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1-6

行事というのは、行事が始まる前までに八割の作業がおわっているもんです。

ですから、前置きは長いのです。

「大丈夫だ。姫の国をないがしろにしているわけではない。戴冠式のことを知っているのは王・王妃・俺以外では姫、あなたが始


めてだ。」


扇をもっていない手をとって王子が言った言葉にまた私は固まりかけて、なんとか自分をたもった。奇跡的に。

目の前が少しチカチカする。気を失わなくて本当によかった。

この人は招待客に伝えるという最低限のマナーすら知らないってこと、なのかな?


「王子、それ、冗談です、よ、ね?」

手の中で扇が悲鳴をあげるかのようにミシッといった。


「冗談ではない。今日晩餐会のスピーチで発表の予定だったのだが、それでは姫にフェアではないかと思って先に知らせたのだが


。」


「あ、ありがとう・・ご、ざい、ます?」

少しでも早く知らせてくれたことはありがたいのだが。

これはありがたいところなんだろうか?

晩餐会で倒れるよりマシってところかしら。

それよりも気になることがある。


「あの、王子様?」

お礼に疑問符が付いていることに気が付いた王子様が私を見る。

その視線にちょっと戸惑いながらもう一度疑問を投げかける。


「ひとつ聞いてもいいですか?」


「なんなりと、姫」


「あの、いつ戴冠式をやるって御決めになったのですか?」


「ああ、3日ほど前だったか」


ばかー。4日ほど前の私本当にばかー。

温泉でピカピカツルツルになってる暇なんてなかったじゃないかー。

せめてその時点で知っていたら。もう少し何とかできたのに。

温泉でのんびりしてる暇なんてなかったじゃないの!


てか決まったら早馬でもなんでもいいから教えてくれればいいのに。


私は自分が悔しくて、少し涙目になりながらも王子を見上げながらにらみつけた。

すこし王子がひるんだのみていい気味だとおもった。


「戴冠式を一緒にやろうと思ったのは、国王陛下を見舞いに行った時に陛下のほうから譲位を伝えられて、一緒にやった方がいい


のではないかと城に帰還してから思いついたのだ。その了解を得るために陛下と手紙でやり取りしていた。

すまない、浅慮だった。貴方にも伝えるべきだったのだな。」


私にもだけど、周辺諸国にもだろー!

という叫びを私は飲み込んだ。

せめて、此の事をアルシェスに伝えないと。

手の中の扇を握り締めると、キシッと音をたてた。


「王子、申し訳ないのですが、ちょっと打ち合わせを侍女としなくてはなりませんので、晩餐を10コニほど遅らせていただけな


いでしょうか?」


「何か、必要なのか?」

王子が心配そうにいう。

必要なものだらけだよ、決まってるだろ。

戴冠式の衣装どうすんだよ。国許にも連絡しなくちゃいけないし。

時間が惜しいんだよ。



「ええ、実は扇を壊してしまいました。侍女にとりにやりたいと思うのですが。」

そういうと今まで手に持っていた扇をアンナに渡した。

「お兄様にもらった物をもってきてね、アンナ」

そういうと、アンナはすっとお辞儀をして出て行った。

こうして行かせてしまえば、晩餐は延期せざるをえない。


開始の遅れを伝えるために何人かの侍従もアンナとともに出て行った。

ごめんなさい準備にあたっている方々。でも王子様が悪いんだからね。私を怨まないでね。


『おにい様にもらったものを持ってきてね』っていうのは重大事がおきたときに使う、アンナと二人の間で決めた暗号みたいなものだ。

国許に連絡を。という意味になる。


そうして王子に向き直ると、私は普通の笑顔を貼り付けてきいた。


「お待たせする間、お伺いしたいことがあるのですけれど。」

私たちが歓談体制に入ったのを見ると、クラクスーが侍従を呼んでなにやら密談している。

結婚前の私たちを二人にするわけにはいかないものね。

侍従やメイドがいるけれど、彼らはとめる権限をもたないしね。

侍女でもあり、貴婦人でもあるアンナが帰ってくるまではお目付け役としてクラクスーは動けない。

ざまあみさらせ。おほほほ。


「なんなりと、姫」

王子がこちらをみる。

しっかし、きれいな緑の目だなあ。うらやましい。

そのきれいな目に映る見栄えのしない自分が目の中に浮いたごみのように感じる。

姉さまくらい綺麗だったらよかったのになあ。

こんな綺麗な目に映るのは正直いたたまれない気持ちになる。


「まずお伺いしたいのですけれど。

姫君にいつお会いできますか?」


その途端王子の目が少しつりあがった。

やべ、地雷?

ここは知らぬ存ぜぬで15歳の少女のふり。


「私、母としてではなく、お友達か姉妹のように仲良くできたらと思っています。

丁度、大兄さま・・王太子殿下のお子様が同じ年ですし、国許でもなんどか遊び相手を務めたりいたしましたのよ。お会いできるのを楽しみにしてまいりましたの?王子に似ていらっしゃいますの?」


3歳だっていうし、可愛い盛りの女の子だというし。

色々おもちゃやドレスなんかも持ってきたしね。

なんか、王子どころかクラクスーの表情も冴えないけど。どうしたのかしら?


「姫。娘は・・・そうだな、かなり人見知りが激しいのだ。

それに・・・身体もあまり丈夫ではない。

式が終わったら逢わせるつもりでいたのだが。」


歯切れが悪いわね。なにかあるのかしら?

まあ、おいおいわかるでしょう。


「そうでしたの。よく存じ上げないのに浮かれてもうしわけありません。

わたくし、末っ子でしたので、妹ができるのだと思って楽しみにしておりましたの。

浮かれて申し訳ありません」

私も少し寂しげにしてみる。

この国、少なくともこの姫は色々ナーバスになるポイントなんだろうね。

今度から気をつけよう。


「いや、姫、やさしいのだな」

そういって私を見る。

くそー、なんだその「とってこいを褒めて?」といってる犬みたいな瞳は。


「いえ、よく知りもしないで出すぎた真似をいたしました」

そういってとりあえず笑った。

娘という地雷があることがわかっただけでもここはヨシとしよう。





10コニ(時間単位)=1コニ5分くらい。

つまり一時間ほど落ち着く時間がほしいってことですね。



あと姫さまは「番外編」の内容をご存じありません。


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