1-15(紅)
あまり間をあけずに、投稿でき、て、ないかもしれません。
また、お気に入りが増えており、びっくりするやらうれしいやら。
本当にありがとうございます。
二時間ドラマ風のデザインパクリ事件の開幕編でもあります。
サブタイトルの(紅)につきまして前回の活動報告のほうにいきさつを書いておきましたので、そちらをご覧ください。
えー、実在のドラマによく似た設定の方もいらっしゃいますが、
「あくまで、オマージュ・リスペクト」です。
すこしでも楽しんでくださいますように。
この話のあとに、人物紹介をしっかり見直して間をなるべく開けずに投稿したいです。はい。
なんとか三月中にあと2話くらいは。と思ってます(目標低っ!)
1ー15(紅)
「お休みになられたようですね。」
隣室となっている主寝室からエレンがそっと退出してきた。
「ええ、枕に頭が付く前にはもうお休みのようでした。
よほどお疲れだったのでしょう。」
エレンはそういって少しため息をついた。
「うちの可愛い姫をあれほど翻弄するとは、身の程知らずな」
小声で発せられたはずの悔しさのにじみ出たそのささやきは、この部屋にいる誰もが思っている本音でもあったので、エレンを咎めるより、むしろ同意するかのようにうなずくものが多かった。
「では、これからいかがいたしましょうか?」
アンナが控えの間に集まった面々に向かってそう宣言した。
控えの間には、第三王子でありながら、身分をこの近衛騎士兄弟のエリオットとして同行してきた、ヘルムート王子。
そして、姫にだけその真名を呼ぶことをお許しになっている、神王猊下。
神王猊下より姫に遣わされた、神従である、エレン。
そして、姫の乳兄弟でもある、アンナがいる。
アーシェラーナ姫が先ほど、示したのはだいたいのこれからの概要であり、それを実行に移していくためには、どうしても今コノ場にいるモノたちだけでは、圧倒的に手が足りない。
その上ここは、他国の王城であり宮廷である、下手に動いて外交問題に発展させたのでは、アーシェラーナ姫がここに来た意味自体がなくなってしまう。
それが一番恐ろしいことになる。
しばし、それぞれ黙り込んだのち、神王が口をひらいた。
「とりあえずだけど。
ドレスメーカー事件を君たちは優先すべきだと思う。
長年の案件でもあるし、姫が表立って動けないことだろ?」
一同はその発言にハッと目を見開いて、考え込んだ。
たしかに戴冠式や結婚式なんていう大々的かつ一般的な式典の式次第なんぞ、うちの姫にかかれば、すぐに作っちゃうよね。
もう頭の中に全体の流れも構築済みじゃないかな?(はっきり言って、身びいきな考え方ですよ)
その後、各持ち場の動きや緊急事態への対応や、マニュアルづくり、なーんてのもお手の物だ。
コノ件に関しては、こちらの王子を筆頭に王族は乗り気ではないようだけれど、少なくともコノ国の宰相閣下以下文官は協力してくれそうだ。
ならば、姫はそちらに重点を置いていただいて、周囲がドレスメーカーに関して、対応していけばいい。
元はといえば、アルシェスの宮廷で起きた事件なのだし。
「それは。一理ある。」
第三王子が考え込んだあと、そうつぶやいた。
「アーちゃんもさっき言ってたように、途中経過を逐次報告していけば、アーちゃんとも連携がとれるし、なにより、その負担も減らせる。」
年が近いせいか、妹姫をアーちゃん、といつものように呼ぶ癖が出てきている。
典礼の姫と呼ばれる妹姫は、いにしえの文献にも造詣が深く、なにかというと図書室にこもりがちである。
そんな妹を外に連れ出すのはもっぱら末兄である、ヘルムートの役割になっていた。そのぶん過保護になりがちではあるが。
「姫様にもなにか考えがあるような口振りだしたし、どうせやるならコテンパンにしてやらないと、リリコが可愛そうですし、アルシェスにも傷がつきます。」
と、エレンがヘルムートの意見に同調する。
「では、エレンは、リリコのデザインが出来上がり次第、その手伝いを最優先。それまでは、皆の連絡係をおねがいします」
アンナがそうエレンにいうと、エレンは深くうなづいた。
「どれくらい分けておきましょうか?」
エレンはアンナたちにそう聞いた、つまり人手がどのくらいいるのか、ときいているわけである。
「今はまだ、二人にしておいてください。周囲にはエレンは双子である、と広めておきます。そうすれば城内別の場所で目撃されても、不振には思われないでしょう。そうですね、名前はどうましょうか。」
アンナはそういうと、エレンが自らを裂くのを押しとどめた。
「双子だとするならば、個別の名前が要りますね。」
エレンがそういった。
「エレンとエリンでいいんじゃない?」
神王が何のことはない、というようにつぶやいた。
「まあ、呼び間違えても不思議ではない感じですし、いかにも双子っぽい感じもするし、それでいいですか?
