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第二話 「この世界でやること」

 3つの大きな顔が覗き込む。

 巨人とも思える程大きい。


 ここが転生先か〜。

 となると、この3人は家族という可能性が高いな。

 どうだろうか。


《聞こえていますか?》


 ん?

 いや、確かに聞こえた。

 脳に直接叩き込まれるような声。

 この人達が話しているにしては、近くで聞こえすぎる。


《返事をしてください》


 あぁ、アマテラスか。

 脳内にいるのなら俺の思ったことは汲み取れる物かと思っていたけど、意外とそんなことないらしい。


 しかし、どうやって返事したものか。

 異世界的に考えるのであれば、念話という技術を用いてそうだけど……

 強く念じてみれば伝わるだろうか。


《聞こえていますよ》

《良かったですわ。こうやってたまにあなたと連絡とることになりますわ》

《たまにというのは?》

《実は、1回の会話時間は決められていて、それが終わると数日話すことはできなくなりますの》


 おいおい、そういうことは早く言ってくれよ。


《ちなみに1回の会話時間はどのくらいなんですか?》

《5分ですわ》


 5分だと?!

 大事なことや情報をもらうだけなら十分な時間だ。

 でも、会話するには短すぎる。

 小学校の休憩時間じゃないか。


《ならもうすぐ終わるということですか?》

《そうですわね。

 ちなみに父親の名前は、レオン

 母親の名前は、ウル

 兄の名前は、アラン、ですわ

 そしてあなたの名前は、フィンですのよ》

《ネタバレはやめてください》

《情報は欲しいでしょう?》

《確かに欲しいですけど、聞いた時意外言わないで頂きたい》

《文句しかいいませんわね》


 なんだコイツ。

 居候の分際でうるせえな。


 まぁ、名前なんて知ったところで何にもならない。

 それより、言語習得が最優先だろう。

 現に、両親が言っていることは何一つとして理解できない。

 雰囲気から汲み取るに、


『あぁ、大好きだよウル』

『あ〜ん♡レオン、まだ出産したばっかりなのよ?』


 とかだろうか。

 たぶん違う。


 そういえば、この世界には「呪い」と呼ばれるユニークスキルが存在するらしいが、それはどうやって確かめるのだろうか。

 ゲームのようにステータスを見れるのだろうか。

 そうだとしたら、今頃両親が見ているに違いない。

 だから違うかもね。


 腕のいい鑑定師とかじゃないと分からないとか。

 いや、ありえそう。


《僕の呪いはなんですか?》

《……》


 あぁ、もう時間切れか。

 クソ女神め。


 いずれ分かることだ。

 慌てることはない。

 ……いやでも気になる〜〜!




