2-3
まだ朝です
新しく出てきた語句解説
アル(重さの単位大体800グラムくらい)
(20アル=16キロくらい)
クーゲン=ビスケット(甘)マリービスケットみたいな感じ。
2ー3
王族の昼間は忙しい。
まあ、誰もみてないからいいか、とアンナに渋々許可をもらって、私は目下採寸中であるが、ご飯もいただいている。
朝食を食べ損ねたからである。
さすがに一食抜いてやっていけるほど王族の生活は甘くない。
物語のお姫様はご飯を食べなくても生きていけそうではあるが、
現実はそう甘くない。
ドレスを着て歩くだけで割と重労働なのである。
コルセットでくびれを無理矢理作るが元々のくびれがないかぎり、締めてもそれなりまでしか締まらない。
つまり、元々細くなければ、細くしようがないのだ。
だからと言って減量に励めば、重いドレスを着て移動するだけの体力がなくなる。
この間、ふと思いついて自分の着たドレスを体重を量るためのはかりにのせたら、15アルあった。そのあと、コルセットや靴などをすべて乗せたら、20アルだったのよ。自分の体重の半分位なのよ。
あのとき少しショックを受けたわよ。
そのあと、中兄様に正装の重さを量ってもらったら、13アルしかないのよ。まあ、そのほかに剣をさすけどさ、それ
だって、20にはならないと思うのよ。
どうして女子の方が衣装が重いのよ、って少し絶望したわよ。
その話をリリコにしたら、少し軽い生地でなんとかドレス作ってみましょうか。って言ってくれて。
それでできたのが昨日の新素材、シフォンのドレスって訳です。
それでようやく兄様の正装とほぼ同じ(靴含)でした。
昨日すごく軽く感じたもんなあ。シフォン。流行るといいな。
そんなことを考えながらリリコに採寸されてます。
立ったままあちこち計られながら口を動かしてます。
もぐもぐ。
この時間は本当は、「神王様に朝のお祈りの時間」に当てられているのですが、本人目の前にして、感謝のお祈りもな
いわよね。
本人に聞いたら、「朝の感謝のお祈り? そんな風習あるんだ?」
なんて言われたら、もうなんか苦笑いしか出なかったわ。
そんな感じなので、リリコが作るドレスの採寸に当てています。
もぐもぐ。
このラククーゲンおいしいなあ。
「アンナ、このクーゲンもう一つ・・・」
「これでおしまいですよ。」
袖丈を計っているので、手が使えないので、アンナに口にいれてもらおうとしたら、そのクーゲンをリックがさらって
いった。
「あ、私の」
食べられるとおもった、私は反射的に手をのばそうとした。
「姫、動かないでっ」
いつもの引っ込み思案なリリコはどこへ行ったのやら。
針をもったリリコは別人のように厳しい。
ブツブツと私には解らないことばでつぶやくリリコは、誰にも止められない。
「はい。すいません」
クーゲンは皿ごとリックにもって行かれてしまった。
リックも朝食まだでしたね。
瞬く間にクーゲンはリックのおなかの中に収まってしまった。
まだ食べたい・・・。
「つぎは、思いっきり息を吸って。」
リリコが巻き尺を胴に巻き付ける。
緊張の一瞬だ。太ってたらしかられる。
すううううううううう。
「とめて」
膨らむだけ膨らんだ胴囲をリリコが計る。
「吐いて」
はあああああああああああ・・・・
「止めて」
また胴囲を計る。
そして、巻き尺をにらみつけたリリコがこちらをみた。
「姫様、お痩せになりましたね?」
「えええ。なにもしてません。」
ちゃんとご飯も食べてるし、病気もしてないし、痩せるようなことしてません。
「これ以上お痩せになると、持ってきたドレスを詰めなくてはなりませんから、特にお胸のあたりを。
気をつけてくださいね。」
にっこりほほえむリリコが怖い。
体型が変わらないようにいたします、リリコさま。
胸からしぼむのか、うっ・・・つらいな。
「姫様、ロムレをお持ちしました。お召し上がりになりますか?」
そうアンナが助け船を出してくれた。
ワゴンの上にはロムレが2つ。
「エリンが作ったもの?」
エリンのロムレなら食べたいなあ。
「エリンのものとここの料理長のものをお持ちしました。
元々は朝食会用に用意されていたものだったようですが。
そのせいで少し冷めてしまいましたが、お味見なさいますか?」
ああ、そういえば昨夜食べ比べるから作れ、とお願いした記憶があるな。
律儀だな、宰相閣下。
「こちらが・・」
私がスプーンを持ち上げて食べようとするとアンナが説明しようとした。
「あ、言わないで、食べくらべてみるから」
まあ、外側見ただけでわかるけど。
一応初めての調理場でエリンが失敗したかもしれないし、先入観なしで食べてみようと思う。
「解りました。」
そういうとアンナは一歩下がって私の手元を見つめる。
私は並べられた二つの皿の右の方にスプーンを入れた。
「あ、こっちが、この国の料理長ね。一応味もみます。」
スプーン入れただけで、わかる。
これはエリンの手じゃないわ。
「良くも悪くも普通ね。アルシェスなら町の食堂でも食べられる味だわ。」
口に運んだロムレからは、ものすごいバターの香り。
卵の味ではなく、ひたすらしょっぱく油っぽい。
これはロムレではなく「バター焼き塩卵まぶし」って感じだわね。
「こっちは、やっぱりエリンね。だってふわふわだもの。
味もおいしいけど、いつもと味が違うような?
