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平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です  作者: モモ
第1部第1章

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ラーンベルク夜襲戦(下)1

「何故だ!? 何故こんな事が起こる!?」

 つま先までも覆う、金色の甲冑をつけ終わり、テントの外に出たメンデル2世は自分の目がとらえた光景を信じる事ができなかった。


 本営を守備していた将兵は狼に襲われた羊の群のごとく追い散らされ、あるいは死骸の山となりつつある。


 そればかりか、いかなる敵兵の接近をも許さないメンデル2世の本営近くまで、黒色の軍団が迫っていたのだ。


(こやつらは、いったいどこから現れたのだ?)


 いくら考えても答えは出てこない。

 しかし、その間にも破局は確実に進行していた。


 本営とその周辺にいたフラリン軍は消滅したも当然。

 最後に残った近衛隊が国王の本営を懸命に守っているという状況にまで追い詰められていた。


「こんなふざけた事があって良いはずがない……」


 粗末な黒い武具をつけている敵兵にきらびやかな金や銀の甲冑をつけた近衛兵が討たれていくのを見ながら、無意味な事を呟いたまさにその時、近衛隊の抵抗は限界点を超えた。


 フラリン兵らは逃走の足手まといになる弓や槍などを投げ捨てていく。

 踏みとどまれと叫ぶ騎士に襲いかかり、馬を奪って逃げる兵士さえいた。


「陛下、西方に逃れて主力軍と合流し、再起をおはかりください」

 あまりに早い破局の進行に呆然としているメンデル2世に向かって、侍従武官の一人が叫ぶ。


 その言葉に、メンデル2世も我に返った。


 このままでは討ち死にどころか、不名誉な捕虜とされる恐れすらある。


「馬を引け!」


 国王の命を受け、国王の馬に鞍が置かれ、引き出されたその時、敵とメンデル2世の間にかろうじて立ちふさがっていた近衛隊の残存部隊の薄い防衛線が破られた。


 黒い雪崩が金や銀の点を飲み込み、メンデル2世の背後に立つフラリン王国の国旗をめがけて、まっすぐに押し寄せてくる。


 その軍勢の先頭に黒の兜と甲冑をつけた騎士が約30騎……。

 その騎士らが味方の軍勢からみるみるうちに突出してゆく。

 敵味方注視される中、その騎士らはフラリンの本営に斬り込もうかという状況になった。


 無謀とさえ思われる騎士らの行動に呆然としていたメンデル2世の侍従武官達も我に返り、憤怒の叫びを上げる。

「命知らずが!」


「貴様らの思い上がり、すぐに後悔させてやるわ!」


 彼らは口々にわめきながら、侍従武官達40騎程が愛馬をアストゥリウ王国の騎士らの方に向けて突進した。

 加速した両軍の騎兵の集団が激突する。

 槍に貫かれ馬から落馬する騎士、馬が傷つけられ、馬とともに倒れる騎兵が続出したが、それらはほとんどがフラリンの侍従武官達であった。超大国の国王の侍従武官なだけあって、腕に覚えがある者を揃えていたと言うのに、 そのアストゥリウの騎士らの武芸の前には無力に近かったのである。


 そして生き残ったフラリン騎兵を排除したアストゥリウ騎兵はさらにスピードをつけて本営に突進し、残っていたフラリンの近衛兵や侍従らを蹴散らしていく中、6騎程の騎兵がフラリン王メンデル2世を取り囲み、一騎の騎士が彼に近づく。


「何やつ!?」

 とうとう、兜の飾りを見分けられる程まで近づいてきたた騎士を見つめ、メンデル2世が思わず疑問を口にする。

 それに答えるがごとく、馬上でその騎士は兜に手をかけ、空高く投げ上げた。



「貴様はフェリオル・オーギュースト!」

 メンデル2世の叫びにフェリオルは不敵な笑みで返した。


「アストゥリウ王国との不可侵条約を破りし不義の国王メンデル2世・フッテンボルクよ。そなたの汚れた身を、アストゥリウ王国国王フェリオル・オーギューストがこの手で討ち取ってつかわす」

 整ったフェリオルの顔に、勝利の確信がみなぎっている。

「光栄に思うが良い!」


「黙れ、汚らわしい父殺しめが!」


 メンデル2世は剣を抜き放ち、馬をフェリオルの方に突進させ、フェリオルの胴を狙う。


 しかし、フェリオルが軽やかに剣を振るうとともに、メンデル2世の剣がおもちゃのごとく、弾き飛ばされる。

 立ちすくむメンデル2世にフェリオルは剣を胸に突きつけた。


「斬れ。捕虜の辱めは受けぬ」


 覚悟を決めたのか、蒼白になりながらも王の誇りをうかがわせる事をメンデル2世は口にする。


「そうか、ならば死ね。メンデル2世!」


 フェリオルはそのままメンデル2世の胸を剣で突き刺すと、フラリン王国国王の体は地面にたたきつけられる。不安定な馬上にあって、王を甲冑ごと容易く貫いたその膂力は尋常の物ではない。


 この瞬間、彼の勝利が決まったといっても良い。

 なのに……。

 奇跡に近い勝利を上げたフェリオルの顔には何故か憂いたものが感じられた。


「アラン、これで私はそなたの仇になってしまった。しかし、抵抗しなければ、そなたとは戦わなくて済む。そうすればこれ以上ジルを悲しませる事は……未練だな」


 金髪のかつての親友の姿を思い浮かべる。


 戦場にあってその場とかけ離れたことを考えるという、らしからぬ油断をしていたフェリオルだが、その思考はアストゥリウ王国の将兵が上げた歓声で中断される。

 自ら敵王を討ち取ったフェリオルの戦いぶりに彼らは心から「フェリオル王万歳!」と言う賛嘆を捧げていたのである。


「皆の者、この戦い、我々の勝ちだ。このままラーンベルク要塞を包囲する敗残兵を討ち滅ぼしナーロッパ中の豚(王族や大貴族等)どもに知らせてやれ。お前らの時代はまもなく終わると!」

 そして、フェリオルが高く剣を上げ、振り下ろすと、兵士達は「我らの王!我らの王!」と言う歓声を上げた後に進軍を開始する。


 フェリオル直卒軍だけでなく、角笛が鳴らされたのを確認したアノー軍団も西に向かう。カリウス・オブラエン将軍率いるラーンベルク要塞守備軍が釘付けにしている、軍務卿ローベル公が指揮を取るフラリン軍主力の背後をつくために。


 そして、ラーンベルク夜襲戦は最終局面を迎える。



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