表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

大衆演劇台本

花見の仇討ち 【シナリオ形式】

作者: 嵯峨野 鷹也

「花見の仇討ち」   Ver.1.03


 予想上演時間:約80分


 [登場人物]


辰巳右馬之介:剣術と兵法を学んだ浪人。どこかに仕官してお千代と結婚をと企む。

富山六兵衛:右馬之介の浪人友達。右馬之介に剣を習っている。

酒井清衛門:出家した浪人。寝坊で酒好きの破戒僧。


茶屋の親父:桜の名所・飛鳥山で花見茶屋をいとなむ、お千代の父親。

お千代:飛鳥山の花見茶屋の看板娘。


千葉周一:剣士。北辰一刀流?

斎藤弥四郎:剣士。神道無念流?

桃井小春:男装の女流剣士。鏡心明智流?

 (?がついてるのは、時代考証が合わないため(汗))


外科若狭介:げしな・わかさのすけ、盤後藩(ばんごはん)五万石の家老で老人。

惟出尾張守:これいで・おわりのかみ、盤後藩藩主。決断力はあるが記憶力がない。

お方様:尾張守の側室。尾張守のボケにたいするツッコミ役。


和尚:清衛門の知り合いで、寺の住職だが破戒坊主。呑んべえ。


 ---以上、男9人/女3人---



第一場 盤後藩江戸屋敷

   尾張守、お方様。

   一段控えて家老の若狭介が登場。


若狭介「尾張守様にはご機嫌うるわしく…」

尾張守「よくきた、近うよれ、家来。」

若狭介「…あのう、尾張守様。」

尾張守「なんじゃ、家来。」

若狭介「・・・・・いいかげん、わたくしの名前、憶えてくださりませ。」

尾張守「お主の名前…なんじゃっけ?」

お方様「ご家老の、若狭殿にございます。」

尾張守「そうそう、そうじゃった。お主の名は『元気な若さですけべ』…もう若くない

 くせに生意気な名前じゃのう?」

若狭介「拙者の名前は『元気な若さですけべ』ではなく、『外科 若狭介(げしな・わか

 さのすけ)』、でございます。」

尾張守「そうかそうか、そうであった。しかしまぎらわしい名前じゃ。」

若狭介「お殿様ほどまぎらわしくはありません、『惟出 尾張守(これいで・おわりの

 かみ)』様。ところで、急なお呼びとの事。何用でございましょう。」

尾張守「ふむ。それよ。先日の武術試合の、わが藩士たち結果はどうじゃった?」

若狭介「いえ。それが…あまり思わしくありません。」

尾張守「と、いうと、どうだったのだ?」

若狭介「それが…全試合でございます。」

尾張守「おお、全試合、勝ったのか!」

若狭介「全試合、負けにございます。」

尾張守「な、な、な、なんと情けない~」

若狭介「わが盤後藩五万石、ご多分に漏れず経営の苦しさからリストラに邁進いたしま

 した結果、給与の割高な武芸自慢の藩士たちはほとんど全員が解雇となりまして。」

尾張守「困ったものよのう。一人くらい、武芸に通じた者も欲しいではないか。」

若狭介「孝行をしたいときには親は無し、香肴の食いたい時に胡瓜なし、でございます。

 まさに、備えあれば憂い無しと反対でございますな。」

尾張守「万が一にも、いざ鎌倉ということが起こったときに困るぞ、それでは。」

若狭介「では、武芸・兵法に通じた者を捜して、新たに雇ってみますか、尾張守様。」

尾張守「うむ、心がけておこうではないか。それはそれとして、家来。」

若狭介「あの…名前をお呼びくださいませ。」

尾張守「ええと…元気な、年寄り、すけべだっけ?」

お方様「ご家老の若狭殿にございます。」

尾張守「そうそう、元気な若さですけべ…老人のくせに。」

若狭介「外科若狭介でございます。」

尾張守「そうじゃった、そうじゃった。若狭介、このところ春めいてまいったのう。」

若狭介「御意にございます。」

尾張守「しもじもの者は、春になると花見と称して、野に出て楽しむそうじゃな。」

若狭介「御意にございます。」

尾張守「余も明日、野に出て花見をするぞ。」

若狭介「御意にござ…えっ! 明日でございますか!」

尾張守「うむ。明日じゃ。」

若狭介「それはまた急な。花見と言って、どちらへお出かけに?」

尾張守「江戸近辺の花見の名所など余は知らん。お主が即刻捜して来い。」

若狭介「し、しかしお殿様、明日花見となりますと、わが盤後藩五万石、格式を保つた

 めには今宵のうちから幔幕を張って、ご招待のお客様に案内の使者を送り、警護の

 人数を繰り出し、その手勢の弁当のしたくだけでも大変な事に…」

尾張守「そんな大袈裟にせんでよい。お主とわし、それにこやつ(お方様)だけでお忍び

 で行けばよい。」

若狭介「お、お忍びですか…」

尾張守「しもじもの者の花見の様子をこっそりと見ておくのも、国を治める者として

 よろしくあろうが? よいか、早急に、場所を決めるのじゃ。」

若狭介「ははーっ。御意にござります、尾張守様。」

尾張守「面白い花見のできる場所を選べよ、家来。」

若狭介「…できれば名前をお呼びくださいませ。」

尾張守「ええと…」

お方様「ご家老の…」

尾張守「過労で元気不足…?」

お方様「ご家老の若狭殿にございます。」

尾張守「そうそう、元気な若さですけべ…お主、いったい何歳になる?」

若狭介「…もう結構でございます。」



第二場 どぶ板長屋

   長屋に縁台を出して寝転がってる六兵衛。

   そこへ帰ってくる右馬之介。疲れており、縁台にどっかと腰を下ろす。


六兵衛「おかえり、右馬之介殿。首尾はいがが?」

右馬之介「だめだ、だめだ。やっぱり仕官の口などなかなかないわ。」

六兵衛「やっぱりねえ。春のさわやかな日は、仕官の口探しより昼寝に限る。」

右馬之介「兵法に曰く、三十六計いずれにも勝算なきときは戦うべからず。捜すだけ

 無駄だとはわかっておるのだが…ふぅ。」

六兵衛「こうなると、仕官より養子の話でも捜した方がいいかもな。」

右馬之介「それも、旗本の次男三男に先に取られてしまうよ。浪人にまで養子の話など

 廻って来んわい。」

六兵衛「しかし、拙者はともかく、お主ほど剣術や兵法をしっかり学んだ者ならば、

 仕官の口もありそうなものなのに…なあ、右馬之介殿。」

右馬之介「太平の世に剣術の腕前や兵法の素養があったとて、使い道は無いということ

 だろうな。」

六兵衛「たしかにそうだ…」

右馬之介「ほら、五万石の盤後藩惟出家などでも昨年、剣術達者や兵法名人の連中がそ

 ろってお暇を頂戴したばかりではないか。」

六兵衛「どこも人減らし中か…たまらん。とにかく、盤後藩五万石には売り込んでも

