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ダンジョン探索

 警備部の一室。バルガスが椅子に座り、出された茶を飲んで暫く待っていると、警備部長のイスルギが入って来た。


「呼んでおいてすまない、待たせてしまったな」

「忙しいのはわかっているさ」


 そう言って2人は握手を交わした。この街で長く暮らす盟友ともいえる間柄だった。

 

「さっそくだが、これを見てほしい。道中襲ってきたレイダーが掲げていたエンブレムは、これで間違いないな?」


 イスルギは鉄十字の紋章が描かれた布を、テーブルに置いた。


「おお、間違いねえ。このけったくそ悪いエンブレムだ。こいつら有名なのか?」

「ここ一週間前くらいから姿を見せ始めた」


 イスルギが広げた地図にはいくつもの×印が記されている。


「これが襲撃地点だ。見てくれ、これは計画的だ」

「……鉱物資源の交易路を狙っている」

「そうだ。ランダムじゃない。誰かが、意図的に物流を妨害している」


 バルガスが眉を寄せる。


「ただの盗賊じゃないのは明らかだ。エンブレムから呼称を『鉄十字団』としている」

「レイダーごときに御大層な名前だな」

「ごときと言うがな、このままでは街に影響が出るのも時間の問題だ。農場までは我々の守備範囲だが、交易ルートは手が回らん」

「ハンターに依頼は出しているのか?」

「当然出しているとも、だが末端のハンターでは厳しい相手だ」


 ここでイスルギのいう末端のハンターとはベテランクラスを指している。ノービスクラスは初めから勘定に入っていない。


「上位ハンターを呼べないのか?」

「今、調整中だ。探索中の遺跡よりも大きいメリットを提供できないと上位ハンターは動かんからな」

「上手く立ち回れば収奪品でそこそこ稼げるが、リスクと見合っているかと言われるとな……」


「それだよ、バルガス、お前さんやつらを撃退したんだろう? 装備もかなり奪ったみたいじゃないか」

「やつら装備は良かった」


 バルガスが腕を組む。


「装備は高品質で量も揃っていた。リーダーに至ってはエネルギーシールドだ。あんなもの、そこらのレイダーが手に入れられる代物じゃない」

「……スポンサーがいる、と」

「間違いない」


 イスルギが険しい顔をする。

 

「帝国はこんな分かり易い手段はとらない。教国とは上手くやっている。あるとすればネスケー軍事同盟か。一番面倒なのはジオシティ内の企業同士での揉め事に巻き込まれている場合だな」

「企業同士となると、厄介だ。情報もロクに降りてこない可能性があるな」


 バルガスは鉄十字団に襲われてからガルド達に助けられた話を事細かに説明した。

 イスルギ相手に変な隠し立ては逆効果だし、それはあの2人だけでなくこの街にも不幸な結末を齎す予感がしたのだ。

 

「突如助けに現れた2人組……話を聞いただけでも戦闘力はかなり突出している」

「装甲車と謎の飛行物体、ともに遺物級。シールドを破壊した攻撃は何かを投げたと言ったな? ガルドという男は全身義体なのか?」

「それがなあ……義体ではなさそうなんだ」

「そうなるとバイオ技術、帝国からの回し者の可能性があるか」


「バルガス、正直に聞く。この2人、危険じゃないのか?」

「……敵に回すならば危険と言える力があるのは確かだ」


 バルガスが即答する。


「だが、悪人じゃない。それだけは断言できる」

「根拠は?」

「俺の勘だ」


 真っ直ぐイスルギの目を見る。


「……わかった、お前の顔を立てて一旦は信を置こう。だが私も話を聞いただけで、そうですかというわけにもかん。立場と言うものがある」

「ああ、2人と直で話をしたいんだろ?」

「そうだ、手配してくれるか?」

「勿論いいとも、ただし先に忠告しておくが、2人を試そうとするなよ? それは良くない結果になる」

「ほう、『人読み』バルガスの忠告とあらば聞いておく価値はありそうだな」


 そういってイスルギは薄く笑った。


「あの2人はちょうど隣のギルド本部でハンター登録しているはずだ、まだ帰っていなければすぐに会えるかもしれんがどうする?」

「それはいい、連絡を取ってみてくれるか?」


 ――


 ガルドの端末に連絡を入れたバルガスが、頓狂な声を上げた。

 

