦からの返答はなく、そのまま沈黙が続いた。しかし優弦が無視しているように見えて、実際彼女の頭の中はフル回転している。


 ――あ、珍しい事について答えようと思ったのに、もう話が進んでしまった。……私の場合だとかっこいいというものから可愛いになる……。なんで? よく、分からない……。


「…………」

「…………」


 そのままやはり沈黙が続き、結局……。


「美和ちゃーん」


 佳乃子は友達に助けを求めるように優弦の元から離れ、友達の席へと帰って行った。


「ほら見なよ。アンタじゃあの子の扱いは無理」

「うう……話せると思ったんだけど。でも、ほんと……なんかね、美人過ぎてじっと見つめられるとこっちが緊張してきちゃって……はぁ……」


 頬が熱いのか、佳乃子は自分の両頬に手を当てながら溜息をつく。それを傍で見ながら美和も同じように息を吐き出し口を開いた。


「まぁ暫く様子見すれば? ……あ、私隣のクラス行っていい?」

「うん。私も行く」


 何か用事を思い出した美和が言うと、佳乃子も席を立ち上がった美和に続いて教室を出て行った。

 その彼女達がいなくなった後。

 美和の席の隣にいる西島隼人は本当はそこの席ではない場所に座っている友人に対して目を細めた。


「……お前のお気に入り、早速女子から敬遠されてるみたいだけど?」

「敬遠って何だよ。あれはさ、でも仕方ないよ。優弦ちゃんの美人度半端ないし」

「それだけが問題でも無さそうだけどな」


 美和だけでなく、隼人も優弦の性格に問題があるのだろうと感じている。いや、それはきっとその二人だけでなくクラス全員が優弦に対して思った第一印象だろう。

 美人だが一癖も二癖もある。そういう意味で優弦はかなり珍しい性格をしているとクラスメイトに受け止められているみたいだ。

 けれど、ここにいる快活な性格をしている大輝は少々クラスメイトの反応とは違う。

 百面相しながらうーんうーんと悩んでいる。


「何だよ唸って。……う○こか?」

「ちっげーし! ……優弦ちゃんにケー番聞いても平気かな?」

「知らね。別に平気じゃねーの?」

「……うん、よし!」


 適当なアドバイスをする隼人の言葉を聞き、大輝は何かを振り切った表情をして優弦の席へと向かって行った。

 そして暫くやり取りをした後、再び隼人の席に戻ってくる大輝。その手には自分の携帯電話が握られていた。


「お、ゲットした?」

「…………優弦ちゃん、家族にしか番号教えちゃいけないらしい。だから家電の番号を教えられた……」

「それって…………微妙だな」

「……いや、でも、これでいつでも優弦ちゃんの家に電話できるって事で、家族の人にも俺の事が浸透して、その流れで結婚を前提に付き合……」


 どこまでも暴走しそうな大輝の言葉に、隼人は思わずガクンと体をずらす。


「何でだよっ! どういう流れになったら付き合えんだ? 色んな過程飛ばし過ぎだろ」

「あ、やっぱ無理?」


 自分でもかなり無謀な考えだというのは感じていたようだ。大輝と隼人はその後も同じような会話を繰り広げていった。

 そんな彼等の様子を、席に着いている優弦はじっと見つめていた。

ポジティブシンキングな大輝です。

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