 無駄ということは憶えておこう。」

右馬之介「浪人にはなりたくないものよ。なあ、六兵衛。」

六兵衛「なりたくないと言って、なってしまったものはしかたあるまい。」

右馬之介「ほら、もうひとりなってしまった奴が来た。」


   僧侶姿の清衛門が登場。


清衛門「南~無~。(鉦を、ちーん) 右馬之介殿に六兵衛殿、これはこれはおそろい

 で。」

右馬之介「このとおり、浪人の苦しさに、侍として生きるのを諦めてしまう奴もいる。」

清衛門「よいものだぞー、み仏に仕えるのも…(ちーん)」

右馬之介「夜は遅くまで酒をかっくらい、昼は日が高くなるまで寝てる生臭坊主が何を

 言うか。それに拙者はまだ世を捨てる気にはならん。」

六兵衛「それはそうと、今日はどこへ托鉢に?」

清衛門「上野の方へ。そういえば、そろそろ向島の桜が満開になるという話じゃ。」

六右衛門「花見の季節か。」

右馬之介「花見などする余裕のある奴がうらやましいわ。こちとら、明日食う飯もある

 かないかだというのに。」

六兵衛「右に同じく。」

清衛門「食い扶持を侍稼業に限るからそういうことになる。」

六右衛門「今更、百姓町人、ましてや乞食坊主に落ちぶれてたまるか。」

右馬之介「まあまあ…あっ、お千代殿だっ!(慌てて着物や髪を整える)」


   茶屋の親父とお千代がやってくる。


清衛門「親父さん、お千代殿、おかえり~(ちーん)」

親父「(鉦をちょっと嫌そうに清衛門を見てから)右馬之介様、六兵衛様、清衛門様。

 けっこうなお晩で。」

右馬之介「今、花の話をしていたんだ。飛鳥山もそろそろ咲いてるであろう?」

親父「へえ、さようで。2~3日のうちには桜の満開となりましょう。」

右馬之介「ほう。花見茶屋はかきいれ時だな。儲かってるか?」

親父「それが…そうでも無えんで。」

   疑問顔の一同。

親父「今年は、向島の桜がことのほか見事だという話で…それで、飛鳥山の方は去年よ

 り客足が少ない様子なんでさ。」

六兵衛「ふうん…あっちもこっちも不景気な話だ。」

お千代「せめて、もう少し花見客が来てくれればいいんですけどねえ。」

右馬之介「うーん…こればっかりは、お客様次第だからな。」

親父「お侍様、お得意の兵法でなんとか、お客様を呼ぶ策を練っていただけませんもの

 でしょうか。」

右馬之介「馬鹿言うな。兵法は商いの道とは違うぞ。」

親父「そういうものですか。」

お千代「お父さま、無理言ってはだめよ。お武家様方にも、できることとできない事が

 おありでしょうに。」

親父「そうだな…何か考えてもらって儲かったならば、お礼の酒手をはずもうかと思っ

 たんだが…」

右馬之介「(慌てて)い、いや…できないこともないぞ、うん。」

親父「え…」

お千代「(嬉しそうに) 何か、考えがおありですか?」

右馬之介「うむ。飛鳥山に花見客を呼ぶ策、ないこともない。」

親父「それはいったい、どのような?」

右馬之介「兵法に曰く、敵を欺くにはまず味方から、策は秘するを以ってよしとする。

 そうそう策を漏らす事などできぬ。」

   一同、疑いの目。

右馬之介「(ごまかすように) とにかく、拙者に考えがあるから、任せておいてもらお

 うか。2~3日後の満開のときには、飛鳥山に花見客がごった返すであろうぞ。」

親父「では、お任せしてよろしいので?」

右馬之介「うむ。酒手の用意はしておけよ。」

親父「ええ、儲かりましたらたっぷり出させて頂きます。それでは、よろしくお願い

 いたします。」

お千代「右馬之介様、頼りにしています。」

右馬之介「わはははは、どんどん頼りなさい。」


   親父とお千代、帰って行く。


清衛門「お千代殿の前だと格好つけるな、お主は。」

右馬之介「ほっとけ。」

六兵衛「なるほど。仕官を焦る理由がわかった。」

右馬之介「な、何がわかったんだ?」

六兵衛「禄を得たらお千代殿を嫁にでも迎えようという魂胆だろう?」

右馬之介「うぐぅ…」

六兵衛「どうやら図星か。」

清衛門「それはそれとして、飛鳥山を花見客でいっぱいにする策って、どんな手がある

 んだ?」

右馬之介「うむ…何か手はないか?」

六兵衛「おいおい、何も考えてないのか! それであんなに自信ありげなことを!?」

右馬之介「酒手、と聞いてつい…」

清衛門「貧乏浪人にはなりたくないものよ。南無う…(ちーん)」

右馬之介「とにかく何か考えよう。お主たちも智慧を貸してくれ。」

六兵衛「うーん…」

清衛門「なにかないかな…」

右馬之介「うーん…あ! こんなのはどうだろう。以前、練った策だが…」

六兵衛「どんな策だ?」

右馬之介「まず、でっかい湯飲みを持ち、空の酒樽を担いで飛鳥山に行く。」

清衛門「空の酒樽?」

右馬之介「花見に行けば必ず酔っ払いがいるだろ? そこで自分も酔っ払いのふりをし

 て、ふーらふら、ふーらふら、と歩く。」

六兵衛「なるほど、そして?」

清衛門「他の酔っ払いを見つけたら、『よぉ~、兄弟、一杯いこうか!』と湯飲みをつ

 きつける。あっちも楽しく飲んでるんだ、『てめえみてえな兄弟を持った憶えはねえ』

 なんて野暮な事は言わない、必ず『よう、兄弟、貰おうじゃないか!』と返事してく

 る。」

清衛門「ふむ、それで?」

右馬之介「まずは相手に湯飲みを渡す。そんでもって樽を…。」

六兵衛「樽は空っぽなんだろ?」

右馬之介「そうさ。『おっとぉ…みんな呑んじまった、おつもりだ。酒が終っちまった

 よ。勘弁してくれ、兄弟。』そうすると向こうは『おう、酒ならこっちにもあらあ、

 これで一緒にやろうぜ、兄弟!』と。」

清衛門「そうすると?」

右馬之介「んででっかい湯飲みでやったりとったりして、たっぷり飲んだところで『じゃ

 あ兄弟、また会おうな!』とサヨウナラ。んで、また別の酔っ払いを見つけて『よぉ

 ~、兄弟、一杯いこうか!』…これを繰り返すと、自分で用意しなくてもいくらでも

 酒が呑める。兵法に曰く、食糧は自ら運ぶより敵から奪うを上となすっ! とある、

 見事な計略だろ。これぞ『諸葛孔明・空城(からしろ)の計』ならぬ、『辰巳右馬之介・

 空樽(からだる)の計』!」

六兵衛「空樽の計・・・・」

清衛門「・・・・・(呆れて、ちーん)」

六兵衛「確かに、見事な兵法だ、右馬之介殿。諸葛孔明も楠木正成も竹中半兵衛も、

 ナポレオンもジュリアス=シーザーも、かの孫子でさえも、驚きのあまり屁をこいて

 泣きながら謝ってくるかもしれん。…だが、それは客を呼ぶ策じゃなくてタダ酒を

 呑む策だ。」

