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1-12

これから楽しい悪だくみの時間ですよー。

1-12


私はウチの国から連れてきた騎士の手慣れたエスコートを受け、控えの間から退出した。

王子の心のこもらないいい加減なエスコートから解放されて、ふんわりと心からの微笑みを浮かべて、我が国の近衛騎士を見上げ


た。

そしてきびすを返すとそのまま部屋を出て行く。

今までのエスコートが嘘のように滑るよう足に羽根がついているようにかろやかに歩いて。


ああ、歩きにくかった。

どんな場合でも優雅でいられるようなレッスンは受けていても、やっぱり、歩くときにこちらを気遣ってくれる人とのほうが歩き


やすいのは当たり前だし。


廊下に出た途端大げさな位肩の力を抜いて見せる。


「疲れたわ。」

母国語に戻して、きらっきらの笑顔で近衛騎士を見上げた。


「姫、まだこちらは廊下ですが?」


すこし困ったように、騎士が私をたしなめる。


「わかっているわ、だからアルシェス語にしたじゃない。

きっとこちらの方にはわからないわよ。」


そう言っていたずらっぽく笑いかけた。


「そうですかね?」


「きっとそうよ。もうフェールナタ語を使うのに疲れたわ、だからお願い。」

私は騎士に甘えるように見上げた。


「わかりました、姫。」


部屋までの廊下は公共の場所だけれど、お構いなしに、私は騎士との会話を始める。

先ほどまでの王子とのこわばった表情が嘘のように楽しそうにゆっくりと歩きながら会話を楽しむ。


「ねえ、エリオット。今日の晩餐はどうだった?

貴方にもきちんとご飯は出たのかしら?」


最初から最後まで脂っこい料理を思い出しながら、私は騎士を名前で呼んで一層親しげに話しだした。


「我が姫。わたくしにまでお心を砕いていただけるとは、なんとお優しい。」


そう言ってはぐらかすけれど、エリオットは、あまり脂っぽい料理は得意でないはず。

いつも魚メインだし。



「で?口にはあったのかしら?

私にはすこし脂が強すぎて、量が多すぎたわ。お酒となら丁度いいのでしょうね。」


思い出しながら、そういった。

たしか2~30年前位の宮廷料理の流行が、今日のようなこってり、もっさり系だった気がする。

味付けも、その頃のままだし、きっと2~30年前にどこかの宮廷で出されて、それが宮廷料理として定着したまま。

ということなのだろう。


こんな料理、もし神王さまがいらしたときにも出したら、神王さま、そのまま帰っちゃうわ。

だって、神王さまの最近のお気に入りは「絶海の孤島風」ですもの。


あ、でも今日の料理に、絶海の孤島の神秘の調味液、ソイソーをかけたら少しはさっぱりするかも。

パンズーとかだともっとおいしいかな?でも酸っぱいからどうだろう?


「そうですね、わたくし自身は肉より魚を好みますし、ソースが単調ですこし飽きました。

警備中ですから、酒で流しこめませんし。」

そう言ってエリオットはすこし表情を曇らせた。


料理の多彩さは、やっぱり実家のほうが断然あるし、王家ではそのうちでもかなりな種類の料理を宮廷料理に取り入れている。

神王様もウチの料理が気に入ってたなあ。

今度来る時はコナモン持ってこいとか言ってたわね。


「そうかー。お互い大変な思いをしたわね。。

私も給仕に、『ソイソーを。』とか言いそうになったわよ。」


そう言って微笑みかける。


「確かにソイソーのほしくなる味付けでしたね。

わたくし的には、メイタイのソースも捨てがたく。」


メイタという赤い実からできる、酸っぱくも甘いソースも最近「絶海の孤島」から伝わってきた調味液だ。

お子様から老人まで、今のアルシェスのトレンドは、メイタイソースの料理である。

卵から野菜までなんでもイケると評判である。


「そうね、クステーソースでもいいと思わない?」

クステーソースとは色々な野菜くずと香辛料を煮込んだソースである。

その色が茶色いため、最初は敬遠されていたが、コナモンとの相性がいいため、人気が上がってる。

これも絶海の孤島からの輸入品だ。


「クステーは思いつきませんでした。さすが姫。」

そう言って、エリオットはすこし、その味を想像してほほを緩ませた。

そういえば、エリオットは目玉焼きクステー派だっけ。


私はソイソー派なんだけど。


「そう言えば、姫?」

なにか思いついたように、エリオットが立ち止まる。


「なにかしら?」

エリオットが意味のない行動をすること自体珍しい。

なにかあったんだろうか?


「すっかり言い忘れておりましたが、今日のお召し物、本当にお似合いです。

春の女神のようです。ですが・・・少し袖口が。」

メモ用紙を一杯取り出したからなあ。袖。すこしほつれたかなあ?


「ありがとう、エリオット。」

痛んだ袖口をエリオットが腰のサッシュを外して隠してくれた。

そこまで痛んでないのに。やさしいな。

だから私はエリオットが大好き。


「いえ、姫のためのわたくしですので。礼など。

お部屋の中までエスコートさせていただいても?」


そっか、もうお部屋かあ。

うまいなあ、エリオットこっちも色々な演技を忘れて楽しんでいたのに、ちゃんと打ち合わせ通りだわ。


「もちろん、少し話し相手になって頂戴。

このサッシュも返さなくてはいけませんし。」


そこで言葉を切って、扇をゆっくり広げてわざと小声にした。


「ここの王子様は、話題も少なくて、しゃべり足りないの。」


そう言って扇を閉じると、エスコートのために預けた手に力を込めた。


「では、お付き合いいたしましょう」

エリオットは、その手の上に自らの手を重ねて、私をリードする。

私たちは、そうして割り振られた部屋の中に消えていく。

もちろん、今までの会話は、周囲の者に聞かせるようにしているのだ。


エリオットと怪しい関係、なんてありえないからー。

私まだ15歳ですし。

その上、エりオットって呼び捨ててますけど。このある意味胡散臭いまで理想の騎士様は、わたしの小兄様ですし。


身分を隠してこの城に潜入中です。

エリオットってのは、小兄様と同じ年の従兄の名前でして。

近衛に配属されているのですが、ぱっと見よく似ているのです。

中身は、小兄様とは違って朗らか系の癒しの騎士様です。

あ、兄様が癒されないって訳ではありませんよ。

小兄様は、頭脳系たくらみ系です。



これから私の部屋で、いちゃいちゃしているように見せかけた作戦会議ですわよ。

本当は、客用宮殿に長居してはいけない騎士が、私の部屋にいてもおかしくない状況を作らなくちゃいけないのだもの。

子供騙しでも、少しお芝居をしなくちゃね。



私は部屋に帰ってもやすめないのかあ。

今頃あの酔っ払い王子は、寝台でぐっすりなのかしら。


せいぜい悪夢でもみてうなされるといいと思います。本当に。








「絶海の孤島」調味料メモ

ソイソー=しょうゆ

バンズー=ぽんず

メイタイ=トマトケチャップ

クステーソース=ウスターソース


絶海の孤島はなにやら神秘の香り。

実は・・・・・

という話はまた次で。

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