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問2.勉強

 母の仕事には触れることができず、2歳になってしまった。

 この地域では誕生日を祝うという習慣はないけど、ミナの入学式の祝い方は異常だった。

 父が作る豪華な食事のフルコース。

 母が買ってきた特大ホールケーキ。

 リラが用意したプレゼントボックス。

 羨ましいとは全く思わなかった。

 精神年齢16歳の男が家族とのパーティーを楽しむことができるか、と言われるとたぶん無理だ。気恥ずかしい。


 この世界の勉学のレベルが分からない。

 ミナが学校に入学してくれたおかげで、俺は教科書を見せてもらうことができる。

 内容を見る限りクソ簡単だった。当たり前か。

 日本で言うところの小学1年生に当たるわけだが、レベルが若干こちらの方が高い気がする。

 小学1年の算数は足し算引き算ができればいいけど、こちらの小学1年は掛け算割り算に入っている。

 高等部になると大学並かもしれない。怖い。


 リビングで父がミナに勉強を教えているのだが……


「うわぁ、う〜ん……分からない〜!」


 ミナの言葉に父は頭を抱えるのであった。


 俺の学習も、もうそろそろ始まるようだ。


「フィンも読み書きと簡単な計算くらいはできるようになっておかないといけないぞ?」

「私が教えてあげよう!」

「いや……父様に習います」


 習うまでもないけどね。


 勉強するついでに俺は大事なことを聞く。

 俺は日本に帰りたい。

 ここがどこかは分からない。

 イタリアとかフランスとか、たぶんその辺りだと思うけど、街を通っている車が古臭いのが気になる。


「父様!」

「ど、どうしたんだ?いきなり」

「日本に行ってみたいんだけど……この年齢じゃ飛行機って乗れないかな」


 今日は休日で父も母も姉もいる。

 そんな中、俺の言葉を最後に沈黙が続き、やがて母が言った。


「ニホンって……何が2本なのですか?」


 沈黙が延長される。


「日本?ってどこなんだ?」

「ユーラシア大陸の東側にある国?」

「ユーラシア大陸……?」


 俺と父は互いに目を丸くした。


 父は俺の話を聞いて、世界地図を持ってきてくれた。


「どの辺なんだ?その日本という国は」


 見慣れない世界地図の形を見て俺は立ち尽くした。

 日本が……ない。

 いや、それどころかユーラシア大陸すらない。

 ここは……地球じゃない?

 そうか、俗に言う異世界というやつなのかもしれない。


 異世界だとして、勉強のレベルや、銃、車、中途半端に発展したヨーロッパのような街並み……こういうのは日本人が有利になるような世界観なのが普通だと思うが、俺にイージーモードは許されないらしい。


 神様が言っている気がする。

 人生を1からやり直して、真面目になれ、と。

 地獄に行く前に極々普通の人生を送ってみろ、と。


 俺は、また同じ道をたどらないように本気で生きてみようと、心に誓った。


「いや、やっぱり日本に行くのはいいや。父様、勉強を教えてください!」

「あ、あぁ、そうか?」


 和寿の野郎を一発ぶん殴れないのはかなり癪だけど、この世界で生きていかなければならない。

 俺みたいなクズが生きていていいのか……いや、生きていないと意味はない。


 生きてみよう。

 このぐらいの感覚でいいだろう。

 いつか見つかる……生きる理由が。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「すごいな!フィン!」


 俺は後頭部をポリポリとかく。


「まだ2歳なのに分数の計算まででいるのか!?」

「すごいです!フィンさん!」


 両親が俺のことをこれでもか、と褒めちぎる。

 中身16歳のクソガキだけど、両親に褒められると照れ臭いものである。


 ミナはというと、あまり俺を称賛してくれていない様子。

 ミナからすれば2歳児のガキに勉強で抜かれたのだから、腹立たしいのかもしれない。

 自室に籠もって出てきてくれない。

 2歳児の弟という肩書レッテルを使って俺はミナの部屋に堂々と入ってやった。


「姉様……?」


 ミナは泣きながら机に向かっていた。

 ただか計算で負けたくらいで、ここまでなれるのは才能だと思う。

 生前、唯一努力したものがあった。

 喧嘩だ。

 他校にめちゃくちゃ強いやつがいて、俺はそいつに軽い気持ちが挑んだことがあったけど秒殺されてしまった。

 何回も挑んで、負ける度に俺は強くなってやろう、て努力してた。

 逆に俺が強くなると向こうも腕を上げてくるもんだから、それが楽しくて楽しくて仕方ない。

 それと似た感情を勉強に当てれるのだから、才能と言えるだろう。


 俺も頑張らないと……


 読み書きの練習とは、想像以上に簡単なものだった。

 この国の言語は、簡単に言えば漢字のない日本語。発音さえできれば習得は簡単である。

 新聞や本から言葉は学べるし、よく母が読み聞かせをしてくれる。


 テレビも存在しているけど、古い。

 ニュースとか古臭いアニメとか流れてる。

 アニメは何が面白いのか分からん。

 ただ、ニュースは興味深いものばかりで、学び取れるものが多かった。

 例えば、北国と東国の平和条約の発表とか、複数人がスパイ容疑で拘束されているとか、ミナの通っているアルフォード学園の取材など。


 ニュースを眺めている俺を見て、感心している両親……さすがに親バカなのでは?

