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第五話 「ノクターン家家族会議」

 現在ワタクシ、5歳になりました。

 おめでとうございます。


 この世界では、誕生日を祝うという習慣はないらしい。

 その代わり、イベントがあるごとにパーティーを開いている。


 例えば、この前のアランの入学祝いはとんでもなく派手だった。

 装飾、食事、プレゼント。

 そして、貴族同士の挨拶。


 ノクターン家内すべての人間が、アランにプレゼントを渡した。

 俺は何もあげてないけどね。


 だいたいもらうものは学校生活で役に立つであろう物達。

 文房具やカバンが主だった。


 そして問題なのは、来年俺の番だということ。

 あんな派手なパーティーは、恥ずかしいのでやめて頂きたい。



 アメリアは俺に中級から上級の魔術をほぼすべて伝授してくれた。


 アメリアは、無詠唱魔術を習得してからというもの、自分に自信が付いたらしく、俺の学力面でのサポートをしている。

 ノクターン家のメイドというよりも俺の家庭教師となった感じだ。


 アメリアと仲良くなったことで、この世界のことをよく知ることができた。

 アマテラスも教えてくれるのだが、たった5分では良い情報は得られない。

 焦らされる。

 まぁ、そのおかげでアメリアに聞く材料ができるからよしとしよう。



 教本の記載通り魔術を使えば使う程、魔力の量は増えている。

 最近では上級魔術を連発しても疲れる気配がない。

 そして、どうやら魔力は睡眠を取れば回復するらしい。


 そして今日は魔術特訓にアランも参加するらしい。

 俺が無詠唱魔術を使えることは家族には伝えていない。

 パーティー騒ぎになるかもしれないからだ。

 

 アメリアは3冊の魔術教本を用意していたが、残念ながら俺はその3冊の内容はすべて習得している。

 無理矢理参加してきたアランに、俺の実力がバレないよう配慮してくれたのだろう。


「では始めます!」

「「お願いします!」」


 魔術特訓は淡々と行われた。


 ここ最近詠唱せずに魔術を使っていたので、詠唱が分からず魔術教本を見ながらしていた。

 それを見たアランが、ドヤ顔でこちらを見てくる。

 ウザい。

 殴っていい?


 上級魔術まで習得できたのはいいのだが、合成魔術がまだ全然ダメだ。

 左右の手で違う魔術を発動するのは骨が折れる。

 違うリズムを両手で取ってる気分だ。


 上級まで習得できたことでサボり気味になっていた。

 今日はいいかな、となる度に自分を叱りつけて、少しだけやるようにする。

 始めてみればなんてことはない感情なのだが、これに負けてしまうと前世のようになってしまう。


「久しぶりに……じゃない、中級魔術難しいですね」

「ゆっくりでいいから詠唱覚えていきましょう!」

「はい!アメリアさん!」


 俺とアメリアのやり取りにアランが首を傾げた。


「2人ってそんなに仲良かったんだね」


 そうか、基本的にアメリアとの魔術練習は、アランが学校に行っている時に行う。

 家内では、あまり話すことはないので、不思議に思うのも当然だ。


「アラン兄様が学校に行っている時によく勉強を教えてもらうのですよ」

「あーなるほどね。ちなみにどんなことを?」

「最近では算術を習いました」

「ふ〜ん」


 もちろん嘘である。


 この世界では読み書き、計算は誰でもできるものではないらしい。

 貴族は、だいたいの家庭が学校に通わせるので、できる人の方が多いのだとか。


 ちなみに俺は日本人なので、計算なら元からできる。

 なんなら高校数学までいけるぜ?

 あんま覚えてないけど……。


 と、そんことをしていると、客人が来たらしい。

 人間ではない。


 ノクターン家は、玄関側に町が広がり、反対側には森が広がっている。

 森に入っても魔物とは遭遇しにくいが、少なからず生息している。


 定期的にレオンが騎士数十人連れて数を減らしに行くのだが、たまにこぼれでることがある。


 今回は、フォレストグリズリー(熊っぽいヤツ)が来てくれた。

 さあここはアメリアさんの魔術が炸裂するのではないだろうか。

 大いに期待!である。


「フィン様とアラン様は下がっててください!ここは私が片付けます!」


 うひょー!カッコいいっす先輩!


 元冒険者なこともあって手慣れた動きをして魔術を撃とうとしている。

 しかし、ここで問題が発生。


「ここはアメリアさんに習った魔術の出番!」


 アランが出しゃばりだした。

 しゃしゃんな。


「兄様、ここはアメリアさんに……」

「なんのため魔術を習ったんだよ!なら!」


 コイツ聞かねーな。


「アラン様危ないです!」

「大丈夫です!中級魔術をちゃんと使うので!」


 魔術や道具が完璧でも、使う人は完璧じゃない。

 生前では、パイプ持って暴れてたヤツが俺に素手でボコられていたし……。


 まだ中級魔術は習ったばかり使いこなせるはずがないのだ。

 俺も上級魔術は瞬時に発動するのは不可能だ。

 練習すればいけるだろうけど。


「汝の祈り届き烈火の恩寵あらん、

 我が意を貫く……」


 アランはファイアランスの詠唱を始めた。

 ちなみにこの詠唱、続きが4行程ある。

 フォレストグリズリーとの距離、およそ5メートル程。

 詠唱している間に距離を詰められるだろう。


 アランがフォレストグリズリーにむしゃぶられるのが想像できる。


 まぁ、さすがにアメリアが止めるだろう。

 …………ん?止めない?


