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ノマド・バスティオン

 タワーに入って1週間ほど、ベイビルは車両作成に精を出している。

 ガルドとクラミツも手伝おうとしたのだが、どうもお披露目するまでは秘密にしておきたいらしく作業ブースへの立ち入りは禁止されてしまっていた。


 暇になった間、訓練スペースで運動に励んでいたガルドだったが(クラミツはほぼ寝ていた)そこにニコニコと上機嫌のベイビルがやってくる。


「その様子だと、完成したのか?」

「はい、こちらへ来てください」


 ベイビルとガルドが歩き出すと、いつの間に起きていたのか完成したと聞いたクラミツも後を付いて来る。


「これが新しい旅の仲間、ノマド・バスティオンです!」


 ベイビルがそう言うとガレージへの扉を開く。

 

 そこに鎮座していたのは全長10mはある大型の装甲車。

 全体をダークグレーの装甲で覆われたその見た目は、かなりの剛健さを感じさせた。

 

「これは見事なものだな」

「オオキイ! カッコイイ!」

「これでもあまり目立たないように外装は抑えてあるんですよ、その分居住性に力を入れました」

 

「前面が運転エリア、中央が居住エリア、後部は倉庫兼ガレージとなっています」

 

 ベイビルに案内され中央部の居住スペースに入ってみると、外からみたよりさらに広く感じる。

 天井が高く設計されており、開放感があるからかもしれない。

 ソファにテーブル。シャワーやトイレ、冷蔵庫、ホロスクリーンテーブル、医療用タンク等々。

 

 この車両の方が暮らしていた家よりもよほど整っている……。

 軽くショックを受けていたガルドだが、ベイビルによれば広さはともかく設備の充実度でここを超えるものは、中々無いだろうとのことだ。

 クラミツなどはさっそくソファに飛び乗り丸くなっていた。


「気に入っていただけましたか?」

「フカフカ」

「もうそこらの安宿には泊まれんな」


 2人の反応に満足気な笑みを浮かべるベイビル。

 

「ガルドの服は何か特殊な効果があるのですか?」

「いや、特にはないな」

「それでしたら、こちらの着用をお勧めします」

 

 ベイビルが差し出したのは、漆黒の仮面と、バトルスーツ。

 バトルスーツはオリーブを主体に黒のラインが入ったベイビルと色違いのデザインになっていた。


「何だこれは?」

「バトルスーツです。防弾、防刃性能が高い素材で出来ています」

「ほう」

「筋力も補助されますし、破れても自己修復します」

「……便利だな」

「はい。生存率が格段に上がります」

「仮面にはナノ技術による特殊加工、情報端末として機能するだけでなく、防毒、暗視機能もついています。」

「わかった、ありがたく頂戴するよ」


 着てみると、スーツはピタリと体にフィットし、動きにくさは感じられない。

 漆黒の仮面は顔全面を覆っているが、内側からは視界が確保されており、息が籠ることも無かった。

 最後に上からマントを羽織る。


 その様子をジッと見ているクラミツに、ベイビルが手招きをする。


「クラミツにはこれをあげますね」


 ベイビルが手にしていたのは深緑色をした首輪。


「アリガトー!」


 首輪をつけて貰い、ごきげんになったクラミツが車内を駆け回る。

 


「よし! それでは行こうか」

「ではキャビンに移りましょう」

「イコウ、イコウ」

 

 キャビンは前後に3つずつ座席が並んでいて、後部が高くなっている。

 前面の強化された防弾ガラスはナノ技術を駆使されており、多少の損傷なら自己修復する。

 

 「ガルドはここです」と後部中央の席に座らされ、ベイビルは前部中央の席につく、そこで車両の操作をするらしい。

 クラミツは外の様子を良く見るためか、ダッシュボードの上を居場所と定めたようだ。

 

「ノマド・バスティオン発進します」

 

 ナノ発電機を動力源とした超電導リニア同期モーター(LSM)動くノマド・バスティオンは、驚くべき静穏性を保ちつつ動き出した。


 

 タワーを出てすぐ、辺りの様子を探っていたベイビルが異変に気が付いた。

 

「南方20㎞の地点でキャラバンがレイダーに襲われていますが、予定のルートからは外れています。どうしますか?」


 

 ――


 

