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取り戻した力、新たな仲間

 アトラの暴走を沈め、静かになった遺跡内で一晩過ごしたガルド達は、遺物の整理をしていた。


 ベイビルの説明を受けつつ、役立ちそうな遺物を仕分けていく。一度に持ち帰るには量が多すぎるので、ミシャール達は何度か往復しなくてはならない、そのためベイビルは彼らに与えた加護をそのまま残しておいた。彼らだけがグロブを気にせず自由に森を行き来き出来るのは、権力争いにおいてかなりのアドバンテージとなるはずだ。


 ミシェールが、人型となったベイビルを見つめる。ベイビルが差し出した手を恭しく取ると頭を垂れた。


「ベイビル様……本当にありがとうございました。心より感謝いたします」

「こちらこそ。皆さんの協力がなければ、アトラを苦しみから解放する事はできませんでした」


 ベイビルも頭を下げる。その仕草は、まだどこかぎこちない。


「いつかまたお会いできる日が来ることを、心待ちにしております」


 ラドラムが敬礼し、リアムとランパートもそれに倣う。


「ガルド様にも大変お世話になりました。この御恩、必ず返させていただきます」

 

 ガルドの活躍が無ければ今回の探索は成功しなかった事をミシェールはよく理解していた。その恩返しとして聖女派の抑え込んだ後は、違法な人狩り、奴隷の摘発、解放を約束していたのだった。

 

「頼んだぞ、あまり言いたくはないが、被害が止まらないようなら穏便には済まされなくなる」

「ええ、よく心しておきます。ガルド様を敵に回すなど自殺行為ですわ」


 遺跡でのガルドの暴れぶりを思い出すと、間違ってもガルドを敵に回す愚は犯すまいと心に誓うのだった。


「ミアさんも、お元気で」

「アタシもスリル満点で楽しかったっす」


 怪しい女性ではあったが、助けられたのもまた間違いなかった。帝国のエージェントであることは薄々感づいていたが、そこには目をつぶることにした。遺跡の位置が教国よりなので遺物の回収競争になったとしても負ける事はないだろう、という計算も働いてはいたが。

 

「それでは、健闘を祈る」

 

 ガルドはそう言うと歩き出し、騎士団も遺物を抱えて森を後にした。


 ---


 ミシャール達と別れ、毀滅を探しに森の中を歩くガルドとベイビル。その後ろをミアがついて来る。


 「はえ~、本当に精霊の加護ってのは便利っすね。森の中堂々と歩けるわけっすよ」


 ミアの左手にはベイビルから付与された精霊の加護の紋章があった。遺跡での協力への礼として、森を安全に抜けられるようにと付与されたのだ。


「お前はどこまでついて来るんだ? 帰るんじゃなかったのか?」

「つれないなぁ~、ガルドっちは。いいじゃないっすか、ベイビルちゃんをもっと愛でたい、この気持ちがわからないんすか?」


 そういって伸ばされた手を、ベイビルはガルドを盾にさっと避ける。


「あらま、逃げられた。あはは」


 ミアは屈託なく笑う。だがその目は、ガルドとベイビルの動きを冷静に観察していた。

 (流体金属ボディの性能……それに、あの男が探しているものも気になるっすね)

 

「遺物だって大したもの持ち出さなかったな? いいのか?」

「欲をかきすぎないのが長生きする秘訣っすよ」


 ガルド達が歩いていると、徐々に森を覆っていた暗闇が薄くなり、明るさを取り戻していった。


「森の雰囲気が変わってるっす?」

「毀滅の気配が分かりやすくなったのは有り難いが、タイミングが良すぎるな、注意を怠るなよ」


 ガルドは辺りを注意深く伺いなら毀滅の気配を辿っていく。

 ふと前方に現れた自然の中にそぐわない直線。

 真っ直ぐ伸びているその錫杖は地面では無く、黒い巨大な竜鱗に突き立っていた。それはかつてガルドが止めを刺したアスタートの逆鱗だった。


「これが……毀滅」

「ガルドっちの探し物ってこれっすか、本当にあったんすねえ」

 

 ベイビルの声にミアが毀滅に近づいていく。

 

