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引き続きダンジョン探索/帝国での動き

 ガルド達は3日目にして30階層に到達。

 探索ペースが早まったのは何の事は無い、他の探索者の目を気にする必要がなくなったからだ。

 低階層(だとガルドは思っている)を全通路踏破するような真似はせず、濃い魔素が流れてくるルートを選んで走り続けた。

 

 その結果、アリアが聞けば卒倒するようなペースで探索は進み、『真実の探求者たち』が撤退する原因となった、30階層のボスと対峙していた。

 30階層のボスは宙を漂う半透明な魔物。その手には大きな大鎌が握られている。

 

「これはゴーストというやつですか?」

「レイスロードだな」

 

 物理的な攻撃は通用せず、魔法耐性もそれなりに高い、有効な攻撃手立てが無い場合、撃退は不可能だ。

 リッチほどではないが中々の難敵である。


 「シャーッ!」


 ユラユラと蠢くレイスロードがクラミツの琴線に触れたのだろうか?

 止める間もなく飛び出したクラミツがその爪を振るうと幽体が4つに裂けた。

 

 オオオオオオ……!

 

 レイスロードが悲鳴を上げる。

 慌てて幽体をかき集め、再び一つになる。

 だがその姿は先ほどと比べて一回り小さい。明らかにダメージを受けている。

 

 クラミツから距離を取るためか、天井付近まで浮き上がり距離を取るレイスロード。

 だがクラミツはただの子猫ではない。

 

 一足でその距離を縮めるとレイスロードに爪を立てる。

 今度は容赦なく徹底的に引き裂く。

 レイスロードは散り散りとなり、大鎌がカランと音を立て地面に落ちた。

 

「さすがだな」

「クラミツは出来る子ですね」

「フ――――!」


 2人に褒められたクラミツが、有頂天で尻尾を振る。


「……この分だとクラミツは、まだまだ強くなりそうだな」


 ガルドが大鎌を拾う。


「マカセテ!」

 

 ヒゲをピンと張り、尻尾をブンブン振って見せるクラミツに、ガルドが苦笑する。


「魔石はないが、この大鎌がドロップ品か……」


 レイスロードが落とした大鎌を見つめる。

 刃に魔力が漂っている、これなら霊体相手でも攻撃できるだろう。


「誰も必要なければ、私が使ってみてもよいですか?」

「ああ、構わんぞ。クラミツもそれでいいか?」

「ウン、ベイビル、使ッテ」

「ありがとうございます」


 ベイビルが大鎌を手に取る。


 ヒュン! ヒュン!


 ベイビルは自分の身長ほどもある大鎌を軽々と振り回す。


「その大鎌なら、霊体相手でもダメージを与えられるはずだ」

「良かった。次は私も活躍できますね」


 ベイビルが嬉しそうに笑う。


「それでは先に進もう」


 

 ――



 その頃、帝国では、ミアが仲間集めに苦慮していた。

 

 ガルド達がいつ帝国入りするかわからない現状、自分が帝国から離れるのは入れ違いになってしまう可能性があった。

 自分だけではどうしても手が足りないが、誰にでも任せられる仕事ではない――ミアは古巣である施設へと足を運んだ。


 「おや、No.13久しいですね」


 そう言って出迎えたのは施設長を務めるマリオン。

 年齢は50半ばくらいの細身の男で、メガネの位置を神経質そうに気にしている。


 ミアは、マリオンに、この施設自体に良い思い出は無い。


 過酷な訓練。

 数々の暴力。

 非道な実験。


 ミアはそれらを死に物狂いで耐え忍び、ナンバーで呼ばれるようになった。


(何人、死んだだろう)


 ナンバーさえ与えられず消えていった者たち。

 その顔を、ミアは今も覚えている。

 

 ミアは、さらに目覚ましい働きを見せて『早駆け』の二つ名を得て外に出る事が許されたのだ。


 「あなたが、ここを訪れるなんて珍しいこともあるものです。あなたも後輩に稽古をつけに来たのですか?」


 マリオンは嫌な笑みを浮かべる。

 

 悲しいことに施設から出たエージェントが稽古の名を借りて、憂さ晴らしに来ることが度々あるのだ。

 過去にミアも何度か痛い目に合わされていた。

 

 ミアはそんな者達と同じように見られた苛立ちを押し隠し、 無表情で身分証を示した。


「ん? これは……」

 

【皇女イリス直轄部隊 ランナーズ部隊長 ミア 】

 身分証をみたマリオンの表情が歪む。

 マリオンは施設長でありながら施設出身者が出世するのを妬む小物だった。


「ここにはスカウトしに来た、候補生を一通り見させてもらう」


 そう告げると、ミアは訓練場へ向かう。この時間帯は皆訓練に明け暮れているはずだ。


「お、お待ちなさいNo.1…………」


 強烈な殺気を受けたマリオンの言葉が止まる。


「身分証は確認したな? 私はミアだ」


 ミアはそう言い捨てると、振り返る来なく歩き続けた。


 ――

 

「ほらほら、頑張りなよ? そんなんじゃ廃棄処分だぞぉ~」

「グハッ!」


 容赦なく蹴り飛ばされた候補生が、這いつくばり苦悶の表情を浮かべる。

 訓練場では今まさに二つ名持ちによる稽古が行われていた。


 フラフラになりながらも立ち上がった候補生。その腫れあがった顔面を狙う拳が直前で止められる。

 