何だろう?」
口直しにエリンのほうを口にはこんだ。
ふわふわしていて卵の味が口に広がる。ああ、おいしい。
あれ、でもなんかいつもと違うな。
「調味料がちがうのです。」
私が疑問を口に出すと、エリンがそういいながら部屋に入ってきた。
あの、エリン。なんかご機嫌がよろしくないような・・・。
「あ、エリンお疲れ様。で、どうだった?」
その不機嫌モードのエリンの気を紛らわせるように、声をかけてみた。
その途端眉間のしわがぐっっと寄った。
な、なにがあった?
「どうもこうもありませんよ、姫様。
調理場は汚くてごちゃごちゃ。食材もいつ仕入れたものかわからないほど散らかり放題。
それぞれの料理人が勝手にそれぞれの受け持ちを作るから、統一感なんてものはどこ?
って感じですよ。」
エリンが許せないというようにこぶしを握って力説する。
「ああ、だから昨晩の晩餐はひたすら脂っこい料理が何の関連性もなく出されていた。
ってわけなのね。」
昨日の悪夢のような晩餐を思い出して身震いした。
「厨房で調理しながら喧嘩してるんです。もう耐えられません。
あの厨房で料理したものを水一杯だろうが口にしたくはありません。」
そういってエレンは自分を抱きしめるようにして身震いした。
「そこまで言うなら、食の改善もしなくてはね」
私はそういってメモを取った。
「では、今日の大まかな予定を決めます。」
そう、私が皆に宣言した時にはもう二日目の明光時(AM8:00)を告げる鐘が鳴っていた。
杜もないのに時報の鐘はなるのね。
どこが鳴らしているのかしら?
あとでどなたかに聞いてみましょう。
「今日の予定はもう大分押していますので、少し急いで午前の予定をこなしていきます。
まず、私ですが、今日はこれから輝光になるまではこの国の政治経済及び仕組みの把握に努めます。
明光時半までは採寸及びドレスのデザイン打ち合わせがはいってますが、その間は、お嬢様でおります。
その後は、宰相殿が手配なさっていた、教師についてこの国について学びます。」
午前中はそんな感じよね。
「輝光には昼食。
昼食は本当は王女様ととりたかったのですが、それができないようなので、皆で取りたいとおもいます。
それまでの行動をその時報告してください。
昼食後は、この国の上流階級のお嬢様・奥様方とのお茶会を行いたいと思います。
とりあえず、宛名のないお茶会招待状を5通つくりました。
宰相閣下の奥様をご招待する以外は決めておりませんので、奥様にお伺いをたてて、出席者を決めてください。
これは、アンナ。貴女にお願いします。」
私はそういって、アンナに5通の封筒を渡した。
アンナはそれを見て、確認すると、受け取って礼をとった。
その礼はもうアルシェス風ではなく、フェルナータ風になっていた。
「エリンは引き続き私の身の回りをお願いします。
採寸の間に、できれば図書室で、政治・歴史関係の本を借りてきてください。
あ、これが知りたいのでこれを借りてきて。」
私はそういうと『この国の王女様の秘密について調査』と書いた紙をエリンに渡した。
エリンはその紙とちらりとみるとうなづいた。
「承知いたしました。姫様。」
そういって綺麗なフェルナータの侍女礼をとる。
「リックは採寸の間私のそばに。
そのあとは、少し鍛錬に行きたいでしょう?
エリンがかえってきたら、行ってらっしゃい。
その前に宰相閣下の執務室に寄って、昨夜作った式次第を渡してきてください。
あちらもお待ちだろうから。」
言い終わった私にリックもタンジールの武官礼をとった。
「リック、あなたはまだアルシェス風でいて。その違いを見せつけなくてはならないから」
「了解いたしました。お気遣いありがとうございます」
そういって、アルシェス風にもう一度礼をとった。
「何かあったらすぐに報告のこと。
あ、もう一つ。今日より希望者のみの宮廷マナー講座を暗黒時より1ファブの予定で行います。
教えるのはあくまで『フェルナータ風』ですので、わからない人は今のうちに私に聞いてね。」
さっきの廊下での出来事はもう皆知るところだろうけど、一応報告しないとね。
「大丈夫です」
三人の口から同じ頼もしい答えが返ってくる。
「その時は、エリオットやエレンもできれば参加してほしいと、誰か連絡して頂戴。」
そう付け加えると、私は、皆を見回した。
「はい、見かけましたら。」
「では、何か質問は?」
「ないようなら、今日もみなさんよろしくお願いします」
そういって、最上礼を皆に向かってとった。
それに最上礼を持って返す皆。
こうしていつもの朝のように私の異国生活が始動した。
朝礼です。
アルシェスでは毎日行われているようです。
王子は出てきませんが、まだ寝てます。