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平凡な王太子、会議を開く

 ナーロッパ歴1056年10月18日。 

 ナーロッパ北方に存在する小国リューベック王国の王宮であるホルステン宮大会議室には摂政、有力諸侯、内務卿と外務卿と軍務卿の三卿、彼らを補佐する上級官僚達、そして陸軍の将軍や海軍の提督達が集結していた。

「皆の者、良く集まってくれた。」

 まず、言葉を発したのは17歳の赤みかかった金髪の少年であった。

 彼の名はアルベルト・ナガコト。リューベック王国王太子にて摂政を務める少年である。

「皆も聞いていると思うが、南東の超大国ロアーヌ帝国が軍の動員を開始し、軍需物資も帝国北西部にあるピルイン公領やメルケン候領に集積を開始したと言う報が諜者から入った。さらに帝国大使からも会談要請も入っている。皆の意見を聞きたい。」

 アルベルトが話し終えると、リューベック王国の内務省トップである内務卿アメルン伯が口を開く。

「外務省に帝国から何か要求が来ていないのですか?」

 外務省のトップである外務卿が

「来ておりません。おそらく摂政殿下と帝国大使が会談した時にあると思われますが……」

 と答えると内務卿は苦笑を浮かべる。

「成程。ロアーヌ帝国外務省はリューベック王国外務省を通さず直接摂政殿下に要求を伝えると言う事ですか。我が国の外務省はなめられているのか、それとも話が通じない無能とでも思われているのかのどちらかですかな」


 内務卿の皮肉を外務卿ラーセン侯は無視したが、外務卿配下の官僚達が顔を赤くした。

「内務卿!!」

 まずいと思ったアルベルトはすかさず叱声を飛ばす。

「忌憚なき意見を言い合う会議の席ゆえ此度の言葉は不問にするが二度と他の省等への侮辱的発言は我が許さぬ。さように心得よ」

 摂政の言葉にリューベック陸軍の大半の上級将校達や外務卿配下の上級官僚は会心の笑みを浮かべ、逆に内務卿は不服そうに

「……御意」

 と呟きながら不服そうな表情を隠さず頭を下げた。

 それを見たアルベルトは頷き、周りを見ながら

「諸卿も同様だ。我らは同じリューベック王国と言う船に乗る者同士である。主導権争いが起きるのは仕方ないがこういう緊急事には一致団結して事に当たるべきではないかな?」

 と続ける。

「摂政殿下のおっしゃる通り」

「まずはこの事態にどう対処するかが肝要ですぞ」

 軍部から賛同の声が上がり、外務卿と軍務卿は苦笑を浮かべながら

「御意」

 と頷く。



「まず、帝国の狙いを考えねばならないでしょう。軍を動員しつつ、外務省を無視して摂政殿下に会談する目的が何なのかを……」

 アルベルトの傅役(教育係)を務め、実質摂政の後見人であるレーベン伯が改めて口火を切った。


「常識的に考えると交渉を成功させるための交渉材料および脅しですかな。ただ、こちらが帝国の要求を大きく拒めば我が国に侵攻してくると言った所か……」

 内務卿の言葉にアルベルトは頷く。

「そうだろうな。後は我が国が要求をのんだ後の事も考えているのかも知れんが……」


「その可能性が高そうですね。帝国にとって北方を固めるのであればフラリン王国が西のアストゥリウ王国平定に注力して東方に介入出来ぬ間に仕掛けるしかない。そう考えると帝国の狙いはまず我が国を実質の属国へと早期に置くこと……」

 外務卿がアルベルトの言葉に同意する。


「しかし、そうなると我が国は西方交易に大きな支障をきたしますぞ。そうなった場合我が国は経済的に大損害を被りかねない……」

 内務卿が述べた言葉には一理あった。

 リューベック王国は交易国家でありリュベルと言う巨大な交易港を大市場としても利用する事で巨大な経済力をつけてきたと言う歴史がある。そんな交易国家がフラリン王国とその属国群との交易が断たれるのは流石に無視する事が出来ない大問題となる。


