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明日5話更新します

終わりまで駆け抜けますので、よろしくお願いいたします

「いや、信じるよ。出来るだけ分かり合いたい」

「甘いね。別の生き物…僕は生き物ですらないのに」

「構わない。そんなことに意味はない。俺はヘルワと話したい」

 ヘルワは長い三角帽子を外して、テーブルに置いた。

 銀に紫が混じった髪の毛がふわりと広がった。

「なら名前を教えてよ」

納戸海鈴(のとかいり)

「そう…海鈴か。よろしく海鈴」

 名前を初めて名乗ったことを恥じた。だが、ヘルワはどこか楽しそうに名前を呼んだ。

「それで…そうだね。海鈴は大切な人はいる?」

「どういう意味だ?」

「彼女とか」

 意図が読めない。だが急かすことも良くないと思い、納戸はヘルワの調子に合わせることにした。

「いない」

「もったいないな~」

 ヘルワの殊勝な態度が少しづつ崩れていく。

「趣味はなにかある?」

「趣味じゃないけど、収集癖はあるよ」

「なにを集めてるの?」

「特に拘りはないかな。一目で気に入ったものを深く考えずに購入してる」

「散財してない?」

「大きな物は買わないようにしている」

「小物? 見せてよ」

 限定版のぬいぐるみや、ちょっとしたフィギュア、カードゲームのカード。発売中止になったビンのコーラを見せた。

「本当に雑多だね。物で溢れないの?」

「自分で線引きしている。溢れそうになったら、俺よりも大切にしてくれる人に譲っている。店には売らないよ。ちゃんと人を見て譲りたいからさ」

「いらなくなったら捨てちゃうんだね」

「ほとんどが衝動買いだからね。より大切にしてくれる人は必ずいるよ。だけど、どうしても譲れないものも確かにある」

 コーラのビンを指差す。まだ中身は詰まっていて、開けられていない。

「これは俺が収集を始める理由になったものだ」

 譲ってもらったことから、古物商と話したことを語った。

「忘却物の存在があるから、この手のことをするのなら、物には執着するなと口煩く言われているが、これだけはどうしても手放せない」

「大切なんだね」

 しんみりとした空気で満ちていた。今、話すべきだと心が告げた。

「ヘルワ、俺は君が欲しいと思っているよ」

「あは。それって収集癖?」

「これと同じだ」

 コーラのビンを指差す。

「始まりはただの興味。だけど、心の底から欲しいと思ってしまったんだ」

「無理だよ。僕はもう許されない。海鈴も怒ってるんでしょう?」

「だから一緒に背負ってやる。俺が責任を持つ。だから1人で生きるのはやめてくれ」

 ヘルワのゆらゆらとした動きが止まった。

 それから何かを考えるように部屋をぐるりと見回した。

 答えが出るまで待っていると、納戸を飛び越えた先で不自然にヘルワの目が大きく開かれた。しばらくそのまま固まるものだから、疑問が行動に移った。

 なにを見ている?

 振り返る。ヘルワの視線を追いかける。

 そこにあったのは、最近購入したアクリルスタンド。ヘルワ・エルシュテルベント。

「そういうことだったんだ…」

「違う」

「うるさいなぁ。安心してよ。僕の本能が騒がないってことは、海鈴は僕に感情移入なんてしてないからさ」

 ヘルワは三角帽子をかぶった。そしてそのまま玄関へ向かう。

「待ってくれ話を聞いてくれ」

「うるさいと言ってるでしょ! 僕の心を玩んで、楽しかった? 死ね!」

 バンと大きな音を立てて家からヘルワが出ていった。

 2秒。フリーズして、それから我に返った。

 ヘルワの姿が遠くにあった。走っていた。

 玄関の鍵をかける時間すら惜しんで納戸は走り出す。

 つけっぱなしの忘却物装備を酷使する。

 甲高い鳴き声を耳にしながら、ヘルワを追いかける。

 身体能力ではギリギリ勝てているが、しかし忘却物装備の耐久性が持たない。

 1分以内に追い付けなければ装備が壊れる。しかしその時間で追い付けそうにない。

 無理と分かっていても、走る足を止められない

 呼吸が上がる。足が痛む。肺が軋む。

 コンマ一ミリでも速くしようと、忘却物装備の強化とは別で速く走るために意識の全てを注ぎ込んだ。

 45秒。ヘルワが足を止めた。

「はぁ…。はぁ…っ。ヘルワッ。待て」

 歩道橋の上で、あの日とは逆にヘルワが振り返った。

「この時に、本当は怯えていたんでしょ?」

「違う。あのアクリルスタンドは、この日の後で見つけたんだ。君を探すために!」

「なんの意味があるの! どうせ忘れられるのに! あのアクリルスタンドもいずれ誰かに譲るんでしょ!」

「そんなことはしない!」

「信じられるわけがないでしょ!」

 5歩。彼女との距離に顔をしかめる。

「忘れられることがどれだけ苦しいのか、分からない癖に、好き勝手に求めないでよ!」

 心からの叫び。

「もう要らないって、思われることすらなくなる気持ちが、あなたに分かるわけがないよ」

 受け止めきれず、言葉に詰まった過去。

「だったら! 今、それを証明してやる! そこを動くなよ!」

 涙を流していたヘルワが驚いて、顔を上げた。

 目と目が合う。綺麗な青い瞳を逃さないようにしっかりと見つめる。

 1歩、恐る恐る。

 2歩、力強く。

 3歩、足早に。

 4歩、ヘルワが後ろへと下がった。

 5歩、それよりも強い歩調で詰め寄る。

 逃れようとするヘルワの手を掴んだ。

「もう逃がさない」

 弱々しい姿だった。

 それを抱き寄せる。

「頼む。俺の物になれ」

「怖いよ」

「もう一度信じてくれ。忘却物は決して罰なんかじゃない。忘れられた君が再び世に生まれたのは、憎しみのためでもない」

 強く抱き締める。

「もう一度愛されるために、求められるために生まれてくるんだ」

 ヘルワはなにも言わない。逃れることもしていない。

「君を欲しがった最新の人間として、俺に全てを譲れ」

 ヘルワの腕が、ゆっくり恐る恐る納戸の背中を包んだ。


明日5話更新します

終わりまで駆け抜けますので、よろしくお願いいたします

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