「もうダンジョンに向かっているだぁ?」


 イスルギが眉を上げる。


「それで? ああ、もう移送用車両に乗り込んでやがんのか……」

「問題があるって訳じゃねえんだ、ただ警備部の部長がお前と直で話をしてみたいと言っていてな」


「わかった、それでいつ頃になる予定だ?」

「一週間だと?」


 バルガスの声が裏返る。


「そんなに潜り続けるつもりなのか? 普通は長くても2、3日だと聞くが……」

「ん? なんだ嬢ちゃんか? あんたがそれだけ言うなら問題無いんだろうな……わかった伝えておく。無事に帰って来いよ、それじゃあな」


 通話を終えたバルガスがイスルギに尋ねる。


「一週間潜り続ける予定だと言っていたが、可能だと思うか?」

「同じ層にずっと滞在なら可能だろう、それでも十分な準備が必要になるがな。普通なら、まともに踏破しつつ一週間は不可能だ。」

「普通なら、か……」


 バルガスは2人が普通ではないと言う事を知っている。

 だがそれがダンジョンでどこまで通用するのか想像がつかなかった。


「ともかく、話は2人が帰って来てからだな。後日改めて連絡を入れてくれ」

「わかった、それじゃあ俺も帰らせてもらう」

 

 警備本部を後にしたバルガスが伸びをする。

 砕けた態度が許される間柄ではあるが、警備部長を相手にするのはそれなりに肩がこる。

 

 特定の交易ルートが狙われているとなると鉄十字団についての情報も収集しておく必要がある。

 やるべき事は山積みだった。


(ガルド、ベイビル……無事に帰ってこいよ)


「さて、どうなるかねぇ……」


 バルガスは小さく呟くと、家に向かって歩き始めた。



 ――



 ギルド本部、いつもの受付窓口に座っているアリアは頭を抱えていた。

 

 ふと気になったアリアが、ガルドの端末に現状を尋ねるメールを入れておいたのだが、その返事が来たのだ。

 ガルドから送られてきた返事。そこには、信じられない数字が表示されていた。


【第15層】


「……嘘でしょ」


 小さく呟く。


 ダンジョンに潜って、まだ2日目だ。

 2日目のはずだ。

 それがなぜ、上位ランカーでも苦労する15層に達しているのか。


「このペースだと……1週間後には、現在の最高記録を持つチーム『真実の探求者たち』の30層を……更新する」


 ゴクリと唾を飲む。


「まさか、本当に……?」


 手が震える。

 まだ信じられない。


「でも、嘘をつく理由もない……」


 彼らが帰ってきた後の対応をどうするか。

 これは、もう自分だけでは判断できない。


「ギルマスに相談しないと……」


 アリアは窓口にクローズドの札を立てると、急ぎ足でランカスターの部屋へと向かった。


 ---


「失礼します」

「どうした、アリア?」


 ランカスターが顔を上げる。


「あの2人のことです」

 

 アリアが端末を見せるとランカスターの目が、わずかに見開かれる。


「……15層。2日で」

「異常なハイペースです、このまま行くと最高記録が更新されます」

 

「……ああ。彼らが戻ってきたら、必ず私の所へ通してくれ。どんな要件よりも最優先だ」

「畏まりました」


 アリアが退出し、一人になったランカスターが腕を組み、目を閉じる。


 ベテラン5級2人が初回の探索で最高記録更新する?

 何の冗談だ……『真実の探求者たち』が30層まで行った時はマスター2人、エリート4人の6人編成メインアタッカー。

 その他のサポーターとして荷物持ちや中継キャンプなどの大規模作戦を展開したんだぞ……。

 

 階級は最低でもエリートまで引き上げねば釣り合いが取れない。

 本当に2人で記録更新するようならそれでも足りないが、流石にベテランからマスターまで飛ぶとなると……発表の仕方を考えておく必要がある。


 それでもハレーションが生じるだろうが已むを得まい、現場の揉め事などはアリアに対処させよう。

 新発見となる素材もあるに違いない、鑑定や卸ルートについても準備しておかなくては……。


 ランカスターは思考の海に沈み続けた。

 

 

 ――



 クラミツのヒゲがピクリと何かに反応する。


「マエニ敵、3体イルヨ」

「わかった」


 毀滅を握るガルドの手に力が籠る。


 細い通路を抜け広間に出ると、3体の魔物が居た。

 それは黒色のハイオーク。

 ガルドより二回りほど大きな巨体。贅肉は少なく鋼鉄のような筋肉の体。

 その筋肉で作り上げられたような腕は、手に持った丸太のようなこん棒と遜色ない太さがある。

 