右馬之介「はっ! そうか…迂闊であった、無念ーっ!」

清衛門「お主の兵法も、存外、頼りにならんのう。うむ。ここは拙者がいい手を考えた

 ぞ。これなら江戸八百八町の評判になり、お客がどっと押し寄せるじゃろう。」

六兵衛「どんな手だ?」

清衛門「今すぐ縄を用意して、それで明日、少し早く飛鳥山に行く。(ちーん)」

右馬之介「縄を?」

清衛門「そう。そうしたら、見事な桜の枝をみつけ、縄をこう、枝に引っかけてじゃ

 な。」

右馬之介「桜の枝に引っかけて?」

清衛門「それで、我々が並んで首吊っちゃう。(ちーん)」

六兵衛「死ぬじゃないか!」

清衛門「そうよ! 誰も見たことが無い、人間の縄のれんじゃ。珍しいじゃろ?」

六兵衛「た、たしかに珍しいけど。」

清衛門「噂になるわい、これなら。一目見ようと、みんなが押し寄せる。」

右馬之介「そりゃあ、噂にはなるだろうけど。」

清衛門「死をかけて噂を作り客引きをした、命懸けの客引きだ、客引きの鏡だ偉い奴だ、

 こんなすごい奴は滅多にいないぞって話になって、感激した町民たちが、あの連中を

 祭りの山車にしようってことになる。」

六兵衛「なんで祭りの山車になるんだ?」

右馬之介「『お目出たいやつら』だからじゃないか?」

清衛門「まあとにかくだね、毎年花見の季節にゃその山車が江戸中を練り歩き、我々は

 後世に名前が残り、飛鳥山は毎年大にぎわい、って寸法だ。山車は真ん中が満開の桜。

 そこに我々三人の人形がぶらさがり…」

六兵衛「ぶらさがる? 乗っかるんじゃなくて?」

清衛門「さよう。枝ににこう、目を見開き舌をぺろんと出した三人が並んで首吊って、

 山車が揺れるたんびに、ぶーらぶら、ぶーらぶら…(ちーん)」

右馬之介「やめろ、気色悪い!」

六兵衛「右馬之介も清衛門も、そんな愚劣な策しか思い付かんのか…」

右馬之介「俺は清衛門みたいな愚劣なことは言ってないぞ。」

六兵衛「どっちもどっちだ。」

清衛門「そんなこと言って、お主はどうなんだ、六兵衛。何か考えがあるか?」

六兵衛「うーむ…そうだ、ひとつ思い付いた。お主たちのよりはずっとマシだ。」

右馬之介「どんなんだ?」

六兵衛「仇討ちの果たし合いを飛鳥山でやるんだ。これなら見物がどっと集まるんじゃ

 ないか?」

右馬之介「仇討ちの果たし合いか…」

清衛門「六兵衛、お主、歴史の勉強をあまりしてないな。ある統計によれば、江戸時代

 を通して仇討ちの達成確率は0.6%程度っていうんだぞ。だから、幸運にも仇討ちに

 成功した、荒木又右衛門とか赤穂浪士とか清水の次郎長とかが有名になったんだ。

 そんなに都合よく仇討ちができるもんかい。」

六兵衛「いやいや、本物の仇討ちではない。右馬之介が仇人、拙者が討ち人で、果たし

 合いのふりをするだけだ。どうだろう?」

右馬之介「ヤラセか!」

六兵衛「明日、浅草かどこかの盛り場で二人が偶然出会ったふりをして、名乗りをあげ

 る。で、果たし合いの場所を翌日午の刻・飛鳥山と決める。そうすれば、物見高い

 江戸の衆だ、午の刻の飛鳥山は押すな押すなの賑わいになるんじゃないか。」

右馬之介「なるほど、たしかに!」

清衛門「しかし、なんでその場で勝負しないんだ、ってことにならないか?」

右馬之介「そこはそれ、『ただいま主君の命令でお使いの途中なれば、ここで討たれて

 は主君に不忠、ここは主命を果たしてから明日あらためての勝負を所望。ええい、

 この辰巳右馬之介、逃げも隠れもせんわ!』…とかなんとか。」

清衛門「じゃ、それはいいとして、果たし合いの方はどうする? 右馬之介、お主やっ

 ぱり斬られて死ぬのか?」

右馬之介「酒手も貰わねえ、お千代殿と祝言も挙げてねえ前に死んでたまるか! いい

 か、拙者と六兵衛の勝負が始まるだろ。♪ちゃんちゃんばらばら砂ぼこり、斬られて

 血が出てターラターラ、戦い今やたけなわの…というところに、清衛門、おぬしが来

 るわけだ。」

六兵衛「まだ死んでないなら坊主に用事は無いだろう。」

右馬之介「馬鹿っ、仲裁だよ仲裁! 『御両所、待ちなされ! 仏の教えに、汝の敵を

 愛せとあります』とか何とか言って、仲裁するわけ。」

清衛門「その文句は宗教が違うような気が…」

右馬之介「いいんだよ、なんでも。とにかく『大平の御代にいささかのことで恨みつら

 みを並べ、この雑踏で斬り合うのも諸人の迷惑。ここは拙僧にお任せあれ、仲直りの

 印にほれそこの、花見茶屋にて、あ、一献、差し上げましょう~!』とか何とか言っ

 て、仲裁するんだ。そこで拙者と六兵衛は刀を納め、たーん、と見得を切って、六法

 に飛んで花見茶屋へ飛び込む。今まで仇討ちだなんだと騒いでた2人が仲良く酒盛り

 始めるんだ、見物の衆も『なるほど、これは花見の余興、花見茶屋の提供だったのか、

 粋な事をしやがる』と、やんややんやの大喝采。我々は有名人になり、お客が押しか

 けて花見茶屋もたいへんに儲かる…と言うわけだ。」

六兵衛「うーん、そこまでは考えてなかった。しかしなるほど、それなら上手くいき

 そうだな。」

右馬之介「しかも飲み食いは必要経費で、花見茶屋のおごりってこと。これぞ兵法に

 曰く『一石二鳥の計』!」

六兵衛「さ、さすが右馬之介殿、見事な兵法だ!」

右馬之介「ふふふ、拙者が本気になればこんなもんよ。よし、決まった。明日、浅草へ

 行って、さっそく取り掛かろうではないか。」

清衛門「よし、それでは明日に備えて早く寝よう。わしは寝坊じゃから、遅れないよう

 にしないとな。おやすみ。」

   清衛門、退場。

六兵衛「我々は殺陣の練習をしておこう。」

右馬之介「やっておくか。兵法に曰く、何事も練習しだい、というからな。」

六兵衛「それでは、ひとつ指南を頼む。」


   右馬之介と六兵衛、1・1、2・2、3・3…と、交互に動いて、約束の

   確認を始める。

   (*二人同時ではなく、Aが斬る動きをする間はBは動かず、Aが寸止めで

   止まってからBがそれを受ける動きをしてまた寸止めまたは構えまで、

   Bが止まってからAが…と繰り返します。いろいろ派手な、芝居がかった

   動きを見せますが、ここで確認された手順がそのままラス太刀で登場しま

   すから、印象づけるように2~3度繰り返してください。)



第三場 浅草

   雷門。

   六兵衛がぼーーーっ、と立っている。

   前を通過していく人々。外科若狭介/千葉周一/斎藤弥四郎/桃井春美/和尚

   など。(可能ならもっと大勢)