「ああん? 稽古の邪魔するんじゃないよ! って『早駆け』じゃないか」

「『無影』あんた、変わらないね」


 『無影』二つ名を得て長く、いずれ名前持ちになると信じている男であった。


「二つ名持ちになったからって調子に乗りすぎだねえ?」


 手を離したミアは『無影』に身分証を掲げて見せる。


「馬鹿な! こんな! 名前持ち!? 俺よりも先にお前なんかが!! それもイリス皇女直轄の部隊長だと!?」


 『無影』の手が身分証に伸びる。


 だが、ミアの手の方が速い。素早く身分証を懐に戻した。


「……っ」


 『無影』が歯噛みする。

 

「今なら聞かなかった事にしてやる。これから候補者から人員のスカウトをするから憂さ晴らしは終わにして帰りな」

「グッ……!」

 

 今のミアは名前持ちで皇族直轄の部隊長、二つ名持ちでは階級差がありすぎる。

 憎しみに満ちた目でミアを睨みつけると『無影』は去って行く。

 

 その背中を、ミアは冷たい目で見送った。


 ドサッ!


 緊張の糸が切れたのか、候補生が崩れ落ちる。


「誰か医務室に運んであげなさい」


 候補生達からしてみるとミアは雲の上の人だ、良いところを見せようと我先にと倒れた候補生を運んで行った。


 ――


 その後、訓練の様子を見学し、個別のファイルに目を通したミアは、候補生の中から3人を選び出した。

 

 1人目は17才の男。

 実技はからきしだが書類仕事を得意としている。

 さらに機械いじりに特殊な才能を見せており、電子精霊であるベイビルとの関係によっては有用な武器となりえる可能性を見込んでいた。

 

 2人目は15才の少女。

 話し方が上手く表情に愛嬌がある。ガルドが少女趣味とは思わないがベイビルへの態度を見るに、女子供相手には脇が甘くなるのではという目論見だ。

 

 3人目は『無影』に甚振られていた男で年齢は16才。

 『無影』は変に人を見る目だけはあって、伸びそうな候補生を虐めて目を潰すのを愉悦としている。その歪んだ性質が信用できると言う皮肉な結果だった。


 

「任務について聞いた後に辞退は許されません。辞退するなら今の内ですよ」

 

 緊張の面持ちで並ぶ3人にミアが優しく声をかける。

 そう言ったミア自身、この状況で辞退できるわけがないというのは理解していたが、それでも言っておく必要があった。

 果たして3人ともに辞退することは無く、ミアは3人を連れ施設を後にした。


 施設の外に出た3人は私語こそ慎んでいるものの、目を輝かせて辺りを見回している。

 その気持ちはミアにも痛いほど理解できた。


 

 ミアは与えられた執務室につくと、3人に任務についての説明をする。

 特に重要なのは、秘密厳守であること、ガルドと敵対しない事の2点。これだけは絶対条件である事を重々言い含めた。

 

「任務中はそれぞれトニイ、ハービィ、アンドリューと呼ぶことにします」


 3人の目が、輝く。


「名前……」

「私に、名前が……」


 小さく呟く声。

 

「働きによってはそのまま名前持ちになる事も夢ではありません」

「はいっ!」

 

 3人が力強く答える。

 

 これはやる気を出させるためのリップサービスとも言い切れない。

 成功すればイリス皇女はそれに見合った褒美を出すだろう。


 失敗した時のことは――考えるまでもない。


 ミアが深く息を吐く。


「という訳で、これでもう皆仲間になったと言う事で……」


 ミアの雰囲気が、ガラリと変わる。


「かたっくるしい話し方は、終了っす。あ~肩こった~」


 3人が、目を丸くする。


「……?」


(何が起きた?)


 試されているのだろうか?

 3人はどういう態度が正しいのか、掴みかねていた。


「さっきまでのは余所行き、こっちがアタシの話し方っすよ」


「……え?」


 トニイが呆然としている。


「本当に、いいんですか?」


 ハービィが不安そうに尋ねる。


「いや、しかし、その、部下に対してその話し方は……」

 

 生真面目なアンドリューが言いにくそうに反論する。


「さっきの任務、説明聞いてたっすよね?」


 ミアが笑う。


「ガルドっちみたいなタイプと仲良くやるには、上下関係とか組織とか匂わせないのが得策っす」

「だから部下では無く、仲間だと?」

「公式では上司部下っすよ?」


 そういうとミアは肩をすくめた。

 

「普段から気をつけておかないと話し方も不自然になっちゃうっしょ?」

「それは、そうですが」


「それじゃ、話が纏まったところで、まずは親睦会っすね」

「親睦会」

「外の世界は、あの施設のクソマズ飯なんて話にならない、美味いものに満ちてるっすよ?」


 外の世界の食事。

 施設で育った者には、夢のような話だった。


「ぶっちゃっけ、これも任務の一環っす。外の世界に慣れていないのは論外っすからね」


 ミアが真顔になる。


「施設で優秀でも、外でボロが出たら意味ないっす」

「……はい」


「だから、まずは外の世界での『普通』を知る。それが最初の訓練っす」


 そう言って、ミアは立ち上がる。


「さ、行くっすよ。美味いもん食いに」


(せめて、束の間でも外の世界を楽しんでほしい)

(任務が成功すれば、この子たちも名前持ちになれる)


(……絶対に成功させて見せる)

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