 キャラバンの護衛隊長ニックボールは焦っていた。

 彼は護衛としてベテランと言ってよい経験を積んでおり、レイダーとの戦闘経験も豊富だったが、今回は飛び切りにヤバイ。

 見たことのないエンブレムを掲げた統率の取れた集団、バイクを主体としており装備の質も良い。

 どこかにきちんとした補給拠点がある、単に食い詰めた連中が集まった寄せ集めではない。

 護衛部隊がまだ全滅していないのは、荷物への被害を避けるためにレイダー側が手加減をしているからに過ぎない。


「バルガス! 連中の目的は略奪だ。荷と金を捨てて逃げれば、追ってこないかもしれん」


 ニックボールの提案に、バルガスは首を横に振った。


「だめだ。追ってこなかったとしても、待っているのは破産からの奴隷落ちだぞ」


 奴隷落ちを想像してニックボールがぶるりと震える。


「奴隷になるくらいなら、ここで死んだ方がよっぽどましだな」

「いっそ荷物を爆薬で吹っ飛ばしてしまおうか?ただ奪われて殺されるよりも気が晴れるというものだ」

「お楽しみは最後まで取っておこう。まだ手はある」

「もう少し進めばグロブの生息エリアだ。奴らはこの辺りの連中じゃないから、まだ気づいていないはず、そこが狙い目だ」

「なるほどな」


「一人、足の速い奴を先行させてグロブを引っ張ってきてくれ。それを奴らに押し付けて、その間に離脱する」

「了解、撒き餌も用意しておきます」


 そう言ったものの、成功するかどうかは半分以上運次第なのはバルガスも自覚していた。

 全滅する前にグロブが釣れること、誘導がうまくいくこと——クリアしなければならない条件が多すぎる。

 念のため救難信号も発しているが、こちらの方がよほど望み薄だ。


 うまくいってくれ。視界の先で先行していくバイクを眺めつつ、バルガスは信じてもいない神に祈った。


 

 ---


 

「南方20㎞の地点でキャラバンがレイダーに襲われていますが、予定のルートからは外れています。どうしますか?」

 

 ベイビルの報告を聞いたガルドは即座に助けることを選んだ。

 別に急ぎの目的があるわけでもないのだ。知っていて助けないのでは、気分よく旅もできない。


「それでは救出ミッション開始です」

 

 ノマド・バスティオンの加速はすさまじく、5分もすると戦況が見えてきた。

 追われている方がキャラバンだろう、追っている連中の方が優勢なのは一目見て分かった。


「キャラバン隊へ通信。救援に来ました。これより攻撃を開始します」

「マジか?!ありがたい申し出だが、一両だけじゃ無理だ!逃げてくれ!」


 キャラバン隊からの返信は、自分たちが危険な状態にも関わらず、こちらを気遣うものであった。


「問題ありません。通信を終わります」


「ドローン射出、ナノ・テトラを散布します」

 

 散布されたナノ・テトラの上を通過したバイクの車輪が崩壊し、バイクから転がり落ちる者、それを巻き込み転倒する者が相次いだ。


 怒ったレイダー達が反撃しようとする頃には、ドローンは不規則な軌道を描きながら離脱している。

 それならばとノマド・バスティオンを狙い打つが装甲に細かな傷を残すくらいしか出来ない。

 小銃では効果が薄いの見たリーダーの男から指示が飛び、ロケット砲が発射される。


 回避行動をとったノマド・バスティオンの至近で爆発がおこり、その衝撃で車体が揺れる。

 

 「フシャー!」

 その迫力に興奮したクラミツのしっぽの毛が逆立つ。

 

 「むぅ、レイダーにしては装備が整っていますね……」


 予想していたよりもレイダーの武装の質が高い。

 直撃を受けても大破することは無いだろうが、作ったばかりの愛車に傷がつくのも面白くない。

 時間をかけるとそれだけ損傷が増える……ベイビルは一際派手なバイクに跨る敵のリーダーに目を付けた。


 新たに狙撃用ドローンを射出すると、リーダーの男を狙い打つ。

 キュィン!

 光の壁が一瞬煌くと、甲高い音が鳴る。


「レイダーがエネルギーシールドまで?!」


 珍しくベイビルの声が上ずる。


「任せとけ」

 

 ガルドはそう言うと、キャビンから離れ、車両上部のハッチを開く。

 アルカから拳大の石を取り出すと、派手なバイク目掛けて全力で投げつけた。

 

 リーダーの男が指示を飛ばしていると、突如シールド越しでもわかるとてつもない衝撃に襲われ、バランスを保てなくなったバイクごと横転した。

「一体何が……」

 気が付くとシールドはエネルギー切れを起こし消失している。

 

 慌てる男の頭部にドローンからの狙撃が決まり、崩れ落ちるのリーダーの姿を見た手下どもは、散り散りになって逃走を開始した。

 車両を失い置いて行かれた者たちは悲鳴を上げるが、仲間意識など無いのか誰も振り返らない。

 

 そこに機会を伺っていたキャラバンの護衛部隊から反撃が始まる。

 レイダー相手にかけられる慈悲は無かった。

 