   幕の袖から清衛門が顔だけ出して、六兵衛に合図。

   六兵衛からOKの合図。

   清衛門が引っ込むと、袴を履いた右馬之介が登場。

   六兵衛の前を通りすぎようとすると

六兵衛「お待ちあれ!」

   右馬之介、立ち止まる。

六兵衛「『卒爾ながらお尋ね申すが、そこもと、名を辰巳右馬之介殿と申す御仁では

 ないか?』」

右馬之介「『いかにも、拙者、辰巳右馬之介と申すが。お主は?』」

六兵衛「『(大音声)やあやあ、盲亀に浮木、優曇華の花!』」

   何事だ、と人々が立ち止まって見物。

六兵衛「『やあめずらしや親の仇の大悪人、辰巳右馬之介、我が名は富山六兵衛、汝に

 めぐり会うため艱難辛苦幾星霜、雨にうたれ風に晒され一日千秋の思いをなし、

 訪ね訪ねし甲斐あって、ここに出会いたるは盲亀に浮木・優曇華の花、いざ尋常に

 勝負、勝負~!』」

   周囲の見物衆、わけもわからず思わず拍手。

右馬之介「『なに、親の仇! すると貴様、あやつの息子…』(擦り寄って) 待て、

 我々は同い年ではなかったか?」

六兵衛「しまった、やり直しだ。では…『やあめずらしや兄の仇の大悪人、辰巳右馬之

 介、我が名は富山六兵衛、汝にめぐり会うため艱難辛苦いかばかり、雨にうたれ風に

 晒され一日千秋の思いをなし、訪ね訪ねし甲斐あって、ここに出会いたるは盲亀に

 浮木・優曇華の花、いざ尋常に勝負~!』」

右馬之介「『なに、兄の仇! すると貴様、あやつの弟か! …武道の遺恨やみがたく、

 汝の兄を討ち果たしたるはまさに我に相違なし。仇呼ばわりとは片腹痛い、いざ返り

 討ちにいたして、あ、くれん~!』」

   周囲の見物衆、思わず拍手。

六兵衛「『ここで会ったが百年目、いで恨みを、あ、晴らさでおくべきや~。あ、兄の

 かた~き~!』」

   周囲の見物衆、思わず拍手。

   一呼吸置いて、

右馬之介「『おっと、しばらく! しばらく!』」

六兵衛「『なにごと、さては臆したか!』」

右馬之介「『富山六兵衛殿、貴殿との勝負、やぶさかではない。が、思い出したのだが、

 ただいま拙者は主君の命によるお使いの途中。千に一つや万が一、ここで討ち果たさ

 れでもしたら、主命を果たさず私事に死ぬ事となり、不忠のそしりは逃れられぬ。

 ここは期日をあらためて、明日勝負することを所望いたす。』」

六兵衛「『よかろう。しかし、よもや逃げたりはすまいな!』」

右馬之介「『やせてもかれても盤後藩藩士・辰巳右馬之介、挑まれて逃げたりはせんわ!

 では刻限と場所を決めて頂こう。』」

六兵衛「『では、明日、刻限は午の刻。』」

右馬之介「『明日、刻限は午の刻!』」

六兵衛「『場所は飛鳥山、花見茶屋の前!』」

右馬之介「『飛鳥山、花見茶屋の前だな! しかと憶えておくぞ!』」

六兵衛「(刀を納めて)『では、明日!』」

右馬之介「『では明日、刻限は(周囲によく聞かすように)午の刻・午の刻・午の刻!

