1-15
また間があいてしまいました。
その間にお気に入りが増えているなんて。
本当にありがとうございます。
やっと姫寝られそうです。(^◇^;
そしてまだ一日目はもう一話あります。
(それが終わったら、人物事典等UPします)
こんどこそもっと頻繁に更新できるよう頑張ります。
それでは、少しでも楽しんでいただけますように。
1-15
さて、応接室から自室に引っ込んだ私、そこで大きくため息を吐いた。
さて、いくら時間があっても足らない状況だけれども、とにかく今夜中にやらねばならないことがある。
「姫様」
アンナがそっと声をかけてきた。
「どうしたの?」
いつもなら、もっとはっきりと伝えてくるのに。と不安そうに聞き返した。
なにかあったのかしら?
「エレンが戻ってまいりましたが、ご報告は明日のほうがよろしいですか?」
もう夜も遅いもんね。
でも今日中にエレンに言わなくてはいけないことがあるし。
「いえ、書類をよみながら聞きます、入れて頂戴」
私は机に向かって、もらったつぎはぎだらけ、穴だらけの式次第を見つめて、
指示を書き込みながら、エレンを待った。
「わかりました、エレン入ってきて」
アンナが別室に控えているエレンを呼ぶ声がする。
「姫様、失礼いたします。」
その声にエレンに向き合っていう。
その間もペンを持つ手は止まらない。
「エレン、お帰りなさい。で、どうだったの?」
あのバカ詐欺師ドレスメーカーにはいつか死よりもつらい目にあわせてやろう。
そう心に決めている。
リリコがされたことを思えば、簡単に殺してしまうのは楽すぎる。
「それが、ですね、あの盗作メーカーは、王妃様のお気に入りだそうです。」
うわー。想像はしてたけど、サイアクだわ。
「まあ、そのくらいは予想できたわ。名だたるこの国の高位の奥様お嬢様がそろってあの恰好ですものね。」
それでもため息が出てしまう。
それならばそれで、その寵愛を利用するパターンで逆襲することにしよう。
「今回の婚礼もアイツがデザインを一手に引き受けるそうです。」
まじかー。採寸されるのもいやだから、逃げまくろう。
そこまで考えた時に、ふといい考えが思いついた。
頭の中で簡単にシュミレーションしてみる。
まあ、今は穴だらけの計画だけど、さっきみんなと打ち合わせた内容ともあまり違わない上に
与えるダメージはもっと大きいはず。
決めた。
「あらあら。それは好都合だわ。」
大損もさせてやろう。それこそボタン一個も手元に残らないように。
さて、まずは、式典参加兵士の制服リニューアルからかな。
デザインから考えさせるか。うん、そこからかな。
「姫様?」
好都合、という言葉にエレンが首をかしげる。
ああ、エレン首の長い美人がそれやると、ライラの花のようじゃないかー。
男なら惚れちゃうぞー。
「盗作の仕返しにはもってこいのアイディアをおもいついたの。明日きちんと説明するね。
で、この国でのアイツの名前とプロフィールはどうなってるの?」
いろいろなつながりを切って、孤立させて、そのあと、借金まみれにして・・・。
私を本気にさせたら、怖いってこと思い知らせてやる。
もうこっちだって詰めが甘かった13の時とは違うんだからね。
「それは、こちらに、書面にしてまいりました」
それをじっくりとみる。
なるほど、いうに事欠いて、まあ、ずいぶんな経歴をでっちあげたもんだわねえ。
こんな経歴があったら、こんな国くるわけないじゃん。
あれ?この経歴・・どっかでみたような。
そう思って、目の前のエレンの顔を見つめる。
「あ、これ」
どう考えてもあの人じゃん。
「姫さまも気づかれました?」
エレンがにんまりと笑う。
ずいぶん深い墓穴を自ら掘ってくれたもんだわ。
「ええ。経歴詐称もここまで来るとあきれるわね
これ、あの人にも知らせてあげて頂戴。すぐに」
「もちろん、もう知らせております。しかしまあ、本当に。バカにつける薬はございませんわ」
この本当の経歴を持つものにこれを教えたらどうなるか考えるだけでも恐ろしい。一瞬あのドレスメーカーに同情しそうになった。
「復讐にはもってこいじゃない。」
あの人に任せておけば、私たちがねちねちと宮廷いじめするよりも早く確実に打撃を与えてくれるだろう。
しかしなんであの人の経歴を詐称したんだろう。バカなんだな、きっと。
「あのバカにいま少しだけ同情しましたわ。」
「エレンはやさしいのね。私は少し楽しみになったわよ。あの人には毎日報告をよこすように言っておいてね」
「どうしてですか?」
エレンが不思議そうに訪ねた。
「途中経過がわかったほうが面白いし、バックアップもできるじゃない。
下手な物語より絶対面白いわよ、エレン。」
「そうですね。」
そういって、ふたりでにやりと笑いあった。