 あまり期待されても迷惑なので、アニメグッズのCMをネタにボケておく。


『ボクは良い子の味方だよ〜!』


「親の財布にとっては敵だろうがな」

「本当にお前は2歳児なのか……?」


 やべ……やらかした?




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 5歳になった。


 3年の月日と共に生長する体。

 心だけは成長している気がしない。


 ここ最近、姉は勉強に挫折しているようだ。

 そんなに考え込むようなこととは思えないが、姉にとっては重要なことなのかもしれない。

 3年前とは違ってやる気を失い、ずっとソファで横になり、アニメ流し続ける姉は、俺の視線を察して呟いた。


「勉強なんてしても意味ないよ」

「そんなことないと思いますよ?」


 誰しもが同じことを言う。

 俺は知っている。

 そして言い逃れをして先延ばしにすることはいずれ後悔をする。

 友達がやってるから。

 母がクズだから。

 ……そうやって逃げ続けた結果、弟を守れなかった。


「フィンはいいよね。勉強ができるから……」

「当然のことです」


 思ってた返事と違ったのか首を傾げる。


「まぁ、勉強はしなくてもいいですよ、しなくても。将来、頭が悪くて学歴がなくて、稼ぎもない大人になって、奴隷のような肉体労働でしか生きていけなくなるだけなので何の問題もありません。そして、姉様が勉強しないのであれば父様と母様の期待はボクに向くでしょう」

「そんなのヤダ!」


 顔を真っ青にさせる辺り子供なんだな、と思った。

 知恵と金さえあればコンビニバイトなんかしていないし、高校卒業……いや、大学卒業まで頑張れたかもしれない。

 けど、今回は違う。

 金もあり、暖かい家族もいる。

 これだけの支えがあって頑張れないわけがないだろう。


「姉様、勝負しましょう」

「何を?」

「どちらがより良い大学に行けるか、という簡単な勝負です」

「勝てないよ……フィンには」


 俺ははぁ、とため息を吐く。


「じゃあ大人になって仕事関係で関わることになったら弟であるボクに頭を下げてください。ボクが靴を舐めろと言ったら靴を舐め、イヌになれと言ったらイヌになってください」

「そんなのヤダ!私絶対負けないから!」


 やる気を出してくれたならいいだろう。

 姉には俺と同じ道を歩ませたくない。

 同じ想いをさせたくない。


 その会話を見ていた両親は、開いた口がふさがらない、そんな表情だった。

 特に父が。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 両親は勉強面で俺のことを褒める。

 けどできて当然のことだ。

 調子に乗ってはいけない。

 幼い年齢で靴ひもを結べたらお兄さんだ!と褒められるけど、時間とともにみんなできるようになること。それと同じだ。

 生前、両親は俺と弟のことを褒めたことは一度もなかった。

 できて当然だ、という感じだった。

 今の両親の方が教育環境はいいけど、勉強に意味を持たせてはいけないと思う。褒められたいから勉強する、みたいな。

 そもそも勉強は自分のためにするのであって、それ以上でもそれ以下でもない。

 意味ない、と感じていることはだいたい意味があったりする。今思うとそういうことは数え切れない程ある。

 だから調子に乗ってはいけない。


 これからも姉には追いつかれないように。

 そして二度と同じ過ちを犯さないように。

 努力していこうと思う。



---レオン視点---




 フィンがノクターン家に来て丁度5年。


 ミナとフィンには聞こえないようにウルと2人の将来について話し合っている。

 ミナとフィンはどちらとも俺達の子供ではない。

 というか、正確には結婚すらしていない。


 最近ではスパイやエージェントの仕事をする者が少なく、育手もいない。

 そこで国家直属のエージェントである俺とウルが、国から頼まれたことは、エージェントorスパイの育成。

 フィンとミナは処分予定の子供だったので丁度良かった。

 ミナにもフィンにもそのことは言っていない。

 さてさて、そこで問題が発生。

 ミナはともかく、フィンは勉強ができすぎる。

 5歳という年齢にして中等部の内容まで修了している。

 このままではスパイになるより、大学に行って裕福な生活を目指すようになるかもしれない。

 そうなれば“あの修羅場”は乗り越えられないだろう。


 俺とミナはその修羅場を2度も生き延びている。

 数年に一度起こる国規模の事件。

 いや、事故でもあるのか?

 我々はそれを『カーナル・カース』と呼んでいる。

 『カースド』と呼ばれる感染者は人間的思考はできるものの、考え方が変わり、人の血肉を欲するようになる。

 ただ、ここ何年も調査されているが、それ以上の情報はない。


 どこで起こるのか、

 どうやって起こるのか、

 何がトリガーなのか。


 とにかくだ。

 スパイ、エージェントがいないとなると、誰もカースドを処理できないし、何より自分の身すら守れない。


 フィンの影響力は凄い。

 ミナまで勉強に熱中し始めた。

 最悪だ。

 開いた口がふさがらない。

 まぁいいか。

 学校には行かせておきたいし。


 そうだ。

 フィンならすぐに理解して、その上で判断してくれるだろう。

 フィンには話しておいても損はない。

 そんな気がする。


 稽古なら今すぐ始めた方がいい。

 いや、もう始めよう。


 剣士にしようか……。

 それとも銃を使えるようにしておこうか……。

 とりあえず体術から始めよう。

 俺の時もそうだった。

読んで頂きありがとうございます!

知識を頭に入れることが最大の目的ですよね〜

ちなみにノクターン家の名前はすべて動物から取ってます。

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