 場所は飛鳥山・飛鳥山・飛鳥山! 本日はこれにて御免!』」

   足早に立ち去る右馬之介。

   見送る六兵衛。


若狭介「盤後藩藩士と言ったが…あんな奴、うちの藩におったかなあ?」

   若狭、首をかしげながら去って行く。


   六兵衛に話しかける千葉・斎藤・桃井の三剣士。


斎藤「お兄上の仇討ちでござるか、近頃、天晴れですな! のう、桃井殿。」

六兵衛「あ、どうも、どうも。」

桃井「みごと本懐を遂げられるよう、祈念いたしましょうぞ。千葉氏。」

六兵衛「どうも、どうも。」

千葉「まったく、神明の加護もあらんことを。斎藤氏。」

六兵衛「どうも」

斎藤「いやいや、祈念だけでは足りない。どうであろう、千葉氏。明日、我々も飛鳥山

 へ赴こうではないか。」

千葉「妙案ですな。見事仇を討ち果たさんところを、我々も立ち会いましょうぞ。なあ、

 桃井殿」

桃井「富山六兵衛氏、明日はお気張りなされませ。」

六兵衛「ど、どうも。(ちょっと焦り気味)」

桃井「では参りましょうか。明日が楽しみですな、斎藤氏!」


   楽しそうに談笑しながら立ち去る三剣士。

   六兵衛も引き上げるが、袖ぎわで清衛門と出会う。


清衛門「うまくいったな! 明日の午の刻、飛鳥山の花見茶屋で仇討ちがあるって、

 もはや江戸中がその噂で持ちきりじゃ。」

六兵衛「これで花見茶屋は大儲け、酒手もたっぷり貰えるってわけだ。」

清衛門「それじゃわしは、明日、寝坊しないよう、今日のうちに、飛鳥山に近い、知り

 合いの寺に行って泊まってよう。王子村の手前にいいところがある。」

六兵衛「そうだな、そうしてくれ。果たし合いが始まっても清衛門殿が来なかったら、

 大変な事になるからな。」


   退場。



第四場 王子村あたりの寺

   寺の本堂。火鉢があり、やかんが出てる。

   和尚と清衛門が入って来る。


和尚「いや~、久しぶりだな。ゆっくりしていきなされ。」

清衛門「いやいや、ゆっくりしたいのは山々なんじゃが、明日は昼には出ないとな…」

和尚「まあまあ…そうだ、今日、檀家から、上方の酒が届いてな。」

清衛門「なに、下り酒がある!」

和尚「どんなもんかちょっとだけ舐めてみたんだが、これがもう、たーまらん味で。」

清衛門「う、うぉぉぉ、おお。」

和尚「呑みたくってたまらないが、夜までは我慢しようと思ってたんじゃ。」

清衛門「がーーーーっ!」

和尚「まあ一人で呑むのも味気ない。ということで、ここはお前さんと味見しようと

 思うのじゃが、いかが?」

清衛門「も、もちろんご相伴つかまつるわいっ!」

和尚「では、さっそく出してこよう。」


   和尚、引っ込む。

   清衛門、わくわく。

   和尚、樽と湯飲みを持ってくる。

   待ってましたと手を叩く清衛門。

   床に樽と湯飲みを置く。


和尚「友達は大勢おるが、いい酒を一緒に飲みたい人は誰を置いてもお前さんじゃな。」

清衛門「へへへへっ、ありがてえ。」

和尚「しかし火がこれじゃしょうがないな…お燗なんてものは、さっと浸けてひょっと

 いかないと…向こうに炭俵があるから、みっつよっつ持ってきて入れてくれ。」

清衛門「よしきた」

   立ち上がって大急ぎで炭を持ってきて火鉢にくべ、火をおこす。

清衛門「ほいきた」

和尚「よしよし、火がおきてきたら、やかんをのっけて、後でぐらぐらっときたところ

 でお燗じゃ。」

清衛門「よしきた」

   やかんの水をたしかめて火鉢にのせ、内輪で軽く仰ぐ。

清衛門「ほいきた」

和尚「肴は何にもいらないけれど、何かないと形がつかんな…三丁目の角の魚屋まで行っ

 てきてはくれまいか。なんでもいいんだ、お前さんにまかせるから。」

清衛門「よしきた!」

   ダッシュで飛び出し、皿を持ってダッシュで戻ってくる。

清衛門「ほいきた。刺身があったぞ。」

和尚「刺身。こりゃけっこうじゃねえ。しかもこりゃ、中トロじゃないか。これがあれ

 ばぐうとも言わんぞい。しかし刺身があって結構だけど、ちょいと箸休めも欲しいね

 え。香肴があるといいんだけども。台所の三昧板をちょいと開けるとそこにある桶か

 ら、ちょいとお香肴を出して切ってきてくれまいか。」

清衛門「よしきた!」

   飛び出して、皿を持って飛び込んでくる。

清衛門「ほいきた」

和尚「おお、いいねえこの切り口。清さん、手が器用じゃね。わしと来た日にゃ、口は

 八丁・手は一丁ってとこで。文句は一人前に言うが、手はぶきっちょで駄目だ。いや

 ありがとありがと。お刺身とお香肴があれば言う事ねえや。」

清衛門「これでいいのかい?」

和尚「おうさ。わしはね、ちびちびちびちび舐めるのなんざ飲んだ気がしないから、やっ

 ぱり大きいのでぐいーっといきたいね。(大きい湯飲みを取る) おおそうだ、徳利、

 徳利。台所の戸棚の中にあるから3つ4つもってきてくれ。」

清衛門「よしきた!」

   飛び出して、徳利を掴んで飛び込んでくる。

清衛門「ほいきた」

和尚「それは一合づつ入るんだ。貴重な酒だからな、こぼさないように大事に注いでく

 れよ。」

清衛門「おとととと…(徳利に注ぐ)」

和尚「そしたら、それはやかんに放り込んどいてくれ。え? へへへ…んで、どうだい、

 お澗は?」

清衛門「まだぬるいじゃろ」

和尚「ぬるくても何でもいいや、ひとつこっちに出してくれ。もう、とても我慢しきれ

 んわい。(手酌で注いで) へへへへっ、見なよ、これ。いい色してやがる。酒を注い

 で、真ん中がこうぐうっと持ちあがっとるだろ。これだからね。悪い酒ってのは注い

 だって平らだ。いい酒ってのはこう、真ん中がむくむくっと持ちあがってくるからね、

 うん。う~ん、香りといい、なんともいえねえな、こりゃ。(ごくっ、ごくっ、ご

 くっ)」

清衛門「へへへっ…美味そうだな。え、おい? 美味いかい? ねえ、おい、美味いか

 い?」

和尚「(ごくっ、ごくっ、ごくっ)…ぶあーっ! ぶるぶるぶる! 美味いっ! ふぁっ、

 美味い! 美味い! たまらんね、こりゃ! はあ、どうも…すーっとこのお酒がお

 通りになってく時なんてのはこう、気が遠くなりそうだ。…しかしお前ね。人が

 気持ちよく呑んでるときに、側で美味いかい美味いかいってね、ああいうこと言っちゃ

 いけないよ。犬なら食いつかれるよ、おい。こっちはもう、すぃーーーっ、といい

 心持ちになってるんだから…おおう、徳利をこっちへ出してくれ。」

清衛門「今度はいくらかお燗がいいだろ。」

和尚「ああどうもありがと。…後へまたつけといてくれ、頼むよ?」

   和尚、喋りながら手酌でどんどん飲んでいく。

   清衛門、ぜんぜん飲めずにお燗し続ける。

和尚「いい酒だねえー、どうも。んーん。べとべと、べとべとしてやが…」

清衛門「へへへ、そろそろこっちへも、ひとつお願いしま…」

和尚「(無視)いい酒ったって、わしはね、これを貰ったとたんにそう思ったよ。天性の

 勘って奴じゃ。いや、友達は一杯おるけれど、こういういい酒はやっぱり清さんと

 呑みたいわい!」

清衛門「へへへへっ、そう言ってもらえると嬉しいねえ。何しろ、頭剃っちまってから、

 こいつは御法度だから、なかなか…」

和尚「しかし、好きなものを我慢して呑まないってのは体に毒じゃよ。やっぱりね、呑

 みたいなっと思ったときには呑まなくちゃいかん。自然のままが一番というのが仏の

 教え…(ごくっ、ごくっ、ごくっ) …うーん、呑んだときがよくって、呑み心がよくっ

 て、これまた醒め際がいいんだから、いい酒じゃね。こういうお酒がいただけるなん

 てたまらないね。そこへいくと悪い酒なんか飲んだ日にゃ、呑んだときが不味くって、

 酔えば頭がビンビンしてきゃあがって、醒め際がまたいやな心持ち。へへへっ、でも

 酒飲みってのは変なもんだね。悪い酒しかないと、こんなひどい物は飲めたもんじゃ