エレン?」
アンナがそうエレンに確認を取る。
「ではエリンと呼ばれても返事をするようにいたします。神王さま命名ありがたく」
そういって神王に礼をとった。
「ごめん、エリン・エレンで別の生き物になっちゃうかもしれない。
ワタシが命名するんじゃなかったなあ。
それでもエレン・エリン、君たちの至上命題は変わらないからね。よろしく」
神王は礼をとったエレンにそう告げると、下げられた頭をかるく撫でた。
いつもクールなエレンが撫でられたとたん、ふんわりと花がほころぶようにほほ笑んだ。
「「存在にかえましても、命題を果たさせていただきます」」
その途端、エレンは二人になって、そこに存在していた。
「よろしく」
神王がそうわかれたばかりのエレンとエリンに声をかけた。
片方が、部屋より退出していった、どちらかが、リリコの手伝いに出かけて行ったのだ。
「さて、神王さまがコノ部屋にいることはどうしましょうか?
先ほどの姫様との会話から推測するに、何日かご滞在なんですよね?」
ヘルムートが、考え込みながらそういった。
同行してきた文官、とでもしますか?
「文官だと、剣もって歩けないから、今のところは随行の近衛師団の一人、ってことでごまかせると思うよ。
ばれるまではそうしておいて。名前はそうだね、リックでいいよ。姫にもそういっといて。」
さらっとそういうと、アルシェス近衛の制服を身にまとった。
今までのよくわからない格好から瞬時にこうも鮮やかに変わられるのはなんど見てもみなれないのか、一同はその変貌ぶりに目を見張って、一瞬絶句する。
「ワタシは楽しくて姫につきあっている。
事実姫の周りではこの3年退屈したことがない。
姫のおかげで、ワタシは楽しい。それで十分ワタシは報われているんだよ。
それを邪魔しないで、オニイサン。」
そういって、神王、いやリックはヘルムートに釘をさした。
「ああ、それから、君の参謀格ってことにしたから、この部屋にも出入りできる。
だけどあくまで君の部下だから、そのように扱ってください。閣下。」
そういって、凄まじく綺麗な敬礼をヘルムートにしてよこした。
「わ、わかりました。いや、わかった、リックご苦労。」
その敬礼を受け流すことになんとか成功したヘルムート。
「あのっ、後で不敬罪とかにしないでくださいよ。
あと、神王猊下としてのお勤めは平気なんですか?
あまり関わりを持ってはいけないって、アーちゃんから聞いたきがするんですけど。」
そういって神王を心配する、ヘルムートもアーシェラーナほどではないが、柔軟でしたたかで美しい存在である。
まだこういうモノが在るからこそ、長い時を神だ王だ、猊下などと祭り上げられて生きていけるのだ。
ワタシが飽きたり倦んだりしたら、バランスが崩れて戦になる。
まだ、捨てたもんではない、それだけでいいのだ。
そう思った神王は心からほほ笑みかけて、ヘルムートに告げた。
「ワタシがここにいることは、意味のあることで、ちゃんと神王としての務めにも合致している。だから余計な気を回さないでね、オニイサン。
それに部下になるんだから、そのつもりで接してくれないとこまるよー。大丈夫不敬にもならないからねー。」
その言葉にふっと場の空気が和む。
「よし、わかった」
ヘルムートがしばし考え込んだあと、膝をたたく。
「君たちは本当に柔軟で助かるよ。」
神王はそう告げる。
「では、神王さま、じゃなくてリックは姫の補佐についてください。」
アンナが場をまとめようと、二人に声をかけた。
「了解」
茶目っ気たっぷりに近衛士官の制服を一部の隙もなく着こなした神王が敬礼をよこした。
「ヘルムート殿下と・・」
とアンナがいったところで、ヘルムートはアンナの言葉を遮る。
「神王さまはリックで俺は殿下なの?アンナ。」
この部屋の中は神王の加護のおかげで会話が外に漏れることはない。
けれで、いつまでも第三皇子と呼んでいては、いつボロがでるかわからない。
「えーと、では、エリオットは、ドレスメーカーの罪を暴くほうを。
エリンが先ほど、エージ・ロフナ・コシに連絡しました。」
