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第四話 「天才魔術師のメイド」

 また1年が過ぎた。

 魔術の練習は欠かさずにやっている。


 アランが学校がない日は、偉そうにアドバイスをくれるが、何一つ俺の身にはなっていない。


 何度も魔力を扱っていると、ある程度の知識が付いてくる。

 こうではないか、あーではないか、と仮説を立て、実験をしてみることによって分かってくる。




 まず、魔力が血液中に含まれている、という俺の仮説。

 これは半分正解だった。

 自分自身で解決したわけではないけど、初級魔術総集編みたいな教本に答えが載っていた。

 魔力の器となる箱があり、そこから血管を通して魔力を流すのだとか。


 そして、その箱は鍛えられるのだと言う。

 毎日、魔力を使い続ければそれだけ上がるらしいけど、魔力を使いすぎると命の危険があるらしいのでほどほどにしておく。




 2つ目、魔力は燃料的な役割をする。

 これはほぼ正解だ。


 例えば、火が燃え続けるためには、酸素と燃える物が必要なはずだが、魔術では空中に発生させることができる。

 魔力は、バーナーの燃料的役割を果たすのだと俺は理解している。




 3つ目、無詠唱は特別なものなのか。

 これは間違いである。

 書庫にとある教本があった。

 ここから始めよう!無詠唱魔術!的なノリの本に詳しく書かれていたので、珍しくもないけど、出来ないとゴミというわけでもなさそうだ。


 こんなところだろうか。


 5段階級のうち自分がどこに当たるかも、平均がどれくらいかも分からないので、家族に自慢のしようがない。

 分かってもアランには絶対しないけどね……。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 アメリアはこの家、ノクターン家で数年メイドをしていて、フィンという子供の面倒を一任されている。


 ノクターン家でメイドをする前は、冒険者をしていて、アメリアの存在は重宝されていた。

 魔術を使える人が少ないわけではないが、治癒魔術を使える者は世界規模で見ても一握り程しかいない。


 特定のパーティーに長居することはないが、参加応募を探せば、ほとんどのパーティーが欲しがるので、仕事に困ることはなかった。

 しかし、魔術師の存在が、あまり必要のないこの世界において、アメリアの役目はヒーラーという役割しか持たない。


 パーティーを組んでももらえる報酬は、平等じゃない。

 両親への仕送りどころか、生活すら危うい状況。


 あるパーティーメンバーに飛び入り参加した際、四大魔獣と出くわした。

 そこで身の危険を感じて、冒険者を引退した。


 少ない収入から、少しずつ貯金をしていたこともあって、国をまたぐくらいの金額はあった。

 冒険者が集う国、ルナリア王国から旅立った。


 アポロン王国にたどり着くまでの間、仕事探しは怠らなかった。

 しかし、無詠唱魔術を使えないアメリアには、どの仕事も雇ってもらえる募集はなかった。


 アメリアは、努力をしていなかったわけではない。

 神童とも言われたくらい、子供の頃は魔術の才能があった。

 どれだけ努力しても、魔力総量や魔術の威力が増すだけで、無詠唱は習得できなかった。


 魔術師の中で、無詠唱が使える者は約半分程。

 無詠唱が使えると、今度は魔剣士になることができる。

 無詠唱が使えると、素速い戦闘で役に立つ。

 無詠唱が使えると、同時にいくつかの魔術を発動することができる。


 魔術の教師をしようにも、教師になるためには、無詠唱魔術は必須条件だった。


 つまり無詠唱魔術の習得は仕事に就く上で重要なことなのだ。

 

 それが出来ないというだけで、仕事がもらえない。

 絶望的だった。


 乗合馬車を乗り継いで、アポロン王国まで来た。

 ここでお金が尽きた。


 1ヶ月かけて各地を回ったところ、ある募集の紙に目が止まった。

 上級貴族、レオン・ノクターン家の侍女である。

 治癒魔術を使える者を優遇する。


 治癒魔術を雇うには、上級貴族や王族のようなかなり裕福な家でないと雇えない。

 それに、治癒魔術が使えるからと言って、確実に雇ってもらえるとは限らない。

 無詠唱が使えないことで何度も弾かれている。


 雇ってもらえるか不安だった。

 でも、レオン様は受け入れてくださった。


 数年経ち、ノクターンに次男が生まれた。

 奥様の出産時にも治癒魔術は役に立ち、アメリアがいてくれて良かった!と称賛された。

 無詠唱が使えない、平均以下の私が褒められた?と複雑な気持ちだった。

 素直に喜べなかったのだ。

 ノクターン家を騙している気分だった。

 


 その子供はフィンと名付けられた。

 変わってる子供だと思った。

 生まれた瞬間から泣いていなかった。

 それから現在3歳に至るまで泣いたことはない。

 楽だったから良かったけど不気味。


 正直悪魔憑きか、転生者を疑ったけど、魔術を扱うのは初めてだったようで、それは考えにくい。


 治癒魔術が使えるアメリアは、万が一に備えて、一時的だがフィンの子育てを任されている。

 フィンはハイハイができるようになると、家中のどこにでも移動した。

 好奇心旺盛な子だった。


 少しでも目を離すと、登れるはずがない階段を登っていたり、開けられるはずがない扉を開けて、庭に出たりしていた。


 ある日、書庫を見つけてからは大人しかった。

 毎日書庫に通い、兄のアランと読書をしていた。

 言葉をまともに話せない赤子がだ。

 アラン様は不思議に思わなかったのだろうか。


 レオン様もウル様も、将来有望だね!と能天気なことを言っている。

 ……え、私がおかしいの?