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 この世界に生まれて半年が経った。


 半年も経てば、ある程度体の自由が効く。

 ハイハイでの移動が可能だ。

 言葉はある程度分かってきたのだが、声帯がまだ上手くできてないので、話すことはできない。


 そんなことより、母はかなり美人。

 日本人顔に慣れていた俺からすると少しだけ理想とは違うが、ロシア系の美人だ。

 赤ん坊なので、母親のおっぱいを飲むことになる。

 この半年間は、おっぱい飲んでねんねするという、速攻三大欲求解決の日々を過ごしていた。

 相手が母親なせいか、興奮はしない。

 むしろ、ちょっと……ね。


 移動が可能になると、ある程度のことが分かるようになってくる。


 この家はノクターン家で、アポロン王国の上級貴族だということが分かった。

 メイドが何人もいて、家も大きくて、金持ちだってことは一目で分かる。


 ちなみにこの家のことや周辺の地理に関しては、アマテラスがネタバレしてくるので、かなりウザい。

 例えば、この家の窓から見える大きな山は、赤龍の縄張りとなっている、アグニス山脈。

 この町から東側に少し移動すると、鬼族の村があったりするとか。


 いつか使う情報だろう。

 というか使う情報であってくれ。

 使わない情報なら、アマテラスが言う必要ないもんね。




 日本での生活も大概なまのだが、日本の普通に比べると劣る物がいくつもあった。

 明かりは電気ではなく、ロウソク。

 原始的で、最初は貧乏なのかと思っていた。


 服も落ち着くような物ではない。

 まさに、THE KIZOKUって感じ。

 いやだ。

 パーカーとか着たい。


 レオンは、ダンベル(たぶん)を持って、庭でシャドウボクシングをしている。

 ノクターン家は代々、体術を受け継ぎ、子供を武道家として育てるのが決まっているとのこと。


《もしもーし》

《急に出てくるのはやめてください。びっくりします》


 毎度のことだが、アマテラスは急に話しかけてくる。

 その度に驚いている。


《それ以外にどうやってコンタクトを取れと?》

《はい、そうですね。ちなみに今回は何の情報をくれるのですか?》

《今回は情報提供ではありませんわ》

《ではなんでしょうか》

《これからについての助言ですわ》

《ようやくですか》


 初めての助言。

 どう動いた方がいいとかそういう類のことだということは知っている。

 問題は、俺がまだハイハイしかできないこと。

 無理難題はやめて頂きたい。


《では助言です》


 一つ咳払いをするアマテラス。


《魔術を習得しなさい》

《………………それだけ?》

《ええ、それだけですわ》


 魔術についての話はよくアマテラスから聞いている。

 うるさいくらいに聞かされた。

 今度は魔術を使えるようにしろ、と。


 魔術には俺自身も興味がある。

 魔術がない世界からやってきた俺からすると、珍しい物には心惹かれるものだ。


《具体的にはどうやって学べばよいのでしょうか》

《この屋敷には書庫がありますの。庭で魔術教本を開き、ひたすら練習するのです》

《分かりました》


 他にすることもない。

 魔術には興味がある。


 俺にも何かしら没頭できる物があった方が良いだろう。

 けど、剣と魔法の世界と提示しておきながら、魔術を使えるようにしろ、と言うのにはそれなりにメリットがあるのだろう。


《ちなみに、今後どのように活かされるのですか?》

《魔術を習得すればあなたのトラウマは治されることでしょう》

《いや…………ん?僕の未来が見えるということで?》

《いえ、あなたの未来は見えませんわ。まぁその時になってみれば分かりますわ》

《ふ〜ん》


 まぁ、やってみれば分かることだ。


 とりあえず書庫を探してみるとしよう。

 色んな情報が得られそうだ。

 アマテラスを信用するかどうかは、もらった情報が正しいかどうかで判断すればいい。


 俺は、小さい体で階段を一段一段ゆっくり降りていく。

 貴族の館だからだろうが、段数が多い。

 日本と違ってエレベーターなんて便利なものが存在するわけでもない。


 と、余計なことを考えていると、段の幅を見誤ってしまった。

 ゴロゴロと転がり、壁に背中と後頭部を強打する。


「なんの音?」


 慌てたウルが階段を駆け上がる。


「大変です!どうしたらいいのでしょう!」


 俺を抱えて、頭を撫でている。


「どうしたんだ!」


 と、慌ててレオンもやって来る。

 レオンが俺の様子を見て、安堵のため息をする。


 レオンの様子からして、重症ではないらしい。

 後頭部からいったし、バカになったかもしれんな。

 頭がズキズキする。

 背中を強打したせいで息も苦しい。

 コブくらいできたかもしれん。


 まぁいいか、そのうち治る。


「一応しておきましょう」

「そうだな、アメリア!来てくれ!」


 と、レオンはメイドの一人を呼ぶ。

 さっきまで俺の部屋で面倒を見てくれていたメイドが小走りで来る。


「旦那様どうしましたか?」

「フィンが頭を打ってしまって。治癒魔術をかけてくれないか」

「はい、分かりました。すいません私が目を離したばっかりに」

「いいから早くしてくれ」

「はい」


 あんまやつ当たりしないでやってくれ。

 悪いのは俺なんだぜ?


 というか、この世界には治癒魔術があるんだな。

 まぁ、これで魔術の存在自体は本当だったと証明された。

 アマテラスは詐欺師ペテンシではないかもしれない。


「慈悲満ちる光は芳醇なる糧、力失いしかの者に癒しの息吹を

 『ヒーリング』」


 おいおい、まじかよ。

 治癒魔術発動するのって詠唱必要なの?

 なんか嫌だな〜魔術習得するの。


 と、次の瞬間、無数の光の粒が息苦しさと痛みを一瞬で回復させた。

 ここまで便利な物なら、少しばかり詠唱が必要でもいいか、と思えた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 メイドと親を振り切った俺は、ノクターン家書庫にたどり着いた。

 書庫を利用する人は滅多にいないらしく、広さの割にガラリとしている。

 メイドも数日に1回掃除に入るだけで、それ以外の入室はない。

 書庫には、興味を持って入った俺以外にもう一人いた。


 6歳くらいの年齢。

 父に似た金色の髪を持つ少年。

 兄のアランだ。

 俺も金髪らしいけど。


「フィン一人で来たの?」

「あぁぁぁ」

「そう。フィンにはまだ早いんじゃないかな」


 こいつ俺が文字読めないと思ってやがるな。

 ふふ、読めないさ。


 出口まで案内され、抱えてつまみ出されそうになったが、ここで俺の必殺技が炸裂。

 これでもか、と泣き叫ぶ。


「あぁぁぁあ!分かったから泣きやめい」


 ふふ、俺の勝ちだな。


 俺はここで魔術を習得していなければならない。

 なんのトラウマか知らんけど、前世のことが解決するのなら俺はやりたい。


「遊んで欲しいの?」


 遊んで欲しいわけじゃねーんだ。

 おれぁ、魔術教本が欲しいんだわ。


「あーじゃあ、読み聞かせしようね〜」


 と言って、赤ん坊に読み聞かせするような物とは思えない分厚い本を持ってくる。


「では、始めます」


 コイツ……自分が読めるからって……。


 抵抗するすべは持ち合わせていないので、大人しく聞くことにした。


 神話に基づく内容らしい。

 超簡単にまとめると、

 四つの魔獣が存在して、その魔獣は遭難した竜族の少女に、それぞれが、衣服、飲み物、食べ物、綺麗な魔石をプレゼントしたのだと。

 協力して、少女を保護していた四つの魔獣は、少女と合流した両親に、少女を襲っているのだと勘違いされて、竜族と四大魔獣の戦争にまで発展したのだと。

 それが、約500年前に起こった戦争、

 『黎明の獣戦』

 人族の土地にまで被害を及ぼして、竜族と四大魔獣の恐ろしさを記すために書かれた物語らしい。


 あくまで神話なのだが。


「はい、今日はここまでね。夕飯の時間だし」


 その後どうなったか教えろや。

 俺は読み書きができんのじゃ。

 

 アランは、俺を2階の部屋に送った後、ウルとレオンがいるであろう、食卓へ向かった。

 いい兄を持ったものだ。


 生前、俺は弟に読み聞かせなんてしたことはなかった。

 兄として負けているが、俺が前世でどうしたら良かったのかを目の前で教えられることになるかもしれない。


 俺が書庫に行ったことも黙っていてくれるだろう。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「あの子、目を離したらすぐどこかへ行ってしまうのよね〜」

「今日も階段から落ちてたしな」

「あ、父上、母上」

「どうした?アラン」

「今日、フィンが書庫に来てたよ」


 ちゃんとチクられていた。

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