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お久しぶりでございます。
実は書きすすめていたら二時間ドラマなみのサスペンスになってしまい、
それはどうかと思い、やめました。
もし需要がありましたら、IF、番外でUPするかもしれません。
さて、宰相閣下がいなくなってしまい、お話し相手がいなくなってしまいましたわ。
となりの王子様を見れば、どんどんグラスを干してまだお料理3品目だというのに、
ボトル3本目なんてどれだけお酒強いの?
それとも若さにまかせてガンガン飲んで、地位にかこつけて暴れても隠ぺい?
どっちにしろ、この残念なマッチョ王子は、自分の地位におぼれている気がして少しヤバイ気がする。
この王子で実質3代目だというし、色々固定化した権力と不満分子が摩擦をおこしてもおかしくない。
そんな過渡期にあるようなあやうさがある。
こんなザッチョの巻き添えで断頭台とか幽閉とか冗談じゃないからねえ。
せいぜい平凡な王とかそこそこかしこい王になっていただかないといけないよね。
うん、自分の命かかっているし。
なんとか調教・・・じゃなかったしつけ・・でもなくて。
ええと。ああ、お勉強していただきましょう。
さて、そのためにも、この残念な王子様との会話を成立させなくてはね。
「あの、王子。今お話をしてもよろしいでしょうか?」
私はにこやかに丁寧に話しかけたが、王子は傾けたグラスから口を離そうともせずにこちらを見た。
なんだか、一々態度悪いわねえ、このザッチョ。
「なんだ。」
グラスから少し口は離したが、まだ手はグラスを握ったままだ。
やっぱしコイツ、作法を仕込まれてないんだ。
一人息子のボンボンだものねえ、仕方ないか。
なんかあれば逃亡で済ませてきたんだろうなあ。
「色々とお伺いしたいことがあるのですが。」
私はそれでもにこやかに淑やかに話を続けた。
非礼にも礼儀で答える、相手のレベルに落ちたら負け。
マナーの教師の厳しい格言を胸の中で言い聞かせて態度をかえなかった。
「俺でわかることなら。」
面倒くさそうに、言い放つ王子。
まったく、私はあんたの臣下ではないっ。
臣下だとしてもこんな態度をとる者に心から頭を下げられるもんですか!
この国の文官は不幸だわねえ。
あのロマンスグレーの宰相閣下に同情した。
ウチに連れて帰ろうかしらー。
「この国一番のドレスメーカーを御紹介くださいませんか?」
とりあえず、おばかな振りをして、女なら誰でも興味を持っていると思われる、
おしゃれの話題を振ってみた。
たくさんの美人さんと浮名を流していた王子のこと、
こんなにひどい劣化コピーしか作れないドレスメーカーよりいいところを知っているかもしれない。
「なんのつもりだ」
そんなにイライラしなくても、この話には裏の意味なんかありませんわよ。
「戴冠式をするのなら、この国のドレスを身にまといたいのですが。」
国民受けは大事ですもの。
民族衣装っぽいドレスを仕立てたいものです。
こちらは毛織物が盛んだといいますし、そういう生地を使って民族衣装をベースにしたドレスをリリのアイディアで
作りたいものです。
「俺はよく知らない、侍従にでもきけ」
はあ、そうですか。
会話を続けようという気にもなりませんか。
それならば、こちらにも考えがありますわよ。
世間話が嫌なら、本題にはいろうじゃないの。
覚悟しなさいよ、ザッチョ。
「そうさせていただきます。もうひとつよろしいでしょうか?」
私は手元にあった扇を口元に寄せる。これで唇は読めない。
丁度次のコースの配ぜんのタイミングで、声も拾えないほどざわついている。
「なんだ、手短にな。」
またグラスを傾けやがったな。
手短にするが手加減はしない方向でいくよ。
「では手短に。
私は隣国の王女です、そなたごときにそのような無礼な口を利くのを黙っている訳には参りません。」
そう言って、軽く扇でグラスを持つ手をはたいた。
「なにをするっ」
酔いと奇襲によって反応できず、手をはたかれた王子は、私を睨みつけた。
「何をする、は私の台詞です。
まだ、私の身分は隣国からの客です。
客に対してそんなぶっきらぼうで、適当な対応をされて、不快にならない者がおりましょうか?
確かに私は、殿下が見なれた美人とはほど遠いとは思いますが、少しは真面目に私といえ、私が来た理由と向き合ってもよろしいのではありませんか?」
まったく、こんな気持ちのままにふるまう王族なんて、百害あって一利なし。
早く革命でもして転覆しちゃったほうがいいよ、ロマンスグレーが素敵な宰相閣下。
すこし、ぎゃふんと言わせてやるか、
いままで誰にも厳しくされたことなさそうだなあ、この王子。
坊やなのね、こんなでっかい図体して、なさけない。
「この、無礼者っ」
そう言って私の扇を持った手をすごい力で握りこんだ。
痛いなあ。アザになりそう。
それでも私は、王子を挑発するのをやめなかった。
この王子が自分とこの国をどれほど理解しているのか知りたかったから。
「腕をへしおりますか?殴りますか?幽閉しますか?いっそ切殺します?