「ありがとう。では、リリコをよんで。」
そういって、エレンへの指示を終わらせた。
「あ、はい。ではお申し付け通りに」
そういって、エレンは下がっていった。
入れ替わるようにリリコが入ってきた。
「お呼びですか?姫様」
だいぶ、ぼんやりして、いつもの引っ込み思案がなくなっている。
「リリコ。あなたにお願いがあるの。
あなたの元の世界で一番私に似合いそうなウエディングドレスを作って頂戴。
私のために、20日間で」
ぼんやりした頭にわかるように、ゆっくりと一語ずつ発音する。
「え?いいんですか?」
言い終わって、2、3瞬後、いきなり、リリコの目がカッと見開いて
私の手をつかんできた。
「もちろん。あなたに作ってほしいのよ。私が一番綺麗に見えるように仕立てて頂戴。
そのために必要な生地や糸なんかは国元から直接おくらせるから、お願いね。」
わたしもリリコの腕をつかんで、ほほえんだ。
「よかった。道中いっぱいデザイン考えてたんです。
何個かデザインが出来上がったら明日の夜お見せしますね。」
無駄にならなくてよかったー。なんてつぶやきながらリリコは出て行った。
もうドレスのことで頭いっぱいなんだろうなあ。
こっちに来てリリコは幸せなんだろうか。
できれば返してあげたいんだけど。
そんなこと言うのも聞くのもリリコには失礼な気がする。
だからせめてあのバカ詐欺ドレスメーカーに報復をしてから。
持ちかけてみようと思う。
その時なら言い出せそうな気がするから。
「あんまり無理しないのよ。ちゃんとご飯と睡眠はとってね」
その背中にそう声をかけた。
「わかってます、倒れるようなことはもうしませんよ!」
指が動いている。
デザインを描きたくてしょうがないんだろうなあ。
自室に駆け戻っていくリリコの背中に苦笑を投げかける。
「ああ、エリン待って。あなたにはあしたの夜までに、今回盗作ドレスを着ていた人のリストアップと、
順次私とのお茶会をセッティングして頂戴。
4日後から10日後くらいまでの風香時・茜暮時の前半までをお茶会に当てます。」
「わかりました。」
「その時、オリジナルの衣装を着ます。違いを見せつけてやるわ
姉さまや母様のドレスの人は、至急デザイン絵から、私用に作り替えさせて頂戴。エリン、4日あれば、あなたならできるわよね」
「簡単ですわ。その間、アイツはどうなさるおつもりで?」
「もちろん、盛大に振り回してやるつもりよ。大損もさせてやるわ。」
「姫様、頼もしいですわ。」
ではエリン、アイツに動きがあったらまたいろいろお願いするつもりですからよろしくね。
「それでは御前失礼をしても?」
「もちろん。エリンたちにもよろしくね。無理させてごめんなさい、とつたえてね」
エリンというのは、一族の名前なのである。
エリンは自分を分けることができる一族で、自分の分身を何人か作り出すことができるのだ。
また、実力によっては20~30人くらいまではつくれるらしい。
あたしはエリンが5人わかれてるのを見たことあるくらいなんだけどね。
分ければ分けるほど、能力が落ちたりするらしいのだが、
私には、あれ?違うかな?くらいしかわからない。
わかるだけでもすごいですと言われたけど。
「もったいないお言葉です。伝えさせていただきます。また代表して、姫様の温情に感謝を」
エリンとあった時といい、リリコと会った時といい、私は本当に出会いに恵まれていると思う。
それだけでもうれしい。
エリンは自分の能力をもっと使ってほしいといったこともあるけれど、
ここ、っていう時に使ってね、と言って、いつもは一人でいてもらってる。
今回は久々に分けてもらうから、ちょっと申し訳ない。
「なんにも私はしてないわ。そういう運命だった、ってことじゃない?」
そういうと、ふんわりと大輪の花がほころぶようにそれでも少し泣きそうな顔で笑ったエリンは退出していった。
「さて、アンナ。杜の準備をしてくれるかな?」
残されたのは、乳兄弟でもあるアンナ一人。
そのアンナに向き直る。
「それが・・姫様・・・」
とアンナが頭を抱える。
「じゃーん!!!きちゃったー!」
アンナの目の前に押しのけるようにして床からまさに生えて来たのは、噂の神王猊下。
うちの国城では、どこでも神様と呼ばれる世界の規律を守る唯一にして絶対の存在、杜の主、孤高の方
なーんて呼ばれてるらしい。神王様だった。
その呼び方はこの目の前にいるおちゃらけた男と同一人物のことですか?って言いたくなる。
もう一人神王猊下がいるんじゃ?と思わせるほど、ちがっている。
どちらが素かといえば、こっちなんだろうね。
しかしせっぱつまっていたとはいえ、4年前のあたし、なんで神王にあんな手紙かいちゃったんだろう。
若気の至りなんだろうなあ。
「えー、エルリック。その登場の仕方はなんなの?