 リューベック王国諸侯の一人が

「内務卿閣下のおっしゃる事は解りますが、フラリン王国がろくに動けない今帝国と戦っても勝ち目はないのでは?」

 と反論する。

「その通り」

「勝ち目がない戦は避けるべきです」

 とリューベック諸侯の大半がそれに同調する中、摂政アルベルトは口を開く。

「我も厳しい戦いとなると思うが軍務卿、その辺りはどうか?」


「はっ。将軍らや提督らとすでに軍議を開いておりまして……結論から申し上げますと」

 軍務卿は言いにくそうに言葉を濁し、アルベルトの方に視線を向ける。

「勝ち目はほぼありません。ナーロッパ北方のフラリン属国群とデーン王国が本格的に軍事介入してくれて何とか防衛の目途は立つかもと言った所です」


(明日が我が身になるフラリン王国属国群はともかくデーン王国は厳しいか。現状帝国と戦うと言うのは我が国にとって自殺行為……嫌なタイミングで仕掛けてきたな)

 と心の中で呟いた。

 フリーランス王国、ゼーランド王国、プランデレン王国、フラバント王国、ドレンテ王国、ヘルダー王国等のナーロッパ北方のフラリン王国属国群からすればリューベック王国が帝国領なり帝国の勢力圏に組み込まれればそれらの国々は帝国の脅威を正面から受ける事となる。彼らの宗主国であるフラリン王国とロアーヌ帝国の関係は犬猿の仲である以上、リューベック王国が今まで通り緩衝地帯であってくれる事はフラリン王国属国群にとって大きな益となり本気で助けてくれる可能性は高くフラリン王国も現状帝国に対して大きな軍事行動は起こせないであろうが、それ以外の支援は期待できる。


 しかし、リューベック王国の北側にあるナーロッパ北方最大の大国であるデーン王国はリューベック王国を本格的に支援してくれるかはかなり微妙である。明日は我が身である可能性がある事はデーン王国も一緒ではあるがロアーヌ帝国はまず対フラリン王国に集中する事は明らかであり、帝国を当面放置していてもデーン王国は問題がない。むしろ、火種をあえて作り帝国とフラリン王国を争わさせ何らかの利を得ようとする手もある。

 さらに言えばデーン王国の現国王スブェン1世は高齢であり、後継者問題を抱えている。その状況でロアーヌ帝国と戦を起こすのかと言う問題もある。


(交渉しつつ同時に戦の準備も整える。これしかないか……となるとフラリン王国陣営にも根回しもしておかねばな)

 アルベルトは心の中でそう結論づけた。


「流石にデーン王国の支援は厳しかろう。後継者問題を抱えておるしな」


「いや……しかし帝国の属国に組み込まれれば内務卿閣下のおっしゃる通り交易の収益に大きな悪影響が……」


「交易よりまず我が国の存続が優先であろう。あの帝国と戦って勝ち目があるのか」


 アルベルトが黙考している間にも議論されていたが帝国恭順派と交易に支障が出るのでは派・親フラリン派が論争しており決着がつきそうにない。


「皆、少し落ち着け。ロアーヌ帝国はまだ要求を伝えてきている訳ではない。属国におくと言うのはあくまでも我らの推測でしかないのだぞ」

 アルベルトの言葉に会議参加者ははっとなる。

 アルベルトの言う通り、ロアーヌ帝国がリューベックを属国にしようと言うのは自分達の予測でしかなく、もしかすれば宣戦布告の可能性だってあり得なくはないのだ。


「帝国大使の話を聞かねば始まらぬが、最悪の事態にも備えばならぬ。外務卿……」


「はっ」

 アルベルトに呼ばれた外務卿ラーセン侯は姿勢を正す。

「我が国に在住しているフラリン大使にこの事を伝えフラリン王国に支援要請を出せ。フラリン属国諸国別々に支援要請出すよりそちらが手っ取り早いし、フラリン王国にも話を通していた方が後々の事を考えればそれが良かろう。後、デーン王国、特にユグド半島のデーン諸侯への根回しも進めておいて欲しい」


「御意」

 外務卿が恭しく頭を下げるとアルベルトは他の会議参加者を見渡す。

「国軍や諸侯には軍の動員準備を進め不測の事態に備えて欲しい。内務省は軍需物資の集積を。無用になる可能性も高いが、備えない訳にはいかないからな。」


「御意」

 会議参加者達は恭しく頭を下げ、後は細かい打ち合わせを行ってこの度は解散となった。

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