 ねえとか何とか文句言いながら、じゃよすかと思ったらやっぱり呑んじまうんだから

 ね。酒飲みは意地が汚いって言うけど、まったくだよ。(ごくっ、ごくっ、ごくっ)…

 ふあーっ、今度は味が少しわかった。すーっと行くときはね、やっぱり二杯目から味

 が…おおっと、徳利をこっちへかしてくれ。おお、今度はいいお燗だ、ありがと、あ

 りがと。」

清衛門「あ、あの…(物欲しそうに)」

和尚「(ろれつが妖しくなってくる)んーん、いい酒だねえ。こいつを貰ったときに思っ

 たよ。こりゃあ、一人で呑んでは勿体ない。友達はいっぱいあるけどね、嫌な野郎と

 差し向かいで呑んだって美味くねえやな。そこへ行くと、気の合った同士ってのがやっ

 ぱりいいね。生きてるってのはありがたいことだよ、こういうお酒がのめるんだから。

 (ごくっ、ごくっ、ごくっ)」

清衛門「あっ、あっ、あっ…」

和尚「ぷはーっ、たまらんねえ。いや、こないだね、法事の帰りに真っ暗な中で酔っ払っ

 て寝てる坊主がいたんだ。で、そいつに一生懸命、おい起きろ起きろって言ってる

 別の坊主がいる。見たとこ友達でもなさそうなんで、おいあんたはなんでそいつを

 起してるんだ、友達なのかいって聞いたら、いえ知らない野郎です、ってえんだ。

 知り合いでもない奴をなんでそんなに一生懸命起してるんだって聞いたら、今時こん

 なに酔っ払うほど、どこのうちで坊主に酒を飲ましてくれるんだろう、こいつに聞い

 てわしもその家で法事をしたいから起してるんだ、と来やがった。ははは、どだい、

 酒飲みなんてのは罪が無いね。出家したって、こればっかりは…(ごきゅっ、

 ごきゅっ、ごきゅっ)」

清衛門「あう、あう、あう…」

和尚「ふぁー。いやあ、ありがたいね。こんないい酒が呑めるなんて。いい酒を飲むと

 七十五日長生きするなんて言うけれど、こりゃ3年くらい長生き…おっと、お燗でき

 たね、徳利よこしてくれ。」

清衛門「あ、あ、あ…」

和尚「(ごくっ、ごくっ、ごくっ)…ぷぁっ。あ、そうだ。おしゃべりしてて、刺身食う

 の忘れちゃった。あ、そこのお小皿にね、おしたじ、醤油ちょっと入れてくれ…あ、

 どうもどうも。刺身なんてのはいいもんだね。あそこの三丁目の魚屋は感心だよ。あ

 そこの親父はね、因業だけどね、少し高いね、なんて言うと、ああ高えと思うならう

 ちの魚ァ食ってもらいたくねえ、なんて憎まれ口を叩きやがる。でもね、いまだにこ

 のね、本場のワサビを使ってやがる。これがいいじゃないか。ワサビは辛きゃいいっ

 てもんじゃない、これはやっぱり本場のワサビで…(食って)…うん…おっ、あーっ、

 あっ…ううっ、効く…つーんっ、ときやがった。ワサビ効いたか目に涙、ってやつ

 だ。ははは。やっぱりワサビはこうでなきゃいけないね。もうワサビが甘くなって魚

 の方が舌にびりびりっと来るようだと世も末じゃ。(ごくっ、ごくっ、ごくっ)…」

清衛門「あう、あう、あう…」

和尚「…あーありがてえ。でもなんだね、こうなってくると、ちょっとペンペン(三味

 線)なんかも鳴らして欲しくなるね。だけど、小唄ってのも、このごろ、長いのがあ

 るね。小唄じゃないね、ありゃ、大唄だね。九州の方から流行ったのかね、九州にゃ

 大唄(大分)ってところがあるもんね。(ごくっ、ごくっ、ごくっ) でもね、清さん、

 わしは小唄はやっぱり短いほうがいいと思うんだよ。こちとら江戸っ子なんだから、

 そんな長ったらしくちゃいけねえ。(ごくっ、ごくっ、ごくっ) そういや清さん、

 あんたおつな声してたじゃねえか、何か唄えよ。何か唄って聞かせてくれよ。」

清衛門「…唄って聞かせろって、おめえ、…しらふで唄えるかよ、馬鹿馬鹿しい。」

和尚「なにをぼそぼそ言ってるんだ、しっかりしろい。♪郷のあけびは何見て育つ、

 山の松茸 見てそだつ~、ちーん、ちーん、ちーん、ちりりんちりりん! なん

 つってなあ! あ、ああっ、清さん! 徳利徳利! 煮えてるよ、おい。間抜けな

 野郎だね、こん畜生。徳利を早く出せ、こら。」

清衛門「熱くなっちゃって取れねえよ。」

和尚「おめえ、お燗番なんだろ、うすぼんやりしてるんじゃないよ、修行が足りない

 ね。それでも坊主かい。仏の顔も三度まで、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、お釈迦様で

 も気が付くめえ、ってんだぞ! まったくもう…ほら、よこせよ…熱っ! こんなに

 熱くしやがって。酒は人肌ってんだぞ、知らないのかてめえ。ああ、ああ、ああ、あ

 あ、こんなにケムがでてやがる…せっかくの酒をこんなにしちゃって…おい。何やっ

 ぼうっとしてんだよ、次をつけとけ、次を!」

清衛門「ほらよ。(不服そうにつける)」

  どんどんろれつがあやしくなってくる和尚。

和尚「お前ね、お前はいい人間なんだよ、本当に。だけど人間がぼんやりしてるんだ

 よ。わしはこの酒をもらった時に思ったね。友達はたくさんおるけれど、清さんと

 だけは呑みたくねえなってな。そこをお前、付き合わせてやってるんじゃねえか。感

 謝しないとだめだ、感謝しないと。人間、感謝の気持ちを忘れちゃ駄目だよ。それが

 仏の教えだ。」

   清衛門、ムカムカしてるけど我慢。

和尚「せっかくの酒ぇこんなにしちまいやがって、勿体ねえ…罰が当たるぞ。ふぅ~、

 ふぅ~、(ぺろっ)…あちちちち。酒ってのは冷ましながら飲むもんじゃないんだ。

 お茶じゃないんだから。お酒がおちゃけになっちまうだろうが。ふぅ~、ふぅ~…

 (ぺろっ)…あちちちち。熱いや、コンチクショウ。こんなもん、飲めるか。(それで

 もまたぺろっ) あちちちち。熱いけど美味え。アツウマってやつだ。ははは。2月

 だね。アツウマ(初午)だ。あはははは。」

清衛門「ははははは。(露骨に作り笑い)」

和尚「(徳利を奪い取って)ほらほら、後つけとけって。ん? なに? 終っちゃった?

 おつもり? これでおつもり! なーんだ、畜生…おう、どうだい、清さん、平家の

 大将・たいらのおつもり、なーんてなあ! たいらのおつもり! あははははは!」

清衛門「あははははは。(半泣き)」

和尚「(最後の徳利をあけてしまう。ごくっごくっごくっ)…ぷあ。しかしいい酒だね。

 こういう酒を呑もうったって、そう呑めるもんじゃねえんだ、ホントだい、おめえは

 ホントついてるよ、運のいいヤロウだ。おめえみてえなやつは仏どころか神(紙)に

 見放されても自分の手で(ウン)を掴めるよ。ご不浄なんかでとくに。わはははは。」

   最早反応できない清衛門。

和尚「(ごくっ、ごくっ、ごくっ)…おしまい! あはははは! 美味いっ! うはー、

 実に美味かった。なあ、おい、清ちゃん! なあ清公! わはははは!」

清衛門「…何を言ってやがんだ、こんちきしょう。なーんだ、使いに行って来いのお燗

 をしろのとさんざんやらせといて、てめえ一人で全部呑んじまったじゃねえか。そん

 な酒なんか呑みたくねえや! …呑みたかねえけども、たとえ一杯でも飲ましてやる

 のが仏の道ってもんじゃねえか! 一人でがぶがぶがぶがぶ呑みやがって。こんな

 美味え酒はねえ? 美味えか不味いか、見てるだけの俺にわかるわけ無えじゃねえ

 か、コンチクショウ! 地獄に落ちてえんま様にでもベロ板引っこ抜かれやがれ、

 因業坊主!」

   床を蹴って立ち上がり

清衛門「どこかで浴びるほど呑んでからでなきゃ、寝る気にもなんねえや、バカ

 ヤロー!」

   足音も高く出ていってしまう。

和尚「(しばらく呆然としてから)…んーだ、あの野郎? ははあ、呑みすぎて悪酔いし

 たな。…ひっく。(ばたん、きゅー。)」



第五場 飛鳥山

   桜が満開。茶店がある。(客席を、茶屋の奥と想定したセット)