 ---

 

「バルガス、あれは一体何なんだ? 本当に味方ってことでいいのか?」

 

 ニックボールは助かったというのに、レイダーに追われていた時以上に顔色が悪い。

 無理もない、バルガスは思った、皆の前でなければ俺だってみっともなく狼狽えていただろう。

 

 銃弾の雨をものともせず走り回る大型装甲車。

 戦場に何かを振り撒き、車両を走行不能にさせる飛行物体。

 敵のリーダー格の男のシールドを打ち砕いた攻撃に至っては、何故ああなるのか想像もつかない。

 

「救援に来たという通信はあったし、もし襲うつもりであれば俺たちは既に死んでいる」

「確かに……って、しまった!もう少しでグロブを連れてマルタが戻ってきてしまうぞ!」

「そうだった!」

 

 慌てて謎の救援車両に通信を送る。


 ---


「救援に感謝する。ただ問題があって、奴らにグロブをぶつける予定で、もうすぐ引っ張ってきてしまうんだ。そちらに対して敵意がないことだけは理解してくれ」

「プランがあったのですね。余計なお世話でしたでしょうか?」

「いや、助かったよ。それは本当だ。ただ、グロブへの対処なんだが……」

「はい、そちらも対処しますよ」

「重ね重ね感謝する。謝礼は必ず払う、だが今は持ち合わせが少ない。できれば街に着くまで待ってほしい。もちろんレイダーたちの装備は全て持っていってくれて構わない」

「少々お待ちを」


「ガルド、どうしますか?」

「謝礼が貰えるなら、貰っとこう。キャラバンにこのまま付いて街まで行くとするか。レイダーの装備はベイビルに任せる」

「了解しました」


 ---


「謝礼については了解しました。当車両はこのまま随行する形でよろしいですか?」

「もちろん、構わない」


「レイダーの装備に関しては、いくつかサンプルをいただければ、残りはそちらにお譲りいたします」

「そりゃありがたいが、本当にその条件でいいのか?」

「問題ありません」


「……分かった。その条件で頼む」


 通信が終わりしばらくすると、複数のグロブに追われたバイクが見えてきた。

 そんなグロブたちにドローンが近寄って行くと、グロブ達は大人しくなり引き返していく。


 ---

 

 キャラバン隊では主要メンバーが集まっていた。

 引き返していくグロブ、信じられない光景に驚愕する面々。


「あれは一体なんだ? どうしてグロブが引き返したんだ?」

「アタシはグロブの群れを決死の思いで連れてきたっていうのに……」


 バイクで囮をやっていたマルタは、グロブが引き返していくのを一番近くで目撃しただけに、その不気味さを肌で感じたようだった。


「あの装甲車はどこのやつだ?」

「あんなの大手企業の最新モデルでも見たことが無い……まさか遺物か?」


 バルガスの言葉にニックボールが唸る。

 

「あんなに完璧に動いて、装備も使える遺物……街に着いたらひと悶着あるぜ、こりゃ」

「まあ、なるべく揉めないように気遣うべきだろうな」

「ボスに任せた。アタシは関わりたくないね」


 そう言って肩をすくめるマルタ。

 

「詳細不明の車両、か。助けてもらっておいて不謹慎かもしれないが、何か企んでいないかと不安になるぜ」


 その戦闘力だけでなく、支払いやレイダー達の装備回収など、あまりに都合の良い条件に疑心暗鬼となるニックボールにバルガスが答える。


「さっきも言ったが、今はどうあがいても信じるより道はない」


「それにしても、レイダーの奴ら妙に装備が良かったな。厳しい戦いだったぜ」

「そこだよ。あの掲げていたエンブレム、誰か知っているか?」


 バルガスの問いかけに首を振る一同。

 

「あんなのが近くに拠点を築いたのだとしたら、交易ルートについても見直さないといけない」

「色々と対策を練る必要がありますが、レイダーの装備をいただけると、損失分を補って釣りがきますよぉ~」


 経理担当のスロンズは1人ホクホク顔だ。


「死人も出てるのよ。そう簡単に『釣りがくる』だなんて言わないでよ」

「もちろんですともマルタさん~。私が言っているのは金銭的な事についての話で、亡くなった方を単なる損失などとは考えておりませんよぉ~」

「前から言ってるけどあんたのその話し方、いちいち癇に障るのよ」

「ははぁ、手厳しいですねぇ~」


 マルタは飄々とした態度を崩さないスロンズに内心舌打ちし、一睨みすると席を離れた。


「あまりマルタを怒らせるなよ、スロンズ」

「前向きに検討しておきますねぇ~」


 内に外にと、気苦労の絶えないバルガスだった。

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