リューベック王国にも不穏な空気が漂ってきました。
「王太子殿下と王太子妃殿下はまだ就寝中でございます。」
「私は摂政殿下の侍従武官兼補佐官であるエミリア・レーベンである。摂政殿下に火急お知らせせねばならぬ事がある。王太子妃殿下に早急に言伝頂きたい」
部屋の周りで待機していたアリシアの侍女2名とエミリアが言い争う声でアルベルトは起こす。
正妃、側妃と床を共にする場合、妃側の侍女が世話すると言うのがナーロッパの常識である。もっとも、これは王族やそれなりに大きい領地を持つ有力貴族に当てはまる事であり、下級貴族は当てはまらない事である。
そして、夫が寝室にいる間、こういう事を管理するのは妃であり、奥全体を管理するのが正妃の役割である。
そのため、アルベルトは何も口を出せず、アリシアも口を出さない。こういう時は侍女に伝え、それから妃に伝え、それを了承するか、夫に判断を仰ぐのも妃の役割である、一応は。
侍女が頷いた後、侍女の一人はアルベルトとアリシアの寝室に近づき
「王太子妃殿下、ご起床されていますでしょうか?」
と声をかける。
「どうしましたか?」
とアリシアがドア越しに答えると
「王太子殿下の侍従武官兼補佐官エミリア様が王太子殿下に火急お知せしたいが事ですがいかがいたしましょうか?」
と侍女が尋ねる。
「解りました。」
とアリシアが答えた後
「エミリア卿、火急との事ですがどのような用件でしょうか?」
と続ける。
「それは摂政殿下に申し上げます。早急に殿下に拝謁できるよう取り図ってください。」
「緊急の用件であれば侍従長、もしくは侍従次長が報告に来るでしょう。違いますか?」
侍従とは側近の文官、侍従武官は側近の武官である。その下に次侍従が置かれ、その下に侍女が置かれる。侍女が王族や有力貴族の身の回りの世話を管理し、その侍女の監督を受けメイドが実際の身の周りを世話する。
そして、侍従長が侍従の責任者であるため、緊急の案件であれば侍従長、侍従長が非番であれば侍従次長が報告に来るべきであり、侍従武官でしかないエミリアが何故報告に来ているのだとアリシアは暗に言っているのである。
それに気づいたエミリアについてきた侍従武官2名は表情を険しくし、反論しようとするがエミリアは手で止める。
「王太子妃殿下の申される事はごもっともでございますが、今回は国家存亡と言って良い緊急事態であります。どうか、ご無礼をご容赦くださいませ」
とエミリアが答えた後、アルベルトが
「エミリア卿には王宮の諜報機関との取次を任せています。そのため、外国で何か緊急事態が発生して報告に来たのでしょう。」
と助け船を出す。
夫に出てこられるとアリシアもこの場では黙るしかない。
アリシアは引きアルベルトと変わる。
「エミリア卿、緊急の件とは内密にせねばならぬ事か。そうであれば今すぐ着替えるが……」
「いえ。摂政殿下にすぐ御裁可を仰ぎたく参上いたしました。」
「わかった。この場で報告せよ。」
「摂政殿下に申し上げます。フリーランス王国が軍の動員を開始していると諜者から報告が入りました。兵糧等の軍需物資もルエヌに集積を開始しているとの事です。そして、デーン王国のオレンボー辺境伯も軍の動員を開始しているとの事」
エミリアの報告を受けアルベルトは手を顎に当てながら
「成程。三務卿にこの件は伝えたのか?」
と続ける。
「すでに三務卿には使いを送っております。」
この答えを聞いてアリシアは内心溜息をつく。
(殿下の腹心であったとしても位に対して優遇しすぎ、権限も与えすぎですね。殿下にとって現状秩序を維持した方が良いと思うのですが)
アリシアが沈思黙考を進める中
「わかった。では午後1時に御前会議を開く。その調整を頼む。それから国王陛下に軍を動かすための御裁可を仰がねばならない。陛下にこの事をお伝えし拝謁できるよう取り次いでくれ。」
「御意」
エミリアが一礼をした後、連れて来た侍従武官2名と共にその場を離れる。
「アルベルト様、一つお願いがあります。」
「何でしょう」
アルベルトがアリシアの方を向くとアリシアは
「はい。今まで義父上にお会いした事がありません。同行してもよろしいでしょうか?」
と尋ねる。
「確かにアリシアは父上と顔合わせしてませんでしたね。わかりました、一緒に行きましょう。」
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