「どうしたんすか?」


 毀滅を前にしたまま動きが止まったガルドにミアが声をかける。


「少し、離れろ」


 眉を寄せたガルドに驚いたミアはサッと距離を取る。


「ガルド、どうしたのですか?」

「罠かもしれん、周囲に異変は無いか?」

「調べてみるっす」


 しばらく周囲を探るが何も見つけられず、毀滅の前に戻って来た3人。


「特に変わったところは見当たらないっすよ~」

「何が問題なのですが?」

「あれだ」


 そう言ってガルドが黒い竜鱗を指さす。


「ん~? 黒い、石? いや違うっすね……」

「金属とも違うようです。ガルド、あれはいったい?」


「あれは竜の鱗だ。深淵竜アスタートの逆鱗だよ」

「それは……!」

 

「はぁ? 竜って、冗談じゃ……なさそうっすね」

 

 2人の様子から、とても嘘や冗談とは思えない。だとすると、何故それが竜の鱗だとわかるのか? そもそも毀滅があるのをどうして知っていたのか、ミアの中を疑問が駆け巡る。

 ただ一つ確かな事は、このガルドという男には何かがある。知りたい! ミアは強くそう思った。


「あの~、竜なんてもう何千年も前に滅んだってのが定説なんすけど?」

「そうなのか? 魔素不足になれば、なまじ大きいだけに生き残れなかったのかもしれんな……」

 (竜が滅んだ原因が魔素不足? そんなの聞いた覚え無いっすね、どこからの知識なんだか)


「信じられんかもしれんが、これは竜の鱗で間違いない。詳細は聞くな」

「気になるなぁ」

「長生きする秘訣は大事にしろよ」

「あはは……」


 冗談とは思えないガルドのトーンに苦笑いするミア。


「罠だとしても抜いてみるしか無さそうだな」


 そう言って、ガルドは竜鱗から慎重に毀滅を引き抜いた。何か起こるかと身構えていたが、暫くしても何も起こらない。


「う~む、今一つ釈然とせんが、まあ良しとしておくか」

「何事ともなさそうで、安心しました」


「竜鱗も回収しておくか」


 そういうと、竜鱗をスッとアルカに収納するガルド。それを見て飛び上がるほど驚いたのはミアだ。


「ええぇ!? 何? なにしたんすか?!」

 

「ガルド」ベイビルの責めるような声に、アルカは目立つから使うなと言われていたのを思い出す。

「そういや、そうだったか」


 若干気まずそうに頬かくガルドだったが、ミアに説明するつもりは無いらしい。

 

(こんな能力、帝国でも聞いたことがないっす……伝説、いや、もしかして神話級の――最重要チェック人物として、本部に報告するっす)


「お二人はこの後どうするっすか? 多分ですけど教国には行かない方がいいと思うんで、良ければ帝国に来ません?」

「なぜそう思うんだ?」

「問題はベイビルちゃんっすよ。ミシェール達は珍しく物わかりの良いタイプ。でも顕現した電子精霊を前に冷静を保っていられない人は必ず出てくるっす、いや、そっちの方が大多数だと思うっすよ?」


「うーむ、その可能性は十分にあるか」


 かつてガルドも宗教がらみの厄介な事件に巻き込まれた経験があり、ミアの言い分に説得力を感じていた。


「このまま森を北に抜ければ、バンゲリング帝国に出るっす。アタシはそこの出身なんで案内できるっすよ?」

「折角の申し出だが、俺たちは砂漠に寄る用事があるんだ」

「ああら、そうっすか」


 内心歯噛みするが、しつこくしすぎないように装うミア。


「一応、これ渡しとくっす」


 そう言ってミアは腰のポーチから、2枚の黒いカードを取り出すとガルドに差し出した。


「これは?」

「帝国での通行パスっす、これを見せれば大概の街や関所は通れるっすよ」

「ほう、ミアにはそれだけの権限があると?」

「人は見かけによらないんす、えっへん」


 腰に手を当て、ドヤ顔をするミアに呆れるガルドだったが、カードは有り難く貰っておくことにした。


「まあ、ありがたく受け取っておく。いずれ帝国にも行ってみたいとは思ってるからな」

「おおっと! それなら首都でカードを見せる時に『早駆け』から貰ったと言ってくれたら嬉しいっす」

「早駆け、ね覚えておこう」


「それじゃあ、礼にこれを持っていくか?」


 ガルドは先ほど遺跡で振り回していた槍をミアに差し出す。


「いいんすか? これだって十分価値のある遺物っすよ?」

「毀滅があれば、他に武器は必要ないからな」

「それほどの物っすか……ま、貰えるならありがたく」

 