そして頭の上から体中にグルグル巻いてあるそのリボンはなんなの?」
ぴったりとした「でにむのぱんつ」を穿いて「かわじゃん」という釘の刺さってる上着を着ている。
リリコのいうことには、リリコのいた所のある地方の民族衣装らしい。
今の神王猊下のお気に入りのスタイルだ。理解不能である。
そのうえから赤いリボンで自分をぐるぐる巻いてある。
そして頭のうえで大きなリボン結びになっている。
これが神。いつもまともじゃないけど今日は全く理解不能。
「リリコの国では、夜中親しい異性の部屋を訪ねるときにこうすることがふつうなんだって」
そういって私に近づいてくる。
「嘘をつくな」
わたしは目の前でピラピラと揺れているリボンの先を引っ張ってやった。
「てへ☆」
はらりとリボンが足元にたまる。
「てへ、じゃないわよ。で、なんでここに?」
そのリボンの端を持ったままだった私は、それを手に巻きつけながら片づける。
「僕の小さな努力家さんが困ることになりそうだから、手助けにきたんだよー」
さらっと先のことを言うこういうところはやはり神なんだろう。
アドバイスもくれない。
ただ抽象的な事実を突き付けてくるだけ。
それが神王の神王たるゆえんなんだろうね。
だから私はエルリックに頼らない。頼ってもたすけてくれないし。
彼が言うのは事実にしかならないし。
「どうやって?」
助けに来るねって破格だね。
めずらしい。
そういってやろうと思ったけどするっと流した。
「まず、結婚式に臨席してあげてもいいし、杜も置いてあげてもいいかなー?
って、この国の王子様に教えてあげるため?」
それだけでも十分助かる。
時間が短縮できるし。私が本当に神王と交渉できる立場だって知らしめることができるし。
感謝をしようとしたら、
口元に人差し指をあてて首をかしげてる、エルリックがいた。
こいつは・・・。
「首をかしげるな、大の大人が」
私はその首を元の位置に戻そうと手を伸ばした。
その瞬間屈んでいた背をのばしやがった。
くやしいいいいいい。おっきいからってずるい。
「えー、かわいいでしょー」
逃げた上にまた逆に首を傾げやがった。
「そんなでかい図体してかわいいを目指すな」
そういって、脛をける。
「かわいいが似合う努力家さんがかわいいをしてくれないから、僕が代わりにやってるんだけど」
そういって私の頭をなでる。
髪の毛を指先でもてあそぶ。
これをしてくるってことは、またアレなんだろう。
私なんかで遊ぶより、姉さまとかのほうが似合うとおもんだけどな。
それを言うと、
『嫌がっているのにやってる、っていう感じがそそるんじゃないか!それに最初に何でもします、って言ったのは君ですよ。』
そりゃ、言ったけどさ、こんなことが代償になると思わないじゃない。
それでも内心ため息をついて、エルリックを見上げる。
「明日は、エルリックに、『超絶可愛い』をさせてあげる。だから普通に話して。お願い」
神王猊下に何かをしてもらうには、代償が必要。
それは神王側できめること、願いをかなえてもらう方には、なんの選択肢もない。
それでもいいなら、心から願って、手紙をだすのだ、彼に対して。
11歳の時の私はそれをした。
そしてこの変態に気に入られた。
そして願いの代償が、「いつでもエルリック相手をする」なんだよねー。
なんなんだろう、このお手軽な代償。
この人の最近のお気に入りは私を着せ替え人形かなんかだと思っている。
でも私は着せ替えをされるのが好きじゃない。
だって私はいつでも「かわいい」で「綺麗」でも「美しい」でもないんだもん。
だからかわいいはあんまりうれしくない。
それでもこれだけ私のために気まぐれな神王が何かしてくれるというならば、
そのお返しに、かわいいをしてあげようと思う。
神だからといって、頼りっぱなしはよくないしね。
「ほんと?髪編ませてくれる?」
そういって指をわきわきさせている。
もうなんでもいいや。なげやりな気分で是の返事をすることにする。
「いいよ。でも「昇天ペガサス」はやだよ」
一度やられた妙な髪形はものすごく不評だった。
「まだ早いかー」なんて、つぶやいていたけど。
なにが早いんだろうね?
