番外編 説明臭い何か『典礼について』
説明をしなくてはならなくなりました。
説明要員をだしました。
すいません・・やらかしたかもしれません。
どうも始めまして。
私めはこういうものでございます。
そういって分度器で測ったかのような15度の礼をされた。
すっと作者の前に差し出されたものは
作者には見慣れたはずの名刺、というもの。
この世界に在ると設定したっけ?と思いつつその名刺を受け取る。
さて、伊達様。
このたびはわが世界を物語にしていただいてありがとうございます。
作者は、「いえ・・」と言おうとして制された。
このたびはわが国の魔法使いの計らいにより、説明の任を仰せつかって参りました。
しかし会話はできなくなっております。
私めの一方的なご説明をお聞きいただければと思っております。
会話になってしまいますと、双方の世界によくないと聞き及んでおりますので、
そのあたりはご了承くださいませ。
そう言って私の前の音楽室のモーツアルトのような格好をした人は一礼した。
頂いた名刺には、透かしが入っており、その上金箔の王冠マーク。
下にはなぜかカタカナで『レナード・スパラックス』と印字されていて。
その上に書かれた肩書きは、『アルシェス王国典礼官』と書かれていた。
つまりこのモーツアルトもどきさんは今書いていてちょっと行き詰ってしまった物語の中の人、ということらしい。
うわー。あたしイタイわー。
でもどうしようかと思っている、重大な問題で行き詰っていることも確かだし。
その解決の糸口になるなら話だけでも聞いてみるか。
熱帯夜確定の気温30度からさがる気配のない午後9時。
節電のため昨夜充電しておいたノートパソコンを開いて続きを書こうとしていたあたし。
そのPCをさっさとシャットダウンしてレナードさんに向き合った。
では、ご説明申し上げてもよろしいか、伊達殿。
あたしは同意の印に、深くうなずいた。
手にはミスコピー《チラシのウラ》とボールペン。
がっつり聞く気満々です。
ただいま、伊達殿は大陸で神国を含め3番目に長い歴史あるわが国の典礼のしきたりと、末姫様が今度嫁がれるご予定の大陸の新興勢力であり、武を重んじるタンジール国の典礼の違いをどう書いたらよいかと悩んでいる、と魔法使いは判断されて、私めを遣わされたのだが、それで状況はお間違いないだろうか?
レナードさんは、手にしたメモというにはあまりにも仰々しい羊皮紙のようなものを見ながら話しかけてきた。
あたしはそれにコクコクとうなずいた。
しかし、今の説明超嫌味臭い。
レナードさんアーシェ姫のこと好きだったのかしら?
タンジールのことめっちゃ見下していたわねー。
いいもんなのかしらー。だってアチラの方が大国なんでしょ?
強いらしいし。ま、あたしには実害ないし。いいか。
では、説明に入ります。
タンジールは現在の王で3代目。姫のお相手がもし即位ということでしたら、4代目となります。
建国よりまだ50年ほどになります。
へー。若い国なんだねえ。それであんなに広い土地を治められるならすごいじゃん。
レナードさんの言う言葉を昔獲った杵柄で速記もどきで書き付けていく。
メモ《チラシのうら》から顔を上げて続きを促す。
ただいまのタンジールの版図となったのは現王の時代になってからであり、その前のタンジールは、ただの地方豪族に毛が生えた程度でございまして、国交もほとんど結んでおらず、正式な国家と神国から認められましたのは、カタグ暦2064年、今よりたった17年ほど前のことでございます。
ほー。倒れちゃった方ってそんなすごい方だったのねえ。
こっちで言えば、モンゴル帝国とかナポレオンみたいな感じかしらー。
タンジールの現王にはお子様が3人おられ、王子一人にその姉上に当たられる方が2名。
すべて軍功のあった家臣かその子息に嫁しておられます。
かの国考え方では姫には相続権はなく、そのお相手の家の格に準じた扱いを受けていらっしゃるそうです。
姫様のお相手になられました、フィジョン王子ですが、15歳の時に現王の右腕であった騎士公爵、これは、かの国だけの爵位でして、武功のあった将軍クラスに与えた称号で、その後を継いだものが従軍しなくては消滅、従軍しても軍功なきものは廃嫡という、一代限りにかなり近い称号だそうでございます。それの、娘(当時17歳)を娶り、2年後第一子、コラリス姫を設けたが妃は出産の肥立ちがわるく死亡。姫は順調に育たれて今年3歳になられる。
ウチの姫がなんで後添えで。15歳にして3歳の子持ちにっ。
・・・失礼いたしました。
そりゃあ、アーシェちゃんの立場はつらいよねー。
で、今まで碌な国家扱いをしてこられなかったタンジールには国家継承におけるしきたり、外交儀礼などなどのノウハウが蓄積されておらんのですっ。
きっとタンジールのことですから、『近隣の諸国の代表集まるし、ついでに戴冠式もやっとくか』くらいの認識しかないと思われます。
今までの継承も、命にかかわるほどの怪我をして帰国した初代の王が二代目に血塗られた剣を渡して事実上の継承だった、という故事にならって、その初代の王愛用の剣を渡したら『継承』としていたようです。
ってことは、会社で「まあ、後はよろしく頼む」みたいに引き継ぎの書類に判子押して握手。で、部長交代。みたいな感じより簡単に継承されてきたってのかい?