 槍はミアの体とは釣り合いが取れない長さだが、ミアは苦にもせず振り回して見せた。

 

「またどこかで。その時は、もっとゆっくり話しましょ」

「ああ」

「ベイビルちゃんも、元気で。また会ったらハグさせてねぇ~」

「その予定はありません」

「あはは」

 

 ミアが数歩進んで、振り返る。


「……あ、そうそう。ガルドっち」

「なんだ?」

「アンタ、面白い人っすよ。だから――気をつけてくださいね」


 その言葉に、どこか警告めいたものを感じたガルドだったが、ミアはすぐにいつもの軽い調子に戻る。


「それじゃ、また!」

 

 軽く手を振って、ミアの姿が森の中へと消えていく。

 

(イリス様……とんでもない獲物を見つけましたよ)

 

 帝国へと戻るミアの足は自然と早まっていた。


 ---


 ミアの気配が完全に消えるのを待っていたかのようにガルドの影が、蠢いた。


「……出てきていいぞ」


 ガルドが影に語りかけると闇がスゥと浮き上がって来た。その光景にベイビルが驚いて後ずさる。


「ガルド、それは……!」


 小さな、四本足の獣。漆黒の毛並みに、金色の瞳。


「アルジ、会エルノヲ待ッテタ」


 そう言葉を発したのは、一匹の黒い子猫だった。


「お前が、毀滅を隠していたのか」


 黒猫が静かに頷く。尻尾が、ゆらりと揺れた。

 

「なぜだ?」

「アルジノ物ダカラ」


 ベイビルが息を呑む。


「あなた、ガルドの正体を……」

「アスタート、カラ森ヲ解放シタ恩人。アルジ、スルト決メタ」

「この森に漂っていたあの暗い魔力は、お前のものだったのか」

「ウン」

「それで毀滅を隠していてくれたって訳か」

「人間タチガ持ッテ行ク。ココニアレバ、ガルド来ル。守ッテホシイ頼マレタ」

「頼まれた? まさか」

「勇者シオン」

 

 あの時最後に見た光景。一心不乱に俺の名を呼び、駆け寄って来たシオンの姿。お前は俺がいつか目覚める事を信じて、毀滅を残してくれたんだな……。

 毀滅を握るガルドの手に力が籠った。

 

「3000年も……毀滅を守っていてくれてありがとうよ」


「一緒ニ行ッテモイイ?」

「もちろん」


 黒猫は伸ばされたガルドの腕をつたい駆けあがると、右肩の上に納まった。

 ベイビルが、その様子を見て微笑む。


「では、私たちはこれから仲間ですね」

「ああ」


「ところでお前、名はなんという?」

「名前、ナイ」

「ふむ……」


 暗黒、暗闇、密度、塊……。


「そうさな、暗密クラミツにしよう」

「クラミツ、名前!」

 

 クラミツは嬉しそうにヒゲをピンと張った。


「私はベイビル、よろしくねクラミツ」

「ウン」


「クラミツは人前では猫のフリをできるかしら?」

「ニャーオ」

 

 一鳴きすると、漏れ出ていた魔力の気配は完全になくなり、毛づくろいをし始めた姿は猫そのものだ。


「よし、問題は無さそうだな。次の目的地はカラド・エンプティ。カラハットの村に行って、聖女派についての報告をしよう」

「はい」

「ナァーゴ」


 森を出るべく歩き出すガルド達。

 後に、断絶の森の闇が晴れたことにより、教国と帝国で一騒動起こるのだが、今のガルド達には知る由も無かった。

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