ラーンベルク夜襲(中)1
突如として、鳴り響く角笛の音でフラリン軍の本営を守備している一部の兵士は武器を持ってテントを出た。 しかし、抵抗するアストゥリウ王国の戦力の大半はラーンベルク要塞に集結していると思い込んでいたため、ラーンベルク包囲軍以外のフラリン兵の多くが略奪に出ており、残った兵も大半が酒を飲み、捕らえて来た娘を犯していた。
そのため、出てきた兵士達のほとんどは鎧をつけていない。
戦時中とは思えない程軍規が緩みきっているフラリン軍であるが、致し方ない事でもあった。
抵抗するアストゥリウ王国軍主力がいるラーンベルク要塞は完全に包囲されており、もはやアストゥリウ王軍など恐れるに足らず、と兵だけでなく、国王や大貴族、国軍の将軍らまでがそう思い込んでおり、彼らも略奪に出た兵達から献上された美しい娘を自分達のテントで犯していたのだ。
なので、角笛が鳴ってもテントから出て来たフラリン兵は少ない。
フラリン兵の多くは、テントから聞こえてくる女のすすり泣く声や悲鳴、嬌声からも明らかだが、女を犯す事に夢中になっている。
「この角笛はアストゥリウ王国軍のじゃないか? まさか、敵襲か?」
「何かの間違いだろ。アストゥリウ王国軍主力は包囲されたラーンベルク要塞に籠もっているし、人質の小倅は王都レオンで震えあがっている臆病者。いったい誰が我々に攻撃するんだよ。」
「そうそう、味方の誰かが敵から奪って悪戯で鳴らしているだけさ。全く誰だよ。迷惑な話だよな」
しかし、フラリン兵の楽観をあざ笑うかのように、剣や槍、鎧が立てる重い響きが角笛の音に加わったのである。
フラリン軍本営にある国王メンデル2世のテントに角笛の音は伝わり、寝台で捕らえて来た町娘を犯していたメンデル2世の顔をしかめさせたが、それも一瞬の事であった。
「ああ、ぎ、ああぁ……!!」
寝台に押し潰された白肌金髪の少女、その真上に、倍はあろうかという巨躯のメンデル2世が覆いかぶさり、寝台が壊れそうなぐらい腰を動かしている。
メンデル2世も味方の兵が冗談で鳴らしていると思い、特に気にせず味方の将兵から献上された町娘を犯していた。
寝台とフラリン王に挟まれた碧眼の少女は、男の脇から細いひざ下だけを覗かせ、その足はびくん、びくんと男の腰に合わせて跳ね上がっていた。
まだあどけない少女顔であったが、メンデル2世も妾として本国に連れて帰ろうと思う程の美貌だった。
メンデル2世は自分の息子に絡みつく極上の穴を楽しみながら、さらにその腰の動きを加速させ、美少女の顔に舌を這わせた瞬間に剣や槍、鎧が立てる重い響きが角笛の音に加わった。
「何事だ!?」
フラリン王国国王メンデル2世は慌てて町娘から離れる。その表情は不安で支配されていた。
(百や2百ではない。少なくとも数千規模の軍勢が接近している。まさか敵か!?)
メンデル2世は心のなかでそう叫びながら侍従を呼んだ。
しかし、すでにこの時、後にナーロッパにおいて三大夜襲戦の一つに数えられる『ラーンベルク夜襲戦』は開始されていたのである。
若きリカルド・アノー率いる軍団5千が襲撃の火蓋を切り、フラリン軍本営がある高地の南方から攻めかかり、これがラーンベルク夜襲戦開始の合図となった。
かたちばかりとは言え、万が一にそなえ、フラリンの兵達は警戒線を張ってはいた。
しかし、フラリン軍は圧倒的な大軍である事と、アストゥリウ王国軍主力がラーンベルク要塞に籠もった事でアストゥリウ王国など恐るるに足らずと油断していた。
そのため、ある者は略奪に参加し、またある者は自分達のテントで連行して来た女を犯していた。
警備に立っていた少数の兵も酒で酔っ払っていた事もあり、音を立てずに接近して来た黒い敵に声を上げる前に斬られてしまった。
こうしてリカルド・アノーの軍団はフラリン王国軍に気づかれる事なく、フラリン軍に襲いかかった。
高地の南側を守備していたラモン伯の軍団は30分もかからず、総崩れを起こしていた。
彼の軍団は約4千人の将兵から構成されていたが、将兵の半数以上が略奪に出かけており、残った将兵も酒で酔っ払い、連行して来た女を犯していたのだ。
そんな緩み切った将兵では、決死の覚悟で突撃するアストゥリウ王国軍の敵になりえなかったのだ。
それでもラモン伯指揮下の残存部隊は後退しながら方陣(正方形の防御陣)を敷こうとはしたが、しょせん大貴族の手勢の寄せ集めでしかなく、しかも先ほどまで女を集団で犯したり、酒を飲んで酔っ払っている兵士達である。
その上に壊乱状態に陥っているとなれば、後退から潰走に変わっていくのは時間の問題と言えた。
そして、フラリン軍本営の西側を守っていたサラー侯の拙い行動がさらに事態を悪化させる。サラー侯の軍団は、当直将校が南での混乱に早期に気づいて警報を発したことで、僅かながら対応の時間的余裕を得ていた。ここでまず防備を固めていれば、あるいはその後の会戦の様相は変わったかもしれない。
だが、サラー侯が命じたのは、南で総崩れを起こしているラモン軍団の救出だった。まずはすぐに動ける兵を急いで集め、ラモン軍団を攻撃している敵の側背を突こうとしたのだ。確かに、これが小規模な夜襲であれば正しい対応だっただろう。だが実際は、サラー軍団が南に向かおうとまさに軍営を出た瞬間を、敵王フェリオルが直率する連隊3千強に突かれたのである。
国王が直卒し士気が天井まで高まっている軍勢の突撃をサラー軍団は受け止めきれず、たちまち崩れていく。
そして、ラモン伯とサラー侯の軍は敗残兵の集団と化し、彼らの敗走の波はまだ無傷であったフラリン本営の守備軍やメンデル2世の近衛隊の有効な反撃を不可能としていた。
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