さらっと告げられたその言葉にエリオットは息をのむ。
「え?なんで?」
ロフナ・コシといえば、名探偵の代名詞ともいわれている人物で、確実な証拠集めと、たぐいまれな記憶力と神がかり的な直感で事件を2ファブでかいけつに導くといわれるひとである。
「よりにもよって、この詐欺師。彼のパートナーでもある、ナギ・サカタヒラのプロフィールを拝借してまして。」
『アルシェスのナギ』『紅のサカタヒラ』と呼ばれる彼女は、アルシェスの社交界に君臨するドレスメーカーである。
また、ロフナ・コシのパートナーとして、彼の探偵業を全面的にバックアップして駆けまわっていることでも有名である。
ドレスメーカーとしてだけでなく、代々引き継いできたやり手の葬儀屋としても有名である。
「うわ。マジ?」
この二人が本気になったら、きっとどんな完璧な偽装も暴かれ、真犯人を追い詰めるだろう。
そう思って、あの詐欺ドレスメーカーの行く末が容易に想像できた。
「2ファブかからないんじゃないか?」
思わずエリオットがそう呟いた言葉にその場にいる誰もがうなづいていた。
「その上、自分のアシスタントを」
アンナが興奮して続けた言葉に反応したのは、エリンだった。
「まってくださいアンナさん。その先って、もしかして。
あの詐欺師、モミジヤ・マムラーとか紹介してるんじゃ・・」
アルシェス一の有名なアシスタント、ドレスメーカーの事務経理から葬儀屋の助手、そのうえロフナ・コシとサカタヒラの解決した事件をその絶妙な語り口で書籍化して、大陸一のベストセラー作家にまでなったスーパー助手、助手の中の助手の名前まで騙っているとは、バカにもほどがある。
「その通りなのよ。バカでしょ?」
とアンナが肯定したとたん口々にあきれ果てたコメントが口を飛び出していた。
「うわー。バカでー。やりすぎにもほどがあるだろ。」
とはエリオットの感想。
「ばれないと思っている時点で、ばかですよね」
そういって噴出したのは、エリン(もしくはエレン)
「うん。バカだ。」
そういって頭を抱えているのは、リック。
お互いの感想にまたひと笑いしたあとにふとエリオットが我にかえった。
「じゃあ、遠慮なくこの三人のうちだれが来ても一任できるな。で、誰がこの国くるって?」
「みなさんそろって、だそうです」
そうエレンが告げる。
「うわ、マジで。3人そろったところにあえるなんてすごいな」
エリオットが感心したようにつぶやいた。
「ええ、これだけサカタヒラの名前に泥を塗っていただいたのですから、それ相応の代償は払っていただきます。とのことです」
エレンが連絡を取った時のナギの口調を真似して告げた。
「豪華だけど、結果が恐ろしいなあ。また本になるのかなあ。」
リックがそういった。
「まあ、これから急いでこちらに来るとしても5日はかかりますから、それまでにこの件あらかた片づけておかないと、あの一家になにされるかわかりませんよ、殿下。がんばってくださいまし。」
アンナがそういって、エリオットの背中をたたく。
「うわー、俺がんばる。めどたたないうちにあの一家が来たら、「死神とお友達」「彼らが動くとその先に死の香」とか大事になるしね。
悲劇にならないためにもやらなくちゃ。」
そうなのだ、つい先日も失火による火災でなくなったはずの犠牲者が実は10年ほど前の放火殺人犯で、その殺人の被害者の子供が復讐のために彼の手口をそっくりまねして復讐をはたした、という事件の真相を暴いたばかりだった。またその上、被害者のこどもと加害者の子供がお互いの立場を知らず恋人同士だったり、10年前の犯人が実はもう一人殺して山にその遺体を埋めていたり、となかなかにドラマチックな展開となっていたのだ。
「まさか、ケイブ・カリーヤまで来るとか、そんなことはないよね?」
そうアンナが聞いてくる。
ケイブ・カリーヤは第二憲兵隊の副隊長で、主に重大犯罪の取り締まりをおこなっている。
きつい印象を与えるまさに憲兵、という容姿の持ち主だが、じつは手芸大好きで、リリコの作り出すドレスを気に入っており、それを着たアーシェラーナを見つめ続けて、『憲兵隊長が2の姫に横恋慕か?』とかいう噂がたってしまったこともある。