いい加減というか大雑把というか。書類ない分いい加減かも。
判子わたして、「じゃ、たのまー」みたいな感じにちかいのかな?
それが王家継承だなんていい加減過ぎるよ・・・フィジョン君。
自己完結しながらフムフムうなずいた。
それに引き換え、わがアルシェス国は今年で建国716年目を迎えまして。
神国、クニネム国についで3番目に古い国家です。アーシェラーナ様のお父上であられる現王陛下で63代目を数えております。
継承式も盛大に行われます。しきたりもたくさんございまして、準備にも2~3年の歳月を費やします。
ほーほー。そういやウチの今上陛下のときも凄い織物とか晩餐だとか招待客だとかあったね。
もう20年位前だったけどかなり華やかっぽかったわなー。
皇太子殿下と雅子妃殿下の時の結婚も華やかでしたしねー。
あれ?もしや、タンジールってものすごい大雑把にみんな集まるからいいだろう。
とか思っている?
お祝いだし同時にやっちゃう?みたいなノリなの?
それって、国家的にめっちゃ準備に時間かかるし、出席者もそれなりに御支度がいるんじゃね?
二倍ところか3~4倍の労力が要りそうな・・・。
あたしは、その規模とか式典の警備とか式進行の調整とか。
同時にやっちゃうの?
それとも日を改めるの?
そんなことを考えて呆然とした。
そして主役の一人であるアーシェちゃんが一番最初に心配した、お衣装。
主役それも女性のお衣装によって式典の格が決まるといっても過言ではないよなあ。
あたし設定中世末期ヨーロッパあたりっぽい感じ。にしてたし。
おわかりいただけましたか?
あの王子がやらかそうとしていることの重大さが。
その上、王子ときたら!!
『あー、レナード。その先はだめだよー。』
学校の校内放送のようにちょっと響いた声で聞こえてきた声。
誰これ?という思いも込めて首をかしげる。
『作者さん《だて ししい》にはそのうちお目にかかりますよ。
今は魔法使いとでもー』
なんか気の抜けた声だなあ。
ふむふむ。
つまり王子様は成り上がり発言&行動全開中でイタイってことなのか。
自分の結婚式でもあり、長い歴史のある国から嫁いでくるアーシェちゃんはそれをどうにか近隣諸国に失礼に当たらない程度の見栄えのする式典ものにしなくちゃいけない上、自分の支度も整えなくちゃいけないのか。
そりゃ、固まるわな。まだ15歳なんだしねえ。
お分かりいただけましたでしょうか?伊達殿。
眉間にグワっとしわを刻んだレナードさんが怒りを抑えきれずにこっちを見てきた。
そりゃ、こっちだって社会人暦10年を超えるオトナですし。冠婚葬祭色々庶民レベルではありますが経験しきてますし。
こんな結婚式や葬式絶対ヤダ、恥ずかしすぎっってのも何個か見てますし。
それを国家レベルで、成り上がり国家がやっちゃったとしたら。
そりゃー。恥ずかしいわなー。
それじゃ済まないし。今後の外交の場で不利になるかもしれないよね。
下手すりゃアルシェスまでとばっちり、だよねえ。
婚約して3年だもんね。
その間になんで指導しなかった?なんて嫌味とか言われそう。
うわー、うわー。大変じゃん!!
あたしは頭を抱えてしまった。
これ、どうやって10日で収束させりゃいいのよ。
『作者殿。姫の幸せのためがんばってくださいねー』
魔法使いの声が遠くなる。
以上、現状報告でございます。伊達殿。姫をアーシェ様をどうかお救いください。
レナードさんがものすごく美しく45度に腰を折る。
それと共にまるでTVのスイッチを切ったときのようにモーツアルトもどきの姿が掻き消えた。
「フィジョンのばかやろう。爆弾発言のせいで、プロット台無しじゃねえかよ」
あたしはメモ《ちらしのウラ》を眺めながらそういった。
そして人物設定をまとめてある、ノート《ネタちょう》を取り出すと。
フィジョンのページに設定を新たに書き込んだ。
閑話休題
次から本編に戻ります。すいません。