「あれは可愛いじゃないもん。やらない」
重いし、バランス悪いし。
「ならいいか。」
それなら奇抜なことにはならないだろう。と安心して許可した。
「見上げると首痛い。座って。」
そういって、神王様の前に椅子を差し出す。
「はーい」
その椅子に座ってもまだ大きいけど、だいぶ顔が近くなった。
「えーと、タンジールにふさわしい結婚式と戴冠式をしたいんだよね。」
神王様のほうから、言ってきた。
「うん。あと料理がサイアク。油まみれなの。」
思い出して、眉をひそめた。
「うわー。それは僕も食べたくないなあ。」
以前から付き合いがあるエルリックはこってりよりあっさりのほうがすきなようだ。
「で、エルリック。あたし宛に手紙書いて。神王仕様の。」
そういってエルリックにお願いする。
「なんて?」
また首をかしげる。
くっそー。男のくせに美人すぎ。
ずるい。
「わが愛し子の式に列席したいこと。ただ神王の執務の都合上、どうしてもあと30日後にしてほしいこと。
それから、神王の食事は油分を減らすこと。詳しい神王用の食事については、アーシェラーナ、我が愛し子に申し渡してあるので
それを用意してほしいこと。できれば列席者は同じ食事をとること。
杜の設置については、列席が決まり次第仮置きをするが、常設にはしない。
常設については、アーシェラーナへの結婚祝いとして特別に許可するが、
彼女がもしこの国で不当な扱いを受けたときは直ちに杜を閉鎖すること。」
わたしはすらすらと要求を伝えた。
かなり踏み込んでいるけどだいじょうぶかなあ。
そういってちらっとエルリックをうかがう。
「そんなもんでいいの?」
あっさりとエルリックは書いてくれるようだ。
「ほかになんかある?」
私がエルリックに聞く。
「ヨメにいっても気軽にあいたいんだけどなー。」
私をちらっと見る。
「あたしもー」
あたしだってあいたいよー。
「じゃあ、その辺も手紙に書くかな。「いつでも好きな時の面会権も要求」、と。こんなもんかな」
ひらりと私の手元に神王の手紙が落ちてきた。
「すごいきれいな手紙。形式も文字の綺麗さも完璧。」
「おほめにあずかり」
綺麗な礼をとる。
さすがだなあ、と見とれていると。
「あーしぇえええ。会えなくてさみしかったよおおおおおおおお」
がっしりと抱きつかれてしまった。
ちょろちょろ3日に一遍は会いに来てたもんね。
神王ってそんなに暇なのかとおもってた。
「く、くるしいいいいい。」
暴れようかと思ったらもちあげられてしまった。
そのぶん、腕があたるところがくるしい。
足をばたつかさえたらようやく緩めてはもらえたけど。
今度はずっと頭なでなでされている。
「君みたいな面白可愛い王族なんて1200年ぶりなんだもーん、もっと僕にかわいがらせろおおお」
そういうと勢いよく髪の毛をまぜはじめた。
うえええん。首いたい。
「ぐりぐり髪をまぜるなああ。」
そういってこんどは、下っ腹にパンチをかました。
「すぐ治せるから。神だけに」
そういって、こんどは指をぱちんとならした。
途端にしわひとつないドレスと
きちんと、整えられた髪の毛がもどってきた。
「だじゃれなのかああああああ」
そういってまたポカポカとエルリックをたたく。
こうなると神もへったくれもない。
兄みたいなもんである。
「えりーーーーーーーっく!姫様はそろそろお休みの時間です。」
ふざけ始めたところで、アンナが止めにはいった。
「アンナぁぁ。ありがと」
疲れ果てた私がアンナにすがる。
「明日かわいいするからね」
エルリックが念をおす。
「いいよ、楽しみにしてる。」
可愛いもまあ、楽しい時もあるし。エルリックと遊べるのはたのしい。
「じゃあお休み。」
そういって、エルリックはあたしに手をふった。
「また明日ね、エルリック。」
「アンナもお休み」
二人に手を振る。
そうして一人寝室にはいる。
「お休みなさいませ、姫様」
寝室に向かう背中に声がかかった。
寝室に入ると、エリンが待っていた。
サパーを脱がせてもらう。ベットにおいてある寝巻に自分で着替えると、ベットに潜り込んだ。
頭の位置を決めるころには眠りに落ちていた。
怒涛の1日がようやく終わりを告げた。
居間に残した、この国の式典次第案については、すっかり頭の中から抜け落ちてしまっていた。
エレン:人外です。自分と同等の能力をもつものを最高30ほど作り出せます。
プラナリアみたいですね。分割すると若干能力が落ちます。
分けたものは大体三日くらいで、本体に戻ります。
神王:エルリック。変態。アーシェラーナをかまい倒すのが現在の趣味。