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本編スタートです。出会い編とでも申しましょうか。
温泉で仮病を発症して微熱をひねくり出した私は、当初の予定よりも3日長くその温泉地に逗留した。
元々天気も上々予定より早く進んでいると聞いていたし、時間調整もかねていたのかな。
そのおかげか、付いてきた護衛も侍従も侍女たちも心なしか血色がいい。
馬も元気を取り戻し、心なしか馬車も綺麗だ。
それはそれで居心地いいし。
結果オーライでよかったのかな?
私もすっかり疲れがとれたし。
もし王子様が私のこと好きになれないと思うなら病気療養を理由にあの温泉地に別荘建ててもらおう。
そこで”ビバ!温泉引きこもりライフ!”を送ろう。
お気に入りの美人女優をはべらしてらっしゃるという噂だし、あっという間に私なんか飽きるんだろうなあ。
そしたら、”ビバ!温泉引きこもりライフ!”に突入できるからいいかも。
そんな想像をすることができるほど、気力も回復してきた。
明日には王都につくらしいし、どんな人なのかな。王子様。
馬車の窓から見えるこのタンジールの景色はウチとは違う。
ウチん所は窓から見えるのはほぼ農地である。
海沿いにある王城の近くは塩田がきらめいていたし、内陸に向かえば野菜や麦の畑がまるでじゅうたんのように広がってる。
トイサ河から引かれた運河からの灌漑用水がきらめいて、本当に綺麗な国だと思って通り抜けてきた。
私の行列に気がつくと、手を振って見送ってくれるような人懐っこい我が民。
その中を馬車は進んできた。
山脈を馬車で越えられないのはわかっていたので、途中からトイサ河を船で遡上。
一番近いタンジールの港は板でできた小さな桟橋があるだけの簡素なものだった。
タンジールは質実剛健、軍事の国である。
桟橋も頑丈に作って有事の際は敵の利便になることを恐れていつでも壊せるように簡素にできている。
と私を迎えに来たクラクス―大臣が説明してくれた。
そして船から降りた私を迎えてくれたのは、見渡す限り広がる牧草地と馬だった。
その一面に広がった光景に思わず「すごい」とつぶやいてしまった。
余りにも違う。
それが第一印象だった。
感動的な牧草地帯も何日も同じような光景が広がっていればさすがに飽きる。
河沿いなど気候の温暖な地域にはそれなりに農地もあるらしいが、この国では農耕より放牧に地質もあっているらしい。
ウチより寒いらしいけど、イモも無理なのかなあ?
もし王子様が農産に興味あるならその辺も提案してみよう。
行き先に目をやると高い塔が見えてきた。
あれがタンジール王都ノクロア、別名鋼鉄の都なんだ。
そこには未来の旦那様がいらっしゃるのね。
馬の足取りが心なしか軽くなってきた。
馬車が石作りのアーチをくぐっていく。
旗がなびく大通りを私を乗せた馬車が通り過ぎていく。
町の人々は、私が誰でなんのためにここまで来たか知ってもなおこちらを見ない。
車窓から顔を出して手を振ろうとしたら、クラクス―大臣に止められた。
「王子と対面するまで、臣下に顔を見せてはなりません。そういうしきたりです。」
そう言って、隣に控えていた侍女のアンナにベールを出させた。
「申し訳ありません、失念しておりました」
そういうとアンナに手伝ってもらいながらベールを身に付けた。
ベールを神経質に直しながら座っていると、馬車の速度が落ちて、止まった。
「姫様。到着したようです」
「わかったわ、アンナ。行くわよ」
クラクス―大臣に手をひかれ、私は幾重にも重なったベールの下で不安と闘っていた。
ひときわ大きな扉の前で一度止まった。
タンジールの言葉で私の名が呼ばれた後、音もなく大きな扉が開く。
そしてベールでぼやけた視線の先に私の未来の夫、フィジョン様が座っていた。
「姫、遠路はるばる我が国までようこそ。これほどまでに可愛らしく美しい姫を我が妃に迎えることができてうれしく思う」
そういうと壇上から降りてきてクラクス―大臣から私の手を受け取り、壇上へいざなってくれた。
私はその前で膝をおる。
「王子、麗しい御尊顔こうしてお目もじできてうれしく存じます、幾久しくよろしくお願いいたします」
見えもしない癖にこう挨拶する。
「お二人にツドリル神の御加護があらんことを」
クラクス―大臣がそう祝いの言葉を述べれば、この謁見は終わる。
そう段取りを聞かされていた。
「姫、お疲れだろう、部屋に下がって疲れをいやされるとよい。
後ほどうかがって旅の様子など伺いたく思うがいかがか?」
そう王子から声がかかった。
「湯の後でよろしければ」
私は率直に答えていた。
広間はざわめきに包まれた。
私は何か失敗したらしい。
まだお互いの顔もみてません。
SNDM(寸止め)の本領発揮です!