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25 物と人

 制圧が完了した。

 付喪神教の集会場は完全に政府の管理下になった。

 構成員が護送される前に、納戸は拘束された煤払いに最後の問いをかけた。

「お前は忘却物装備に無理をさせて、心苦しくはなかったのか?」

「私は笑いにきたのですか?」

「純粋な疑問だ。特殊忘却物装備は共感によって使えるものだろう。お前は確かに感情移入していて、あの装備もお前に応えて力を貸してくれていた。答えてくれ、心苦しく思わなかったのか?」

「……理想のためなら、私の心に価値はありません」

 その言葉を最後に、護送車の中に消えていった。それが最後の1人だったようで、エンジンが音を立てて動き出した。

 去っていく護送車と入れ違いになるように、現場に見慣れたワンボックスカーが乗り込む。

 運転席から今北課長が降りてきた。

「お疲れ。聞いたぞ。煤払いを制圧しきったらしいな。大金星だ」

「あの液体を使わせなければ、別に格上というほどでもなかったですよ」

「なんでもいい。よく怪我せずに頑張ったな」

 真正面から褒められるのは、なんだかむず痒い。

「はい。頑張りました」

「7課に戻るぞ」

 ワンボックスカーには他に誰もいなかった。

 初めて助手席に座り、帰りの景色を目に入れる。

 せっかくの機会だと思い、ここまで溜め込んできた疑問を口にした。

「今北課長。どうしてここまで私の肩を持ってくれるんですか?」

「それは、前にも言ったが納戸くんと同じ経験をしているからだよ。同じ経験をして欲しくないと思ったんだが…結局はあまり力に慣れなかった。すまない」

「謝らないで下さい。今北課長は充分すぎるほど手を貸してくれました」

「そうだといいんだが…」

 車内はまた静かになった。

 まだ聞きたいことがある納戸は、また沈黙を破った。

「今北課長はどうしてこの仕事を続けているんですか?」

「それは…そうだな。向いてるから、という理由が1番だろう」

「そうですか」

「続けるモチベーションがなくなったのか?」

「いいえ。ただ、忘却物に対して考え方が変わりました」

「処理する以外にも出来ることがあるのかもしれない。か?」

 心を読まれたかのようにピンポイントな言葉だった。

 驚きを口にする。

「どうして分かりましたか?」

「同じ経験をしたからな。結論から言うと、今の社会では犠牲者が出るよりも先に処理することを優先するしかない」

「そう…ですよね」

「他に考えがあるのか?」

「忘却物が隣人になるにはまだ遠いんですね」

「私は絶望的な話ではないと思っている。納戸くんはどうかな?」

「私もそう思います」

 言葉はそこで終了した。

 納戸は窓の外に目を向ける。夜を照らす光景に、忘却物のことを思った。

 忘却物は道具だが、心がある。忘れられた悲しみを背負って、人とは異なる本能で生きている。

 人間社会において、それらは責任を背負うことはない。

「いつか忘却物が、忘却物自身で責任を持てる世界になるといいな」

 世界に投げかけるように、そう口にした。

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