 それから2年経ち、洗濯物を干しに庭に出た。

 そこでアメリアは驚かされた。


 わずか2歳という年齢で中級魔術にとどまらず、無詠唱魔術まで習得していたのだ。

 それも独学で。


 これこそが本当の神童なのだな、と思い知らされた。



 フィンが3歳になった。

 アメリアは魔術練習中のフィンに近づき、無詠唱魔術の習得のコツを盗もうとしていたのだ。


「あ、アメリアさん。どうしたのですか?」

「……いえいえ!お気になさらず〜」


 フィンは訝しげにアメリアを見た。


「無詠唱魔術はお兄様に習ったのですか?」

「……え?いえ、自分で」


 どうやって?とは聞けなかった。

 聞きたくても聞けなかったのだ。


 大の大人が、子供に教えを請う。

 さすがにそれはプライドが傷つけられるし、呪いの効力もある。

 どれだけフィン様に恩を売っても返ってくることはない。


「すいません、お邪魔しました」


 フィンは首を傾げた。


 その後アメリアは、自分の部屋で何度も試した。

 手を構えて、魔術を使おうと。

 「ポスッ」とも「ポッ」とも鳴らない。


 アメリアはため息をつく。




---フィン視点---




 今日、なぜかメイドのアメリアが妬ましそうに俺を見てきた。

 少しゾクッとした。


 何が妬ましいのだろうか。


 アメリアは魔術の才能はピカイチだと聞いたことがある。

 しかし、彼女が魔術を無詠唱で使っているところを見たことがない。

 アメリアは無詠唱魔術が使えないのではないだろうか。


《よ》

《よ》


 アマテラスの絡み方が最近軽い。


《アマテラス様》

《どうしましたか?》

《アメリアに無詠唱魔術を教えるかどうか迷っているのですが、どちらの方がよいでしょうか》

《あなたが教えたいならそうすればいいと思いますわ。ただ、3歳の子供に教えてもらうことがどれだけ彼女のプライドを傷付けるか考えましたか?》

《いえ、まったく》


 確かに、自分より年下から、上から目線で何か言われるのは腹が立つ。

 日本でもそれは同じである。

 年下からボコられるとなると、俺は喧嘩をやめてしまっていたかもしれない。


 教えてもらうということは、自分はあなたより劣っていると遠回しに言われているようなものだ。


《そもそもあなたはなぜ無詠唱を教えたいのですか?》

《う〜ん》


 彼女が妬ましそうに見てきたからだろうか。

 それだけではないはずだ。


 彼女に無詠唱魔術を教えるメリットから考えよう。

 彼女は、俺が扉に指を挟んだり、庭で転んだりすれば、すぐに治癒魔術をかけてくれる。

 軽症だったからすぐに対処できたけど、これが重症だった場合どうだろうか。


 例えば、2階から誤って落ちた時、1番俺を助けられそうなのは誰だろうか。


 レオンやウルなら真っ先に医者に行ってくれるかもしれないが、それでは間に合わないかもしれない。


 けれど、ここでアメリアがいれば、治療ができるかもしれない。


 魔術は、初級、中級、上級………と難易度が上がる毎に、詠唱の量も多くなる。

 治癒魔術も同じだろう。

 頭から落ちた時、さすがに初級や中級の治癒魔術では治療できないかもしれない。

 上級、帝級が必要となるだろう。


 はたして、重症者相手に長い詠唱をする時間があるだろうか。

 いいや、負傷してからできるだけ早い方がいいに決まっている。


 そうだ。

 巡り巡って俺のためにもなるのだ。


《アメリアに教えることにします》

《……》


 もう時間切れかよ。

 まぁいい。


 ただ、どうやって教える流れに持っていくかが重要である。


 俺が彼女の立場だったなら、3歳のクソガキに教えを請うなんてことは絶対にしない。

 自分が3歳に劣っているとは思いたくないからだ。


 なら、俺が最初に魔術を教わるのはどうだろうか。

 中級魔術の習得が途中である。

 上級以上に関しては全くの未知。


 そうだ、これならただの情報交換だ。

 無理でも3歳の我儘みたいな感じにして逃げるぜ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 翌日俺は、アメリアが洗濯している時に、魔術教本を持って話しかけた。