好きにすればよろしいですわ。
その代わり、二度と諸外国には相手にされないでしょう。
確かにこの国は武力もあり、今は勢いもありますから、諸外国も静観しておりましょう。
しかし、どんな力もいつかは衰えます。
北の武王と異名をとられていた、国王陛下が弱られた今は、諸外国には好機。
いつでも虎視眈々と狙っている勢力が何処にでもあるでしょう?
そこで、歴史ある隣国の姫に大事があった。
なんてことになったら、もうどこの国もまともに交渉しようとせず、
同盟でも革命誘発でも暗殺でもして、この国をまた戦乱に戻し、あわよくば自分が覇者に。
と思うでしょう。
受けてたたれます?
御立派ですわ。しかし実際に戦う兵士やその家族のことを考えられてますか?
王子が、身勝手な理由から隣国の可憐な姫を粗略に扱ったために戦になったのだ。
と聞いて、兵士の士気が揚がりますでしょうか?」
そこで私は一度話を切って、王子をにらみつけた。
震える手を隠しながらグラスを持ち上げ水をゆっくり飲み込んだ。
そうしてふんわりと微笑んで見せた。
ここが正念場。この国にはそろそろ武だけでなく分をわきまえることを知らなくてはならないのだ。
多分、国元で世界各国のマナーを仕込まれたのはそのため。
それが私がここに来た理由。
帰ってきてもいい、と父も兄も言ってくれたのは多分、私でこの国を試すため、なのだと思う。
「私にだけではありません、これから様々な国の方が外交のために、偵察のために結婚式を見に来ます。
その時今のような態度を取られ続けるのなら、この国は長くない。
弱みを見せた途端攻め込まれて内乱へと逆戻りでしょうね。
そうならないためにも、王子にはぜひとも外交マナーを身につけていただきたいのです。
戴冠式のある10日後までに。
外交の場で、知らないは通じないのです。
足もとをすくおうとする者どもからこの国を守るためです。
戦場で盾を持つようなものです。
嫌でも覚えていただきます。
もう王国と神国から認められて20年になろうとしているのです。
いい加減、馬鹿にされていることに気づかれませ。
この国一のドレスメーカー、どう見てもコピーが得意なだけの2流以下ではありませんか。
それも、たぶんわたくしが不快になるのを知った上で、我が国で昔流行ったドレスを似合わない方に着せるなんて。
それこそ、この国が成りあがりであると言っているようなものでしょう?」
一気にしゃべって疲れたので息継ぎのためにすこし、間をおいた。
その間に、王子がまた私の手を圧迫する。
ああ、ヒビぐらい入ったかも。
「この・・・」
もう一方の手で私の肩をつかもうとする。
その手におびえるように私は大げさに身をすくませる。
上座にある私たちの席は招待客から丸見えだ。
もしこんな衆人環視のなかでの暴力などがあったら、この国の信用は地に落ちる。
ここには各国大使の姿もあるのだから。
視線に気がついた王子は私の手首を離した。
「さあ、怒るならどうぞ、大声で。
貴方のその図体で、私のような小柄な女を殴りますか?
いいでしょう。その時は周辺国家との全面戦争を覚悟なさいませ。
私は、それだけのものを背負ってここに参りました。
あなたの一時の怒りと平和と、どちらをおとりになりますの?」
私は、痛む手首をさすりながらもう一度、王子を睨みつけて言い切った。
ドレスに隠れた足はガタガタと震えている。
それでも、私は目に力を入れるのをやめなかった。
「小娘のクセにっ!
俺がどれだけ努力していると!!」
でたよ、『僕ちゃんは努力してるんだ』アピール。
そんなもん、身についてなくては、なんの役にも立たないのだよ。坊や。
「仮にも隣国の姫を小娘呼ばわりとは。私が努力していない、とでも?
それに努力なら誰でもするものでしょう? 結果が伴わない努力など、無駄でしかありませんわ。」
私は、馬鹿にした口調で切って捨てる。
努力なんざだれでもしてるわ。
「なんの力もない小娘如き一人や二人いなくなったところで、外交問題などになるものか!」
おや逆切れですか、いいでしょう。
こいつは使えない、それだけの小さい器だ、と思われるだけだし。
「あら、お忘れですの?