   右馬之介が茶店の縁台に座って煙管を吹かしている。


右馬之介「…兵法に曰く、逸を以って労を待つ、つまり戦場には先に着到すべしという

 が…まだ卯の刻か。早く来すぎたな。子丑寅卯辰巳午…と、6時間も早く来てしまっ

 た。」


   そこへ、三剣士登場。


桃井「まだ早いのではありませんか?」

千葉「いやー、早く来るにこしたことはない。」

斎藤「そうそう。早くしないと、いい場所で見れないからな。」

千葉「ほら見ろ、花見茶屋の中を。こんな時間から見物の衆が、もうこんなに押しかけ

 てる。(と、客席を示す)」

桃井「うわ、こんなに…ひぃふぅみぃ…ざっと××人くらいでしょうか。」

斎藤「おい、見ろ。仇人だ。仇人ももう来てるぞ。」

千葉「先に来て、地の利を探っておるのかな。」

桃井「宮本武蔵・一乗寺下がり松の教訓ですね。」

斎藤「抜け目の無い男だ。この勝負、どうなるかわからんぞ。」

桃井「とにかく、見物しやすい場所を取って、始まるまで待ちましょう。」


   三剣士、退場。


   続いて、尾張守・お方様・若狭がお忍びで登場。


尾張守「おい、家来。」

お方様「ご家老の若狭殿にございます。」

尾張守「えーと、元気な若さのすけべ。」

若狭介「外科若狭介でございます。」

尾張守「えーと、その、若狭介。ここが飛鳥山というところか?」

若狭介「左様でございます。」

尾張守「見事な桜であるな。誉めて取らす。」

若狭介「ははっ、お褒めに預かり、ありがたき幸せ。」

尾張守「して、今日ここで何か面白い事が起こるそうじゃが、いったい何があるの

 じゃ?」

若狭介「さればでございます。本日午の刻、こちらで仇討ちの果たし合いが行われると

 の由。」

尾張守「なに、仇討ち? それは天晴れ、武士の鏡である! で、その試合は三本勝負

 か何かで…?」

若狭介「試合ではございません、果たし合い、真剣勝負でございます。」

尾張守「真剣勝負というと、殺し合いか!」

お方様「まあ、殺し合い! あーれー…(ふらふら…気絶)」

若狭介「あっ、お方様、お気を確かに!」

尾張守「これは困った、いかがいたそう。」

若狭介「(しばらく考えて) あ、そこに花見茶屋がございます。そこの奥に寝かせてい

 ただくのがよろしいかと。」

尾張守「うむ。では参ろう。」


   三人、客席を通り退場。


   お盆に湯飲みを乗せて親父が出てくる。


親父「けっこうなお日和になりましたなあ。」

右馬之介「うむ。どうじゃ、この人出。(客席を示す)」

親父「いや~、商売繁盛であり難い事です。なんでも午の刻にここで仇討ちがあるって

 噂で、 今日は人がわんさと出てまさあ。」

右馬之介「つまりそれが我々の策なんだ。」

親父「策?」

右馬之介「ここで仇討ちがあるという噂を流し、物見高いお客さんを呼んだのは実は、

 我々なのだ。」

親父「あんれ、まあ~(驚きあきれ)。 さすがお侍様、そんなあざとい策略を…」

右馬之介「こらこら、人聞きが悪い! お主も儲かってるのだからよいだろう。酒手は

 ちゃんとよこせよ?」

親父「しかし、これだけお客さんが集まって、何も無いでは済みませんぞ。花見は楽し

 めるとしても、仇討ちが無ければみんな残念に…」

右馬之介「そこはそれ、兵法に曰く、細工を隆々御覧じろというところじゃ。」


   話してる最中に、若狭介が出てくる。


若狭介「卒爾ながら。」

右馬之介「あ、はい、何でしょうか。」

   親父、いそがしそうに退場。

若狭介「貴殿は、辰巳右馬之介殿と申される御仁じゃな。昨日、浅草にいた…」

右馬之介「あ!? えーと…」

若狭介「相違ないか?」

右馬之介「たしかに左様でございますが…あなたのようなご老体に兄の仇ましてや親の

 仇と言われるような憶えはございませんが?」

若狭介「仇討ちの名乗りではない。昨日、貴殿は少々、気になる事を言っておったので

 な。」

右馬之介「気になる事ですか。」

若狭介「実は拙者は盤後藩五万石の家老職を勤める、外科若狭介と申す者。」

右馬之介「えっ! 盤後藩五万石のご家老様で!?(焦り)」

若狭介「貴殿は昨日、盤後藩藩士と名乗られていたが、拙者、貴殿の顔は見た憶えも

 無い。それで、これはどういうことか問うてみようと思ったのじゃが…」

右馬之介「(独り言)これは…非常にやばい。」

若狭介「貴殿、真実、盤後藩五万石の藩士であられるや否や?」

右馬之介「(独り言) うむむむ…たまたま思い出した藩名を名乗ってしまったとはちょっ

 と言いにくい。」

若狭介「さあ、いかに!?」

右馬之介「ええと、それはですね、なんと申しますか…(視線が泳ぐ)」

若狭介「いかに!」

右馬之介「ええと…兵法に曰く自ら死地に入る…(遠くを見て) あっ、こっちこっち!

 おおい、そっちじゃない、こっちだ!」


   右馬之介に呼ばれて、六兵衛登場。


右馬之介「遅いではないか、六兵衛」

六兵衛「いや、ちょうど午の刻あたりだよ。集まりはどうだ?」

右馬之介「これ、この通り(客席を示す)」

六兵衛「うわ、見事に集まったな…野次馬が。」

右馬之介「ばか、お客様に失礼なことを!(ひっぱたく)」

六兵衛「痛え…。ところで坊主の清衛門は?」

右馬之介「まだ来てない。」

六兵衛「それはこまった…仇人と討手が茶屋で一杯やりながらながら仲裁人を待つとい

 うわけにもいかないぞ。」

右馬之介「しかたない…先に始めてようか。おっつけ来るだろ。」

六兵衛「よし」


   両者飛び下がって間合いを取る。


六兵衛「『やあやあ兄の仇、辰巳右馬之介! 我が名は富山六兵衛、汝にめぐり会うた

 め艱難辛苦幾星霜、雨にうたれ風に晒され一日千秋の思いをなし、訪ね訪ねし甲斐あっ

 て、ここに出会いたるは盲亀に浮木・うどんの出汁つゆ…』」

右馬之介「違う違う、優曇華の花!」

六兵衛「これはすまん。ええと、『…盲亀に浮木・優曇華の花。いざ尋常に勝負~!』」

右馬之介「『兄の仇と! 貴様、あやつの弟か! …武道の遺恨やみがたく、汝の兄を

 討ち果たしたるはまさに我に相違なし。仇呼ばわりとは片腹痛い、いざ返り討ちにい

 たして、あ、くれん~!』」


若狭介「おおっ、始まったぞ!」


   三剣士、尾張守、お方様、和尚、親父、お千代、和尚まで飛び出し二人を取り囲

   む。(清衛門以外全員登場)


六兵衛「『兄の、かたぁぁぁきぃぃぃ!』(抜刀して見得)」


   見物衆、歓声を上げ、客席にも拍手を求める。


右馬之介「『いざ、勝ぉぉぉ負ぅぅぅっ!』(抜刀して見得)」


   見物衆、歓声を上げ、客席にも拍手を求める。


   笛と太鼓のお囃子が響きはじめ、両者、それにあわせて剣の舞。

   テントンシャン、テントンシャンと、様式美の極致のような芝居がかった

   太刀廻りが続く。

   盛り上げるため、わざと六兵衛が追いつめられていく。


   しばらくして、鍔迫り合いになったところで、三剣士が踏み込んでスラリスラリ

   と抜刀。


千葉「やあやあ、仇人は容易ならざる剣の使い手と見たり。我こそは北辰一刀流・

 千葉周一、義によって討ち人に助太刀いたす!」

斎藤「同じく神道無念流・斎藤弥四郎、義によって討ち人に助太刀いたす!」

桃井「同じく鏡心明智流・桃井春美、やはり義によって、討ち人に助太刀!」


   見物衆、歓声を上げ、客席に拍手を求める。


   鍔迫り合いの状態で停止していた右馬之介と六兵衛、

六兵衛「おい、助太刀だってよ。」

右馬之介「あんなの頼んでたか?」

六兵衛「いや、知らん。」

右馬之介「どっちに助太刀だ」

六兵衛「討ち人にって言ってたから、拙者に助太刀だろう。」

右馬之介「じゃ、こっちには敵か! ちょっと待て!」


   飛び離れる二人。

   ここからはリアルな太刀廻りとなる。

   1対4となり、悲鳴を挙げながらも必死にしのぐ右馬之介。


桃井「むう、こやつ、なかなかやりますぞ!」

右馬之介「そりゃ、本格的に命が懸かっちゃいましたから!」


   太刀廻り再開。

   練習でやった通りの技が本気の速度で再現される。

   必死にしのぐ右馬之介。


右馬之介「おい、六兵衛! 坊主は! 坊主の清衛門はまだ来ないのか!」

斎藤「心掛けのいい奴だ、斬られてからの葬式の手配までしておるか!」


   太刀廻り再開。

   練習でやった通りの技が本気の速度でふたたび再現される。

   やがて右馬之介に六兵衛が密着し、さりげなく三剣士の攻撃からかばう体勢で

   停止。


右馬之介「坊主はどうした、坊主は!」

六兵衛「ヤロウ、例によって寝坊してやがるんじゃないか。」

右馬之介「さては昨夜、酒ひっかけやがったな、ガブガブガブガブと!」


千葉「(聞き間違い) そうとも、今や勝負は五分五分だ!」


   太刀廻り再開。

   練習でやった通りの技が本気の速度でみたび再現される。

   六兵衛のさりげない助けで必死にしのぐ右馬之介。

   しかしついに転倒、三剣士に切先を突きつけられ、動けなくなる。


右馬之介「兵法に曰く、少敵の堅は大敵の檎、すなわち多勢に無勢!(泣き声)」

桃井「さあ六兵衛殿! とどめを!」


   とまどう六兵衛。

   くちをぱくぱくさせ哀願する右馬之介(もう声も出ない)。

   (若狭介に何か耳打ちする尾張守。)