「おはようございます!アメリアさん!」

「おはようございます、フィン様」


 少しだけ不機嫌かもしれない。


「えーと……」


 あえてここでモジモジして、間をおく。


「魔術を教えてください!」


 アメリアは顔をしかめる。

 嫌そうだ。

 なんでだろう。


「私は……私には魔術の才能がありません。お父様に頼んで、魔術の先生を雇うことをおすすめします」

「じゃあ、アメリアさんが先生になってください!」


 アメリアは困った表情をする。

 確かに俺は意味の分からないことを言っている。

 だがしかし、この歳だから許されるのだよガハハハ。


 少しだけ迷い、アメリアは返事をした。


「私はあなたのことをお父様に任されています。なので上級までならお教えいたします」

「先生よろしくお願いします!」


 と、教師と生徒の秘密の授業始まるのであった。

 あ、決してエロくないからな。




 人から教わるのは1番の近道かもしれない。

 中級魔術の習得を手伝ってもらった。

 アメリアの前ではできるだけ無詠唱で魔術を使うようにした。

 無詠唱に触れてくれさえすれば、話しやすいからだ。


 数日して、段々とアメリアは笑顔で教えてくれるようになった。


「はい!次は……すいません、私は無詠唱が使えないので合成魔術はできません」


 キタァァア!

 この時を待ってました!とすぐに言葉を出す。


「そうですか。僕は無詠唱を習得するのに苦労しました。難しいですよね」

「5歳の時から魔術をしてきましたが、未だに私はできません」


 チャンスが来たのはいいのだが、どうやって教えればいいか分からない。

 無詠唱は感覚で習得するもの故、言葉でこうしろ、と教えるのは難しい。


 どうやって自分が無詠唱をできるようになったか思い出す。

 ワードは、血液、箱、魔力、体温。


 アメリアの腕を思いっ切り握る。


「何やってるんですか?」


 笑みを浮かべながら聞いてくる。


「一度自分の血管を止めてみてください!」

「え?腕でいいの?」

「はい!」

「こう?」

「はい!」


 アメリアは自分の右腕を握って見せた。


「しばらくそのままでお願いします!」


 30秒程待ち、アメリアに魔術を撃つように言った。


「汝の祈り届き、偉大なる炎の恩寵あらん、我が願いに応じかの者を灼き尽くせ

『ファイアボール』?」


 アメリアは目を見開いた。

 普通なら発動するはずのファイアボールの魔術は煙すら発生しなかったのだ。


「……え?」

「じゃあ次はその手を離した瞬間に詠唱を始めてください」

「はい」


 アメリアは先程と同様に詠唱を始める。


「分かりますか?体温が、血液?が勢いよく手に集まる感覚が!これが無詠唱です」


 あ、やべ、ちょっと偉そうにしちゃった。


 アメリアはすぐに無詠唱を試みる。

 数秒置いて、アメリアの掌には野球ボール程の炎の玉が浮かんでいた。

 成功した。


「……え?できた……え?!」


 アメリアは、驚き、喜んだ。

 しばらくして冷静になると、一筋の涙が流れる。


 いや、後からこんな簡単なことだったのか、と悔しくなってしまっているに違いない。

 失敗してしまったかもしれない。



 何も分からないフィンだった。



---アメリア視点---



 この前、私は大人げなく、たった3歳の子供にやつ当たりのような感情を抱いてしまった。

 実は心の奥底でフィン様を一人前だと認めているのかもしれない。


 でも、私の感情を無視して頑固に先生になってくださいと言うくらいなので、やはり子供なんだな、と安心している。


 数日間、中級魔術を教えていたけど、おそらく一人でも習得できていたと思う。

 私の目に映った魔術教本の内容、火と風の合成魔術。

 一人で合成魔術を完成させるには、無詠唱が必須である。

 それを私は呟いてしまった。


 すると、無詠唱を習得するのは苦労したとフィン様は言っていた。

 たぶん嘘だと思う。


 そして、腕を握っていろ、と言われ、わけが分からないまま、私はそれに従った。

 魔術は発生しなかった。


 血液が魔術に関係していることは知識として知っていた。

 でもそれが無詠唱に関係あるとは思いもよらなかった。


 身体の芯から体温(おそらく魔力)が移動する感覚はこれから先一生忘れないだろう。


「なんで……教えてくださったのですか?」

「普通のことです。いつもお世話になってますからね」

「私は仕事をしているだけです」

「でも怪我をした時はいつも治していくれます」


 フィン様は、私の行動に恩を感じていると言う。

 フィン様には私の呪いさえ意味を成さないらしい。


 私の呪い『報恩拒絶の呪い』は、フィン様には関係なかった。



 こうして天才魔術師アメリアが誕生した。

報恩拒絶の呪い

尽くした相手に恩を感じてもらえない呪い

するのが当たり前みたいな

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