わたくし、こう見えても、神王陛下の儀式にもアドバイスを求められるほどの、
『典礼の姫』なんですのよ。いなくなれば諸外国の各儀式が滞るといわれるほどの。」
私は、とてもかっこいい神王陛下を思い浮かべながら、シャンと背筋を伸ばして受けてたった。
「それがなんだというのだ!!何の力もない女ではないか。事故が起これば人は簡単にしぬものなのだ。
そうだ、事故はいつでも起こりうる。」
そうきたか、私を暗殺するってー。
神王さまー、キコエマスカー。
「まあ、直接的な脅しですこと。
まあ、わたくしが今事故に遭ったとすれば、もっと事態は悪くなりますわよ。」
私は今まで張り付けていた、可愛らしい微笑みを一瞬で消しさって、扇で顔を隠した。
「なにを・・」
ぼっちゃんには、まだわかりませんかー。
「あらー。それもわかりませんかー。説明します?
では、簡単に。
まず内政的には、王妃の座を狙って各貴族の争いが激しくなります。
もう諸外国で王女を送ろうという国はないでしょうからね。
下手すれば有力貴族の間で小競り合いがおきるでしょうねえ。
特に貴方の姉上様が嫁いだ先なんかは、自分の子を世継ぎに、とかで、暗殺まで企ててくるかも?
外交的にはまずアルシェスとの関係悪化は避けられません。
塩を禁輸にされるか、少なくとも値段は倍以上にされますわねえ。
その上、いまはほどほどにこちらの友好国である、東の大国コノレアともぎくしゃくしますわ。
わたくしのすぐ上の姉が嫁いでおりまして、いままで10年以上恵まれなかった世継ぎを姉がなしましたもの。
姉がわたくしの不幸に黙っている訳ありませんし。
そうそう、神国からも冷たい仕打ちをうけるでしょうねえ。
わたくし、神王さまの覚えめでたき典礼の姫ですから。
この呼び名も神王陛下直々に付けてくださったのですのよ。
あ、そういえば、殿下はまだ、神王陛下にお目通りできていらっしゃらないのでしたっけ?
わたくしに事故なんかあれば、一生無理でしょうね。
そのほかにも色々ありますが、おききになります?」
わたしは指を折りながら、一々この国の傷をえぐってみせた。
確かに武力はすごいが、所詮なりあがり、がこの国の対外的な評価だ。
金を積んで神国になんとか国家としての承認を受けたが、その加護を受けるまでは至っておらず、
出先機関でもある、杜も作られていない、中途半端な扱いを受けている。
金で名は少しは売るけど、実は売らないよ、っていう神国の態度があからさま過ぎて少し笑える。
ようやく今回の婚礼(相手がおきにいりの私だから)によって神王の御臨席があるかも。
そうすれば、杜も作られて、やっと普通の国家になれるかも。
と国民が盛り上がっているところなのだ。
私にもしここで何かあったら、神王の御臨席どころか、国家承認も危うくなるかもなのだ。
また、この地に昔あったフェルナータ前王家が滅びてから120年余り、この北の大地は群雄割拠で戦続きで疲弊している。
ようやく訪れた統一国家による平和を簡単に崩せば、民が黙ってはいないだろう。
戦による汚れを神王の加護で消しさり、少しでも大地の恵みを取り戻さなくてはならないのだ。
そのためにも、私という存在がないと、神王の加護さえどうなるかわからないのだ。
さて、それでも私を小娘と侮るなら。実家に帰らせていただきますわ。
私は百面相をしながら私を威圧する、でかくてうっとうしい王子の視線を扇でハタキ落としながら、
ようやく運ばれてきたまたも脂っこい料理に手を付け続けた。
しかし、さっぱりしたサラダが食べたい。
私は心の中でもたれる胃をさすりながら笑顔で食事を続けた。
王子は、益々グラスを傾ける。
そのこう着状態のまま、楽しいお披露目の晩餐会は終わった。
手を引かれながら、入場の時よりは、ゆっくり目になったエスコートで退出できた。
まあ、酔っ払っているから、早足にならなかった、ってのがせいかいなんだろうけど。
控室で、投げ捨てるように手を離された。
それに対して、冷たい視線をやるだけで済ませた。
もう、コイツには、マナーのなにも期待するもんか。
ゆっくりと綺麗な礼をとり、
「お先に下がらせていただきます。お休みなさいませ」
というと、迎えに来た騎士の手をとり控えの間から出て行くことに成功した。
はあ、ようやく部屋で休める。
背後で扉が閉まった時、私がそう思ったとしてもだれも責められないと思う。
でも、まだこの長い夜は終わってくれなかったのだ。
サスペンス(笑)では、ザッチョのところのコピードレスメーカーが伊豆(!?)の断崖絶壁で「こないでっ」ってやるところまでプロットという名の妄想が進んでました。