「グルルルルル」

 

 ハイオークがガルド達に気づき威嚇の唸り声を上げる。


「シャッ」


 ガルドの肩からクラミツが走り出す。

 1番手前にいたハイオークの首元に飛び込んだ黒い影が一閃。

 暫く動きを止めていたハイオークの、太い首がポトリと落ちる。何が起こったのか理解できていないような顔だった。


 突然の出来事に動きが止まる2体のハイオーク。その隙をついてガルドの毀滅が唸りを上げる。

 ハイオークの頭を次々と潰していく。


「ひとつ!」

「ふたつ!」


 ガルドが毀滅を振る度、ハイオークは仕留められていった。

 

 基本、倒された魔物はダンジョンに魔素として分解吸収され、あとには魔石が残る。

 時折分解されず残る部分もあり、それらは貴重な素材として取引されている。


「クラミツはダンジョンに来てから随分調子が良さそうですね」


 ベイビルはそう言いながら、残された魔石を拾い集める。

 

「ウン、外ハ『魔素』薄イ」


 クラミツが嬉しそうに尻尾を揺らす。


「ココ、イイ。チカラ、戻ッテクル」

「そうか。良かったな」


 ガルドがクラミツの頭を撫でる。


 地表から魔素が薄くなった時期、魔物は皆ダンジョンに引きこもった。

 だがクラミツは1人ひたすら森で毀滅を守るため耐え続け、全盛期からみるとかなり力が減衰しているのだ。

 だが今、ダンジョンという濃厚な魔素のエリアで、徐々にその力を取り戻しつつある。


「ダンジョン、スキ」

「そうか」


「ベイビル、初めてダンジョンに来てどうだ?」

「……不思議です」


 ベイビルが魔石を見つめる。


「そうだな、昔からダンジョンは謎が多かったが、今はさらにだな。魔素を外に出すまいとする意図を感じる」

「それで中の魔物も外まで出てこないのでしょうか?」

「ダンジョンから魔物が出てくると言うのは3000年前から聞いたことが無いな」

 

 そういうとガルドは頭を振った。

 

「わからん、ダンジョンがどんなものなのか、踏破した人間は1人もいないんだ」

「それなら私達で踏破しましょう」

「そいつは面白いな」

「トウハスルー」


 回収も終え、歩き出そうとしたガルドの足が止まる。


「誰か引き返してくるようだ、この広間でやりすごそう」


 ダンジョンは10階層毎に入口まで戻るゲートが存在する。

 ただし、出るのは一瞬だが入る時はまた1階層からになる、それが深い階層までの探索をより難しいものとしていた。

 

 クラミツが肩に飛び乗るのを確認すると、ガルドとベイビルが壁際に寄って探索者が戻ってくるのを待つ。

 

 やがて現れたのは6人の探索者パーティー。

 

 ガルドの常識ではダンジョン内で探索者同士はコミュニケーションを取らない。

 それはトラブル防止のための処世術だ。


 そう考えていたガルドが黙ってやり過ごそうとしていると、戻って来た探索者の一人が声をかけて来た。

 

「おい、あんたたち大丈夫か?」


 声をかけて来たのは中でも軽装の男、斥候役だろうか。

 短く刈った茶色い髪に、日に焼けた肌。よく絞まった機敏そうな体つきをしていた。


「……?」 


 ガルドが首を傾げる。


(何を心配されているんだ?)


「お気遣いありがとうございます。ですが御心配には及びません」

「他の仲間と逸れたってわけじゃないのか?」

「はい、私達だけです」


 リックが目を丸くする。


「2人で? この深度を?」

「はい」

「…………マジか」


 リックが仲間を振り返る。

 仲間たちも、呆れた顔をしている。


「リック! もういいだろう、あまり他の探索者に深入りするな。行くぞ」

「あ、ああ……悪かったな、気にしないでくれ」

 

 リックと呼ばれた男は、短く謝罪するとその場を後にする。

 (あの2人……何者だろう?)リックの中から疑問が消える事は無かった。

 

「少し身構えてしまったが、普通に良い奴っぽいな」

「ええ、こちらの心配をしてくれていただけのようです」

「イヤナ、ケハイ、ナカッタ」


 ああいう奴ばかりなら、探索者のイメージも良くなるんだろうがな、とガルドは思った。


「よし、それじゃあ行こうか」

「はい」

「オー」


 ガルド達はダンジョンのさらに奥へと突き進んで行く。


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