   六兵衛、しばらく迷っていたが、心を鬼にして刀をふりあげる。


若狭介「待てい! しばらく、しばらく!」

   割って入る。

若狭介「ご一同、しばらく! 拙者は盤後藩五万石の家老、外科若狭介と申す者!」

尾張守「別名、元気な若さですけべ!」

若狭介「ちがいます。(ツッコミチョップ)」

尾張守「ごめんなさい!」

若狭介「…で、こちらにおわすのは、盤後藩五万石の太守、惟出尾張守様である!」

一同「ははーっ!(一斉に控える)」

尾張守「苦しうない!」

若狭介「お殿様の申されるには、仇人も、武運拙く敗れたとはいえ、4人も相手に見事

 な奮戦ぶりであった。このような武芸・兵法の達者を、あたら私ごとの果たし合いで

 失うはいかにも惜しい、国の損失である。聞けばこやつは我が盤後藩五万石の藩士と

 名乗ったとの由。ならば余の家来も同然、ここはひとつ余に免じて、一命を助けては

 くれまいか、との由である!」

右馬之介&六兵衛「…仲裁だ!」

   思わず喜色満面で顔を見合わせ、互いの手と手を打ち鳴らす右馬之介と六兵衛。

千葉「しかし、この御仁は兄の仇ということで、艱難辛苦幾星霜…」

若狭介「むろん、ただでとは言わん。富山六兵衛殿、聞けば貴殿はただいま職探し中、

 浪浪の身とのこと。では我が盤後藩五万石に、そちらの辰巳右馬之介と同じく、

 年棒五十石で仕官を認めようではないか。如何?」

六兵衛「えーっ! 五十石!?」

右馬之介「拙者も五十石!?」

親父「現代で言えば、年棒およそ1千5百万円!? ひーっ!」

お千代「きゃーーーーっ!」

   喚声を上げ抱き合って喜ぶ右馬之介と六兵衛。

   袖から飛び出してくる清衛門。

清衛門「こらー! ずるいぞ、お主らだけ!」

六兵衛「今ごろ来やがった!」

右馬之介「兵法に曰く、早起きは三文の得、寝坊は生涯の損!」

清衛門「そんな兵法、聞いた事無いわー!(泣き出す)」

   事情を知らない周りの人たちまで喜んでいる。

お千代「(駆け寄って) 六兵衛さん、右馬之介さん、おめでとうございます」

六兵衛「おう、ありがとう!」

右馬之介「ありがとう、お千代殿! ってことで、拙者のお嫁さんになってくれ。」

お千代「はい、喜んで…えっ! お嫁さんに!?」

   驚いてしーんとなる一同。

右馬之介「…だめか?」

お千代「…私で、いいんですか?」

右馬之介「お千代殿が、いいんだ。」

   ぐっと握った互いの手と手。

   迷ってるお千代に横から

六兵衛「年棒1千5百万円だよ!!」

清衛門「年棒1千5百万円!!」

親父「年棒1千5百万円っ!!」

   ついに決心。

お千代「…ぜひお嫁さんにしてくださいませ。」

右馬之介「兵法に曰く、これぞ『海老で鯛を釣る』!」

   うわーっ、とさらに盛りあがる一同。


   ようやく落ち着いてきてから、

右馬之介「ところで、お殿様、お名前はなんといわれましたっけ?」

六兵衛「そうだ、これからお仕えするご主君、お名前をちゃんと憶えておかないと。」

尾張守「余であるか。余は…惟出 尾張守、と申す。」

右馬之介「え? なんと申されました?」

尾張守「だから、惟出 尾張守!」

右馬之介「はい? これいで…、何と申されました?」

尾張守「(扇を開き見得を切り大声)…これで、尾張っ!」


   とたんに拍子木が鳴り、すばやく幕。(考えオチ)


                          ---終


追記:意図的な考証無視一覧(ただの「怠り」ではないのです~(TT))


・盤後藩

 実際には無い地名

 >単なるだじゃれ(「晩御飯」)で、ファンタジー感を出すため


・尾張守

 尾張は上国であり、5万石くらいの大名が名乗っていい受領名ではない。

 >オチの伏線(「これで終わり」)


・若狭介

 あり得ないというほどではなが、一般的に家老は使わない名前。

 >「尾張守」のオチを見抜かれ難くするための(フェイク)


・お方様

 江戸の大名屋敷にいるのは通常、側室ではなく正室

 >衣装や鬘代の節約+演技しやすいよう


・リストラ

 現代語

 >違和感によるギャグ


・解雇

 江戸時代の武士はそんなに簡単に大量解雇はできない

 >クライマックスを盛り上げるための仕掛け


・お千代

 侍と町人は身分が違うのでふつう恋愛結婚はできない

 >恋愛描写と、年収額で心を動かされるギャグの伏線


・ナポレオン

 この時代にはまだ活躍してない

 >戦術家として有名な人物+わかる人にはギャグ


・首をつる

 首つりは庶民の自殺法で武士はふつう切腹(刀を奪われてたら絶食死など)。

 >ばかばかしさを出すためのギャグ


・仇討ちの達成確率は0.6%

 江戸時代が終わってから調べられた統計で、このころにはわからない

 >知らないはずのことを知ってるギャグ


・清水次郎長

 ナポレオンと同じく、まだ活躍していない後世の人物

 >仇討ちの成功例として有名な人物なので+わかる人にはギャグ


・汝の敵を愛せとあります

 この時代にはキリスト教が禁じられており、この言葉は一般には知られていない。

 >仏僧が聖書を引用するギャグ


・何事も練習しだい

 この時代には「練習」ではなく「稽古」という

 >違和感によるギャグ


・思わず拍手

 命のやりとりが始まるときに拍手する奴はふつうない

 >芝居がかったセリフを強調するための演出


・千葉/斎藤/桃井

 幕末の「剣術の三大道場」の先生の苗字

 >予備知識のある人むけのギャグ


・酒と刺身

 この時代の仏僧が魚を食べ酒を飲むのは珍しい

 >不真面目な性格を表現


・6時間

 この時代は太陽の運行を基準とする不定時法であり、正確に何時間何分と換算はできない

 >観客にわかりやすいよう


・ふらふら…気絶

 武家の女たるもの斬り合いを恐れてはいけない

 >女性らしさを印象付けるためのギャグ


・年棒一千五百万

 実際に換算するともっと少ないし、生活習慣の違う世界を金額だけで現代日本と比較してもあんまし意味ない

 >イメージでギャグに


・お名前を

 「尾張守」は官職名または通称であって、いわゆる名前ではない

 >幕が閉まるタイミングで笑わせるための考えオチ


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白いっ!! めちゃくちゃ面白いっ!! 今まで「小説家になろう」で見た演劇台本の中で、いちばん面白いっ!! 但し、時代考証を怠ってはならん。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