「いや来ないよ。だってもうこっちにいるもん。警護の指揮を執ってもらっているよ。
あと、いつもの黒の憲兵隊の制服じゃなくて、ブルーグレーの近衛の衣装も着せてみたくてさ、連れてきてよかったよ。」
そういってエリオットはほくそ笑んだ。
「うわー。殿下じゃなかったエリオット、二人でバリバリ探ってくださいね。」
「おう任せとけ。」
そうアンナにこたえるエリオットが先ほどから探査に余裕なのは、これだったのか、とその場にいた誰もが納得した。
「じゃあ、リック。妹のことよろしく。くれぐれも無茶させないで。人一倍がんばっちゃう妹だから心配なんだ」
そういうと、立ち上がった。
時計をみると、もう日付の変わる漆黒時になろうとしている。
「オニーサマ、がんばるよ。ワタシの可愛い愛し子の結婚式と戴冠式を絶対にうまくいかせるようにするから。」
そういって、リックは机の上に残された、タンジールの作った式次第を持って、立ち上がった。
「ではお任せします。てか、絶対アーちゃんリックのヨメだとおもってたんだけどなあ」
それの方が兄としては安心できる。
こんなまだ安定とは程遠い国に人質のように暮らすより、神王のヨメになったほうが幸せになれそうな気がした。
だからそう口にしてみた。
「それは、妹姫の今までの努力を否定することになるぞ、オニーサマ。」
真剣な目でエリオットを睨みつける。
今までの気さくな空気が一変する。
「解っている、でも言わずにはいられなかった。」
両手を挙げて降参の意を表しながら、エリオットはリックに言った。
「それにな、オニーサマ。そういう理にはなってない」
リックが真面目にそう返した。
「あの溺愛っぷりでそれはないわー。妹をもてあそんだんだねっ」
そういってまぜっかえしたが、エリオットには神王のその立場ゆえの孤独をその一言から感じ取った。
だからこそ、冗談にしようとした。
「で、溺愛?もてあそんでなんぞらんわー!」
その気持ちを汲んでリックも冗談で返す。
そばにおけるものなら置きたい、そう気持ちのどこかにあるものをごまかすかのように。
「お二人とも。あんまり騒ぐと姫が起きます。
そろそろお開き、でよろしいですか?」
アンナがそういって、出入り口のドアを指さした。
「おっしゃるとおりに、アンナ」
「すまん、アンナ」
姫の生活を仕切る乳兄弟以上に強いものはこの場にはいなかった。
それがたとえ、この世界の監視者であり、運命をその手の上で転がし続けている神王であっても例外ではなかった。
この国の歴史書でのちに賢婦人の鏡、王族とはかくあるべしといわれ、真の貴婦人と語られることになる、
アーシェラーナ妃の政略結婚はこうして混乱のなかで始まったのだった。
エージ・ロフナ・コシ:私立探偵。火災原因の調査も得意。記憶力・判断力・直感にすぐれ、その着手した事件は必ず解決するといわれた敏腕。
ナギ・サカタヒラ:アルシェスのトップデザイナー。行動派でよく事件に首を突っ込む。一時スキー事故で手を麻痺させていたことがあるが、懸命の努力により、いまは完治。
モミジヤ・マムラー:アシスタントの中のアシスタント。知識と量は半端なく、何でもこなせるオールラウンドプレーヤー。なおかつ、サカタヒラとコシの事件のフォローをまとめた小説がベストセラーとなっている。
目鼻立ちのはっきりした女性。
ケイブ・カリヤ:元王都警察今はその腕を買われて憲兵隊副隊長。
コシの事件捜査において重要な情報提供を行っている。
また事件解決の折には、その探査・逮捕をおこない、自らの手柄としている。
人格者のため、反発は少ない。実はきれいなドレス好き。リリコのドレスのフアン。
2ファブ;時間単位。1ファブ=12コニ(約1時間)
2ファブ=1時
12時=1日
各時にはその時にあった名前がついてます。
夜10時~12時までは「過日時」
翌12時~2時までは「暗黒時」
兄:妹を溺愛する存在
神王:偏愛。監視者。そして暇人かも。
エレン&エリン:見分けつかない。書き分けも・・・・・