 アメリアはアランの代わりに魔術を撃つのを躊躇っている。

 フォレストグリズリーは下等モンスター。

 アランでも倒せると思っているのかもしれない。


 けれど、この状況どう考えてもアランが負けるに決まっている。


 アメリアは数秒の葛藤の末、仕方なくファイアランスを無詠唱で撃つ。

 1メートル程の炎の槍はフォレストグリズリーを貫通した。


「あれ?まだ詠唱終わってないのに?!」

「アメリアさんが撃ったんですよ」

「あぁ!そういうこと!」


 アメリアの報恩拒絶の呪いについては知っている。

 恩を仇で返されることもよくあるらしいので、そのことも躊躇した原因かもしれない。


 生前、俺は2人の大事な人を失っている。

 これ以上目の前で人が死ぬのは勘弁。


「何があったんですか?!」


 騒動に気付いたウルが、小走りで向かって来る。


 アメリアは庭の草とにらめっこしている。


「母上!フォレストグリズリー来たんですけど、アメリアさんが倒しました!」


 自分の手柄にするかと思っていたけれど、意外にも正直だった。

 そして、それを聞いたウルが状況を察し、顔が急に険しくなった。


「アメリアさん、話を聞かせてもらえますか?」

「……はい」




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 その夜、ノクターン家の食卓で家族会議が行われた。


「アメリア、どういう経緯でフォレストグリズリーを倒すことになったのか教えてくれ」


 ピリピリした空気の中、切り出したのはレオンだった。


「フィン様とアラン様に魔術を教えている最中に突然庭に現れました。

 それを危険だと判断し、対処致しました」

「そうか、少しアランの言っていることと違うな」


 何言ったんだアランは……。


「アランは自分が詠唱している時に、アメリアが魔術を撃つのを躊躇っていたと聞いたが?」

「……はい」

「なぜすぐ倒さなかったんだ!

 お前もしかしてフォレストグリズリーをわざと連れて来て魔物相手に魔術の実験台にしようとしたのか?」

「……はい」


 ん?それは違うくないか?

 アメリアは面倒くさいのか、呪いを気にしているのか、返事をし続ける。


 これは俺が何か言っておいた方がいいのではないだろうか。

 レオンもアメリア相手だから呪いのせいで無自覚に責めてしまっているのかもしれない。


「アメリアさんはフォレストグリズリーを連れて来たりしてませんよ?」

「フィン……庇わなくていいんだぞ?」

「いえ、庇ってませんよ?」

「お前だって危ない目に遭ったんだろ?」

「……まぁ」


 さすがにアメリアのことを責めすぎだ。

 結局アメリアの判断で俺達は無事だったんだから良いと思うのだが、

 それではダメなのだろうか。


 アメリアはレオンに呪いのことは話していないのだろうか。

 まぁ、話しても態度が変わらないと思うが。

 むしろ、呪いを言い訳にするなとか言ってきそうだ。


「森の魔物の処理は父様達の仕事ではないのですか?」

「そ、そうだが……?」

「なら父様の仕事の雑さが招いた結果ではないのですか?」

「た、確かにそうだ、すまない。

 でも完璧にやったつもりでも抜けはある」

「そんなんで済めばいいですね」

「……」


 レオンは肩を縮めてしまった。

 どうやら俺は言い過ぎたらしい。

 いや、言い過ぎということもないか。


 ハッキリ言おう。

 アメリアは悪くない。

 確かに変な気の迷いで対処が遅れたのは悪かったけど、

 結果として誰も傷ついてないのだからいいだろう。


「そういえば、アメリアは無詠唱を使えないんじゃなかったのか?」

「あーー!無詠唱魔術は魔力の消費が激しいんですよ?」


 咄嗟についた嘘だから通るか怪しい。

 ただ、レオンは武道家だ。

 剣と体術を使い、魔術を使わない男。

 いける。


「最近ずっとアメリアに魔術を習っているようだが、フィンも無詠唱使えたりするのか?」


 ちゃんと魔術の訓練をしていたことはバレていたらしい。

 隠してもいずれバレる。


「まぁ、使えますね」

「なるほどな。そういうことか」

「アメリアさんはすごいんですよ?」


 一応アメリアの株が上がるように言っておく。

 俺は安堵のため息をついた。

 気が抜けた。


「ところで、その年で無詠唱魔術が使えるなら魔剣士を目指してみる気はないか!」


 さっきまでの表情からは想像できないような笑顔で俺に詰め寄る。


 魔剣士……か。絶対カッコいい。

 アメリアが言ってたけど、無詠唱魔術が使えると魔剣士の道が開けるらしい。


「興味はありますね」

「おお!そうか!」

「レオン、なら早速教師を雇いましょう!」


 そう言い出したのは母、ウルだ。

 さっきまで黙ってたのに……。


 親というのは能天気なものだ。

 ちょっと成長が早いとすぐに天才だと騒ぐ。

 バカだろ。


 生前では、俺や弟がちょっといい成績を出すと、母は全力で褒めてくれる。

 褒めるだけならいいのだが、周りの人に自慢したりとか、歯医者と病院でも言いふらす。

 正直かなりウザかった。


 俺は子供を持ったことがないから分からないけど、子供目線かなり迷惑である。


「家庭教師ですか?」

「ええそうですよ!」

「お金は大丈夫なのですか?」

「子供がお金の心配なんかするもんじゃないよ!」


 ついつい前世の癖が……。


「早速明日町には募集を出しましょう!」

「そうだね!」


 妬ましそうに見るアラン。

 あなたの褒めてるその子は私の弟子のんだからね!と言わんばかりに自慢げなアメリア。

 親バカなレオンとウル。


 なんか、勝ってに俺の将来決めるのやめてもろうて。

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